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トガリ  作者: 吉四六
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パーティーメンバー

 宿屋に帰りつくと、宿屋の主人が、レストランでギュスターが待ちかねていると言ってきた。

 俺達は主人に案内されて、ギュスターのいるテーブル席に着いた。いや俺はデフォのトンナの膝上だが。

「どうでした?」

 ギュスターが不安気に問う。

 誰も答えない。

 どうでしたと聞かれて答えられるのは俺だけだ。俺が答えなければ、誰も答えられない。

「無理でしょうか?」

 ギュスターは、諦めたような、怒りを含んだような表情だ。

 俺はテーブルに視線を落としたまま静かな声で答える。

「奴は電気を自在に操る。」

 その言葉にギュスターは困惑の表情を見せる。

「雷と同じものだ。」

「えっ!」

 困惑から驚きに、目まぐるしく変わる。

「奴はその電気を常に纏っている。毛皮からその電気を流すんだ。その電気が魔法を弾き、剣や槍で奴に触れると、痺れて、動けなくなるか、悪くて死ぬか。つまり、奴に触れる手段がないということだ。」

 しかも奴は離れた敵には稲妻を走らせる。巨大な体躯は、それだけで脅威となるにもかかわらず、放電能力のお陰で、遠距離にも近接にも対応するオールラウンダーだ。

「そんな…。」

 ギュスターの表情が遂に絶望へと変わる。

「わかりました。軍の到着を待ちます。何日掛かるかわかりませんが、それに…」

 そうだ、軍が到着しても討伐できるとは限らない。むしろ出来ないだろう。

 俯いたままギュスターが立ち上がる。

「幾らなら出せる?」

 俺は、およそ子供らしくない態度で下から睨み上げるようにしてギュスターに問う。

 ギュスターはテーブルに手をついて、前のめりになる。

「二百万なら何とかできます!」

 俺は目を伏せ一拍おく。

「必要経費は別で三百万だ。それ以下じゃ割に合わない。」

 ギュスターの瞳に強い光が宿る。俺も意思を込めて、その光を弾き返す。

「わかりました。三百万、必ず揃えます。」

 俺は唇を歪めて、トンナを仰ぎ見る。

「トンナ姉さん、契約成立だ。」

 トンナも口を歪めて「オーケー。」と言いながらギュスターに右手を差し出す。

「この子が、やると言ったんだ。何とかして見せるよ。」

 トンナの右手を両手で握り締めながら、深々とお辞儀するギュスターは大きな声で「ありがとうございます!」と礼を言った。


 レストランでギュスターに食事を振舞われた後、部屋に戻ってからオルラが口を開く。

「どうやって、あんな魔獣を討伐するんだい?」

 俺はトンナの膝上で寝転がりながら頭を抱える。

「う~ん。それを今から考える。」

「えっ?」

 トンナは驚き、オルラは溜息を吐く。

「やっぱりね。三百万なんて吹っ掛けるからおかしいと思ったよ。」

「えっ?ええ?」

 トンナは驚きっ放しだ。

「いや、あのまま引いたんじゃ、前金もらってるだけに恨みを買うと思ったんだよ。だったら無理な金額を吹っ掛けて向こうに引かせればいいかと思って…」

「ええ?じゃあ、受ける気はなかったってこと?ええ?」

 俺はトンナの言葉に頷いて、オルラの方を向く。

「どうしよう?」

 自分でもビックリするぐらい情けない声が出た。

「うそ?何で?」

 トンナはずっと驚いたままだった。


 俺は一晩、トンナの腹の上で、イズモリ達と相談した。相談する材料は揃っていた。

 そうして出た結論に沿って、俺は朝になって買い物に出かける。

 オルラとトンナには今日も目撃地点に向かってもらった。

 オルラ曰く、狩りに必要なのは相手の習性をよく知ることなのだそうだ。一日の行動パターン、どんな物を喰って、何処で寝るのか。縄張りはあるのか、どんな物に興味を示すのか。普通の鹿や猪などは習性を把握しているが、魔獣はそうもいかない。したがって、今日一日は魔獣を追えるだけ追ってみるとのことだった。

 昨日、魔獣を目撃した時点で、魔獣に喰われない距離をマイクロマシンで追跡させようかとも思ったのだが、あの時点では、この依頼を断るつもりだったので、追跡させていない。しくったぜ。と、思っても後の祭りだ。

 俺のマイクロマシンは、かなりの広域をカバーしているが、広域だけに粗が大きい。トンナとオルラの周囲には、濃い目に纏わり付くように設定してあるから、オルラが魔獣を見つければ、俺にも伝わってくるだろうし、何より、トンナとはイチイハラが繋がっている。イチイハラを介してトンナとは何時でも連絡が取れる。

 朝飯を食って、それぞれが、それぞれの役割で行動を開始する。

 俺は、先ず、刀剣銃砲店だ。

 そこで、弾丸を見るが、流石に対物ライフル並みの大口径に適した弾丸は置いてない。仕方がないので、一番大きな弾丸を四十発購入し、服屋と裁縫具店を巡り、太い縫い針を百本ほど購入する。銅線を求めて日用品雑貨店に行くが置いてない。そりゃそうか。この世界じゃ電気という言葉だってポピュラーじゃないようなので、銅線なんて置くはずがない。代わりにガラス製の小物があったので、それを購入する。

 鍛冶屋に行って鉄を三十キロと屑鉄の中から一塊を貰う。その塊は鉱石のようだが、加工が出来ないとのことで、屑鉄と一緒にされていたのだ。それを、イズモリが目ざとく見つけて、それを貰えと、俺に言ってきたのだ。

 銀行に行って銀貨十枚を銅貨五百枚に両替してもらう。

 食料品店で塩を三キロ購入して準備完了だ。

『接敵したよ。でも、問題発生だね。これは拙いかも。』

 イチイハラだ。

 何が問題?

『増えてる。』

 はあ?

『だから、増えてるんだって。』

 魔獣が?

『うん。大きな個体が六頭に、小さな個体が三頭に増えてる。』

 …全部で九頭?

『うん。小さな個体には、まだ、放電器官はないみたいだけど、大きな個体、六頭には放電器官の角があるって。』

 その時、悲し気な遠吠えが聞こえた。

 そうか、犬科だ。

 犬は群れで行動する。目撃情報があって、奴は何故、町を襲わなかったのか?

 わかった。

 奴は群れを待っていたのだ。

 今の遠吠えは、トンナ達が接敵した群れからのものか?

『違うみたい。トンナ達も遠吠えの方向を探してる。』

 昨日の一頭が遠吠えしたのなら、昨日の魔獣が偵察役で、今、トンナ達が接敵している群れを呼んでいることになる。それなら群れを形成する数は全部で十頭だ。

 幾つもの遠吠えが重なり、町に響いてくる。

『トンナ達が接敵してる群れからの遠吠えだって。』

 返事をしてるんだな。最初の遠吠えはあの一頭からだろうか?しかし別動隊の群れからの合図かもしれん。そうなると、群れの総数は不明だ。

 俺は、レストランで二人が戻ってくるのを待っていた。

 しかしレストランに入って来たのはギュスターと二人の青年だった。

 ギュスターは恐らくモンゴロイドとコーカサスとのハーフだろう。

 顔立ちが白人に通じるものを感じさせる。連れて来た青年二人は完全に白人系だ。ブロンドの髪色の方は北方系で、黒の髪色の方は地中海系だ。この宿場町に入ってから急激にコーカサスとネグロイドの人種が増えた。

 三人は揃って沈痛な面持ちだ。

 ギュスターだけが、俺の正面の席に座る。

「遠吠えを聞きました。」

 俯いたまま、その感情を隠すこともなく言葉にする。その感情は絶望だ。

「俺の仲間が十頭まで確認している。まだ増える可能性はあるが、恐らくは十頭だろう。大型の魔獣が七頭と小型の、幼獣だろうな。そいつが三頭だ。」

 三人の顔が驚愕に変わり、そして元通りの沈痛な面持ちに変わる。

「十頭も…」

「群れが集結したとなれば、今日でも危ない。戒厳令を布告し、外出禁止令を出すべきだ。」

 ギュスターは頷き、黒髪の方へと指示を飛ばす。自警団総出で、戒厳令を知らせて回るのだろう。

 入れ替わりにオルラとトンナが戻って来る。二人とも渋い顔をしている。

「ご苦労様。」

 俺が二人を労うと、トンナが俺を持ち上げながら「ただいま」と答えて、俺を膝の上に乗せる。隣にオルラが座り「参ったよ。」と呟いた。

 宿屋の主人が俺にミルク、オルラ達にはコーヒーを給仕する。

 オルラとトンナがコーヒーを一口飲むのを待ってから、二人に尋ねる。

「数は十頭で間違いない?」

 オルラが頷く。

「数はもう増えないだろうさ。遠吠えの後、合流したのは一頭で、その後は動いていないからね。」

 俺はトンナの膝上に寝転がって、両手を頭の後ろで組む。

「十頭かあ。五メートル級が七頭に三メートル級が三頭。食事量を考えれば、かなり広範囲に縄張りを持つな。それとも縄張り内の獲物を粗方狩り尽して、こっちに移動してきたのか。」

 オルラが頷いて「移動してきたんだろうね。」と答える。

「多分、本格的に狩りをやり出すのは、明日の夜じゃないかね?」

「今はまだ、縄張りの設定が済んでいないってこと?」

 オルラが頷く。

「自警団って規模はどれぐらい?」

 ギュスターに問いかける。

「普段から訓練をしている者は三十人で、あとは狩人が八人、一家に一丁は銃もありますから、いざという時は町中の者が戦います。」

 う~ん。逃げるの一手だな。

 魔獣相手じゃ、町のどこからでも侵入出来るだろうから、自警団は町の防衛で手一杯だし、実質使える人数が少なすぎる。俺達三人で十頭の魔獣を相手しろって?

 無理無理。

 俺がギュスターに断ろうとした時だった。宿屋の扉が荒々しく開かれ、二人の人影が宿屋に入ってくる。

 大きな音を立てて板張りのフロアを進み、一人が宿屋のカウンターを叩き潰す勢いで右肘を置く。

 大声で宿屋の主人を呼ぶ。

「此処に豚とガキとハガガリの兜を被った女はいないんかよ!?」

 主人の襟首をいきなり掴み、叫ぶように問いかける。

 街道に晒した黒猫と白猫だ。

「駒が来た。」

 俺は思わず呟いた。

 その呟きを聞いたオルラとトンナが俺の方を見る。呆れ顔だ。

「よう。案外早く追いついたな。」

 俺は寝転がったまま、片手を上げて、トンナの膝上から二人に呼び掛ける。

 二人は肩をビクッと振るわせてから俺の方へと振り返る。

「きっきっきっ貴様!このっここっ」

 言葉が上手く出てこないようだ。

「こ?」

 俺は助け船のつもりで、聞いてやる。

「殺してやるんよー!!」

 言うが早いか抜くのが早いか。黒猫は俺に向かって、いきなり全弾撃ち尽くす。空撃ちの撃鉄音だけが空しくフロアに響いた。

「いやー相変わらず。凄いクイックドロウだ。見事なもんだね。」

 弾丸は全て分解しているが、俺はトンナの膝上で起き上がって、黒猫の抜き撃ちを賞賛する。

「くっくっこっこっこの野郎おおおお!どこまでも!どこまでも舐めやがって!」

 新たに弾倉を詰め替え、今度は白猫も同時に撃ってくる。

「この変態チキン野郎!」

 相変わらず、白猫はちょっとおかしい。

 銃弾が飛んでくる中、オルラが俺に口を寄せて問いかける。

「こんなのが手駒になるのかい?」

 銃弾は次々と分解されているのだが、お構いなしに撃ってくる。

「分析しないで、何の対抗策も打ってない、この馬鹿さ加減とこの銃の腕前が良い。滅多にない良物件だよ。」

 トンナにも聞こえるように答えてやる。

 弾丸の嵐が一旦止んだかと思うと、黒猫は、またもや、対物ライフルのような凶悪な銃を腰だめに構える。白猫が床に座り込んで、銃床に肩を入れる。

 二人で一つ!とか言いそうな格好だな。

 黒猫と白猫がニヤリと笑う。

 おっと、こいつは馬鹿に出来そうにない。

「喰らえ!」

 二人揃って叫ぶところが、またアニメチックだな。

 俺の眼前で数十か所の分解現象が起きる。散弾、ショットシェルだ。

 成程、数を撃っても当てられないから、更に数を増やしてきたのね。根本的に馬鹿だ。

 渾身の一撃が無駄に終わって、二人は「ちくしょおおお!!覚えてろおお!」と叫びながら、慌てて逃げ出す。恥も外聞もないが正しい選択だ。逃がさないけど。

「止まれ!」

 俺の一声で、二人の動きが止まり、走り出し掛けた姿勢のまま派手に転倒する。

 俺はトンナの膝から飛び降り、テーブルの影に隠れていたギュスターを呼ぶ。

 ギュスターと二人で、黒猫と白猫に近づく。

 前のめりに倒れた黒猫の上に白猫が諸手を挙げて倒れ込んでいる。

「さて、自警団団長のギュスター殿に聞くが、町中で、殺人目的で銃を発砲した場合、どんな処罰が?」

 器用にも、動けない状態で二人の肩がびくりと震える。

「発砲で怪我人が出た場合ですと、街道宿場自治法に照らし合わせれば、人権剝奪五年の上、利き手の手首切断が妥当ですが、今回は被害者が出ていないので、人権剥奪五年に被害者側に賠償金支払い義務が妥当だと思います。」

 俺は頷いて。

「この場合だと、賠償の請求金額はいか程が妥当だと考えられますか?」

「そうですね。被害者一人に付き六千万ダラネですが、子供と女性ばかりを狙った悪質な犯行ですから、一人に付き一億三千万ダラネぐらいが妥当ですね。」

 二人の肩がひくついている。

 俺は大きく頷いた。

「成程、この二人には、我々に三億九千万ダラネを支払う義務が発生したのですね?」

 ギュスターは軽く頷いて「そうなります。」と返答する。

 自警団は非常時に治安部隊、防衛部隊として活躍する。行政機関としての役割を担っており、司法機関ではない。しかし、その性格上、小さな宿場町では司法機関の色合いも濃い。小さな諍いなどは、自警団の采配で決することも多い。そんな自警団の団長と団員の前でこれだけ発砲したのだ。言い逃れの余地は一切ない。

「このまま自警団団長の前から逃げ出そうとしたら逃亡罪が加算されますよね?」

 俺は嫌らしく笑いながら二人を見下ろす。

「勿論。その場合は、この二人を確保できるまでは、この二人の血族三親等までに遡って、その血族に懲役刑についてもらいます。」

 俺はしゃがみ込んで、倒れる二人の顔を覗き込み、嫌らしい笑みを浮かべて、ギュスターに、更に問いかける。

「この二人に三億九千万ダラネが支払えなかった場合はどうなるんですか?」

 二人の鼻頭が既に蒼白である。

「その場合は、二人の資産を没収、金銭以外は競売、掛った費用を差し引いて、被害者に支払われます。」

 俺は更に笑ってギュスターに聞く。

「それでも、足りなかったらどうなります?」

「二人の血族、五親等まで遡っての資産没収となりますね。」

 二人の鼻頭は蒼白を通り越して死蝋のように真っ白だ。

「それでも足りなかったら?」

「二人は五年間の人権剥奪ですから、五年間の期限付きで奴隷として売られて、必要経費を差し引いた金額が支払われますね。」

「それでも足りなかったら?」

「先ほど言いました五親等の身内も二年間の人権剥奪の上で、奴隷として売られます。支払いに関しては、先ほどと同じですね。」

「それでも足りなかったら?」

「う~ん。あまり前例がありませんが、五年間の奴隷期間中に解剖されて臓器が販売されます。その場合、掛った経費と残った奴隷期間が月割計算されて、その分も差し引かれますが、獣人の臓器は貴重なので、これで完済できないことはないでしょう。」

 俺はうんうんと何度も頷いて、口を大きく三日月形に歪める。

「金の生る木が勝手に転がり込んできやがった。」

 と、二人の耳元で呟いた。

 二人の獣人は俺の声を聞いた途端に音を立てて小便を漏らした。

「ひっひっひっひひぎゃ~!ごめんなんよ!ごめんなさい!もうしません!だからごめんなさい!」

「ひゃ~ん!いやなの~!いやなの~!臓器を売られてバラバラウ~マンにはなりたくないの~!」

 四肢の動きは拘束しているが、発声までは制限していない。

 二人は小便を漏らしたのもお構いなしに泣き叫ぶ。

 俺はそんな二人を見下ろしながら立ち上がる。

「選ばせてやるよ。」

 二人が泣き止む。

「今、自警団長に言われた通りの支払いをするか。それとも俺の奴隷になってチャラにするか。どっちかを選べ。」

 真剣な表情で問いかける。

「あんたの奴隷になるんよ!」

「超カッコいいご主人少年様なの!」

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