ヤートのトガリ
目が覚めると、日は傾き出し、オレンジ色の空が紫の雲を彩っていた。
首を回して、トンナの膝上で座り直す。
「おはよう。」
トンナが俺を見下ろして、ニッコリと笑う。俺もトンナに「おはよう。」と返す。
野営に適した場所を探して、辺りを見回す。
周囲を森に囲まれた荒れ地に出る。
もうお馴染みになった野営用の砦を再構築し、馬車から馬を外して、馬の手入れを始める。俺達の馬は、トンナ、ヒャクヤ、アヌヤの三人が、率先して世話をしてくれる。
手ぶらになった俺はヘルザースとズヌークが使う馬車に向かった。
丁度、二人共に馬車から降ろされているところだった。
「ヘルザース、ズヌーク。」
俺は二人に声を掛ける。
「おお、光を齎す者、如何なされました。」
俺に応えながら、跪くために従者に指示を与えるが、俺が車椅子に座り直すように指示をする。二人が車椅子に座ったところで、俺は二人の車椅子を検分する。
「如何なさいました?このような物に興味がおありなのですか?」
ズヌークが俺に聞いてくるが、俺は「ちょっとな。」と答えて、じっくりと観察する。
ズヌークの車椅子はズヌーク自身の手で操作できるように後輪がハンドルリムになっている。
ヘルザースは両手も動かないので、小さな車輪が四つ付いて、後ろから従者に押してもらう形だ。
どちらも屋内なら良いが、舗装されていない屋外だと輿に乗る方が効率的だ。
バッテリーは作れないのか?
『作れんこともないが、あまり長い時間は稼働できないぞ?』
充電方法は?
『光と生体電気を利用すれば、何とかなるだろう。』
馬車の振動は利用できないかな?
『ふむ、馬車の振動か。充電方法としては使えるな。ただ、問題はバッテリーのセルに使う素材だ。』
リチウムとか?
『そうだ。その手の素材がないことには如何ともしがたい。』
電荷吸着マイクロマシンならどうだ?アギラの蓄電放電器官もあるんだし。
『成程な。それらを使えばコンパクトでエネルギー密度を高めたバッテリーが出来るな。素材の方も問題なかろう。』
アギラの蓄電放電器官を、構造組成をそのままに、シートへと変成する。
多孔質のカーボンシートを片面に貼り付け、バッテリー用のセルとした。セルをカットして帯状に整え、クルクルと巻いてコンパクトに成形。
酸素、水素、炭素を用いて、石油を構築、加熱分解してナフサを精製して、更にナフサを加熱分解してエチレンを精製、それから重合反応を起こさせ、ポリエチレンを作り出す。
ポリエチレンの分子間に、マイクロマシンを侵入させて、分子間結合を高め、強度と耐劣化能力を引き上げる。
掌サイズの筐体が出来上がり、その中にセルを仕込んで電極を取り付ける。
長方形の筐体、広い片面に放電用の電極を作製し、底面に充電用の電極を作成、バッテリーの完成だ。
車椅子本体のフレームにはカーボンを使って、ジャイロ機構を組込み、各車軸が独立稼働するようにして、悪路に対しては各車輪が足のように駆動する機構を盛り込んだ。
この車椅子、車椅子と言うよりもパーソナルモビリティだな。
中世から一気にSFの世界だ。
バッテリーが作成可能ってのが大きいな。
そう言えば、あのゴーレムの金剛ってどうやって動いてたんだろ?調べときゃ良かったな。
『まったくだ。』
『ホントだよ。』
珍しく、カナデラにも怒られた。
俺はトンナを呼んで、バッテリーに充電させる。
ズヌークは手が動くので、片手で操作させるが、ヘルザースは、両手が使えない。しかし腹筋と背筋は支障なく動かせるので、体幹の傾きで操作できるようにセンサーを取り付けた。
この車椅子を作った時点で、二人からは、かなり感謝され、周りに集まっていた用人達は異常に熱を帯びた目で、俺と車椅子を見ていた。
さて、次は馬車だ。
二人の馬車は普通の馬車だ。
両足の不自由な二人には、この進軍が、さぞかし辛い進軍になっているだろうと思い、車椅子を改良してやったのだが、こうなると、馬車も改良してやるのが本当の親切だろう。
まずは、車椅子から馬車の座席に乗り移らなくてもいいように、車椅子その物を、馬車内に固定セッティングできるよう改造し、更に足回りを改良してやる。
足回りは、とにかくサスペンションの充実だ。
街道とは言っても現代日本のように整地されていない。なるべく平らに均されただけの地面だ。
場合によっては街道以外も走る可能性が出てくる。そのことを踏まえれば、独立稼働する車軸にダンパーを備えたサスペンションは必要だ。
注意したのは車高だ。
サスペンションに力を入れ過ぎて、車高が高くなったら、傾斜のきつい悪路では、横転の危険性が高まる。
意匠的にはランドクルーザーのようになったが、乗り心地は快適なはずだ。
俺は、ヘルザースとズヌークの馬車を改良した後、他の馬車にも同様の改良を施していった。
馬車に積まれた個人装備についても改良の余地はあるが、進軍速度を優先させることを考えれば、今日はこんなところだろうと、俺は部屋に向かう。
兵士達が跪き、俺のために道を作る。
真直ぐに伸びるその道を、俺は、堂々と歩く。
恥ずかしいけど、そうしないとローデルに怒られるからな。
でも、パーソナルモービルよりもマスタースレイブユニットを利用したアシストシステムの義手と義足でも良かったんじゃね?
『奴らにそんな技術を使うのは勿体無い。それに、奴らに反省させるためでもあるんだろう?』
そうだった。簡単に戦争しようなんて奴を反省させるためだった。
爺やキャラにほだされてたな。
『それよりも、ガソリンも精製出来るんだから、化石燃料内燃機関を作ってみるか?』
環境に優しくないから却下。
太陽電池とか、そういうクリーンなエネルギーで何とかしたいね。恒常的なエネルギーシステムがあれば、上水道とか、生活インフラを整備できるだろう?
『そっちか。』
やっぱトイレが不潔ってのは衛生上も良くないしな。
『確かにな。』
生活インフラの中でも、トイレなどの廃棄物の問題は重要だ。
人が多く集まれば廃棄物が多くなり、その収集方法や処分方法が確立されないと、個人個人が勝手気ままに捨てるようになる。街中はゴミに溢れ、伝染病が蔓延する。
この砦でもそうだ。
たった一日だというのに、出立時にはかなり匂う。
排泄物が放棄される地面には濠を掘って、出立時に埋めているが、これが水洗のない都市部だと思うとゾッとする。
部屋に入ると、トンナ、アヌヤ、ヒャクヤの三人が人間モードだった。
オルラと合わせて超華やか。
スッゴイお高いお店に入ったみたいな感じ。
「全員でどうしたの?」
『人間の時の服装を決めたいんだってさ。』
カナデラか。
アヌヤとヒャクヤに常駐するようになってから、色々とやってるようだが、今日はファッションショーをやりたいってか?
『俺じゃないよ。アヌヤとヒャクヤが言い出したんだからね。』
「おかえり。」
おう!ゴージャスエロ美人が、清楚に俯き加減で挨拶してくると、グッとくるねえ。
「チビジャリ。お願いがあるんよ。」
小麦色の元気一杯可愛い系の女の子も良いねぇ。
「そうなの。お願いなの。」
不思議系神秘的美少女。何か中国語みたいだけどマジで神秘的だ。
「可愛い服を作って欲しい。」
三人が異口同音で言ってきたのは、そういうことだった。
確かに、今着ている服は戦闘のことを考慮しての服装だから、色気も素っ気もない。トンナに至っては、体形が極端に変わるので、服がダボダボだ。まあ、今後は人間モードで活躍することもあるだろうから作っても良いんだが、一々着替えるって面倒なことない?
『オルラ達のブーツにしたように、形状をマイクロマシンに覚えさせて、形状変更すればいいだろう?』
色とか素材とかはどうする?
『それもマイクロマシンで何とかなる。素材を変更する場合は一瞬裸になるが、その点について了承が得られれば問題ないはずだ。』
「主人も大変じゃのう。女子は着倒れると言うからのう。」
お前、どこでそんな言葉を知った?着倒れるって普通は言わないぞ?
「ロデムスはわかってないの!外見は重要なの!」
ヒャクヤがロデムスの上に跨って、首を絞めるように抱かかえる。
黒豹とアルビノの美少女ってどうよ?奇跡の組み合わせじゃね?
「トガリとオルラは服装を変えたから、ヤートだってバレてないの。ウチ達も人間の姿なら、街中で堂々とトガリと一緒に歩けるの。」
脳天をハンマーで殴られたのかと思ったよ。久しぶりに瞬間的に沸騰した。
俺はヒャクヤの襟首を掴み上げ、怒りを晒したまま、ヒャクヤを問い詰める。
「誰が言った?」
ヒャクヤが怯えた目で俺の目を見返す。
「誰かが、お前達を獣人として差別したのか?」
俺の周りで量子情報体が渦を巻いている。
ヒャクヤが泣きそうな顔で首を振る。
「お前は獣人だから、俺と一緒に歩くのが恥ずかしいのか?」
顔を真赤にして、泣きそうな顔で俺を見詰めているが、関係ない。トンナとアヌヤに視線を向ける。
俺に睨まれると、ビクリと肩を竦ませる。
「トンナ。お前はどうなんだ?獣人でいることが恥ずかしいのか?アヌヤはどうなんだ?獣人の姿では堂々と街中を歩けないのか?」
トンナは意を決したように俺に顔を向けて口を開く。
「だって…あたし達は村出の嫁だったんだよ?子供を作ることも望まれず、家畜かペットのように扱われるんだ。人間達はハッキリとは言わないけれど…あたし達だって馬鹿じゃない!言われなくたって人間の目を見てればわかるよ!」
トンナが叫ぶ。
人間である俺にも遠慮してたのか。人間の姿になりたいと思っていた理由はそんな下らない理由だったのか。
「そうか。わかった。」
俺の周りに渦巻いている量子情報体の輝きが増す。
「お前たちにとっても生きにくい世界だったのか。」
この場に居る人間を睥睨して、俺は外に出る。
各部屋を繋げる屋外廊下から屋上へと跳び上がり、中央ロータリーで食事中の兵士達を見下ろしながら、腹の底から叫ぶ。
「総員、中央の広場に集まれええええ!!」
俺の怒号を聞いた全員が、食事を中断し、即座に整列して跪く。恐ろしいまでの練度だ。
屋上へと、トンナ、アヌヤ、ヒャクヤ、オルラ、そしてロデムスを瞬間移動させる。
瞬間移動させる時に、トンナ達は元の獣人の姿へと強制的に戻す。
広場から屋上へと続く木造の階段を百本造りだす。
「聞け!連なる星々よ!今から星々の忠誠を我に示せ!」
「応!!!」
千人の人間が一斉に応える。
「立て!立って、我にその顔を示せ!!」
千人の人間が一斉に立ち上がり、俺にその意志をぶつける。
「聞け!今より貴様ら屑星に試練を与える!その試練を越えることの出来ぬ者は、直ちにこの砦を立ち去り、自ら野営し、王都を目指せ!我が元を去ることを理由に迫害せぬことを我が腕に誓う!!」
千人の男達が固唾を呑んで俺の言葉を待つ。
百本の階段が突然に燃え上がる。
「心して聞け!我が名はトガリ!ヤート族に生を受け!ヤート族として生きる者!我が名はヤートのトガリだああああ!!」
俺は天に向かって吠える。
悲しみも怒りも天に突き刺されと吠える。
「千人の武士よ!その誇りをもってして、我に仕える心が折れぬなら!差別されるヤートの俺に仕えようとする者は!この階段を上がって来い!燃え盛る階段を上がって来ない者は、この砦を去れ!俺は去る者は追わぬ!!」
俺は振り返り、トンナ達の目を見る。屋上に居る者全員が、驚きの表情を隠さない。オルラだけが肩を竦めて「やれやれ」と呟いた。
俺の背後、広場の方から音がする。
立ち去る者の方が多いだろう。
ドラネ村や各宿場町で受けた差別待遇を考えれば、全員がこの砦を立ち去ってもおかしくはない。
階段を上る音が聞こえる。
俺の前に一人、二人と跪く。
トンナ達、獣人三人娘が驚きながら周囲を見回す。
瞬く間に跪く人間が増える。
跪く人間を避けるように三人の人影が俺に近づいて来る。その内の二人は車椅子だ。
「光を齎す者よ。この程度のことを試練と称するのは、少々、我らの忠誠を軽く見られているのではありますまいか?」
俺の前でヘルザースが問い掛ける。
「ふん、ぬかすな。最後に上がって来たのは貴様ら二等星だろうが?」
俺の声が不覚にも震える。
三人が三様に笑う。
「何を仰いますか。我らが最初に上りだしましたら、この者らの忠誠を図ることが叶いませぬ。」
ローデルが俺を窘める。
確かに、この三人が上りだしたら、上司に逆らえない部下は、上るしかなくなる。特にヘルザースはワンマン経営だったからな。
俺は跪く全員を見回し、その心に応える。
「皆の忠誠!確かに受け取った!連なる星々よ!不条理な天の理、必ずや俺が覆し、神に虐げられし、この世界を楽土へと創り変えてみせる!!!」
『神への反逆か。正しくルシファーだな。』
良いんだよ。世界が良くなれば。それで。
『そうだねぇ。差別に貧困、疫病に飢饉、災害に戦争、殺人も当たり前、そんな世界じゃねぇ。』
『それにしても、世界とは大きく出たねぇ。まるっきり悪の秘密結社かカルト宗教団体だよね。』
『良いんだよ!強い奴が正しい世界を創れば、それで良いんだ!』
タナハラの発言はともかく、カルト宗教団体とか悪の秘密結社とかにならないように気を付けよう。何か非常に拙いことをしてしまったような気がする。
俺は階段の炎を消し、新たな階段を再構築する。
二等星の三人と魔狩りのメンバーを残し、全員を広場へと下す。
俺は、兵士達に渡すべく、新たな印を再構築する。瞳部分にエメラルドをはめたペンダントだ。
ヘルザース、ローデル、ズヌークの用人達に、兵士達へ、そのペンダントを配るように命じる。
広場では、さながら叙勲式のように、厳かに連なる星々の印が兵士達に与えられている。
俺は、それを一瞥した後、ヘルザース達に向き直る。
「突然にすまなかった。」
「何を仰います。光を齎す者の仰せ、否やはございませぬ。」
俺の言葉を微笑みながら受けるヘルザースは満足そうに頷いている。
「左様でございます。我ら、光を齎す者が、雄々しく立ち振る舞うこと、誇らしく拝見いたしました。」
ズヌークが息子を見るような目で俺を見詰める。
「三人に残って貰ったのは他でもない。俺は三人に告白しなければならないことがある。」
俺は瞬間移動で、この場にコルナを呼び寄せる。
「な!」
突然のことに吃驚仰天状態のコルナ、そりゃそうだよな。
「よう。コルナ、久しぶり。」
「なっ何が久しぶりだ!何をした?!」
そりゃ怒るよな。
「コルナ!」
ローデルの秘書だからな。ローデルも吃驚だわ。
表の主人の声に我を取り戻したコルナが「ローデル閣下。」と慌てて跪く。
俺はヘルザース達三人にコルナの現状を話す。
コルナが帝国から派遣された密偵であり、現在は俺の手足となって、帝国に偽の情報を送っている二重スパイであること、コルナは一族と娘を人質にされていること、そしてヘルザースとローデルに対して、俺を信奉するように洗脳の魔法を掛けていること。
俺はコルナに命じて、二人の洗脳の解呪をさせる。
コルナが蒼い顔をして「失礼いたします。」と呟いてから、二人の呪符を用いて解呪する。
再び、コルナは跪き、ヘルザースとローデルが互いの顔を見合わせる。
「さて、何か心持が変わった訳でもなし、光を齎す者への感情にも然したる変化は感じませぬが、本当に洗脳されていたのですかな?」
ヘルザースとローデルが率直な感想を述べる。それに対して、コルナが「恐れながら」と、言葉を発する。
ヘルザースとローデルがコルナに目を向ける。
「うむ。申せ。」
ヘルザースが、ローデルの意を汲取り、コルナの発言を促す。
「洗脳とは申しましても、対象者の考えを捻じ曲げるものではございませぬ。あくまでも対象者が考える、その思考の中から、こちらが都合の良い物を取捨選択するように誘導するだけのものでございます。」
コルナの言葉に、ローデルが顎に手を当てて「ふむ。」と頷く。
「ならば、我らが光を齎す者に好意を寄せ、信奉するのも、その因子は既に我らの心に在り、その考えを選択するように誘導しただけだと申すのだな?」
「仰せの通りでございます。」
ローデルが何度か頷き「ズヌーク卿」とズヌークに話し掛ける。
「如何ですかな?このコルナの魔法、連なる星々入団の誓いに使えませぬか?」
おい。
「おお、それは良い。」
おい。ズヌーク、ちょっと待て。
「左様だな。コルナ、私にもう一度、先程の魔法を掛けてくれぬか?」
ヘルザース?大丈夫か?
「はっ?」
ほら、コルナも驚いてるから。
「そうじゃな。光を齎す者への好意そのものは変わりようがないからの、光を齎す者への忠誠、うむ、連なる星々という組織を裏切らぬのではなく、光を齎す者を裏切らぬように魔法を掛けてくれぬか?」
何言ってんのこのオッサン?
「ヘルザース閣下…よろしいのですか?」
ほらほら、コルナも困ってるよ?
「うむ、構わぬ。貴様と同じような魔法を掛けられた時の保険じゃな。また、身内が人質に取られるなど、光を齎す者を止むを得ず裏切らねばならぬ状況に追い込まれた時、この魔法に掛かっておけば、何とかなろう。」
おお、スゲエ忠誠心。ホントに狂信者じゃねぇ?
「そうですな。洗脳という魔法があるのであれば、その対抗策として先に洗脳されておくというのは有効でしょうな。」
ズヌーク、お前ホントに人が良すぎじゃね?
コルナが自分の血を垂らしながら、専用の筆を使って、床に魔法陣を描き、同じように専用のペンで呪符を書く。そして、三人が洗脳魔法を受ける。
おお、何か儀式っぽいぞ。
ヘルザースが、用人に対して、印を使って屋上に呼び寄せる。
それぞれの用人に洗脳魔法の危険性と、俺に対する忠誠心を表す通過儀礼として、コルナの洗脳魔法を受けることを説明する。
この魔法を受けないのであれば、連なる星々の印を返すようにと付け加えているが、その説明は不要のようだった。
一旦、先に掛けられていた洗脳魔法を解除する。
全員が魔法陣に並び、一人ずつ、コルナの洗脳魔法を、再度、受けていた。
この洗脳魔法、当然イズモリが手を加えている。
従来の洗脳魔法の場合、書き換えや上書きを拒否するため、洗脳、正しくはシナプス受容体に送られる伝達物質の阻害だが、その阻害を実行するマイクロマシンと脳組織を破壊することを目的とした核となるマイクロマシンで構成されていた。
伝達物質阻害用のマイクロマシンに別のマイクロマシンが接触した場合、核のマイクロマシンが脳組織を破壊するために起動し、周辺の脳組織を破壊し尽くすという物だ。
イズモリは、危険な脳組織破壊マイクロマシンを使用せず、攻性マイクロマシンとプログラムの暗号化で対処している。
洗脳実行のマイクロマシンには、暗号化されたマイクロマシンを使用して、上書きを阻止させ、攻性マイクロマシンは、侵入して来た別のマイクロマシンに対して、実行プログラムを上書き、無効化するという物だ。
用人達の洗脳と言うか、儀式が終了した時点で、コルナの顔色が悪くなっていることに気が付く。
「コルナ、もう止めとけ。貧血だろ?」
俺の命令で、咒言を書いていたコルナの手が止まる。
「其方は己の血を触媒としておったのか。それは、すまぬ。気が付かなんだ。」
ヘルザースがコルナに素直に謝る。
俺はコルナを少し休ませてから、ローデルの城に戻してやると言うが、ローデルが儀式を優先しなければ、と言い出す。無茶言うなよオッサン。
お前、部下には、血も涙もないな。いつか殺されるぞ?
とにかく、残るのは兵士達だ。幹部クラスの洗脳、じゃなかった。儀式は終わっているのだから、兵士達の儀式は領地に帰ってからでも遅くないと言い含める。
ヘルザース達が、屋上から下りた後、俺達はコルナを加えた全員で自分達の部屋に戻る。
コルナをベッドに寝かせて、トンナ、アヌヤ、ヒャクヤを正座させる。
俺は椅子に座って、三人を見下ろす。隣にロデムスが香箱を作り、俺の後ろにはオルラが立つ。
俺が溜息を一つ吐いた時だった。
「トガリが、堂々と自分はヤートだってことをバラしたんだ。その上で、世界を変えるって約束までしたんだ。その意味をお前達だってわかるだろう?」
オルラが先に喋り出す。
いや、オルラ、ここは俺でしょ?俺のターンでしょ?
三人がオルラの言葉に頷く。
「ヤートだってバラしても、あれだけの人間がトガリに従うと約束した。この意味もわかるね?」
オルラ、俺のターンはまだですか?今ですか?
「そのとおりじゃ。人は人として、獣人は獣人として、在るがままに在る世界というのが正しい世界じゃ。獣人であることを恥じることもなければ、その姿を恥じることもないのじゃ。主人は、そのような世界を作り出してくれるじゃろう。その為には、まず、其方らが、その考えを改めねばのう。」
おい。ロデムス。お前のターンじゃないだろ?
「うん。わかった。トガリ、ごめんね。」
「わかったんよ。」
「わかったの。」
…。
終わったよ?
締めちゃったよ?
これ以上、俺に何言えって言うの?
「じゃあ。ご飯にしようか?」
これ位しか言うことないじゃん。
俺のターンはご飯のターンか?
何だそれ?
本日の投稿はここまでとさせていただきます。お読み頂き、誠にありがとうございました。




