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トガリ  作者: 吉四六
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本屋じゃなかったみたいです

 誰かが、扉の前に立つ。

 鍵を開ける音、扉を開く軋んだ音。

 数人が部屋に入って来るので、明かりを点けてやる。

「なっ。何だ?」

「これは?」

 俺は、ベッドの上に座って、両手を広げて、誘拐犯という名の訪問者を歓迎する。

「やあ、いらっしゃい。」

 本屋の店主が最後に入って来て、口をあんぐりと開けている。

 店主の前には若い男が二人、本屋の女性店員、年嵩の男が一人いた。

 年嵩の男は、白人で渋いロマンスグレーだが、右目に刀傷が走っている。隻眼か?と、思ってよく見てみるが、ちゃんと、見えているようだ。

 ボタンがズラリと並んだ灰色のハーフコートに黒い靴、黒い杖を左手に握っている。仕込み杖だね。

 首元のくすんだ赤いスカーフが際立って映えてる。中々のお洒落さんだ。

 その隣にはアラビア系の若い男だ。黒いコートに黒いシャツ、黒尽くめの大柄の男。

 この男、両耳が潰れて変形している。所謂カリフラワーだ。無遠慮に俺の顔を見詰めてる。

 ロマンスグレーを挟んだ反対側には、やはり若い男がいる。ネグロイド、黒人だ。

 長いドレッドヘアを後ろで纏めて、背中で(はた)きの様に広げている。襟の大きな白いハーフコートに水色のズボンに茶色のブーツ。

 この男も大柄だが、耳は潰れていない。

 女店員はアルプス系の顔立ちだ。肉感的な唇に対して、あどけなさの残る目が印象的だ。

 オレンジ色の長袖シャツに白い襟と袖口が可愛らしい。濃いオレンジ色のフレアスカートは前が割れて、下のズボンが見えている。

 店主が前の人間を押し退けて、割って出る。

「貴様、何をした?」

 野太い声で俺に聞いてくる。

「おいおい。主語を省いて質問するなよ。何を意図して質問してるのかわからないぞ?」

 店主が右手を振り回して「この部屋に何をした?」と丁寧にも言い直す。

「見たとおりだよ。照明と換気扇を付けて、ベッドを作った。」

 俺の答えに店主が押し黙る。その店主を黒人の男が横に押し退ける。

「どうやって、それぞれの物を作ったのかを聞いてるんだ。」

 静かな声だが、低音の響くいい声だ。

「魔法だよ。それ以外には考えられないだろう?」

 黒人の唇の端が歪む。恫喝を含んだ太い笑顔だ。

「魔法と聞けば、ビビると思ったのか?」

 アラビア系の男だ。掠れた声が、喉が潰れたことがあると物語っている。

「ビビるのか?あんな子供騙しで?」

 アラビア系の太い眉が思った以上の角度で跳ね上がる。気性が激しそうだ。

 今にも飛び掛かってきそうなアラビア系の男を止めるようにして、肩に杖が当てられる。

「黄色の金持ち、商人の息子は口のききようを知らない。成程、上玉かもしれないな。」

 俺はニッコリと笑う。

「犯罪組織穢堕(えだ)()()。人身売買に営利誘拐、暗殺請負、密臓器売買に違法薬物の製造販売。いや~。中々にご盛況そうだ。」

 黒人とアラビア系の雰囲気が明らかに変わる。

 殺気を孕んだ空気が、俺の顔を叩いている。

「構成員は二百四十六人、何だ?案外少ないな。王国内に支部は四つで、ホノルダは第二支部か。王都に本部があって、ほう、王国警察貴族幹部にも伝手がある。おっと、下部組織の方が凄いじゃないか。下部組織の構成員は二千三百三十三人もいるじゃないか。」

 俺の言葉に、ロマンスグレーが前に出る。

「魔法ではないな。」

 俺は人差し指を立てて、左右に振る。

「おいおい、迂闊だよ。その台詞は、自分は魔法使いだとバラしてるようなもんだ。」

 ロマンスグレーが、唇を吊り上げる。爬虫類のような笑い方だ。キモッ。

「面白い小僧だ。どうやって調べ上げたのか教えて貰いたいもんだ。」

「手の内を曝すような、迂闊なことは言わないよ。」

 俺は、皮肉を込めて返答する。

「小僧、魔法は強力だが、その弱点は知っているのか?」

 俺は首を横に振る。

「では、教えてやろう。魔法は長い詠唱を必要とする。従って、このように近接した状態では詠唱が出来ない。」

 ロマンスグレーの話が終わった途端に、黒人とアラビア系が俺に襲い掛かって来る。

 俺はベッドに座ったまま、アラビア系が伸ばしてきた右手を弾きながら分解、黒人の左拳をいなしながら分解してやる。

「いっ!」

「ああっ!」

 二人がベッドに腰からぶつかり、消えた腕を見て叫び声を上げる。

「心配するな、ちゃんと返してやる。」

 俺はそう言って、二人の服を分解して、上半身を素っ裸に剥いてやる。

 黒人とアラビア系のそれぞれの背中にそれぞれの片腕を再構築してやる。

「なっ!?」

 全員が異口同音に驚きの声を上げる。

 まだまだ、続きがあるよん。

 右手でアラビア系、左手で黒人の頭を掴む。喚く二人の頭をぶつけて、二人の頭を混ぜ合わせる。二人の頭が一つになる。

 はい、みんな、あまりの事に声も出せない。

 鼻は一つなのに鼻の穴は三つ。口は二つに目が二つ、歪な頭部を共有した二人の男が出来上がりだ。

 そんな姿になっても暴れようとするので、俺はアラビア系の左手と黒人の右手を掴んでお互いの腕を繋げてやる。

 仲良くダンスしてるみたいになった。

 残った三人、ロマンスグレーと店主に店員は、唖然としたまま、そこに立ち尽くしている。

 俺はその三人に声を掛ける。

「魔法の弱点がなんだって?」

 店主が振り返って、逃げようとするが、扉部分は既に壁へと再構築している。

 逃げ場はない。

「年間二十四件の違法な人身売買で約六千万、八件の営利誘拐で約四億、三十二件の暗殺請負で約六千四百万、違法臓器売買で約五億四千万に違法薬物の製造販売で約九億五千万、計二十億一千四百万ダラネか。良い揚がりじゃないか?」

 店主も店員も滝のような汗をかいている。ロマンスグレーだけは一筋の汗だ。

「正業、いや、正業じゃないな、副業だ。副業に当たる、表の稼業も良い業績だ。全部で年商三十億ダラネだな。」

 ロマンスグレーから二筋目の汗が流れる。

「目的は何だ?」

 ロマンスグレーから話し出した。交渉の取っ掛かりは俺の勝ちだ。

「お前達を皆殺しにしても良いが…」

 汗が、もう二筋流れる。

「全員、介護生活を余儀なくされる方が、身に染みるかな?」

 ロマンスグレーの視線が、床に転がる男二人?今の状態なら一人かな?ま、どっちでもイイや。とにかく、その二人に注がれる。

「お前の家族は優しいかな?それとも金を持ち帰らない男は捨てられるのかな?」

 俺はこの世界の介護システム、社会保険機構を知らないが、殺人に対する忌避感の低さから察するに、そんなに大したシステムは構築されていないだろうと予想してる。

「お前から怨みを買っているのか?」

 何故、殺されるのか、何故、障害をもたらされるのか、その理由が知りたいのだろう。

「犯罪組織が理由を求めるのか?」

「俺達は食うために法を犯す。お前もそうなのか?」

「そうだと言えば、お前達は金を支払うのか?」

「払う。」

 即答だな。

 俺は、ロマンスグレーの気前の良さに、ニッコリ笑ってやる。

「じゃあ残念、俺はそうしたいから、そうする。」

 ロマンスグレーが目を剥く。

「世の中には居るだろ?人を苦しめることを目的とする奴ってのが。でも、罪悪感はあるんだよ。俺の場合は。だからお前らなら罪悪感が薄れるんじゃないかと思ってね。」

 第三副幹人格と第七副幹人格。超絶変態助平野郎とシリアルキラーの丁度良いストレス解消になるかもしれない。

『逆に増大するな。』

 ダメじゃん。そいつは困るな。

 ロマンスグレーの手が白くなるほど杖を握り締めている。

「どうすれば、気が変わる?」

「お前、凄いな。自分で、自分の気分を変えられるのか?そういうのは、他人に干渉されて変わるもんだろう?」

 口元を歪めながら、ロマンスグレーが歯を剥く。

「ほら、そういう表情。そういう表情を見ると嗜虐的になるんだよ。お前だって経験あるだろ?相手の表情や言動によって、嗜虐的になることがさ。」

 ロマンスグレーが口元を緩める。

「我らに交渉の術はない。お前の好きにするが良い。」

 腹を括ったか。それじゃ次のフェーズだな。

「お前らのトップは誰だ?」

 腹を括っていたロマンスグレーの目が生き返る。眼光に殺気が含まれる。俺はその目を見て冷徹な笑みをたたえる。

「そうか。王都に居るのか。その女は。」

 怒りを隠すことなくロマンスグレーの表情が歪む。

「魔女ねぇ。」

 ロマンスグレーの手が震えている。恐れによるものか、怒りによるものか、その判断はつかないが、右目で確認すると怒りのようだ。

「魔女なら此処でのことも感知してるかな?」

 今にも爆発しそうな怒りを抑えながら、ロマンスグレーが口を開く。

「会ってみろ。あの方の恐ろしさがよくわかる。」

「そうさせて貰おう。」

 俺はそう告げると、ロマンスグレー達の武器を、全て、分解する。身に帯びる金属類も全てだ。

 ロマンスグレーが、杖を消失したためにたたらを踏む。

 俺は、その姿を見ながら、密室であるこの地下室から、直接、その女の部屋へと瞬間移動する。

 王国宮廷魔術師団鳳瑞隊宮廷執務室。

 青い絨毯に二十人掛けの豪奢な円卓、細やかな装飾が成された壁燭台が三本の蝋燭を立てて五対、天井中央には二十本の蝋燭を立てたシャンデリアが、部屋を照らしている。

 二人の女が、その円卓に並んで座っていた。

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