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トガリ  作者: 吉四六
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初めての獣人は猫耳の可愛い子が希望です。

 ほとんど眠っていないが、眠気はない。

 俺とオルラは荷物を纏めて、どちらからともなく歩き出した。

 一旦、街道に出ることにした俺達は、緩やかな斜面を降りて行く。

 思いもよらぬ獲物のお陰で大きく膨らんだ荷物はかなり重く、緩い斜面を歩くにも、かなりの労力を要した。

 熊肉も重いが、ハガガリの頭蓋骨と毛皮の方も負けず劣らずに重い。さすがに魔獣というところか。

 しかし、オルラの足取りは案外と軽い。

 足取りというか、口が軽い。

 ハガガリを仕留めたときは、あんなにも怒っていたくせに、今は調子よく俺を褒めている。「さすがは、トネリの弟だ。」「魔獣を一〇歳の子供が仕留めたと知ったら、皆何て言うかねえ?」「その毛皮は、お前の一張羅に仕立てないとね。」「ハガガリの毛皮ならチョットやそっとの剣じゃ、突き通らないよ。」「ハガガリの腱で、お前専用の弓を作るのも良いねえ。」

 まるで、孫に土産を買ってやった婆さんとの帰り道のようで、俺も、ちょっと嬉しかった。

 俺は、オルラの話し相手をしながら、頭の中ではイズモリとも会話していた。

『かなり、遺伝子を弄られてるな。北米産のピューマとカナダのビッグホーンの遺伝子を基礎遺伝子として、視覚特化型に仕上げられている。眼球は、従来の可視光線以外に赤外線とサーモグラフィ機能とマイクロマシン検知素子もある。』

 成程、だから、眼球は全部で八つか。

『筋繊維の密度も普通の動物とは比べ物にならん。恐らく毛皮の分子密度も異常と言えるほど高いだろうな。』

 ちょっと興奮気味だな。

『興奮もする。遺伝形質を保つように、繁殖能力も弱いながらに維持されている。これは凄いことなんだ。一番凄いのは、この生物、霊子生物と言える。』

 何だそれ?

『高密度の霊子を保存、蓄積、消費できるように分子レベルで霊子保存用のマイクロマシンが全身の組織に組み込まれてる。』

 全身の組織に組み込まれてると、そんなに凄いのか?

『凄い。例え筋断裂しようが、骨折しようがマイクロマシンが瞬時に損傷個所を修復するし、保有する筋繊維以上の筋力の行使が可能になる。』

 お前、そんな奴に俺をけしかけたの?

『この事実は今わかったことだ。お前にサンプル採取を依頼した時は知らなかったんだから、俺のせいじゃない。』

 これだよ。図太いというのか、図々しいというのか。

『それよりも、これで、こいつが霊子を食う理由がわかった。体全身に霊子保存蓄積のマイクロマシンがあるから、全身で霊子もしくは幽子を摂り込み、活動源にしていたんだな。』

 それにしても厄介だな。霊子を食うって。

『そうだな。マイクロマシンを索敵に飛ばすと、食われて感知される。今後は、索敵用のマイクロマシンは常に周囲の幽子と同一周波数に変換させて飛ばす必要があるな。それでも肉体を食われるのは良いが、霊子を食われるのは、あまりよろしくない。』

 索敵用のマイクロマシンを食われるのは困るが、俺の保有する霊子を食われる分にはどうってことないだろう?数十万人分の霊子があるんだから。

『他の生物や普通の人間と比較した場合、トガリの霊子の量は膨大だが、霊子は物理的な量ではない。質量そのものは大した物ではないから、食われるとしたら、数十万人分の霊子でも直ぐに食われる。』

 なにそれ。何気にフラグを立てるなよ。

『仕方ない。俺も知らない生物だ。今後は知らない生物を見つけたら、精々気を付けることだな。』

 いきなり気を付けなかったお前に言われたくないな。

『お前の判断でもある。俺達の責任だと、お前が言ったろう?』

 ああ言えば、こう言うの見本だな。

『お前のことでもあるんだが?』

 いいや。俺は素直な方だよ。

『まあな。俺達の傾向では、確かにお前は素直な方だ。』

 引っ掛る言い方だな。もしかして他の俺達も話してるのか?

『ああ、第二副幹人格をはじめ、ほぼ全員が俺にも話をさせろと五月蠅い。』

 勘弁してくれ、これ以上、話し相手を増やせば、オルラとの会話が御座なりになる。

『それは、あまり良くないな。』

 街道に出て、カンジキのアケシリを外す。

 此処からなら、あと一日もあれば村に着くと教えられて、昼飯にしようということになった。

 一旦、荷を下ろして、熊の燻製肉に塩を振りながら食べる。口に咥えて、荷を担ぎ直して、食べながら歩き出す。

「街道は良く日に当たるから、熊の肝が上手く干せるよ。」

 好い天気だ。

 オルラの背負った荷物には熊の肝もある。木枠で組んだ網二枚で熊の肝を挟み込み、背負った荷物の上に掲げている。まるで、荷物から日傘を差しているような格好だ。

 道すがら、オルラは食べられる野草や薬草、薬草の煎じ方を教えてくれた。

 一人で生きようとするなと怒られたが、一人でも生きられるように教育する方針のようだ。

 そんなオルラの教えの中に昨日の魔獣、ハガガリのこともあった。

 オルラが子供の頃、集落を襲ったハガガリに、ヤートの大人五人が食われたそうだ。頭を割られて、脳味噌だけを食われたらしい。

『ハガガリは霊子生物だからな。恐らく、脳味噌が目的じゃなく、人間の霊子を食っていたんだろう。物質的な食糧よりも霊子を欲しているんだ。普通の獣よりも人間の方が霊子の保有量は多いから、人間の天敵として調整されてるな。』

 イズモリがゾッとすることを言う。

 じゃあ、俺、スゲエ狙われんじゃね?昨日は偶々俺の霊子と幽子の周波数を同調させてたから、ハガガリに気付かれなかったけど、結構危なかったんじゃねえの?

『そうなるな。』

 魔獣を殺すことが出来る者は限らており、普通の人間では到底かなわない、というのが常識だそうだ。

 通常、魔獣に対抗できるのは、魔法使いか獣人だという。

 獣人は、長命で繁殖能力は低いが、戦闘能力に特化している。戦場では、ただの人間など相手にもならないらしい。

 その絶対数は極端に少ないが、一人の食糧消費が人間の三倍から四倍近くあるため、人間社会に従属しなければ、種を存続できないらしい。

 いやはや、益々ファンタジーですなあ。

 その内、獣耳の可愛い子が現れたりするのかなあ?

『遺伝子改良が人間にまで及んでいる証拠だな。』

 出たよ。夢ぶち壊し職人。

 いるよねえ。

 人が楽しんでることに一々批判めいたこと言ってさ、これは、こうだから、こうならないとか、夢のある話に現実的な理屈をぶち込んで台無しにする奴。

『現実問題として、常に考慮して備えておかねば死ぬぞ。お前。』

 だ~か~ら~。その殺伐とした中に癒しと潤いが欲しいんじゃないか。獣耳の可愛い子、良いじゃないか。

 こんな話をしてたら、きっとフラグが立って、いよいよ獣耳の可愛い子が登場するよ、きっと。

 だって、今まで出てきたのは、ゴツイ姉、小っさい子、もっと小っさい子、婆様だからなあ。そろそろ、出てきてもいいだろ?

『お前の発言。フラグというなら、期待外れの飛んでもないのが出てくるフラグだと思うがな。』

 オルラと俺の足が止まる。

 マイクロマシンの索敵に感知するモノがいる。しかし、魔獣と一緒で何かが判らない。

 街道の先に佇んでいる。距離は二百メートル。向こうも気が付いているはずだ。

 俺達は頷き合って、街道脇の森へと入る。

 木の上に身を潜めて、来るかどうかもわからない何モノかを待つ。

 足音を立てずに、そいつは来た。

 二足歩行。

 人だ。でも、マイクロマシンでは、その正体が判らなかった。

 只の人ではない。

「こっちから、食べ物の匂いがする~。」

 女性の声だ。体格が大きい。

 大きいというより太い。

 歩くより転がった方が良いのでないかと思える体形だった。

 俺達のいる木の幹にしがみ付き、鼻をクンクンと鳴らす。

「この木の上から匂いがする~。ねえ。頂戴、お肉ちょうだ~い。」

『ほらな。フラグだったろ。』

 嘘だ。

 確かに獣耳っ子だ。でも豚だ。

 丸々と太った豚さんだ。

 鼻頭が急角度で上を向いている。耳の位置は人間と変わらないが、大きい。沖縄で見たミミガーだ。

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