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トガリ  作者: 吉四六
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ブラッシング中毒にスキンシップって大事だよね?

え~っと。作者が、完成原稿を、ただ、投稿するだけじゃ、つまんないって言ってるんよ。だから、あたしに、前回までの、あらすじを、説明しろって、言うんよ。だから、するんよ。チビジャリと会った時は、何か、凄い、生意気な奴だと思ったんよ。でも、あたしの撃った弾が、全然、当たんなくって、化け物かって、思ったんよ。で、アギラをバンバンって撃って、ビリビリってさせて、里に帰ったら、爺様にどつかれたんよ。それから、ズヌークの所に行って、ヒャクヤが村出の嫁にならなくてもよくなったんよ。そしたら、ヘルザースの所に行くって言うから、トンナ姉さんの下僕になったあたしは、付いて行くしかないんよ。えっと、それから、コルナっていう、嫌味な奴が、結構強くって、チビジャリがカッコイイ悪魔とガーって戦って、馬車に乗ってるんよ。わかったんかよ?

 朝食の後、出立となった。

 あと五日は十分に掛かる距離だ。

 俺はトンナの膝上で、少しばかり眠って、イズモリと共に設計を始める。

 アギラから採取した素材は、結構、使い勝手が良い。電気エネルギーを蓄えるバッテリー製作には欠かせない物だと判明した。

 鉱物採取も進んでいる。ボーキサイトやコルタン、鉄鉱石に鉄マンガン鉱石、灰重石、マンガン重石など、結構見つかっている。

『色々作りたいからね。出来るだけ多くの元素を採取してよ。』

 カナデラは、ホントに創作好きだな。

『今考えてるのは凄いよ。イズモリとの共同開発だから、まあ楽しみにしててよ。』

 そうさせてもらうよ。

 ボーキサイトとコルタンが手に入ったので、早速、超硬質ガラスの製作に取り掛かる。

 ボーキサイトからアルミナを精製し、コルタンから酸化タンタル、この二つを合成することで、超硬質のガラスを作り出す。

 まずは俺の仮面と同じ形で作り、合成樹脂でラミネートして、衝撃拡散能力を底上げする。

 二重構造にして外側の超硬質ガラスはミラーレンズに仕上げる。これで普段は俺の顔が見えない筈だ。

 俺の仮面は、後頭部から顔の上半分を覆う形になったので、ヘルメットのようになった。極めてSF的な外見だ。

 そのヘルメットにカナデラのデザイナー魂が触発されたのか、アールヌーボー調の装飾が入る。

『両サイドに計十二枚の翼を入れたからね。』

 成程、ルシフェルか。

 耳の位置に、連なる星々との通信機能を持った宝石を埋め込み、頭頂部から後頭部に掛けて、スリットのようなバッテリーを埋め込む。

 俺の生体電気をチャージすることで、スピーカーとマイクを起動させる。マイクは、俺の喉仏に装着する声帯マイクで、スピーカーは骨伝導スピーカーで小型化を図る。

 通信機能を持った宝石は、幽子で機能するが、マイクとスピーカーは電気で機能する。

 ハガガリで得た望遠機能、赤外線感知とサーモグラフィー機能も持たせる。いずれのカメラも俺の目の下、頬骨の位置に設置し、ミラーレンズの外からは見えないようにしている。

 カメラ自体は生体器官を利用しているので、霊子にて作動し、霊子送受信回路にて俺の視覚野に直接投影される。

 こんな物かな。

 必要と思った機能は、また後から増設すればいいやと思い。本日のメインイベント、本当に俺が作りたかった物を作り始める。

 これが結構、微妙な物で、細心の注意を払って作り出す。

『そうなんだよね。この間隔が微妙なんだよね。』

『先の丸みも重要だ。その点は注意しろ。』

 カナデラとイズモリも真剣そのものだ。

『最初の印象で決まっちゃうからねぇ。』

『ここは何としてもキッチリとした物を作って貰わねばな!』

 イチイハラとタナハラも期待している。

 こんなところか。

 俺は早速、出来上がった物の実証検査を行うべく、トンナの膝から下りて、ロデムスの前に立つ。

「主人よ。如何した?」

 器用にも、訝しむ表情を作るロデムスの背中に、その出来上がった物を突き刺す。

「おお!何を!」

「黙って、ジッとしていろ!」

 俺の真剣な声に、ただ事ではない雰囲気を察したのか、オルラとヒャクヤも俺の手元を覗き込む。

 ロデムスが「おお。」とか「これは!」とか「何とも」と呻いている。

 喉の奥から、場合によっては威嚇音ともとれる音が聞こえる。

「ふっふっふっふ。そうか。ロデムス、気持ち良いか?どうだ?気持ち良いのか?」

「おおう。これは何とも…言い知れぬ気持ち良さ。主人よこれは何と言う魔法なのじゃ?」

 俺は作ったばかりのそれを掲げる。

「これは猫用櫛という物だ!!」

 やりたかった。

 アヌヤ、ヒャクヤ、ロデムスと猫キャラが二人と一匹も居るのに、猫の毛繕いを一度も出来なかったのは辛かった。

「さあ、ロデムス。存分に毛を梳いてやる!」

 俺はロデムスの体中を櫛で梳いてやった。

 最後の方では、魔獣のくせに腹まで見せやがった。

 猫櫛!恐るべし!

 ロデムスと戯れていると、ヒャクヤが大きな声で話し出す。

「ああ~今日は暑いの。何だかすんごく暑いの。」

 大きな声で、独り言のように喋ってる。

 モッズコートとシャツを脱いで背中を露にする。

「困ったの。背中が痒くて困ったの。ああん。背中を掻きたいのに掻けないの、手が届かないの。誰か何とかしてくれないと困ったの。」

「ほれ。」

 背中に伸ばしているヒャクヤ自身の手を引っ張って、痒い所に届かせてやる。

「んぎっ!」

 ヒャクヤが何か変な声を出す。

「ちっ違うの!手じゃなくて!手じゃないの!」

 何言ってんだこいつ?

 俺は首を傾げて、何言ってるんですか?と身振りで伝える。

「あっあっあたしも、あたしも、それでして欲しいの!」

 おう、聞きようによっては、凄いスケベな台詞ですな。

「わかったよ。向こう向け。」

 ヒャクヤの背中をブラッシングしてやる。

「ああん。」とか「ううん。」とか「ああ。」とか色々ヤバい声を出し始める。

 俺は同じ猫櫛をもう一つ作り出し、その一つをオルラに渡して、オルラと交代する。俺はロデムスの方が良いや。

「主人よ、良いのか?ギンテン殿は怒らぬか?」

「誰がブラッシングしても一緒だよ。」

 俺はそう言って、ロデムスを思う存分ブラッシングしてから、御者台のトンナの膝上に戻った。

 ヒャクヤは、オルラに「そろそろ止めてもいいかい?」と聞かれて、固まっていた。

 あれだけ気持ち良さそうにしてたのに、今は凄く怒ってるみたいだ。

 どうやらヒャクヤは気に入らなかったらしい。まあ、ロデムスが喜んでたから、それで良しだ。

 俺も久しぶりに満足したしな。

 この日は早めに野営の準備をすると、ヘルザース達、二等星の三人に連絡する。

 日が傾く前に、川の傍で野営用の砦を再構築して、馬の世話を始めさせる。

 この日は、川の傍ということもあって、大浴場も再構築してやった。

 大浴場の前で、小隊ごとに、順番に一人ずつ並ばせて、それぞれに新たな服を作り出してやる。

 超高分子量ポリエチレンから作った繊維を使って、防弾性能を持たせた服だ。

 体に密着するその服は、俺達の服と同じように積層構造になっており、アラミド繊維で作った布でサンドイッチしている。

 厚みとしては大した物ではないが、この世界で見られる銃弾ならば、止めることが出来るだろう。

 アヌヤが持っている霊子銃が規格外れなのだ。

 この世界の銃は、弾丸製作技術が未熟なため、さほど威力のあるものではない。自動小銃もないようで、ヘルザース達の銃兵も大した銃を装備していなかった。

 新たに作ったボディアーマーに合わせて、鎧も改造してやる。しかしながら、千人の服を作るだけでも、結構、疲れたので、鎧の方は百人分で、一旦、打ち止めだ。

 鎧は前面のみに薄いタングステンを使用し、カルビンでコーティング、背面はカーボングラファイトとカルビンの複合積層装甲だ。

 動きやすさを考慮して、関節部付近は蛇腹構造に仕立ててある。軽い素材なので、まるで玩具のようだ。

 それでも、剣で試し切りしたり、弩と銃で試し撃ちしたところ、貫通どころか変形さえもしなかったので、兵士達からは信用された。

 兜は俺のヘルメットとほぼ同じ仕様だが、ハガガリの生体器官は量的に採用できないので、赤外線感知などの機能はオミットした。

 ただ、俺と同じデザインのヘルメットを部下が被るのは不敬だということで、別のデザインにするようにローデルに叱られた。

 兎に角、兵士達の負担を軽くするために軽量化に重点を置いた鎧とボディアーマーは好評だった。馬車も改良したし、馬への負担も軽減されて進軍速度が上がるだろう。

 

 全員の服を作り終わって、部屋に入ると、何だか微妙な空気が流れてる。

 俺は、その微妙な空気を感じつつも「お風呂入るね。」と言って、室内風呂に向かった。

 トンナが後から付いてくるのはいつも通りだが、そのトンナの雰囲気もどこかよそよそしい。

 浴槽の中でトンナに凭れ掛かって「何かあった?」と問い掛ける。

「うん…ヒャクヤなんだけどね。」

 ヒャクヤが?どうしたんだ?

「此処に着いてから、ずっとむくれてるの。」

「はあ?」

「その、ロデムスに、これはあたしの仕事だって言われたから、言うんだけど。」

「うん。」

「ヒャクヤに謝ってあげてくれないかな?」

「ええ?」

 つまり、ヒャクヤが怒ってる原因は俺にあるということだ。何で?

「昼間に、ヒャクヤの毛並みを梳いてあげてたじゃない?」

「うん。」

「嬉しかったんだと思うんだ。」

「うん。」

「でもオルラ姉さんに交代して、トガリはロデムスの毛並みを梳いてたでしょう?」

「うん。」

「それって、怒るっていうより、悲しいんだよ。きっと。」

 んん?やっぱりよくわからん。

「あたしも、ちょっとロデムスが羨ましかったもん。」

「ええ?何で?」

「だって、ロデムスの毛を梳いてる時のトガリ、凄く嬉しそうだったから。あたしはあんな風にトガリに喜んで貰ったことがないから。」

 うわ~、そうなのか?

 そうなるのか?

 下僕根性、恐ろしや。

「あたしにも、もっと毛が生えてたら、トガリに喜んで貰えたのにって思っちゃったもん。」

 どこで競ってるんだこいつらは?魔獣と同レベルで競ってるのか?

「おかしいな。俺は、トンナのお陰でいつも喜んでるんだけどなぁ?」

「うん。それはわかってる。わかってるけど、ロデムスは魔獣じゃない?その魔獣が同じようにトガリを喜ばせるのが、ちょっと焼けるって言うか、そういう感じ。」

 そうか。俺が、魔獣を同レベルに引き上げたのか。

 …ん?おかしくない?その理屈。

「ちょっと待って、その理屈だと、俺って、トンナ達以外のことで喜んじゃ駄目ってことになるじゃないか。俺はオルラと話してても楽しいし、ロデムスと話してても楽しい。物を作ってても楽しいのに、それらをするなってことになるぞ?」

「ちがう、ちがう。あたしもロデムスにちょっと焼けたってのはホントだけど、ヒャクヤの場合はもっと深刻なの。」

「うぅん?」

「ヒャクヤはキャットノイドでしょ?」

「ああ、成程。」

「で、ロデムスはアヌヤと同じ黒でしょ?」

「あ。」

「ヒャクヤ自身も何で怒ってるのかわからないと思うの。」

「そうか。じゃあ、ヒャクヤに謝って、慰めてやるか。」

「うん。そうしてあげて。」

 俺はトンナの胸に凭れ掛かって、顔にお湯を掛けて、ごしごしと擦った。

 アヌヤとヒャクヤは双子だもんな。俺にはわからない、何か微妙な関係ってのがあるんだろう。ちょっとデリカシーに欠けたかな。反省だ。

 風呂から上がって、ベッドの上に座っているヒャクヤとアヌヤに風呂に入るように声を掛ける。

「わかったんよ。」

 アヌヤは素直に立ち上がって風呂に向かうが、ヒャクヤは頬っぺたを膨らませて、そっぽを向いている。

 完全にお拗ねさんだ。

 俺はヒャクヤの背後に回り「昼間はごめんよ。」と声を掛ける。ヒャクヤの肩がピクリと跳ねる。

「お風呂から上がったらギンテンの毛並みを梳きたいな。」

「仕方がないの!スケベジャリガキがウチの毛を梳きたいなら今からお風呂に入って来るの!」

 勢いよく立ち上がり、脱兎のごとく風呂へとダッシュする。

 案外チョロイっすね。吃驚ですわ。

「チョロかったね。」

 トンナ。口に出すのはどうかと思うぞ。

 バスタオル一丁姿で部屋に戻って来たのは、ヒャクヤだけじゃなく、アヌヤもだった。

 やっぱり猫だ。

 俺は、まず、二人の毛を生乾きにまで水分を分解して、猫櫛を入れたところだけを完全に乾燥させる。

 猫櫛の気持ち良さを、更に効果的に感じることが出来るのではないか、と、思ってのことだ。

 うつ伏せになった二人の背中に猫櫛を入れる。

 あ、ちなみにお尻の所にはちゃんとタオルが掛けてあります。

「ああ~凄いの~昼間の時よりも、もっと気持ち良いの~。」

「おお~う。凄いんよ。これって物凄いんよ~。」

 どっちも物凄いエロイことしてる風だ。でも二人の毛繕いをしてる俺って、俺が下僕?

「こっちもお願いなんよ。」

「ウチも!」

 と、二人が仰向けになる。

 トンナに思いっきり、しばかれていた。

「調子に乗るんじゃないよ!ただでさえ、トガリの手を煩わせてるんだよ!」

 頭を押さえているアヌヤが顔を上げる。

 その表情に、只ならぬものを感じ取る。

「トンナ姉さん。」

「何だい?」

 アヌヤが真剣な眼差しで、トンナを睨んでいる。

「あたしと勝負して欲しいんよ。」

 あれ?下僕が主人に逆らってる?良いの?

 トンナが魔獣モードになってるよ。

「トガリの使徒になったからって、あたしに勝てると思ってるのかい?」

 口調は普通だが、声が違う。

「チビジャリの使徒になったからじゃないんよ。トンナ姉さんの下僕じゃなくなったからなんよ。」

 そうなの?死ぬまで下僕って、トンナの嘘?

『使徒になることで、プログラムが上書きされたんだろう。使徒と守護者の契約については、トンナ達は知らなかったようだし。嘘はついてない。』

 そういうことか。

 それにしても、何で、勝負するんだ?

『さあ。』

『何でだろうねぇ。』

『女の子って解んないだよ。』

『何にせよ、白黒決着をつけるのは良いことだ!』

 ロデムスに「何で、勝負するんだ?」と、小声で聞いてみる。

 ロデムスは「主人に解らないなら、どうしようもないのう。」と呆れたように答えられた。

 オルラの方を見ると、肩を竦めて溜息を吐いている。

「とにかく、今夜はもう無理だ、時間が遅い。」

 俺の言葉で、その日はお開きとなった。

 トンナとオルラ、そして、ロデムスと一緒の部屋で眠る。アヌヤは宣戦布告したばかりだから、ヒャクヤと一緒に別室だ。

 アヌヤが、どうして、突然トンナと闘うと言い出したのか、トンナに聞いてみたが、トンナの口は重かった。

「もう寝ようよ。」

 トンナが、少し憂鬱そうに、そう言ってくるので、俺も深くは聞かなかった。

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