人間モードでいってみよう!(挿絵あり)
部屋で、まずはギンテンから元のヒャクヤに戻してやる。
偽名についても解除する。
俺の使徒になった時、一旦は解除されていたのだが、俺が命令し直してギンテンを名乗らせていたのだ。
ヒャクヤが作り出したチビヒャクヤは、既に十人に達している。青銀の毛並みの時に作り出したため、チビヒャクヤは白くならずに青銀の毛並みのままだ。
獣人三人娘を集合させて、今後は人間モードで活動するよう提案する。
「本当に良いの?」
「やっぱり、あたしの可愛さにメロメロなんよ。」
「変態チビジャリが、ウチの色気に悩殺されたの。」
やっぱり、ニャン馬鹿二人は獣人モードのままでいて貰うか?
「一体、どういう風の吹き回しなんだい?」
三人が、人間へと姿を変えるのを尻目にオルラが俺に聞いてくる。
俺は眉を顰めながら、その推測を話す。
「うん。今日の三人は機嫌が良かったように思うんだ。」
オルラが頷きながら「そうだね。」と応える。
「ロデムスは、人間の姿が本来の姿だと言ってたから、もしかしたら、獣人の姿でいる方が、何かしら無理に力を消費してるんじゃないかと思ってね。」
スフィンクスポーズのロデムスが割って入る。
「成程のう。それは道理かもしれぬのう。戦闘時のみに獣人化する方が、エネルギー効率としては正しいからのう。」
「じゃあ、これからは、ずっと人間モードなんかよ?」
アヌヤの言葉に俺は首を振る。
「とにかく様子見だな。寝る前に、俺が、診察するから、それで判断するよ。」
「トガリ、いきなり、その、何て言うかそういうことは、もっと、ちゃんとっていうか…」
うん。トンナ勘違いしてるね。
「ハッキリ、したいって言えばさせてやるんよ。」
アヌヤ。両腕を組んで何を自信満々に宣ってる。一言も言ってないぞ。
「…シケベ…」
ヒャクヤ。俯きながら頬を赤らめるな。
ドン!!
床を踏み鳴らす大きな音が部屋に響く。
あれ?オルラが魔獣モードだ。
ロデムスが、尻尾を丸めて、部屋の隅で蹲る。
「お前達。一〇歳の子供相手に何をしようってんだい?」
あ…いつの間にか、俺も部屋の隅っこだ。
トンナ硬直。
アヌヤおしっこジャー。
ヒャクヤ言うに及ばずジャー。
「トガリに変なことを教えるんじゃないよ。」
三人ともガクブル状態だ。人が本気で震えてるってのを始めて見たよ。
「返事は?」
「はい!!」
異口同音で、良い返事だ。
「トガリ。」
俺の方を振り返るが、もう魔獣モードは解除されてる。
「変なことをされそうになったら、あたしに言うんだよ?」
「はい。」
俺も良い返事をしてしまった。暗に釘を刺されたような気がする。
アヌヤとヒャクヤの粗相を始末して、人間モード時の服装を作ってやることにする。
人間モードでも基本的な服の意匠は変わらない。
ただ、トンナの大人っぽい雰囲気にピンクはあんまりなので、もっと落ち着いた色にまとめようと提案するが「可愛いのが、良いんだけど…」の一言であっさり却下。
細い体で肩にアギラの角を装着するのはあまりに不格好なので、オッパ~イを支えるように胸に装着、シャツで丁度隠れる形だ。トンナの胸は、かなり大きく、胸を支持するような形でアギラの角を装着しているので、超大型ロケットオッパ~イになっている。
大気圏突破どころか恒星間移動も余裕よ!って感じだ。
ピンクのシャツがビビットで凄いことになっているが、本人の希望だ、目を瞑ろう。
襟はフリルが希望とのことで、大きな花弁のような白いフリルの襟を立ててやる。可愛いというよりも、王族のような気品を重視した。
シャツの裾にも同じフリルをデザインしてやるが、やっぱり、胸の大きさがファッション上のネックになる。裾のフリルを見せるようにすると、胸のせいで、かなり太って見える。仕方がないので前面の丈だけを極端に短くして、細くてしなやかなウェストを露出させる。
シャツと言うよりオッパ~イに掛けてある、フリル付きの布切れみたいだ。
紅い龍の革で作ったズボンはフィットして、長い脚を際立たせている。
同じく龍の革と鱗で作った紅いハーフコートは手甲手袋まで一体型だが、放電スイッチの関係上、指先だけは露出している。このコートもトンナのオッパ~イが邪魔しているので、胸の上でベルトで止めて、オッパ~イを露出させ、脇から後ろへと流れるラインにした。コートの意味?そんなもの知らん。
ウェストも、胸も、薄いカルビン素材の鎧だから細い体のラインが露出して、太く見えることはないだろう。
トンナは獣人モードの太い体形をかなり気にしていたので、なるべく細く見えるように気を使った。
ブーツも龍の革製だ。しかもピンヒール。オルラの悪影響だよ。
身長二メートルを超えてるのにピンヒールってスゲエな。
黒い鎧に黒いアンダー、紅いコートに紅いブーツ。そんでもってピンクのフリフリのシャツとミニスカートで、スゲエ派手に仕上がった。
金髪美女で二メートル以上の高身長、手足がスラリと長くて、怜悧な色を含んだキツイ目元。
とにかく、クールビューティーどころか、怖いお姉様だ。
その怖いお姉様が、髪をアップに纏めて、ピンク色の唇を艶めかしく舌なめずりしながら俺を見詰めてくるんだから、蛇に睨まれた蛙だよ。
以前、ハガガリの牙で作ったチョーカーを櫛に仕立て直す。扇状に広がる大きな櫛だ。銀を多めに使って、宝冠のように豪華に作る。
アッサリ目に作ると、トンナのゴージャスな雰囲気に呑まれてしまうので、かなり装飾過多に作ってやる。銀の簪と笄も作って、豪華に飾ってやる。
姿見を見ながら、くるくると回るトンナの仕草はかなり可愛い。見た目とのギャップが半端ない。
さて、今度はアヌヤの服を作るかと、振り返った途端、トンナに両脇を持たれて、肩に担がれる。
「どうした?」
トンナが俺を左肩に担いだまま、困った顔で肩を揺する。
「うん。何だか座りが悪いから、どうやってトガリを担ごうかと思って…」
下僕根性半端ねえ。
「担がなくっても良いんじゃない?」
恐ろしいスピードで、トンナが俺の方を見る。首だけが瞬間移動したのかと思ったよ。
そんな恐ろしい物を見たっていうような顔で俺を見るなよ。世界の終わりって訳じゃないんだから。
あ~あ。泣きそうになってるよ。
仕方がないので、コートの肩部分にクッション機能を持たせた装甲を仕立ててやる。
「うん。これなら…うん?トガリ、ちょっと。」
「どうした?」
トンナが困り顔で俺の両足に手を添える。
「ちゃんといつも通りに、あたしのオッパイに足を乗せて。落ちちゃうよ?」
今度は俺が困り顔だ。
「あ、はい…」
「うん。そうそう、これで落ちないね。」
本当に嬉しそうに笑うなぁ。
でも、超美人の肩に担がれてる一〇歳児ってどんな絵面だよ。獣人モードの時より周囲の視線が痛くなりそうで、今から怖いよ。
トンナと違ってアヌヤはシンプルな服を欲しがった。
元からの黒いアンダーウェアに、プロテクターをカルビンに仕立て直し、ブルゾン、パンツ、ブーツと、全て、素材の持つ機能をバージョンアップさせただけで、色もデザインも同じ物だ。
ただ、ホルスターを増やしたいとのことだったので、腰ベルトにだけだったホルスターを、脇下にも装着できるようにハーネスを作ってやる。
アヌヤは服よりも銃を欲しがったので、両腰、両脇には従来の霊子拳銃を、そして腰の後ろに、新たに自動霊子小銃を作ってやった。
変わったところで、手甲にも霊子銃の機能を持たせた。
この手甲、拳を握り込むと、指の第三関節、拳の前面に突起が出るようになっている。
突起を強く押さえると、手甲の、拳側に仕込まれた銃弾が発射されるという物だ。
つまり、相手を思いっきり殴りつけると、同時に銃弾を発射するという、超凶悪な代物だ。
怖いのは、と、言うか、気を付けなければならないのは、その銃弾を跳ね返すだけの装甲を持った相手だ。
俺は、この銃を使う時は、相手の装甲をしっかりと見極めておくようにと注意する。
「うん。気に入ったんよ!これがあれば、トンナ姉さんと再戦する時、弾を避けられないんよ!」
いや、まず拳を当てられないだろう、という突っ込みは呑み込んだ。
折角、気に入ってくれたんだしね。
髪型もボーイッシュにシャギーを入れたショートに整えて、可愛くしてやると「へへっ」と、照れていた。
ヒャクヤはちょっと苦労した。
色を変えられるようにしろだの、もっと可愛くしろと、かなり煩かった。
戦闘のことを考えて、あまりデザインは変えなかったが、色を変更する機能を付加させられた。
ヒャクヤが特に譲らなかったのは、素足を出したいという要望だった。
放電する敵どころか、トンナと俺は放電能力を持っている。従って、絶縁能力を持つ黒いアンダーを着ないで、素肌を曝すというのは危険だと説明するが「トンナ姉さんに勝つには可愛さと色気しかないの…」と、凄い形相で、まったく聞き入れて貰えなかった。
結局、下半身を覆うアンダーは、タイツではなく、ニーソーという折衷案となった。
ミニスカート下は絶縁性能を持っているショートパンツなので、現代日本で絶対領域と言われている部分だけが素肌だ。
ブーツも長めのデザインに変更し、膝下のベルトで留める形だが、このバックルの形はリボンにしろと煩かった。
モッズコートの前面には、赤くて太いラインが縦に入り、その上にもピンクのリボンが並んでいる。
モッズコートの下は鎧だが、この鎧の色も銀にしろ、細かい金の装飾を入れろと喧しかったが、俺は「はいはい。」と言われたとおりに作ってやった。
そしたら「太って見えるの…」と、愕然とした表情で呟いたので、コルセット型に整形して、ウェストを絞ってやった。
「まあ。変態チビジャリのセンスならこんな物なの。」
こう言われた時は、本気でぶっ叩いてやろうかと思った。
ヒャクヤの髪型はセミロングのストレート、おでこを広めに出した、前髪パッツンだ。
三人の人間モードでの服装が決まったところで、服に仕込んだマイクロマシンに形状及び色保存の命令を走らせる。
これで、獣人モードになる時は、脳内から分泌される脳内物質をマイクロマシンが感知して、獣人モードの服装に形状が変化する。
アヌヤにはあまり必要ない機能だが、トンナとヒャクヤには、必須の機能だ。
トンナは、その体形変化から、ヒャクヤは、ニーソーからタイツに変化させるため、どうしても必要な機能だったのだ。
トンナは俺と同じヘルメットを喜んだが、ヒャクヤは当然のように「可愛くないから嫌。」と言い切った。
しょうがないので、モッズコートのフードに防弾性のプレートを仕込んで、普段はカチューシャとして使えるゴーグルを作ってやる。カチューシャには連なる星々の印を装着して、イヤホンを付属させた。
アヌヤは頭が重くなると、精密射撃の邪魔になるというので、ヘルメットはなし。射撃用に赤外線、サーモ、粒子の動き、気圧、風速等が見える、特別誂えのマイク付きのゴーグルを作ってやった。溶接用ゴーグルの意匠なので、随分とスチームパンクっぽくなったが、本人が気に入っているので良しとしよう。
これで、人間モードで過ごすことが出来るようになったのだが、一悶着あった。
「何で?何で一緒にお風呂に入っちゃいけないの?」
「お前がトガリにウフフなことを教えるからだよ。」
俺が風呂に入ろうとすると、当たり前のように付いて来ようとしたトンナを、オルラが止めたのだ。
クールビューティーな筈のトンナが、頬っぺたを膨らませて、真赤になってオルラを睨んでいる。
どっちかと言うと、可愛い怒り方をしてる。
それに対して、オルラは両腕を組んで、堂々とした立ち姿。半目で、平然とトンナを見返している。
トンナもこんな怒り方をすれば相当に恐ろしいのだが、オルラ相手では、どうしても子供のようになってしまうようだ。
だから可愛いんだけど。
睨み合うこと数十秒、トンナが「…じゃあ、元に戻ってトガリと入る。」と言うと「約束だよ。お風呂で人間に戻るんじゃないよ。」と、オルラが念を押す。拗ねたように口を尖らせてトンナが頷く。
可愛いんだよなぁ。そういう仕草が。
風呂に入って思ったのだが、俺は獣人モードのトンナの方がシックリくる。
慣れかな?
『慣れだろ。』
『そうだねぇ。』
『慣れれば、人間モードでもシックリするよ。』
『獣人モードの方が強くて良いじゃないか。』
人間モードだと、美人過ぎて、こっちが緊張するんだよな。
獣人モードのトンナだったら、こうやって胸に凭れて、ゆっくり風呂に浸かってられるもんな。
「それにしても、オルラがあんなに怒るとはなぁ。」
俺の言葉にトンナが頷く。
「やっぱり、最初が拙かったよねぇ。」
トンナを初めて人間モードにした時、トンナはいきなり俺にキスをして、子供が欲しいと宣った。それ以来、オルラは人間モードトンナを警戒しているのだ。
「でも信頼されてるよ。」
俺の言葉にトンナが首を傾げる。
「今だって、オルラは風呂を覗きに来てないだろ?トンナを信用してる証拠だよ。」
「そっか。信用されてるのか…」
トンナもちょっと嬉しそうだ。
「トガリに変なことしないからね。」
良い顔でそんなこと言われたら、ちょっとガッカリするじゃないか。
「大人になってから、大人らしいこと、すれば良いよ。」
「そうだよね。」
そう言いながらトンナが俺の頭にキスをする。
これって十分子供らしくないよな?




