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トガリ  作者: 吉四六
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一柱の神と二人の俺と七人の悪魔と五人と一頭の使い魔

 トンナ達に神殺しを宣言してから三日が経過した。

 トガナキノ国の調停によって、ハルディレン王国とカルザン帝国との調印の話が進みつつある。ハルディレン王国と四カ国同盟を結んでいる他の三国と帝国との調印の話も進んでいる。

 俺は死んだときのことを考えて、国体母艦の中枢機関への入室許可をヘルザース、ローデル、ズヌークの三人に与えた。

 三人が揃っていなければ、入室出来ないシステムだ。システム管理についてはイデアに任せてある。

「イデア。」

 安寧城の総指揮ブリッジ、そのブリッジの玉座にトンナが座り、俺はトンナの膝上に座っている。

 玉座の肘掛けにはアヌヤとヒャクヤが腰をのせ、コルナが玉座の右に立ち、オルラが玉座の左に立っている。

 ロデムスはオルラの肩に乗り、コルナの娘、テルナドは俺の膝の上だ。

 俺が倒れて以来、いや、正確には俺が神殺しを宣言して以来、トンナ達、全員が俺の傍を離れなくなった。

 イデアが俺の前に跪く。

「俺が死んだら、お前は俺から解放されるのか?」

 イデアが顔を上げる。

「マスターとの契約は解除されますが、主従関係は解除の対象となりません。」

 イデアの言葉に俺は頷く。

「イデア、俺が死んだ後も、俺に誓え。国体母艦、トガナキノ国を守ると。」

「承知いたしました。」

 イデアが俺の前で頭を下げる。

「ヘルザース、ローデル、ズヌーク。」

 イデアに変わり、三人が俺の前に跪く。

「俺に誓え。私利私欲に走ることなく、人を殺すことを悪と断じ、人々が平和に暮らせる世界を目指すことを。」

 ヘルザースが頭を垂れる。

「命に代えましても。」

 ローデルがゆっくりと言葉を吐き出す。

「陛下、何卒、何卒、ご生還なされることを切に、切に…」

 ズヌークは口を開くことも出来ずに、嗚咽しか聞き取ることが出来なかった。

「セディナラ、カナデ、クノイダ、カノン、ルブブシュ。」

 元は筋者だった五人が俺の前に跪く。

「悪たれども、俺に誓え。命を懸けて人々を守ると。」

 静まり返るブリッジ。

 ジッと跪いていた五人から出てきた言葉は、俺の命令に応えるものではなかった。

「…兄弟…」

「ボス…」

 かろうじて、セディナラとカナデだけが、言葉を発した。あとの三人は言葉を呑み込んだままだ。

「誓え。」

 俺の再度の命令に、五人が誓う。

「姉さん。アー姉ちゃん。」

 トネリとアラネが俺の前に立つ。トネリが俺の前に跪いて、両手で俺の顔を挟む。

「男の顔だ。ヤートの男の顔だよ。」

 トネリが泣きそうな顔で、俺に話し掛ける。

「変だよ!」

 アラネが叫ぶ。

「どうして!死ぬかもしれないのに、皆はトガリを止めないのよ!!おかしいのよ!!」

 そうだ。それが正常な反応だ。アラネの言うことは真っ当で、正しい。

「人が、人々が生きていく上で、神を僭称(せんしょう)する男に生かされる世界は正しい世界か。正しくない世界か。神になり得る男が世界を統治すれば、人々は飢えることもなく幸せに暮らせるが、その男の箱庭で生かされる事実を許せるのか否か。高次元の存在たる者のペットとして生きていくことは是か。」

 その場にいる全員が口を閉じて、俺に視線を向ける。

「為政者は神たらんとする。人々を幸福に導き、理想郷を目指す。」

 俺は目を閉じる。

「俺が奴の立場なら、俺も同じことをしたろう。俺は、俺で、国王になったからには人々を俺のやり方で管理するだろう。実際に禊を使って、やってることは奴と同じだ。」

 俺は目を見開く。

「だが、俺は許さん。奴は俺達とは違う世界にいて、奴は簡単に人を殺す。魔獣災害も疫病災害も、奴がこの世界を築くための布石に過ぎない。沢山の人を殺して、安穏な世界を築くだと?そんな奴にこの世界は渡さん。」

 アラネが再び口を開こうとして、トネリに止められる。

「いいね。ヤートの男らしい我儘っぷりだ。神を名乗っているのが誰かは知らないが、そんな奴はブッ飛ばしておいで。」

 トネリが笑う。

 俺はトネリに笑い掛ける。

「姉さん。俺は確かに国王になった。国王になったけど、二人に残せる物は何もない。」

 トネリが頷く。

「狩りをして暮らすさ。もっとも、この国じゃ働く必要もないがね。」

 トネリの言葉を聞いて、俺はテルナドを下ろして立ち上がる。

 総指揮ブリッジ、玉座前の床が開く。

 人が一人入れば一杯になる、小さな、円筒形の空間が床下に現れる。

 俺はその中に飛び込み、結跏趺坐に座る。ブリッジの床が閉じられ、密閉した空間となる。

「イデア、瞑想室の霊子結晶を全て直列起動させろ。」

 俺の言葉を受けて、イデアが操作を始めるはずだ。

『幽子加速器稼動、直列霊子結晶に幽子を流します。』

 瞑想室と名付けたその空間、床、壁、天井の全てが霊子結晶で出来ている。その床が蒼白く輝き、壁、天井の順で輝きを伝播させる。

 深く息を吐き出し、大きく空気を吸い込む。

 体の中の霊子を高速で巡らし、体中の霊子回路を高速で回転させる。

 心臓が激しく鼓動を打ち、全身の血流速度が上がる。

 俺が魔虫を駆除した時、脳内の毛細血管は千々に千切れていたとイデアが言っていた。

 しかしその血管がマイクロマシンも使用されずに瞬時に修復されたのだとも言っていた。

 何森源也だ。

 神を僭称するあの男が精神世界から俺の体を修復したのだ。

 精神体、霊子体、肉体は密接に繋がっている。

 精神体を失くせば暴走し、霊子体を失くせば活動を停止する。肉体を失くせば精神体と霊子体は霧散する。

 全てが繋がっているのならば、その全てを使う。

 イズモリと戦うのに余力を残すことなどできない。

 霊子体も肉体も使って、精神体で戦う。

 奴の肉体はどこにあるのかわからない。

 精神体を分解することの出来る波状マイクロマシンが存在するのなら、そのマイクロマシンの奪い合いになることも予想しなくてはならない。

 勝負だ。

 俺は白い空間へと飛び込んだ。

 人間の無意識界。

 全ての人間が繋がっている無意識層の世界だ。

 精神体、もしくは霊子体の持つ周波数が、近しい者だけが会うことの出来る世界。

「無駄なことを…」

 俺の前に老人が立っていた。

 知らせた覚えはないんだがな?

「ソウタ、私の複製が教えてくれたのだ。そろそろ貴様が私に勝負を挑むだろうとな。」

 なら丁度いい。

 お前は俺から半身どころか五身も奪った。お前を許す訳にはいかない。

「まったく、何が不満なのだ?お前が、神の使徒として働けるように、国体母艦なる物もイデアを通じて創ってやったではないか?魔獣災害と魔虫災害を発生させて、貴様が世の救世主となったではないか?お前は世界の王として君臨すればよいのだ。何が不服なのだ?」

 言ったろう?お前は俺から、俺達を奪った。

「…よかろう。私も長年、退屈していたのだ。貴様の遊びに付き合ってやろう。」

 俺は瞬間移動と錯覚する光速で、何森源也の懐に飛び込み、鳩尾への一撃を放つ。

 何森源也の鳩尾を突き抜け、俺の右拳が何森源也の背中から生える。

「精神世界では、事象その物が存在しない。今、こうして話していることすら物理現象ではないのだ。物理現象になぞらえているだけで、このように結果だけが起こる。」

 俺は右手を捉えられたまま吹き飛ばされる。

 右手が何森源也の鳩尾に残されたまま、俺の右肩からは右腕が消失していた。

 痛みはない。

 演算能力の差と理解する。

 六十四万八千二百五十二人の脳を直列起動させ、俺の脳へと繋げる。

 何森源也の鳩尾から俺の右腕が消え、俺の右肩から元通りに生える。

「そうだ。やっと理解したか。この世界では演算能力が全て。私を倒したいのなら、私の演算能力を超えて、私の描く事象の結果を上書きするしかない。」

 ふん!!

 再び、何森源也の懐に飛び込み、光速の連打を打ち込む。

 俺の連打は悉く弾き返されるが、先程のように何森源也に取り込まれることはなくなった。

 それでも遠い。

 何森源也の肉体が限りなく遠い。

 おお!!

 雄叫びと共に連打の回転を上げる。

 脳のクロック数を引き上げるために、既に心拍数は三百を超えている。

 マイクロマシンで無理矢理に、肉体の限界を突破している状況だ。

 何森源也の眉が僅かに動く。

 まだだ。

 もっとだ。

 俺は直列している霊子結晶から、光速へと加速された霊子を取り込み、加速を維持したまま霊子回路へと流し込む。

 何森源也の顔面を数発の拳が捉える。

「むう!!」

 初めて何森源也の顔が歪む。

 まだまだぁあっ!!

「行くよ!行くよ!」

 トーヤが俺の怒りに呼応する。

「手間のかかることを。」

 沈黙していたキミマロが、俺の激情に反応する。

「くあっ!!」

 何森源也が動く。

 一撃だった。

 何森源也の一撃が、俺の腹に深々と埋まり、俺を数十メートル後方へと吹き飛ばす。

 蒼白い液体が俺の口と鼻から噴き出す。

 見えなかった。

 腹に衝撃を感じて、腹を打ち抜かれたのだと理解した。

「ふう、まったく貴様には驚かされることばかりだな。まさか、私の演算能力に縋ってくるとは計算以上の能力だ。」

 何森源也の顔が醜く歪む。

「同期化が必要だな。」

 何森源也の右手、その人差し指がチューブのように伸びる。

 未だ動けない俺の項にその指先が突き刺さり、俺の中に何森源也が流れ込む。

「意図せぬ事象に対応するためにも、貴様は全くの別人格として運用したかったが、仕方あるまい。()の操り人形になってもらおう。」

 何森源也の言葉を聞いた瞬間、俺は合図が送られたのだと理解する。

「トンナアアアアアアアアアアッ!!!」

 青白く発光したトンナが何森源也の傍に現れる。

「なに!?」

 精神世界に実体化したトンナが、斧槍を振り回し、何森源也へと斬りかかる。

「ウラアアアアアアアアアアッ!!お前がトガリを苛める張本人かい!!死んで詫びなぁあっ!!」

「アヌヤアアアアッ!!」

 アヌヤが現れ、俺の前で霊子銃を連射する。

「チビジャリを泣かす奴は!穴だらけにしてやるんよっ!!」

 霊子銃から撃ち出された弾丸は、軌道を変えて執拗に何森源也を追う。

「ヒャクヤアアアアッ!!」

 ヒャクヤが現れ、二振りの剣を回転させながら何森源也へと斬りかかる。

「変態大王の元気を奪ったやつは!!死んでごめんなさいって言うのっ!!」

「コルナアアアアアッ!!」

 コルナがテルナドを背負って現れ、何森源也の上空を飛び、苦無を投げつける。

「主を従えようなどと!何たる不遜!!その命で贖ってもらうっ!!」

「ロデムスウウウウウッ!!」

 ロデムスが現れ、イズモリに飛びかかる。

「この牙は主人のためにあるのじゃ!故に貴様には死んでもらうっ!!」

「ふざけるな!」

 何森源也がトンナ達の攻撃を(ことごと)く撃墜する。

 それでも、トンナ達は執拗に食い下がる。

「こんなものが。こんなものが何になると言うのか!!」

 何森源也がトンナ達の攻撃を捌きながら吠える。

 やはり、トンナ達の斧槍を分解したり、取り込んだりは出来ていない。兆候が出ている。

 何森源也がトンナの斧槍を掴み、トンナごと振り回し、最後はトンナを放り投げて、宙を飛ぶコルナを撃墜する。

「こんな連中が俺に通用すると思っているのかっ!!」

 俺はゆっくりと立ち上がる。

「いいや。通用するとは思っちゃいない。」

 俺が顔を上げる。

 倒されたトンナ達も立ち上がる。

「でも、時間稼ぎには十分に良い仕事をしてくれたよ。」

 何森源也の顔が驚愕に歪む。

「気付いているか?お前、さっきから自分のことを俺って言ってるぜ?」

 何森源也の目に怒りの色が浮かぶ。

「貴様…一体、何をした…」

 俺は笑う。

 目の前には俺がいる。

 怒りに顔を(しか)めた、俺と同じ年齢の更科正人がいる。

 恐らく、何森源也には俺が何森源也に見えている筈だ。

 お互いが、お互いに、自分と同じ姿を見ている。

 精神体の合わせ鏡現象だ。

「俺と直結したのが間違いの元さ。お前には、バックドアプログラムが仕組まれていたんだよ。」

 目の前の俺の顔が醜く歪む。

「俺から奪ったイズモリ、奴とは専用の秘匿回線で繋がっていたのさ。その秘匿回線を使わせて貰った。」

「き、貴様…」

 トンナ達が、さっきから忙しなく、俺達へと交互に視線を送っている。

 俺と何森源也の表情が同期しているため、百面相のように見えているのだろう。俺の言葉を何森源也も口にし、何森源也の言葉を俺も口にしているのだから、トンナ達が混乱するのも無理はない。

 俺が走り出す。

 俺も走り出す。

 俺が右の拳を繰り出す。

 俺も右の拳を繰り出す。

 互いの拳が同時に互いの顔面を捉える。

 互いの顔が同じ様に歪む。

 手を伸ばせば届く距離で、互いに両手を下げる。

「お前は何が気に入らない?同じ存在。俺から生まれたお前は、俺のコピーだ。そのコピーが、別の思考過程を経て、変質したとしても根本は同じ。お前の求める世界を俺が創ってやったのだ。俺の求める世界を、俺が創って何が悪い!」

「いいや。俺とお前は違う存在だ。俺が望む世界は、お前が望むような物にはならない。お前が望む世界は、俺の望む世界かもしれないが、俺の望む世界は、お前の望む世界とは違う。」

「なに?」

「俺とお前では決定的に違うものがあるんだよ。」

「ふん。二つの精神体がこれだけ同期したのだ。違いなど、ある物か。」

「イズモリとの秘匿回線は切り札だ。そして、これが、お前との決定的な違いで、奥の手さ。」

 俺の胸から一人の少年が現れる。

 真赤に燃え盛る炎を纏った黒髪の少年。

 その少年が何森源也である俺の顔に右の拳を打ち込む。

 打ち込まれた何森源也から、抜け出るようにタナハラが後方へと転がり出る。

 続けざまに左の拳を打ち込まれ、右へとクシナハラが抜け出てくる。

 右の側頭蹴りで、イチイハラが抜け出てくる。

 左の上段蹴りで、カナデラが抜け出てくる。

 何森源也はたたらを踏んで、後ろに倒れ込む。

 その上に少年が馬乗りになって、何森源也を殴る。

 首に足を巻き付け、何森源也から離れないようにして、少年が上から殴る。

 何度も殴る。

 怒りのままに殴る。

 俺はゆっくりと、何森源也の頭側へと回り込む。

 俺と同じ顔をした何森源也の頭部が右へ左へと殴られている。

 ブレている。

 何森源也の顔がブレて、イズモリの顔と重なっている。

 少年の拳がイズモリの顔を捉える度に、イズモリの体中に皺が増える。

 俺は右の拳を振り上げる。

 少年の右拳も振り上げられる。

「おおおおおおおおおおおお!!」

 少年よりも僅かに早く、俺は拳を振り下ろす。

 高く振り上げられた少年の右の拳が、俺の右拳と重なる。

 二人の拳が真直ぐに打ち下ろされる。

 何森源也の顔を打ち抜き、その凄まじい衝撃に何森源也の体が跳ね上がる。

 跳ね上がると同時に少年の姿が火の粉となって霧散し、老人となった何森源也が、バウンドして転がる。

 そして、さっきまで、何森源也が転がっていた場所には、俺の知っているイズモリが残されていた。

次話、最終話となります。

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