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トガリ  作者: 吉四六
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使役魔獣はバビルの塔を守っていなかった

 離れていたヘルザース達が、口々に俺を褒め称える言葉を発しながら、俺達を取り囲む。

「人間よ。如何かな?話すことが出来れば殺さぬのか?」

 ヘルザース達が一斉にどよめく。そりゃそうだ。俺も吃驚だよ。

 オルラ達の方を振り返ると、オルラ達も驚きで、口をポカンと開けている。

「いや。お前の回答次第だな。」

 いち早く立ち直った俺が、魔獣に答える。

「左様か。どのような回答が所望か?人間の希望する回答を与えよう。」

 何だか爺やキャラがまた増えそうで、嫌な予感しかしないが、取敢えず聞いてみよう。

「お前達魔獣を俺達人間が使役することは可能か?」

「ふむ。いきなり核心を突いてくる質問よのう。答えは可能じゃ。」

「使役する方法は?」

「我が真名であるパスワードを知り、アクセスワードからパスワードを入力することじゃ。」

「アクセスワードとパスワードを知る方法は?」

「獣人には教えられん。人間に教えることが出来るのも、たった一人じゃ。我はそのようにプログラムされておる。」

「そうか。じゃあ、お前の目の前に居る人間で、お前がアクセスワードとパスワードを教えたい人間が居るか?」

「うむ。居る。」

「誰だ?」

「そこな女子(おなご)じゃ。」

 オルラかよ。こいつスケベだな。

 俺はオルラの方に視線を転じた。オルラはその視線を受け止め、肩を竦めて「やれやれ」と呟いた。

「じゃあ。皆、魔獣の声が聞こえないところまで離れてくれ。」

 俺は立ち上がって、全員にそう声を掛ける。トンナが俺を抱き上げ、魔獣から距離を取る。

 俺達が、程よい距離を取ったところで、魔獣がオルラに話し掛けている。マイクロマシンで、俺にはその内容は筒抜けだ。なので、オルラが魔獣と契約する前に瞬間移動して魔獣の傍に出現する。

「牙ありて爪あり、漆黒の獣キバナリのゴルタス、ヤートのトガリが現名を与える。身の内に刻むその名はロデムス。」

 言ってやった。

 魔獣がポカンと口を開ける。

 オルラが悪戯っ子を眺めるように「仕方ない子だね。」と呟く。

 スケベ爺にオルラは勿体無い。名前は、黒豹だから、子供の頃に見てた漫画にちなんで付けてやった。

 意外だったのは、霊子量と霊子回路の能力が獣人よりも上回っていたことだ。

 お陰で、俺が霊子回路を弄ったり、他の副幹人格を常駐させる必要もなかった。

 痛がるところを見てやろうと思っていたのだが、それが出来なかったのは残念だ。

「不本意だが、貴様が我の主人となった。この事実はいかようにもすることは出来ぬ。我が主人トガリよ。思うままに我を使役するがよい。」

 ツブリの拘束から解かれたロデムスが俺に恭しく頭を垂れる。

 黒豹ということでアヌヤと被るが、それも良し。こっちは本物の猫だしな。

『猫か?黒豹って、自分で言ってるじゃないか。』

 猫だろう?

『体長一メートルの?』

 メークインはそれぐらいだろ?

『足がやたら太いが?』

 猫だろう?

『牙も生えてくるんじゃないか?』

 猫で良いんだよ。

『まあ好きにするさ。』

 そうするよ。


 御前会議場で、意識を保っているのは三人だけだ。

 俺とアンダル。そして皇帝だ。

「さて、かなり手こずったが、まあ良しとしよう。」

 俺は皇帝にニッコリと微笑み、首を傾げながら近付いていく。

 肘掛けを掴む手の上に、俺の手を乗せる。

 恐怖に慄いているが、俺から目を逸らすことが出来ない。

「カルザン。この国の摂政は誰だ?お前が政を取り仕切っている訳じゃあるまい?ん?」

 唇が震えて声が出ないようだ。

「仕方がない。答えられないなら、また後日お邪魔することにしよう。」

 俺は皇帝から離れて、床に座り込んでいるアンダルの前にしゃがむ。

 短い悲鳴のような声を上げて、俺から離れようと必死にもがくが、逃がす訳がない。だって用事があるんだから。

「アンダル。」

 俺に名前を呼ばれて動きを止める。

「安心しろ。今日は遊びに来てやっただけだ。別に皇帝をどうにかしようって訳じゃない。」

 気軽な声で話し掛けてやる。

 壁際で、へたり込んでいるアンダルの隣に座り、その肩に右腕を回す。

 汗まみれのアンダルの頭を右手で掴み、俺の頭にくっつける。

「一緒に遊んだんだ。俺達はもう友達だよな?ん?」

 俺の言葉に必死で首を上下させるアンダル。

「お前がハルディレン王国にちょっかいを出してるのは知ってる。そこで、相談があるんだ。友達なんだから聞いてくれるよな?」

 もう、アンダル君は首振り人形だ。

「俺は、連なる星々って組織を作ったんだけどな、ハルディレン王国のヘルザースに反乱させようとしてたよな?」

 質問する度に指先の爪でアンダルの髪の毛を切る。

「ハルディレン王国を、俺は、欲しいなって思ってる訳よ?此処まで言えばわかるよな?」

 アンダルが縦に大きく首を振る。

「よかった。俺の邪魔にならないように気を付けてくれれば良い。そうすれば、その内、帝国にも良い目を見させてやるからな?いいか?」

 アンダルが必死に首を振る。

 俺は立ち上がって、皇帝に再び近づく。

「よう、カルザン。お前にも頼みがあるんだ。」

 カルザンが顎を引いて、唇を真一文字に結ぶ。俺は先程と同じようにカルザンの手に俺の手を重ね、顔をキスする寸前にまで近づける。

「俺と友達になってくれよ?いいだろ?」

 カルザンが俺の瞳を覗き込む。流石は皇帝。幼い割に肝が据わってる。

 静かな時が流れ、俺はニッコリと笑う。

「摂政のお許しが無ければ、何も決められないのが皇帝か?」

 俺の言葉にカルザンが頬を赤らめる。

「帝国民のことを考えてみろ?皇帝として、俺に答えるべき言葉は一つだろう?」

 カルザンの震える唇が僅かに開かれ、やはり震える声でカルザンが答える。

「こ、断る…」

 俺は身を引いて、驚いた素振を見せる。

「はは。そうかい。皇帝陛下は俺とはお友達になってくれないのか?そいつは良い。今度はカルザンと遊ばなくっちゃいけないな。」

 再び、俺はカルザンの面前に顔を近づける。

「カルザン、また遊びに来るぞ。」

 俺はそう言って、現れた時と同じように黒い瘴気に見せ掛けた炭素を纏って、その場から消え失せた。

 カルザン帝国に連なる星々のことをアピールするには十分だろう。これで、帝国の目は、俺の方に向けられる。キナ臭い戦争もコルナの件も落ち着くだろう。


 キバナリを討伐したことで、士気が上がり、意気揚々と進軍が再開された。

 ロデムスと名付けた黒豹は堂々とオルラの足元に寝転がり、馬車の中央を占領している。

「ロデムス。」

「何か?」

 俺はトンナの膝上で魔獣についての疑問を聞いてみる。

「お前らって、一体何なの?」

「質問の意図がよくわからぬ。主語を抜かさず正確に質問せよ。」

 やっぱ爺やキャラだ。

「魔獣の起源を教えて欲しいのさ。」

「成程な。それでは人間である主人に聞くが、人間の起源について、主人は答えることが出来るか?」

「質問に質問で返すなよ。答えられないけどさ。」

「つまりはそういうことだ。魔獣だからと言って、魔獣のことならば、何でも答えることが出来る訳ではない。ただ…」

「ただ?」

 俺はトンナの膝上で体を起こす。

「遥か昔、我らは、魔獣とは呼ばれておらなんだ。」

「では何と?」

「超兵器Bナンバーズと呼ばれておった。」

 その言葉を聞いて、俺は再び横になる。

「そうか。超兵器か…やっぱりな。」

「予想しておったか?」

「ああ。ロデムスで三種類の魔獣と遣り合ったからな。遺伝子を取り込んだ時に何となくそうじゃないかとは思ってた。」

 ロデムスが首を高く持ち上げる。

「ほう。Bナンバーズと遣り合ったことがあったか?」

「ああ。ハガガリとアギラとな。」

「ふむ。Bナンバーズでも劣化型のトリプルナンバーじゃな。」

 俺は、再び起き上がり、トンナの肩に、後ろ向きに乗って、ロデムスを見下ろす。

「魔獣にランクみたいのがあるのか?」

 ロデムスが頷き、「ある。」と答える。

「トリプルナンバーは、最も後期に生み出された劣化型じゃ。コストパフォーマンスが考慮されたのじゃろう。我のように話すことも人間の言葉を理解することも出来ぬ。ダブルナンバーは人間の言葉を理解するが、話すことが出来ぬ。スペシャルナンバーは我のように人語を自由に操り、多彩な能力を備えておる。」

 俺はトンナの肩の上で、逆さにぶら下がって、「成程…」と呟いた。ロデムスはシングルナンバーについては説明を省いたが、恐らくトンナを始めとする獣人がシングルナンバーなのだ。

 超兵器という括りで見れば、魔獣と獣人は大差がない。BナンバーズのBとは、恐らく、バイオロジカルのB、つまり、生体兵器のことだろう。

 遺伝子を弄られ、戦闘に特化し、幽子と霊子を食らう生物。体内にマイクロマシン製造器官を持つのも同じだ。

 武器を持たせることで汎用性を重視するか、戦略局地戦特化型の専用兵器とするか。その違いだけだ。

 キバナリのロデムスは、戦略局地戦特化型だからスペシャルナンバーか。

 チラリとトンナを見る。

 俺の視線を感じて、トンナが俺の視線と合わせる。俺の目を見詰めながら首を傾げる。

「よっ。」

 俺は掛け声とともに体を起こし、トンナの肩で座り直す。

「ロデムス。」

「何か?」

「生きてて良かったな。」

「うむ。その点については感謝しておる。」

 俺は空を見上げる。

 雲は雲であり、空は空でしかない。風は、ただ風として空を渡り、太陽は太陽として大地を照らすだけだ。

 在るがままに在るように在る。

 トンナは、トンナであって、トンナとしてそこに居る。

 アヌヤもヒャクヤもコルナだってそうだ。

 そして俺もオルラも。

「ロデムス。」

「何か?」

「お前って、大きさ戻るの?」

「戻ることも出来るし、戻らぬことも出来る。」

「どうやって戻るんだ?」

「欠損した物質を補充すれば戻る。」

「そうか。無理に戻る必要はないのか?」

「主人が望むなら物質を補充して戻るが、人間を五十人ほど食わねばならん。」

 俺はロデムスに視線を向ける。

「やっぱり人間を食うの?」

「うむ。我らは、活動するのに生体エネルギーを消費する。その生体エネルギーを最も多く保有している生物は人間じゃ。だから我らは好んで人間を食う。」

 生体エネルギーとは幽子と霊子のことだろう。

「空気中にも生体エネルギーは充満してるだろう?それを食えばいいじゃないか?」

 ロデムスが首を傾げる。

「主人が、何をもって、生体エネルギーと言っているのかはわからぬが、空気中には生体エネルギーはない。」

 今度は俺が首を傾げる。

『恐らく呼吸と食事の違いだな。』

 どういうことだ?

『呼吸も食事も必要だが、俺達人間だって空気を吸っているが、酸素を体内に取り込んでいる自覚はないだろう?』

 ああ。

『魔獣は酸素と幽子を取込んでいるが、その自覚がない。知識もないだろうからな。』

 そうか。呼吸として幽子を取込んでいるから自覚がない、しかし食事は自覚があるから霊子を摂取することを目的としていると自覚できる?

『食事の場合は同時に物質を取込むからな。戦闘においても、その目的を持たせることは有効だろう。』

 成程な。でもそれなら人間を食わなくても良いんじゃないか?

『肉食動物に草食になれと?』

 そういうことか。

『必要な摂取量を確保するには、人間の霊子量が最適なんだ。だから生体エネルギーの保有量が最も多い人間を食うんだよ。』

 俺はロデムスの前に跳び下りる。

 ロデムスが首を捻って、「どうした?」と聞いてくる。

 俺はロデムスの口に右手を突っ込み、俺の霊子を送り込んでみる。

 手を口に差し入れられた当初は驚いていたが、直ぐに俺の右手を甘噛みして、舌で舐め始める。ロデムスが満足したように俺の右手から、その口を離す。

「驚いた。主人の生体エネルギーは、恐ろしく圧縮されておるな。」

「かなりな量だろ?」

 俺の言葉にロデムスが頷く。

 ロデムスに食わせて不足した霊子を補充するため、マイクロマシンで、俺の体内へと、周囲の幽子を取こむ。

 あとは普通に食事させればいい。

「ロデムス。馬車から降りて、歩いてみてくれ。」

 俺の言葉にロデムスが素直に従い、馬車に並走する。

 量子情報体をロデムスの体内に潜り込ませて、ロデムスの体内組成へと変質変化させる。

 馬車に並走しながら、ロデムスの体が膨れ上がり、二本の牙が元通りに生える。遭遇した時と同じ、全長五メートルの魔獣へと変貌する。周囲の兵士から「おお。」とどよめきが起こる。

「ほう。驚かせてくれる。主人は、このような力も有しておるのか。」

「問題は、小さくすることが出来るかどうかだな。」

 ロデムスの体内に常駐するマイクロマシンに命令を走らせ、元の量子情報体へと戻し、体内から排出させる。

 ロデムスは全長一メートルほどの大きさに戻り、再び馬車に跳び乗った。牙はそのままだ。

 俺はロデムスの頭を撫でる

「これで、いざという時は全員を乗せることが出来るな。」

 ロデムスが、チラリとトンナの方を見る。

「トンナ殿が、そのままの姿ではなく、本来の人間の姿になってくれればな。それなら乗せることも出来るであろうよ。」

 俺はロデムスの言葉に驚く。ロデムスの言葉に驚いたのは俺だけではなかった。馬車に乗っていた者全員がロデムスの方を見て驚いている。

「何?人間の姿が本来の姿だと?」

「何を驚いておる?人社会に溶け込むには、人と同じ姿でなければなるまい?獣人としての姿は戦闘用の姿に決まっておろう?」

 俺はトンナを見上げる。トンナが微妙に嬉しそうな顔をしている。

 そうだ。そういえば、あのドラゴノイドはドラゴンモードと叫んでいた。そうだ。人狼も普段は人間の姿で、満月になると狼男に変身するのだ。

『確かにな。獣人の基礎遺伝子は人間のものだ。そう考えれば、人間の姿が本来の姿なんだろう。戦闘時の隠密性を考えれば、その方がシックリくる。』

 じゃあ、何故人間の姿じゃない?トンナもアヌヤもヒャクヤだってそうだ、何故、初めから獣人の姿だったんだ?

『理由はわからんが、何かしら不都合があったんだろう。例えばその容姿が優れ過ぎているとかな。』

 そうか。確かに、トンナは凄い美人になった。人間としての容姿が優れていれば、純粋な人間との交配が進み、獣人としての遺伝子が保存できなくなるか。

『種族保存の本能のせいかもしれんな。』

 自ら封印して、長い年月の結果、人間の姿になるための霊子回路との繋がりが弱くなっていた?

『恐らくな。』

「トガリ。人間の姿になろうか?」

 トンナが嬉々として、俺に聞いてくるが、俺は首を振って否定する。

「俺達以外の人前で、変身するのは禁止で。」

 今後のことを考えれば、その方が、都合がいいだろうと思う。トンナが明らかにシュンとしたので、トンナの頭を包むように抱いて「トンナはこのままの方が可愛いよ。」と囁いてやる。それを聞いたアヌヤが「ええええ~。」と抗議の声を上げる。

「何言ってるんよ。チビジャリの目は腐ってんじゃんよ。」

「そうなの。トンナ姉さんは人間の時の方が美人なの。」

 ヒャクヤが追随するが、俺は首を振る。

「俺は今のトンナの方が良いの。」

「えええ~ぐぎゅっ!」

 二人して抗議の声を上げるが、ヒャクヤに落とされたトンナの拳骨で、呻き声に変わる。

 アヌヤは、トンナから離れているので、助かった。

「トガリが良いって言ってんだから、これで良いんだよ!」

 二人に優しくなったと思ったけど、やっぱり厳しい。

「ところでロデムス。」

 俺の声に面倒臭そうに首を上げるなよ。コルナといい、こいつといい、どうして、こうなんだ?

「お前って分裂再生したよな?」

「ふむ。その物言いは正確ではないな。分裂させられた部位を再生させた。が正しい。」

 むう。イズモリの丁寧な奴って感じだ。

「どれだけ分裂しても再生する?」

 答えることなくソッポを向きやがった。

「こら。答えろ。」

 黒豹のくせにあからさまに嫌そうな顔してやがる。

『やっぱり黒豹なんじゃないか。』

 そこは、もう、いいんだよ。

「主人が、何を考えているか、わかるだけに答えたくないのう。」

 それが答えか。じゃあ、あとで実験させて貰おう。

「分裂再生の仕組みを知りたい。記憶の共有、意識の共有、感覚の共有はどうなる?」

 ショボンとするなよ。俺が悪者みてえじゃねえか。

『悪者だろ?』

 お前が言うな。

「分裂前の記憶は共有するが、分裂以降は共有しない。意識と感覚も同じじゃ。」

「最大どれぐらいまで分裂出来て、分裂体の最小はどれぐらいの大きさだ?」

 ロデムスが大きな溜息を吐く。魔獣が溜息吐くなよ。

「分裂体の最小は約二十センチ。最大分裂数はその最小単位の質量換算じゃ。」

 成程。最小の分裂体が二十で、仮に、ロデムスの最大質量が百なら五体出来るということか。

「ロデムス。」

「断りたいのう。出来ればお願いするので、何とかならんかのう?」

「後で尻尾の先っちょ二十センチばかり頂戴。」

 俺はにこやかに頼むが、ロデムスはガックリと項垂れ「やっぱりのう。」と呟いた。

「何だい?また食べるのかい?」

 俺とロデムスの会話を聞いていたオルラがウンザリしたような顔で聞いてくる。

「勿論だよ。ロデムスの能力は使い勝手が良さそうだからね。痛い思いをするのはヒャクヤ、ギンテンかな?」

「にゃにゃ!ちょっと待つの!何で、あたしばっかり?」

 ヒャクヤの言葉に俺は今更という顔で答える。

「そもそも、何で俺達はヘルザース達と行軍してる?」

「それはズヌークの所に向かってるからなの。」

「そう。ヘルザースとズヌークを仲直りさせるためな。じゃあ、何で仲直りさせなきゃならないの?」

 ヒャクヤが口を窄めて、目線だけを上に向ける。

「ヘルザースが反乱を企てたから?」

「そうそう。その反乱を止めたのは何故?」

 ヒャクヤの顔が段々歪んでくる。

「テルナ族を戦乱から守るためだよ。」

 オルラがヒャクヤに助け舟を出す。

「そうなの?」

「何だ、チビジャリってそんなこと考えてたんよ?」

 やっぱりアヌヤもわかってなかったのか。

「何でテルナ族を戦から守ろうとするんよ?」

 アヌヤのこの言葉に溜息を吐いたのはトンナだ。

「お前達と関りを持ったからじゃないか。」

「にょにょん?!」

「うにゃ?!」

 トンナが空を見ながら、まるで独白のように、二人に話し出す。

「お前達はアギラ討伐の時にあたし達を手伝ったろう?その時からお前達は、あたし達、魔狩りの一員になったのさ。だからトガリはお前達に悲しい思いをさせたくないから頑張ってるんじゃないか。」

 アヌヤとヒャクヤがトンナの言葉にポカンと口を開ける。そんな二人に俺はニッコリと笑ってやる。

「うっそだああ~~。チビジャリは、自分が楽しんでるだけなんよ。」

「変態チビジャリ根性曲がりは、きっとウチの体が目的なの。だから、ウチの村出の嫁をオジャンにしたの。」

 こいつらぶっ殺してやろうか?

 二人の言葉にトンナは俯いて、オルラは肩を竦めて溜息を吐く。ロデムスだけが我関せずで、香箱を作って目を閉じていた。

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