ええ!オルラってそんなに強かったの?!
「負荷が大きいな。」
新しい霊子回路か?
「ああ。まさか、意識を失うほどとはな。想定外だ。」
原因は何だ?
「膨大な量の霊子を何度も回路に通したからな。一度通すだけじゃなく、何度か往復させている。一回路で行きと帰りをさせてしまっている。それが原因だろうな。」
改良は?
「設計変更は既にしてある。どうだ、続けて霊子回路の改良をするか?」
そうだな。意識を失ったついでだ。やっておいても良いだろう。オルラもいることだし。
白い空間である。
二人で、意識を失ったことへの課題検討中であった。
「従来の回路に接続する形で、新たな回路を設ける。コンバーターだな。」
どんな効果が?
「まず、霊子回路への負担が無くなる。それと、命令の省略化が可能だ。厄介な複数命令をコンバーターにやらせるから、命令そのモノが常駐型に変わる。相手の周波数検知特定をマイクロマシン側からの入力に設定すれば、何もしなくても相手の周波数が自然とわかるようになるし。マイクロマシンへの出力側に周波数同期と強制上書きの命令を常駐させることで、命令を単純化し、且つ、マイクロマシンに命令を走らせた時点で、命令そのモノを暗号化する。」
まあ。相変わらずよくわからんが、とにかく頭痛がしなくなるなら、それで良い。
「相変わらず俺の説明を台無しにする奴だ。」
しかし、意外だったな。
「婆さんのことか?」
ああ。
「確かに、あの婆さんと旅するのは案外有用かもしれないな。」
あ?いや。俺が言ってるのは年の方。
「何だ。そっちの方か?」
呆れた表情で俺を見るなよ。あの婆様、凄く苦労したんだろうな。て、思ってな。
「…そうだな。」
何となく寂しそうに見えるのは気のせいか?
「婆さんがか?」
いいや。今のお前が。
俯くなよ。
「やはり、俺は俺だな。隠せないか。」
どういうことだ?
「俺は、お前が婆さんの年のことで、婆さんの背景を思いやった。しかし、俺には、そんな発想はなかった。」
うん。人格が違うから、しょうがないだろう。
「俺が重要視しているのは、人間性の問題だ。」
人間性の問題なら、お前だって十分だろう?
「何を根拠に?」
婆さんをこんな所に置いていけないって言ってたじゃないか?それに、今だって何のかんのと理由を付けて、婆様と一緒に行くための理由付けをしてるんだろう?
「そうなのか?」
そうだろう?そうとしか俺には見えないが?
「そうか、俺が俺を冷静に見て、そう言うなら、そうなんだろうな。」
そうだよ。
「じゃあ。そろそろ、目を覚ませ。頭痛も治まった頃だろう?」
その言葉に従い、俺は白い空間から遠ざかる。
意識が表層に浮かび上がり、瞼をゆっくりと開く。
オルラがいた。どうやら。オルラの膝に寝ていたようだ。
「目が覚めたかい?」
「うん。ありがとう。オルラがいてくれて助かった。」
首を振りながら、微笑むオルラ。
「良いんだよ。ちょっと無理をさせすぎたね。大丈夫かい?」
「うん。もう大丈夫だ。でも婆様のお陰で、一つ良い経験をさせてもらったよ。」
首の後ろを擦りながら首を回すと、骨の鳴る音がする。
「そうかい。そいつは良かった。一緒にいる甲斐があるってもんだ。」
「コツは掴んだから、もう一回、やってみるよ。」
コツではなく、楽に出来るように改良したんだが、オルラには内緒だ。
「無理するんじゃないよ。また倒れないかい?」
「大丈夫。俺が気配を伸ばしてみたら、婆様も気配を伸ばして確認してみてくれ。」
俺の言葉に、心配しながらもオルラは頷いてくれた。
再び霊子回路に意識を集中し、まずは、周囲に漂う幽子の周波数を検知特定、俺から発信される霊子の周波数を周波数変換コンバーターで幽子の周波数と同期させる。幽子の周波数と同一になった霊子でマイクロマシンに俺の命令を走らせる。今度は単純だ。
拡散して、オルラを捜せだ。
オルラが同じく気配を伸ばす。
オルラの支配下にあるマイクロマシンと俺の支配下にあるマイクロマシンが接触する。
マイクロマシンが瞬時に周波数を検知し、特定、マイクロマシンの周波数が変更され、俺から発散される霊子の周波数も変換される。
俺のマイクロマシンは上書きされることなく、オルラのマイクロマシンだけが俺の霊子によって上書きされる。
俺は瞼を閉じたままでも、オルラの姿が見えるが、オルラには俺が見えていないだろう、オルラの額に汗の粒が見て取れる。
オルラは周囲のマイクロマシンを集めては俺のマイクロマシンに接触させるが、俺の霊子に触れた途端に上書きされて、一向に俺を見つけることが出来ないようだ。
恐らく、オルラには俺のマイクロマシンと自分が支配下に置いているマイクロマシンの違いも判らないだろう。
オルラは大きく溜息を吐くと、目を開いた。
「驚いたね。まさか一〇歳の子が、これ程、上手に気配を操るなんて、まったく、あたしの四十四年間は何だったのかと思っちまうよ。」
そう言いながら、オルラは嬉しそうに笑っていた。
「でも、こうなると困ったね。お前の気配の所為で、あたしは自分の気配を伸ばすことが出来ないよ。」
「大丈夫だよ。婆様の気配は覚えたから、婆様の気配の邪魔はしないようにするよ。」
オルラは俺の言葉に目を剝いた。
「お前、そんなことまで出来るようになったのかい?」
逆に俺が聞きたい。オルラは出来ないのかと。
そんな俺の表情を読み取って、オルラが大げさな溜息を吐き、説明してくれた。
そもそも、気配を伸ばすこと自体が難しく、気配を同期できる一〇歳児など、見たことも聞いたこともないとのことだった。気配を消せるかどうかも才能次第であって、出来ない者は一生出来ないのだそうだ。俺は、それに輪を掛けて、個人の気配を特定することまで出来る。
オルラに言わせれば、一般人レベルではなく、かなり上級の魔法使いレベルだというのだ。
「魔法使いにも同じことが出来るの?」
もし、魔法使いにも同じことが出来るなら、魔法使いと相対した時には気を付けねばなるまい。俺と同じようにマイクロマシンの上書きをされるかもしれないからだ。
「ああ。でも奴らは、呪言で構築した術式を使うからね。お前みたいに自然に、という訳にはいかないだろうよ。」
成程、俺のアドヴァンテージは、術式の差か。
「ジュゴン?」
呪文のことだろうが、なんで海洋生物の名前なんだ?
「お前、知らなかったのかい?魔法使いが魔法術式を構築するのに詠唱する言葉。呪い言葉だよ。」
「相手を呪うから呪言?」
オルラが左右に首を振る。
「呪言ってのはヤート語なんだよ。」
「え?」
俺は思わず、驚きの声を上げる。
「なんでかは知らないけどね。魔法を使うには、ヤート語でないとダメなのさ。」
なるほど、邪な亜人、ヤートの言葉を使うから、呪うための言葉じゃなくって呪われた言葉ってことか。
しかし、今のやり取りで、何となくこの世界における魔法の位置づけが分かった。この世界の魔法は、霊子と霊子回路、そしてマイクロマシンで成り立っているのだ。
進みすぎた科学は魔法と区別できない。
そういうことなのだと納得する。この意見にイズモリも同意する。
『ますます、この世界は、俺の世界の延長線上だということが証明されたな。』
霊子回路か?
『ああ。俺の世界では霊子回路は遺伝子レベルで組み込まれていたからな。この世界の住人の多少なりともが霊子回路を持っていても不思議はない。ただ、使い方の習熟度には個人差があるからその点については要考察だな。』
確かに。霊子回路を持っているなら、持っている全員が魔法使いになれる。しかし、オルラもそうだが、ヤート族には魔法使いがいない。
今から考えれば、ヤート族は霊子と霊子回路を別の用法で使っていたのではないかと思える。
『別の用法?』
そうだ。と答えながら、オルラと共に木を降りる。イズモリと話している間にも。オルラが、そろそろ出発しようと言い出したためだ。
ヤート族は森林地帯での戦闘に特化した戦闘主体の民族だ。識字率は〇パーセント。自分の名前しか書けない。霊子に対しての教育もされていない。
ヤート族の生活環境が、まどろっこしい霊子の用法を許さなかったのだろう。
手っ取り早く、且つ、生き残れるように、体内での霊子の用法に特化したんじゃないか?
『成程な。それなら、あのトネリの馬鹿力にも納得がいく。』
何らかの原因で、マイクロマシン本来の使用方法が失伝している可能性が高いんじゃないか?
『うむ。その可能性は高いな。そのへんも考察の一要因とするか。』
先ず、村に向かうことになった。そこで、街への入領証を交付してもらうためだ。街道ではなく、森を歩いているため、道案内として自然とオルラが前を歩く格好で、俺とオルラは黙々と歩いていた。その間も気配を伸ばすことは忘れていない。お互いに気配を探り合っていると、お互いの安全を確認できるため、言葉が必要ないのだ。
「疲れたかい?」
オルラが俺に声を掛ける。
「えっ?何で?」
「疲れていないなら気配を揺らすんじゃないよ。まだ慣れていないからだろうけど、集中しな。」
僅かな気配の乱れを怒られてしまった。意外と厳しい声に俺は首を竦めて「はい。」と答える。
何だか、オルラが、お師匠様キャラになってきた。
良い傾向なのか悪い傾向なのかはわからないが。
オルラの足取りが村にいた時よりも軽いような気がするのは勘違いではあるまい。
『年寄りには生き甲斐が必要だからな。』
俺達より一つ年下だってこと忘れてんじゃないか?
『そうだった。でもあの外見だとなあ。』
その点については激しく同意だな。
『よし。じゃあ。若返らそう。』
「えっ!」
思わず声に出て、オルラが「どうしたい?」と振り返る。
「いや、その」
『馬鹿が。声に出しやがって。』
そんなこと言っても、お前がとんでもないこと言うから。
「いや、何でもないんだ。」
首を傾げながら「何だいこの子は?何かあったのかい?」と言いながら俺に近づいてくる。
『今じゃないぞ。もう少しマイクロマシンについて調べてからだ。』
わかってるよ。
「いや本当に何でもないんだって。」
オルラの手を取り無理やり前を向かせて、一緒に歩きだす。
「ホントにどうかしたのかい?」
手を繋いだままオルラが俺を心配そうに覗き込む。
「それより、どうするの?このまま、森を行く?それとも街道に出る?」
森の中には、まだ浅く雪が残っている。カンジキのアケシリを履いたままだと、結構な手間だ。
当初は俺が逃げるためにこの森を選んでいたが、追手であるオルラと一緒に進むのだから、わざわざ歩きにくい森を進むことはない。
「そうだねえ。街道に出た方が、…」
俺とオルラは同時に察知した。
おおよそ二百メートルの範囲にマイクロマシンを散布していたのだが、その範囲内に大型の動物を感知したのだ。
「熊だな。」
「熊だね。」
お互いに熊の方を向いたまま、確認するように呟き合う。
「音を出していれば、熊の方から逃げるんだっけ?」
熊を避ける算段を提案すると、
「逃がしてどうすんだい。ご飯にするのに。」
真っ向から否定された。
ヤートの女、パねえ。
「狩るのか…。」
「狩るよ?」
さも当然とばかりに返された。
「俺が?二人で?」
オルラが俺の方を向く。何言ってんだい、この子はって顔をするなよ。
「あたしが狩るに決まってるだろう。」
『本気か?婆?』
お前、もうオルラに遠慮してないよね。BBAって言ってるし。
「気配を消したまま行くよ。」
そう言って、何でもないようにオルラは一歩を踏み出した。
しばらく歩くと「トガリ」と、厳しめの声で呼ばれる。
「歩く音が大きいよ。もっと静かに。」
姉と同じことで怒られた。っかしいなあ?年下の女に怒られっぱなしじゃないか。凄い静かに歩いてるつもりなんだけどな。
実際、足音はしてないし。
『呼吸音じゃないか?』
そう言われて、ああ。と、納得する。呼吸までは意識していなかった。だって山の森ン中だから。結構キツイんすよ。
熊が視認できる距離まで来た。オルラは辺りをキョロキョロと見回し、俺に此処で待ってろと合図をよこし、一人で熊に向かって行った。
お手並み拝見だ。どうせオルラがやばくなっても、俺のマイクロマシンで治療できる。
…
おい。出来るよな?
『あっ?ああ、出来る出来る。』
ビビらせるなよ。返事がないから出来ないかと思ったぜ。
『そんなことより、しっかり見てようぜ。どうやって、あんな婆が三メートル級の熊を殺すのか。』
熊は斜面の上、俺達から見て北北東の位置に四つ足で立っている。鼻先を時々、上に向け、臭いで周囲を確認しているのだろう、雪を掻いては、餌になりそうな物を探している。
風は北東から南西へ微風だ。風下にいるので臭いで気付かれることはない。
オルラは、左手に生える一本の木の手前で立ち止まり、その木を撫でながら上を向く、何かを確認したように頷くと、更に前に。
今度は右手に生える一本の木の前で立ち止まり、今度は少しばかり左に体をずらして立ち尽くす。右手を懐に入れて、分銅付きの紐を右手から垂らした。
この分銅付きの紐。名前をツブリと言い、かなりの引っ張り強度を持つ。鉄線が編み込まれ、長さは三十メートル程もある。
オルラは右手に持ったツブリを手首で振り、風切り音を立てて縦に振り回す。
熊がオルラに気が付いた。
鼻から荒々しい呼吸音が聞こえる。時期から見て、冬籠り直後だろう。
ギャロップ、襲歩と呼ばれる走り方で山の斜面を駆け降りるのは難しいだろうが、熊は、かなりのスピードで走る。高低差の無い地形ならば、子鹿にも追い付いている。
人を見て、どのような反応を示すのか。
即座に襲って来るようなら人間を食ったことがあるだろう。様子を見るようなら、食ったことがない熊だろう。
「山の御蔵におわす神々、熊神が大神、穢すなかれ、荒らすなかれ。許したまえ、かしこみかしこみ申す。」
熊から視線を外さないまま、オルラが猟の言霊を呟く。
それを見計らったかのように熊が走り出す。
やはり襲歩だ。
両前足と両後足が、ほぼ同時に跳ね上がる。速度はあるが、斜面を下る際に両の前足に全体重と加速分が加わるため、転倒しやすい。
オルラは、風向きと、この地形を計算していたのだろう。しかし、その程度の地の利で何とかなるほどの戦力差ではない。
相手は、三メートル級の熊で体重は凡そ五百キロはあるだろう。
その熊が今、雪煙を上げながら黒い塊となって此方に向かって来る。
スピードは時速にして六十キロメートル程か、体当たりだけでも即死級だ。
その熊に対しオルラは落ち着いていた。
静かと言っても良い。
ただ、右手のツブリだけが、風を切って、目では捉えられない速度で回っている。
熊がオルラの目前に迫る。
実際は二メートル程の距離だが、熊の大きさがその距離感を狂わせる。
オルラは動かない。
一メートルに迫った時、オルラが動く。
縦回転だったツブリが、右に傾き、大きな風切り音とともにオルラの手から放たれる。
ツブリは真直ぐに熊を襲わず、オルラの右手に生えている大木を巻き込みながら熊の左。後足に巻き付いた。
恐ろしいまでのタイミング。
走る熊の後足が地面に接したその瞬間にツブリが巻き付き、熊が足を跳ね上げ、オルラに襲い掛かろうとした瞬間に、オルラが後ろに走る。
熊の加速が殺され、宙に跳ね上がったままの格好で静止し、転倒する。
オルラはツブリをスルスルと伸ばしながら、最初に撫でた左手の木に走り、ツブリを十分に緩ませたまま、その木の枝に跳び乗り、越える。
熊は自分に何が起こったのかわからず、体を曲げて、左後足に巻き付いたツブリを外そうと、必死にもがいていた。
再びツブリが張り詰め、熊の後足を引き絞る。熊は邪魔なツブリに気がいって、オルラのことは忘れているかのようだ。
必死にツブリを外そうと前足と牙を使って暴れまわる。
かなりの力が掛かっているはずだが、二カ所で支点をとっているオルラは涼しい顔だ。
オルラは己の気配を消して、熊に近づいている。決して気を緩めない。
熊の状態を冷静に観察しながら、手元で何かを細工している。
オルラはツブリの紐を輪にして、その輪を金属製の円環に通していた。
熊まで、一メートルを切った所で、気配を露わにする。
熊がオルラに気付き、オルラの方を振り仰ぐ。
オルラの手から放たれたツブリの輪が熊の首に掛かり、ツブリの張りが緩む。
ツブリの張りが緩んだことで、熊は、オルラに襲い掛かろうと牙を剥くが、オルラは後ろに跳び退る。
襲い掛かろうとした熊の体が伸び切ったタイミングで、オルラが走る。
ツブリが金属音に近い、高音を立てて、一直線に張り詰められる。
熊が何かを吐き出すような唸り声を上げて、空中に固定された。
見事としか言いようがなかった。
イズモリも言葉を失っている。
熊は、二本の木の間で、右後足だけをしっかりと地面に着き、背を反らして、空中に括り付けられている。
両の前足は僅かに地面を掻くが、ほとんど、その用を成していない。
細いツブリの紐が首と左後足に食い込み、苦しみから、首の紐を引掻こうとするが、背が反らされた体勢では、熊の身体構造的に難しい。
やがて、熊は諦めたのか、もがくことを止め、両の前足を必死に伸ばして、浮いた上体を支えるようになった。
首が締まり、呼吸もままならないのだろう。
オルラはその様子を見て、ツブリの紐を張ったまま、近くの木にツブリを結び付けた。
籠手から二十センチ程の針を引き抜く。
針としては太い。
その針を右手に持ち、熊へと近づいていく。
熊を縛るツブリに手を触れ、強度を確かめ、頷く。一瞬、此方に目を向けるオルラから、よく見ておけとのメッセージを受け取る。
オルラは針をクルリと回し、中指と薬指で挟み込み、拳から針が生えているように持ち直した。
オルラが跳ぶ。
ツブリの紐の上に。
両足を前後に揃えたまま、急角度の紐の上に乗る。ツブリが撓むが、角度は変わらない。
熊は観念しているのか、声を発することもない。ただ太い呼吸音だけがしている。
オルラが紐の上を滑り、熊の鼻先にまで迫る。熊の顔面に向かって、オルラが右手を突き突き出す。
太い針は、熊の右目から入り、その脳髄を抉った。
熊の太い呼吸音はもう聞こえていない。
「すげえ。」
知らず知らずの内に声が出た。
『確かに凄い。』
周りの環境と手持ちの武器を最大限に使い、最小の力で仕留める。
言うは易し、行うは難しだ。
『あの紐の強度も凄いな。』
ああ。木と擦れて煙が出てたが、切れることはなかったな。
『紐その物に油が塗ってあるのかもしれんな。』
あの輪っかを作った金属製の円環、アレにも何か工夫がしてあるだろう。
『当然だな。何にしても恐ろしい戦闘部族だな。』
オルラは、熊を仕留めた後、直ぐに動き出した。
何か、熊と戦っていた時よりも動きがキビキビしているような気がするが、気のせいだと思いたい。
「何してるんだい!とっとと捌くよ!」
叱られた。気のせいじゃなかった。




