トガリはやっぱりトガリ
コルナも含めた六人と一匹で食事した後、コルナに、アレキサンドライトの嵌った連なる星々の印を渡す。称号は一等星のカペラだ。
「ふん。二重スパイとしては相応しい。」
皮肉めいた口調で笑うが、そんなに嫌じゃなさそうだったのが印象的だ。
「我が主よ、連なる星々の件、既に、帝国にリークしたのか?」
「あれ?話してない?」
コルナが、あからさまな舌打ちをする。
「帝国から、連なる星々について調べろと打診があった。どのように情報を漏らせばよいのだ?その辺の指示を貰わねば、動きようがないのだが?」
イラついた目で俺を睨むなよ。何で俺の下僕って言うか、従う奴らは俺より高圧的なんだ?
「ちょっと、コルナ。チビジャリはまだ子供なんよ。そんな言い方ってあんまりなんよ。」
ええ?珍しいことするじゃないか?お前がそんなこと言うなんて。アヌヤ、ディスリながら庇うとか器用なことするな?
「やっぱり鳥頭だから頭が軽いの。」
ヒャクヤ、お前は、ただ単にコルナのことが嫌いなのナ。わかってるぞ。
「ふん。ションベン臭い娘っ子がピーチクパーチクと。大事な話をしてるんだ横槍を入れるんじゃないよ。」
何で俺の周りって、こう怖い女ばっかりなんだ?それとも、これが、この世界のデフォか?もう勘弁してくれよ。
「まったく、お前達、トガリと魂で繋がってるんだろ?もう少しまともに話が出来ないのかい?それにコルナ。お前だって、この子らをションベン臭いというなら、大人の女の器量をお見せよ。」
は~い。オルラがまとめました~。
コルナもグウの音も出ない状態で~す。
「流石はオルラ殿。女子衆を見事に纏めておられる。」
はい。ロデムスの言う通り。俺には無理で~す。
「とにかく主よ、私は、この子らと違って、離れて仕事をしているのだ。細目に連絡をくれるように頼む。」
「はんっ。チビジャリと離れてるのが寂しいんよ。きっとそうなんよ。チビジャリの傍に居るあたしらに焼いてるんよ。」
「そうなの。変態マスターの傍に居ると、楽しいことが一杯あるからシットクイーンになってるの。」
おい、聞こえるように陰口を叩くんじゃない。
「いい加減におし。」
順番にオルラにしばかれて、二人が大人しくなる。
「ふん。この二人に囲まれていては、主も苦労が絶えなさそうだ。その点だけは同情してやる。」
いや、だから何で、お前らはそう上から目線だったり、ディスったりするんだよ?
俺が何か悪いことした?
『してるな。』
『してるね。』
『してるよ?』
『おう!してるぞ。』
そうだった。してるわ。
「それで、主よ、私はどの程度の情報を帝国に渡せばいいのだ?」
う~ん。そうだよなあ。どうしよう。
「そうだなぁ。コルナに俺の力を教えるから、その中からお前が取捨選択して、帝国にリークすればいいよ。」
コルナが鼻を鳴らす。
「ふん。また随分といい加減だな。」
「いや、でも、どの程度の情報をリークすればいいのか、その判断基準はコルナだけが持っていだろう?なら、お前に任せるのが丁度いいと思うんだが?」
「わかった。それでは、リークする情報は、私がある程度選別するが、最終決定に関しては主に伺う。それで良いか?」
俺は頷いて「そうだな。そうしよう。」と答える。
俺はトンナの膝上に座り、コルナがその正面に座る。
コルナとこうやって対面して座ってると、取調べを受けてるみたいだな。
「では現状を吐いてもらおうか?」
あれ?取調べ?
「えっと、兵士数は千三十四人で、ヘルザースとローデル。それからズヌークの取込みは完了。だな。」
「ふむ。妥当なところだな。」
「何言ってるんよ!魔道兵士がブワ~っと沢山いたじゃんよ!」
アヌヤが横から入って来る。
「そうなの。あれは凄かったの。地平線が見えなかったの。」
ヒャクヤが遠い目をして呟く。
「主よ、魔道兵士とはなんだ?洗いざらいキッチリ、しっかりと吐いてくれねば、選別のしようがあるまい?」
「ああ、すいません。魔道兵士ってのは、魔法で生成した兵士で、全部で…」
『六十四万八千二百五十二人だな。』
「全部で六十四万八千二百五十二人です。」
その場に居る全員が固まった。
俺も、数を言ってから、ちょっと固まった。
つまり、多次元世界で存在していた六十四万八千二百五十二人の俺が、今もこの周囲で量子情報体として存在してる訳だ。
霊子体にしても六十四万八千二百五十二人分の霊子体が、俺の体の中に凝縮されてるんだ。
…へ~。なんか…凄い。
「主よ、冗談のような数だが、間違いないのか?」
コルナの確認に、俺はコクリと頷く。
「一国を軽く平らげる兵数だな。」
「それと、」と俺は言葉を続ける。最新の兵装と、今後の兵器開発予定についても話しておく。エネルギー、資源、それらの調達も行う予定だ。
それらの話を聞いたコルナは、一言「主が敵にならなくて良かったよ。」と、呟いた。
「あっそれから、これからはちょくちょく、カルザンの所に遊びに行こうと思ってるんだ。」
「はっ?」
コルナの眉が思いっきり顰められてる。
「この間も遊びに行ったんだけど、アンダルとしか友達になれなかったんだよな。あと、摂政が誰かもわからなかったし。」
あの時、彼らの脳にはマイクロマシンを侵入させていたが、あまりの出来事に、全員、極端に頭の中が真っ白の状態で、俺の問い掛けに対しても何も浮かんでこなかった。だから、摂政はわからず仕舞いだった。
「それで、慌てて連なる星々について調べろと言ってきたのか。納得したよ。」
「俺は戦いたいなんて思ってないよ。出来れば世界を変えたいとは思ってるけどね。」
コルナが立ち上がりながら笑う。
「フッ。そういうことは、此処だけの話にしておいた方が良いな。あまり公言しないことだ。それを帝国が聞けば、つけ込んで来るだけだ。」
「ああ、わかったよ。」
「それでは、主よ、元の場所に戻してもらえるか?」
俺は頷いて、コルナを元の場所、執務室へと移動させる。
その後は、全員から詰問攻めにあった。帝国に単身乗り込んだのが拙かったらしい。この件に関してはオルラもカンカンに怒ってた。
正座させられたよ。
正座が切っ掛けで、現代日本の記憶が少しだけ蘇る。
新人の時にやらかしたミス以来だよ。
悲しい思い出だよ。
黙っときゃ良かった。
「トガリの身に何かあったら、あたし…帝国の奴らを皆殺しにするかもしれない。」
これはトンナね。
「まったく。チビジャリは自分の快楽に素直すぎるんよ!ちょっとはあたしらに相談しなきゃダメなんよ!」
これはアヌヤ。
「最低の一人勝手大将なの。そんなに死にたいなら、ウチが殺してやるの。」
これはヒャクヤ。
案外アヌヤの発言がまともだったことに驚いた。でっ正座の解除はいつですか?
まあ。漸く夜が明けた訳ですが、俺はずっと正座でした。
こんなこと、今までに経験したことないです。
正座しながらでも人間って眠れるんですね。
正座を崩さないように順番に見張られてました。はい。凄い執念でした。もう決して怒らせてはいけないと思い知りました。
特にオルラは「前にあれだけ言ったのに何でお前はそんな無茶をするんだい。」と泣きながら怒ってました。
ごめんなさい。
朝、オルラが起きて来て、俺を抱き締めながら「もうするんじゃないよ。」と言われた時は泣きそうになりました。
正座が辛くて泣きそうになったのかもしれません。でも、もうしません。ごめんなさいと言いました。
虐待ってこんな感じ?いいの?これって。
『四十五歳のオッサンが何言ってる。』
『言わなきゃ良いのにねぇ。』
『そうだよ。』
『精神修養にはもってこいだな!』
お前らって徹頭徹尾、他人事だよな。
痺れる足を擦りながら立とうとすると、トンナが俺を持ち上げ、抱き締める。頬を寄せて、その頬を擦りつける。
いや、窒息するから。愛されてるのはわかったから、窒息するって。




