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トガリ  作者: 吉四六
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本屋?何か変な本屋なんですけど?

初投稿時にカットしていたハルディレン王国の国教について加筆しました。

 本屋は中々の大きさだったが、如何せん、本の量が多い。本に圧迫されて、通路が狭く、本棚の背が高くて、薄暗い。灯り代も結構掛かるのだろう、ランプの数が少ないため、本棚の下の方は背表紙の文字が読み難い状態だった。

 ランプから出る煤も本を傷めるからな。

 店を観察しながら、本を物色する。物語系は神話と歴史物を探し、時代物は避ける。

 動物図鑑と植物図鑑、なるべく本格的な物がないかと物色する。

 変わったところでは、貴族名鑑と王家系譜伝、経済概論、気象学、特産名鑑、施療術概論、医療学、魔法体形論、精霊使役概論と、とにかく、この世界のことが理解できるように本をチョイスする。

「坊や。随分と沢山選んでいるが、ちゃんと払えるのかい?」

 この店の店主だろう男が、俺の足元に置かれた本を見て訊ねてくる。

「大丈夫。お金はあるから。」

 この世界の本は思いのほか高額だ。普及していない活版印刷で刷られているため、その生産量が少ないためだろう。これが写本だったりすると、もっと高額になる。

「それよりおじさん。この上の本を取ってくれる?」

 本棚の最上段、破壊の神と創造の神、というタイトルの本を、俺は見てみたかった。

 中年の店主は踏み台を持って来て、「これかい?」と俺に聞きながら、その本を取る。

「ありがとう。」

 店主が俺に本を渡す。

「他にも取って欲しい本があったら言いな。」

 不愛想に野太い声で優しいことを言う。足が悪いのか、右に傾きながら歩く後ろ姿は、何処か悲し気だ。

 年の頃は三十代後半か四十代前半だろう。身長は低いが、ガッシリとした体付きに太い指だ。

 足を悪くする前は、荒事をしてそうだな。

 俺はそんなことを考えながら、最後の本をチョイスする。

 魔獣襲撃記録。

 一度、地下に行って、イデアからジックリ話を聞かなきゃな。

 二十冊以上の本を抱えて、俺はカウンターへ向かう。

「神話や歴史の本が多いな。」

 半分禿げ上がった頭を指先で掻きながら、店主が本の代金を計算する。

「全部で四十八万五千八百ダラネだ。本当に払えるのか?」

 店主が眼鏡のブリッジを押し上げながら、胡散臭い目で俺を見る。俺はホウバタイにぶら提げているカバンから、金貨と大金貨を取り出し、全額を支払う。

「ほう。黄色のくせに結構なことだ。」

 おい、オッサン。現代日本なら差別主義者と糾弾されるぞ?

 店主が紙袋に本を収めながら「重いぞ。持って帰れるか?」と聞いてくる。このオッサン、根は優しいのだろう。さっきの発言は人種差別というよりも、この世界の一般常識として、黄色人種が貧困層だから出た言葉なのかもしれない。

 確かに、貴族やその用人には白人が多かった。唯一、ナシッドだけが黒人だったが、魔法使いという特殊な職能を持っているから貴族に雇われているのだと推測できる。

「他に魔法に関する本はあるかい?」

 高額な代金を支払ったのだ。上客として扱ってくれるだろう、と踏んで、秘蔵の本はないかと聞いてみる。

 店主は値踏みするように、俺を上から下まで見詰めて「あるぞ。」と答えた。

 店主はカウンター奥に声を掛け、女性の店員をカウンターに座らせ、自分はカウンターの天板を跳ね上げて、俺の前に立つ。

「こっちだ。」

 カウンター横に設けられた鉄格子の扉を開けて、分厚い樫の木でできた扉を開ける。木製の扉は鉄製の枠で補強されている。鉄格子は鍵が二か所、木製の扉は鍵が四か所。

「随分厳重だな。」

 店主が俺の方をチラリと見て、前に向き直る。

「大事な物があるからな。」

 重い音を響かせて、扉が開く。石畳の通路、その壁に吊るされたランプに火を灯し、奥を照らす。上り階段が姿を現し、店主が顎で先に進めと俺を促す。

 三段目まで足をかけて、後ろを振り返る。

 店主が木製の扉を閉めて、内鍵をかけ、俺に手を振って先に歩けと伝える。指示されるままに俺は階段を上るが、六段ほどで踊り場に到着し、俺は再び店主を振り返る。

 店主が、やはり先に進めと手を振ってくるので、今度は下りの階段を下りる。二十段ほど進んだところで、通路に到着する。通路と言ってもほんの二メートル程の物だ。

 その奥に、またもや、鉄格子と木製の二重扉が現れる。

 二重扉に、ランプで照らされた俺の影が揺れている。

 店主が俺の横をすり抜け、その二重扉を開けて、部屋の中に入る。

「ここだ。」

 部屋の中から声を掛けられ、俺はその部屋に入る。

 木骨、石積の部屋だ。

 広さは六畳ほどだが、入って来た扉の部分を除けば、ほとんどが本棚になっているため、かなりの量の本が並べられている。

 俺が部屋の中央で、本を見回していると、店主が出入口へと下がり、その身を(ひるがえ)す。

 蝶番の軋み音と共に部屋を闇が支配していく。重い音を残して、真暗な闇だけが残った。

 金属が擦れ合う音が、施錠されたことを物語る。

 う~ん。せめて灯りは置いて行って欲しかった。

『地下室だからな。酸欠になることを思えば親切なんだろう。』

 しょうがないから、俺はバッテリーを再構築し、アギラの絶縁体を使ってコードを伸ばし、蛍光管型のLEDを作製、天井に設置して、明かりを灯す。

 地下室の割りに湿気が少ないな。

 カビも生えてない。結構、下がったけど、ドライエリアがあるのかな?

 でも、換気扇はないから、ドライエリアがあっても意味ないか。

『換気口が欲しいよねぇ。』

 イチイハラのリクエストに応えて、天井のゴツイ石板に穴を作り、その穴を伸長していく。

 一階の床に当たったところで、床に対して平行に穴を開けて行く。

 やっぱ、ドライエリアはねぇな。湿気がないのはなんでだ?

 穴が敷地外に出る前に、一階の石積の壁の中に穴を開けて、一階の高い位置に換気用の穴を付ける。

 虫除けの金属製の網と換気扇を設けて、空けた穴の中へコードを伸ばして、バッテリーに接続。

 一応、この部屋側の吸い込み口には、除湿機能を持たせた換気扇を設けておく。

 カナデラは、こんな物を作るのはつまらないと言っていたが、快適な空間は必要だ。

 俺は本棚にある魔法と神話の本を数冊抜き取り、再構築したベッドに寝転がって、枕元灯を点灯させて、部屋の明かりを消した。

 うっわ、本の羊皮紙が湿気を吸ってベッロベロだわ。

 本から湿気を飛ばし、傷みを修復、神話の本を読み始める。

 この世界の神話は創世神話をすっ飛ばしたものだった。

 最初から世界はこの状態で存在し、文明が極端に発達した最盛期に、破壊神が世界を崩壊させ、それを再生神が復興させるというものだった。

 こういうのって歴史に対応してるよな?

『…ああ。』

 …?どうした?

『なにが?』

 いや、なんか、テンションが低いじゃねぇか?

『そういうこともあるさ。』

 なんでもないのか?

『ああ、気にするな。それより、歴史の本を読んでみろ。』

 あ、ああ。

 歴史の本を読んでみるが、カルザン帝国との戦乱と四カ国同盟に関する記述ばかりだった。

 その中で、少ないながらも、宗教に関する記述を見つける。

 国教は、再生神イ・ズモーを主神に奉るイ・ズモー教のアラータ派。

 歴代国王は一年の初めに、イ・ズモー神に供物を捧げ、豊穣祈念の大祈祷祭を行う。

 この大祈祷祭は、大きな祭りと銘打っておきながら、行われるのは、王宮内だけに限定されている。それに対して、四つの節季毎に行われる祈念祭は、国を上げての大規模なものだ。

 春と秋には再生神のイ・ズモーに豊穣を祈念し、夏と冬には、破壊神のゲン・ヌーに干魃や冷害を起こさないように祈念する。そして、王宮では、朝はイ・ズモー神に祈願し、夜はゲン・ヌーに一日の終わりを報告しているというものだった。

 神話との関連性はその程度のことしか書かれてなかった。

 ああ、何か久しぶりのゆったりとした時間だ。

 一人の時間って大事だよね?

 寝転がって、分厚い本を読んでいるのが疲れてきたので、ベッドにリクライニング機能を追加する。

 ベッド用のテーブルを作製し、まるで介護ベッドのようになるが、気にしない。

 喉が渇いてきたので、レモンスカッシュをガラス製のポットと共に作製。甘いパンケーキに生クリームとシロップ、果物を数種類乗せて、フォークで摘まみながら至福の一時を楽しむ。

 本を一冊読んだところで、眠くなってきたので、明かりを消して、昼寝を決め込む。

 至福。

 一人ってサイコー。

『たまには、一人になるのも良いもんだな。』

『本当だねぇ。』

『色々考えられるしな。』

『座禅は組まないのか?』

 タナハラを無視して、俺達は一人じゃない一人きりを満喫する。

 そう言えば久しぶりだ。トンナの上以外で眠るのは。

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