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トガリ  作者: 吉四六
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フラグを立てるのは構わないが回収できるんだろうな?

ありがとうございます。どなたか、存じ上げませんが、ブックマークに登録して頂き、感謝しております。完成原稿を改稿しながら、投稿しておりますので、途中で切れることはございませんので、よろしければ、最後までお読み頂けると嬉しいです。

 ノックをしてヤート族の女が一人入ってくる。

 丁寧なお辞儀をして「お世話させていただきます。」と言って、扉の横に立つ。

 全員の会話が止まり、気詰まりな時間が過ぎて、またノックの音がしてスーガが戻って来た。右手に丸めた大きな紙を持っている。

「トガリとやら、これで、何処かわかるか?」

 テーブルに地図が広げられる。

 よし。

 俺は内心、ガッツポーズを決める。

 先ずは、紙とインクの構成元素を記憶、いつでも再構築できるようにする。

 地図を記憶。

 イズモリが記憶することに関してはこっちに任せておけと言っていた。

 方位を確認して、現在地であるドラネ村を確認する。隣接するコード村の位置を確認し、ホノルダの位置を確認、トネリの集落の位置を確認して、ドラネ村との街道を指でなぞっていく。トネリの集落寄りの地点を指さす。

「此処です。」

 スーガが鋭い目つきで俺を見る。

「集落に近いな…確かか?」

 俺はスーガの目を見てハッキリと言う。

「間違いありません。奴らは五体の金剛を運用し、体力のない女の魔法使いと行軍していました。村との街道は大型の馬車を使えないので、金剛の歩行速度での行軍となります。したがって、行軍速度はヤートの足元にも及びません。また、野営地には、やはり金剛の運用上、街道のような平地を選びます。奴らは、街道に姿を晒すことを嫌い、この抉れたような平地を選んでいました。この場所は川も近く、魔法使いとヤートの両者が妥協できる野営地です。」

 俺の説明に、スーガは目を見開いて真剣な表情で聞いていた。

「坊主、お前幾つだ?」

「一〇歳です。」

 俺の言葉に眉を顰める。

「そうか。一〇歳か…ヤートでなければな。」

 心の底から残念そうな声。珍しい。この男はヤート族にあまり差別意識を持っていないようだ。

「トガリ、コード村を襲った奴らは今どうしていると思う?」

 うん?この男、俺に何かを感じ取ったか?

「私には過ぎたご質問かと。」

 スーガは眉をピクリと持ち上げ「構わん。お前の意見を聞きたい。」と言う。随分買われたものだ。

「では、私の個人的な見解ですが、奴らはこのままホノルダ中央統括府に向かうと考えます。ヤートの集落二つは、同時に襲われました。恐らく他のヤートの集落も同時期に襲撃されているでしょう。ドラネ村とコード村が属するベータ組はサテネ連町からは離れており、ホノルダ中央統括府の方が近いことが理由です。街道沿いの村を殲滅しながら西進し、ホノルダ中央統括府に向かうのが最も妥当かと思います。」

 スーガは満足そうに頷いて、俺の頭を撫でる。

 ほう、やはりこの男に差別意識はあまりないようだ。

「わかった。それでは、トンナ殿、私はこれにて失礼させていただきます。書類の用意は今しばらく掛かると思いますので、それまでの間は此方でお待ちを。」

 スーガは丁寧にお辞儀をした後、出て行こうとして、俺に振り返った。

「トガリ、こちらに戻って来た時は、俺に会いに来い。」

 俺の返事も聞かずに、スーガは静かに退室して行った。

 随分と見込まれたな。

『あれだけお利口さんの回答をすればな。』

 再び、見知らぬヤートを部屋に置いたまま気詰まりな時間が流れる。

 三人とも、本当はトンナがリーダーではなく、俺の下僕だということがバレないようにと口が重い。

 トンナが気を緩めた状態で俺に話し掛ければ、その甘えた仕草からすぐにバレる。

 俺が話し出せば、トンナの態度があからさまに変化する。

 オルラは利口だからだんまりを決め込んでいる。

 暇な俺は、気配を伸ばしていた。

 地図を見て方位はわかった。道もわかった。しかしやはり見たことのない地図だった。自分の知っている世界とは全く違っていた。

 ショックはない。

 ただ、現在地が判明して少し落ち着いた。

 今は、この村のことを探ろうと思ったのだ。

 気配を徐々に伸ばしていく。丁寧に見落としがないように少しずつ。

 俺の気配を伸ばすという行為は、自分自身の全感覚を周囲に広げていくという表現が最も適切だと思う。遠くを見ているから近くが見えないということはない。

 物質その物を呑み込んでいるような感覚がある。

 人間にとって、物質を知るという行為が、物質を見る行為であるなら、俺は壁の向こう側の物質を知ることが出来る。

 物質を知るという行為が物質に触れるということならば、俺は手の届かない物質に触れることが出来る。

 俺が村を覆っていく。

 マイクロマシンが土を草を木を家を人を牛を馬を虫を空気さえも覆っていく。

 オリラオが書斎にて書類を作成している。書斎には本棚があり、本がある。閉じられたみの本を読むことさえ出来る。

 本の文字は英文と漢字の物がある。

 服の組成を調べる。

 ささやかな人工物の組成、元素配列を記録していく。

 土中へとその触手を伸ばす。

 岩や砂、地層さえもが手に取るようにわかる。

 そして地下三百メートルに、俺はそれを見つけた。

 マイクロマシンの侵入できない人工物。

 ゾクリと背中を走るものがある。

『何だ、こいつは。』

 人工物の外殻に沿ってマイクロマシンを走らせる。

 既に地下三百メートルだが、その外殻は西方向へと続いている。

 街の方向だな。

『ホノルダ群統括中央府か?』

 多分…。

『街の方から大量のマイクロマシンが流れて来ていたのと関係があるかもしれんな。』

 その可能性は高いな。

 扉がノックされてオリラオが入ってくる。手にはブリーフバックを携えている。

「これが、必要な書類になります。こちらにトンナ様のお名前と、こちらにヤート二人の名前をお書きください。」

 封筒と書類をブリーフバックから取り出し、書類の署名欄を指さしながらペンを差し出す。トンナがペンを受け取り、トンナ・ツキナリと署名し、オルラが所有権移譲対象物の欄に署名する。

 俺も署名しようとするがイズモリが『ちっ。物って何だよ。』と文句を言っていた。

「待て。」

 オリラオだ。

「お前はドネリ村のヤートではないのだね?」

「はい。私はコード村管理のヤートで、私の集落の生き残りは私だけです。」

「うむ。」

 オリラオは「お前はこれにも署名しなさい。」と言って、もう二枚、別の書類を取り出す。

 ヤート移管申請書とヤート管理委任名簿と書かれた書類だ。

 トガリの管理をコード村からドネリ村に移すための必要書類だ。

「後日、まあ、コード村が残っているかどうかはわからんが、コード村に行って、コード村の村長に署名をいただいておく。これで、お前はドネリ村のヤートだ。こちらの署名欄はドネリのヤートと書きなさい。」

 そう言われて俺は所有権移譲対象物の署名欄にコーデル・ドネリ・ヤート・トガリと俺の正式名称を書く。

『超物扱いだな。』

 やはり、イズモリは気に入らないようだ。確かに俺も気に入らない。

 コーデル伯爵所有のドネリ村が管理するヤート族のトガリ。俺の名前はそう意味なのだから。

 しかし、俺はそんなことよりも、地中の人工物が気になっていた。

 マイクロマシンで侵入できない物体。

 それは同じテクノロジーか、それ以上のテクノロジーを意味している。

 確認しなければならない、という思いと近づいて良いのか、という思いが交錯する。

『恐らくは、マイクロマシンを生産している人工物だな。』

 イズモリが俺の心の声に反応する。

『何らかの原因でマイクロマシンのテクノロジーが失われた世界。人々は霊子回路のことも知らず、マイクロマシンのことも知らないままに、魔法や特殊技能として、霊子回路とマイクロマシンを行使している。現状で予測できることはこんなところだ。』

 そうだな。実際にホノルダに行ってみなければ何もわからないな。

『そうだ。行ってみなければな。』

 俺達は書類を封筒に入れ、オリラオが封蝋を施す。

 トンナが大事そうにその封筒を懐に仕舞う。

 他の必要書類として、ヤート帯同許可証、ヤート入府許可証、ヤート管理責任証明書を貰う。

「それでは、こちらの書簡をホノルダ中央統括府の行政府長殿にお渡し願います。」

 そう言って、懐から、封蝋した別の書簡を取り出し、トンナの手に渡される。

 戦争勃発の知らせか、隣接するローエル伯爵反乱の知らせか。内容はわからないが、そういうことが記されているのだろう。

 オリラオが腰の鞄から、金貨を取り出し、トンナに差し出す。

 ハガガリの討伐に百三十万ダラネ、ホノルダへの連絡依頼前金として二万ダラネだ。

 ホノルダへの連絡依頼の後金支払い請求書と討伐金と前金受け取り領収書も一緒にトンナに渡される。

 領収書にはトンナがサインしてオリラオに返す。

 この村での用事は終わった。

 俺は、オルラとトンナのお陰で、追われることなく、堂々と大手を振ってホノルダに向かうことが出来ることとなった。


 俺達は村の中を通って、入村したのと反対側の村の出入り口までオリラオに案内された。

 ホノルダ群統括中央府を目指すことになるが、かなりの距離がある。

 十八の宿場町を経由して、約二か月の旅だ。隣の伯爵、ローエル伯爵が本格的な戦を仕掛けて来ているなら、速度を重要視してホノルダ群中央統括府を目指すだろう、コード村は既に殲滅済みだろうから、大型の馬車を手に入れて、行軍しているはずだ。

 大型の馬車を使用できない街道は、ヤートの集落から管理している村までだから、それから先は、かなりのスピードで進んでいるはずだ。

 ここから全速力で急いでギリギリ間に合うかどうか。ヤートと獣人でなければ絶対に無理な距離だ。

「さあ、急いで行こうか。」

 オリラオの手前、トンナがリーダーらしく俺達に声を掛ける。

 俺達はオリラオの見送りを受けて、ドラネ村を旅立った。

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