副幹人格の暴走
一応、アヌヤとヒャクヤじゃ、あらすじの説明になってないってことなんで、あたしが、説明するね。あらすじって言っても、大体が、トガリの凄いことの話になっちゃうんだけどね。だって、トガリは神さ
『起きろ!起動しろ!拙いことになってる!起動しろ!』
イズモリか?一体どうした?
『よし。起動したな。体を動かしてみろ?』
言われたとおりに、俺は起き上がって、凝った首を回す。ここ何日か感じたことのなかった凝りだ。不自然な体勢で寝ていても凝りを感じたことのないトガリの体が、凝っている。
違和感を抱いて、周りを見回す。
唖然とした。
俺の両隣には人間モードのトンナとアヌヤが寝ていて、太腿の上にはヒャクヤが寝ている。
で、俺も獣人三人娘も素っ裸だ。
四人が固まって寝てるのだ。暑いぐらいで、布団も被っていない。
『第三副幹人格だ。』
なに?
『第三副幹人格がトガリの体を使って、三人の服を脱がせて、一緒に眠った。』
どういうことだ?どうしてそんなことが出来る?
『トガリの視床は第三副幹人格の物だ。その視床は嗅覚以外の感覚入力を中継するんだ。』
だからって、俺の気付かないうちに、こんなことが出来るのか?
『感覚入力を阻害されたんだ。その間に奴の精神体がトガリの体を奪った。』
俺がマイクロマシンで敵にやっていたことを、第三副幹人格にやられたってことか?
『そうだ。』
ゾッとしねえな。
『奴の感覚は俺達の中でも特に鋭敏だ。だから、奴の視床を使ったんだが裏目に出たな。』
取り換えることは?
『無理だ。今のトガリは復活時の体で、全て調律されてる。一旦、全てをゼロにする必要が出てくる。』
どうすればいい?
『とにかく俺が交渉してみる。それまで眠るな。』
わかった。
「ふふ。トガリ、おはよう。」
トンナが目覚めて、俺の腕を撫でる。
まったく。一〇歳の子供相手に、何を色気を出してるんだか。
「おはよう。」
トンナに向かってニッコリと笑う。
「チビジャリ、おはようなんよ。」
「うん、おはようなの。」
アヌヤとヒャクヤも目覚める。
「ああ、おはよう。」
俺は二人に挨拶して、それぞれの頭を撫でる。
トンナは「ふふ。」と笑い、アヌヤは「やっぱりチビジャリはスケベなんよ。」と勝ち誇ったような表情を浮かべ、ヒャクヤは「変態部屋親方には敵わないの。」としおらしく俯く。
よし。
決めた。
今日を最後に、人間モードの獣人三人娘とは一緒に寝ない。
でないと手が後ろに回る。
ヤバイ。
非常にヤバイ。
とにかく、美人と可愛いと色っぽいが半端ない。
俺は瞬間移動でベッドから下り、同時に服を再構築して、洗面へと向かう。
獣人三人娘が、悩ましい声で俺を引き止めるが、俺は逃げるようにその部屋を出て、顔を洗う。
汚れは分解消去できるのだが、今は顔を洗いたい。
そこから、そのまま、仮面を再構築しながら屋上に出る。
見回りの兵士達が、一旦は跪くが、俺の指示に従い、直ぐに自分達の仕事を再開する。
俺は大きく、深く、呼吸を繰り返す。
銀の輝きに彩られた小太刀を抜く。
ゆっくりと天へと斬り上げ、切先を返しながら真直ぐに斬り下ろす。
ブレた。
右手だけで振り下ろすのだ。当然のように切先が右か左に流れる。
力を入れれば、その流れが激しくなる。
恐怖だ。
三人を傷付けることへの恐怖だ。
その恐怖が力の入れ具合を狂わせている。
頭を上に向け、切先を顎に当て、再び呼吸を整える。静かに、長く、伸びるように肺の中の空気を吐き出す。
出来るか?
やる。
やるんだ。
スルリと切先が俺の肉に潜り込み、気管、舌根、口蓋から脳底へと潜り込み、霊子回路を貫き、視床下部から視床を通り抜ける。
『よくやったね。』
静かな声だ。イズモリではない。
イチイハラでもない。
カナデラでもない。
タナハラでもない。
俺の視床が、第三副幹人格の物であるなら、その視床を破壊すれば、第三副幹人格の視床は失われる。
イズモリは第三副幹人格の視床が最も鋭敏だと言っていた。
感覚器官に差異はないが、感覚入力を司る視床に優劣があるのなら、優秀な視床を手放すことを、性欲、快楽の権化たる第三副幹人格が許す訳がない。
あの三人を傷つけるならば、俺の存在そのものを否定するしかない。
これは、第三副幹人格との取引だ。
『俺にもチャンスを寄越せよ。』
チャンス?
『成長を阻害してるだろう?それを止めろよ。』
このまま意思を籠めれば、この小太刀は俺を斬る。
『わかってるよ。だからこそ、俺にもチャンスを寄越せって言ってるんだ。』
チャンスはやらない。俺に従うか、従わないかだ。
『交渉の余地は?』
交渉する気はない。
『待て。』
イズモリだ。
俺は、そのまま、イズモリの次の言葉を待つ。
『いいぞ。話はついた。』
俺は刺し込んだ時と同じように、静かに小太刀を引き抜く。
『いいタイミングだった。トンナ達、オルラ、トネリ、アラネ、トドネ。トガリに関連する女性達には手を出さないと約束させた。』
どこまで信用できる?
『俺達と同じだ。複数の存在であって、一つの存在。奴は俺達に隠し事はできても、嘘は付けないし、俺達も奴に嘘を吐けない。安心しろ。』
俺は大きく息を吐いた。
『その代わりに成長ホルモンの分泌を再開する。』
わかった。
俺はオルラ達の部屋に戻り、朝食にしようと声を掛ける。獣人に戻ったトンナ達もそこに居た。
獣人三人娘はすこぶる機嫌が良かった。
俺のやり方ではストレスを溜めるのか?第三副幹人格のやり方も、満更ではないのかもしれない。
魂だけのリンクは偏ったリンクと言える。
魂、霊子体だけではなく、精神体と肉体のリンクも必要なのかもしれない。
俺はそんなことを考えながら朝の食事をとった。
ズヌークの軍には歩兵が存在する。
ズヌーク達に作った車椅子のバッテリーが、かなり高密度のエネルギーを蓄積出来ることがわかったので、俺はそのバッテリーを使って高速移動できるように乗物を作ることにする。
俺達の馬車から馬を外し、車台から車輪を分解、ドローンのように車体下部に回転翼を構築する。
高密度だが大型のバッテリーと五人と一匹の装備、積載重量としては厳しいかもしれない。
回転翼の回転運動をアギラの発電板に接続して、発電機関も作っているが、当然、消費電力の方が上回る。
高性能の太陽電池もイズモリが作ってくれたが、一応、保険として俺の体から発する生体電気も充電できるようにしておく。
俺の指先は蓄電放電器官にもなっているので、俺の指先を差し込むコンセントを作っただけだ。
エアロカー。空飛ぶ車?ヘリで良いんじゃね?
御者台、運転席が後ろになり、最後部から一段高い位置で、トンナが、専用のキング&クィーンシートに跨り、チョッパーハンドルを握る。
運転席前のシートにはオルラとヒャクヤが横並びに座り、その間にロデムスが座る。オルラ達のさらに前方にはアヌヤの回転砲台を取り付け、その砲台には霊子ガトリングを設置した。
後ろは死角になるが、後ろには俺が居るので問題ないだろう。
俺?
俺は当然トンナの膝の上ですよ?
てか、トンナの胸の下?小さなキングシートに座って、後ろの大きなクィーンシートにトンナが座るんです。
使える元素のストックが増えたお陰で、こんな物をつくれたが、今度は霊子結晶、霊子金属が足りなくなってきた。アギラクラスの魔獣を複数体、狩りたいところだ。
最高高度は三十メートルだが、航続距離に影響が出るから、高度は一メートル程で押さえて飛ぶ。
やっぱりエアロカーか。
とにかく、このエアロカーでテストだな。上手くいけば、今後は、エアロバイクを作ってみたいので。
目を丸くしてる兵士達とヘルザース達はスルーして、早速、試乗してみましょうか。
「乗るよ?」
「動くのかい?」
オルラもトンナもアヌヤもヒャクヤもロデムスさえも不信顔だ。
「動くよ。」
断固として断言する。
「トンナ、此処に乗って。」
トンナがクィーンズシートに乗る。
「足をステップに掛けて。」
ステップに足を掛けさせて、クラッチを右足で操作させると、運転席が上方へと持ち上がり、車体の上へとせり上がる。
「ほら、皆、乗って。」
各自に座る場所を指定して、ようやく俺がトンナの下に座る。
俺の右手を、バイクのタンクに位置する指紋認証パネルに当てて、エンジン始動の命令を走らせる。
そうか。霊子金属を使えば、幽子を取り込みながら稼働させることが出来るな。今度、魔獣を狩ったら試してみよう。
エアロカーがフワリと浮かぶ。
電気で稼働しているから静かなものだ。
トンナが、俺とお揃いのヘルメットを被り、アヌヤが、特性の照準機能を持ったゴーグルを装着する。
この一台だけが、異様なSF色を醸し出してるな。
砦の広場を一、二周してトンナに操作方法を教える。まあ、イチイハラが居るから大丈夫だろう。
砦を分解して、ヘルザースの息子に合図を送る。
ヘルザースの息子が号令を発し、角笛の音と共に俺達は進軍を開始した。
「ふんっふんっふっふふ~ん。」
トンナが調子っぱずれの奇妙な鼻歌を歌ってる。
「ご機嫌だね?」
目線だけを、一瞬、俺に向ける。口元は、ずっと微笑んだままだ。
「そうかなあ?あっでも、なんか今日は体が凄い楽なんだよね。その所為かも。」
アヌヤも、さっきから回転砲台をクルクルと回して、「ダダダダダダダダダッ!」と擬音を発しながらガトリングを空に向けている。昨日の今日とは思えないような機嫌の良さだ。
ヒャクヤは、シートに立ち上がって、辺りを警戒しながら、時折、剣を抜いて「シャキーン!」とか言ってる。
ロデムスが煩わしそうにしてるが、どうしてこんなに機嫌が良いんだ?
『楽だって言ってたな?体に力が漲るとかじゃなくて。』
そうだけど?それがどうした?
『普段はどうなんだ?昨日までは、辛かったのか?』
俺は、顔を上げてトンナに聞いてみる。
「今日は体が楽だってことは、昨日とかは体が辛かったのかい?」
トンナは前を向いたまま、口を尖らせ「う~ん。」と考え込む。
「辛かったってことはないんだけど、今日は、凄く体が楽っていうか、頭の奥がスッキリしてるって言うか、何かそんな感じ?」
「ふ~ん。」
『検証してみよう。』
全然、意味がわからんのだが?
『お前は結構、トンナに制限をかけてたろう?』
そんなつもりはないけど?
『トガリン禁止とか、トガリ様禁止とか。』
『下僕として振舞うことも禁止だよねぇ。』
その三つぐらいだぞ?
『そのたった三つは、二十四時間、毎日、禁止されてる事項だろう?』
うっ。そう言われるとそうだな。下僕になったのに、下僕として振舞うことを禁止されてるんだもんな。
『普段からのストレスか、そうではないのか、アヌヤとヒャクヤを見てるとそんなことはないだろうが、それでも考慮した方が良いだろう。』
でも、その禁止事項は解除してないぞ?
『そうだ。それなのにストレスが解消されてる。昨日、一緒に寝たことが何か影響しているのか。それとも、人間モードで長時間過ごしたからか。』
『その両方かもよ。』
ニャン馬鹿二人を見てると、人間モードの方だと思うんだけどな。
『今日の野営の時は人間モードで過ごすようにさせたらどうだ?』
わかった。
俺はトンナの顔を見上げる。
そして見つけた。
上空で翼を広げる巨大な何かを。
前書きで、あたしが、ちゃんと、トガリの凄さを説明するって言ってるのに、どうして、途中で切っちゃうの?そういうの、やめよう?ね?この後書きで、今から、トガリの凄さを、ちゃんと説明するから、ね?で、トガリは神さ




