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トガリ  作者: 吉四六
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世界の仕組み

 最後となる野営地にて、俺はトンナの膝枕でボンヤリと考える。

 確かに魔獣との遭遇率が高い。

 魔獣の数自体は、そんなに多い訳ではないのだろう。多ければ、人類はとうの昔に絶滅している。

 前に討伐したアギラは、幼生体を連れていた。繁殖はしているのだ。どうやってバランスを保っている?

 魔獣の性質からすると、人類の天敵だということがわかる。

 王都では、年に二、三度、魔獣の襲来があるという。建物などを壊すことなく、人間だけを数千人規模で喰い荒らすのだそうだ。年間の犠牲者数は一万人には届かない。飢饉などの年は逆に現れなかったり、四・五回現れた次の年は現れなかったりする。極端に人口が減少することを嫌っている節がある。

 逆に周辺都市では、あまり現れない。

 数十年に一度くらいの頻度だそうで、農村部などでは、百年単位という、普通なら一生お目にかかることのない存在た。

 お陰で、他の動植物が喰われて減ることはない。

 龍は山脈を離れることは、滅多にないらしい。

 食料などは共食いしているとロデムスが言っていた。

「ロデムス。」

 まったりとしていたところを呼ばれて、迷惑そうにこちらを向く。

「お前は、今まで何処に居た?」

 ロデムスが首を傾げる。

「主人の傍に居るが?」

「いや、そうじゃなくて、俺と出会う前。お前は、かなりの年月を生きてるだろう?最初の記憶について教えて欲しいんだ。」

「そいつは、あたしも興味があるね。あたしにも教えておくれ。」

 ロデムスとの会話を聞いていたオルラが、俺とロデムスの間に椅子を持って来て座る。

「ふむ。最初の記憶は、地下の迷宮じゃ。」

 ドラネ村で、暇潰しにマイクロマシンで検知活動をしていた時に見つけた物体。

 マイクロマシンで侵入することが出来なかった、あの物体を思い出す。

「迷宮には、魔獣を冷凍睡眠状態で保存管理するセクションがあってのう。その時々によって起こされ、適当な場所に送られるのじゃ。」

『セクションだと?』

「セクションって?他にも別の目的のセクションがあるのか?」

 ロデムスが首を振る。

「セクションの意味はわからぬ。我が保存されていた場所の名前がセクションという名前じゃった。」

「そうか。悪かった続けてくれ。」

「我が送り出された最初の場所は、砂漠じゃった。十日程も人間を喰ったかのう?すると、無性にセクションに帰りたくなるのじゃ。」

 ロデムスの話によると、無性に帰りたくなると、元の場所、セクションに戻っているらしい。どうやって戻っているのかは不明だそうだ。眠っている間にセクションに戻っているため、自分でも認識できないのであろう。そして、再び冷凍睡眠状態で保存され、また起こされて、適当な場所に送り込まれて、人間を喰らい、またセクションに戻るということを五回ほど繰り返してきたそうだ。いずれも目覚めている期間が短いため、自分が何年間生きているのかは、わからないとのことだった。

「何度か起きている間に、主人になる者はいなかったのか?」

 ロデムスが頷く。

「おらなんだ。我に命令出来る者を得たのは主人が初めてじゃ。」

「誰かに起こされているのか?それと、どうやって俺を襲える位置まで来た?」

 ロデムスが座る。

「誰かに起こされてはおらん。勝手に冷凍睡眠から覚めて、自分で転送器の中に入るのじゃ。その後は勝手に主人の傍にまで送られておった。」

「自分で転送器の中に入る?入りたいと思うのか?」

 ロデムスが頷く。

「じゃあ、転送器ってのは何だ?」

「わからん。とにかく、その中に入ると、勝手に場所が変わるのじゃ。」

 一度、ロデムスを連れて瞬間移動する必要があるな。

『うむ。鉱物の採集を始めてから、地下にあった侵入不能の物体に何度か接触しているが、依然侵入できないからな。ロデムスが鍵になるかもしれん。』

 侵入キーか?

『キーと言うより、座標指定がされている物質、その物だな。事前に、座標入力されたプログラムが走らされていて、役割を果たすと、そのプログラムが起動して、眠ると実行される。』

 瞬間移動させているのは、あくまでもセクションの転送器ってことか?

『そうだ。ロデムスからの信号を受けて、地上から地下へと強制的に転送してる。』

 やっぱり人口調節だな。

『間違いない。人口調節システムだ。起源自体はわからないが、現状では、人口調節システムとして稼働している。』

 起源?

『ロデムスは自分のことを超兵器と言っていた。人口調節システムとしては似つかわしくない名称だ。恐らく、兵器として誕生した魔獣を人口調節システムに転用しているんだろう。』

 何か凄いSF展開になってないか?

『知らん。そんなことはこの世界に言ってくれ。』

 そりゃそうか。

『でも、その超兵器を操ってる奴がいるってことだねぇ?』

『そいつと勝負だな!』

『俺はこのSF展開を待ってたんだよ。』

 カナデラが、何でSF展開を待ってたのかはともかくとして、人口調節システムを実行してる奴には一度ぐらいは拳で挨拶しときたいな。

「ロデムス、サンキュ。この世界のことが、ちょっとわかったよ。」

 ロデムスが満足そうに頷いて、再びまったりと寝転ぶ。

「トガリ。」

 オルラが俺に聞き直す。ロデムスの話はオルラ達の理解の範疇を超えているだろう。

「つまり、魔獣は何者かが、魔法で、この世界に送り込んで、また回収してるってことかい?」

 流石はオルラ、ちゃんと理解してる。

「じゃあ。何のために魔獣を送り込んでるんだい?」

 そこは、黙っとこう。確証もないしな。

「そこまでは、わからないよ。魔獣を送り込んで来る奴に直接聞かないと。」

 オルラが口元に手を当て、俯く。

「そうだね。そりゃあそうだね…」

 何か、魔獣に関して事情があるんだろう。その部分には触れずにそっとしておこうと思う。

 俺とトンナは風呂に入り、続けてアヌヤとヒャクヤが風呂に入る。

 オルラはその間もロデムスから何か魔獣のことを聞いていたようだ。

 時間はもう深夜、俺達は明日に備えて、眠ることにした。


 ズヌークの屋敷を出立して、六日目の朝だ。

 ホノルダ群統括中央府には今日中に到着出来るだろう。

 進軍中にもかかわらず、俺はヘルザースの馬車に瞬間移動する。

 介護を担う従者二人には、悪いが意識を阻害させてもらってからの移動だ。これで、俺とヘルザースの話は誰にもわからない。

「これは、一体如何されたのですか?」

「驚かせて済まない。ホノルダに到着する前に話しておきたいことがあったんだ。」

 俺の表情を見て取ったヘルザースの瞳が真剣な色を宿す。

「ホノルダに到着すれば、俺は別行動を取らねばならない。」

 ヘルザースが頷く。

「ヘルザース達が王都に到着するまでに、何とか用を済ませたいとは思っている。用が済めば、俺達は直ぐに追い付くことが出来るからな。」

「左様でございますな。では、その間は影武者を?」

 俺は眉を顰める。

「やはり必要か?」

「生まれたての組織でございますれば、二等星から用人達までは、カペラの洗礼を受けておりますから心配はございませんが、他の者はまだ受けておりませぬ故…」

『意識を一割でも削られるからな。あまりやりたくはないが、仕方あるまい。』

 俺はヘルザースを見詰めて「手足を自由にしてやる。」と話す。そして、言葉を続ける。

「お前に仕事を与える。トンナ以下一等星は俺の別命を受けて、別行動となるが、俺は影武者を残す。皆に気取られないように注意してくれ。」

 ヘルザースが頭だけを下げる。

「御意。」

「あと二つ。時間がかかっても良い、ヤート族の復権と獣人達との掟の解消だ。」

 強い光を宿した瞳をヘルザースが俺に向ける。

「必ずや。」

 俺は頷き、ヘルザースの四肢を元通りに動かせるようにしてやる。

「ローデルとズヌークにも同じことを命じておく、頼むぞ。」

 ヘルザースが初めて自力で跪く。

「御意。」

 俺はズヌークにも同じことを話し、足を動かせるようにしてやった。

 ローデルにだけは通信機を使って呼び寄せ、俺達のエアロカーに並走させて話した。

 昼食時に小高い丘の上で、コルナの洗礼を受けた者だけが集結し、俺の話は用人達に伝わり、迅速に今後の取り決め事項が定められていく。

 ズヌークの武家方筆頭用人であるスパルチェンと魔法使いのナシッドが、俺の従者として、新たなエアロカーに同乗する。

 俺と直接、話が出来るのはスパルチェンとナシッドを除いて、二等星以上の者のみ、それ以外の者は通信機の使用も禁止とした。

 オルラ以下、一等星の者は、連なる星々の王国での下地工作のため、別行動を取ると公表。

 王都に到着するまでに俺は戻って来ると約束して、その場を解散とした。

お読み頂き、感謝いたします。本日の投稿はここまでとさせていただきます。ありがとうございました。

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