殲滅型兵器の先に死を望む
お読みいただき、ありがとうございます。
疫病災害編終了です。
ブックマークへのご登録、評価ありがとうございます。大変嬉しく思っております。
物語は佳境を迎えます。最後までお読みいただければ幸いです。
一番に、ブリッジに来たのはアラネだった。
「どうしたのよ?」
「うん。全員揃ってから話すよ。」
俺は激しい頭痛に耐えながら、静かに答える。
俺の面持ちが普段と違うせいか、それっきり、アラネは口を開くことはなかった。心配そうに俺を見ているだけだ。
やがて、全員が揃う。
その全員が沈痛な面持ちで俺を見詰めている。
全員が苦しそうに歪む俺の顔を見て、普段と違うことを察している。
「トンナ、座らせてくれ。」
俺の言葉に従い、トンナが俺を抱え上げ、玉座に座り、その膝の上に俺を座らせる。
「ど、どうしたの?トガリ、凄く熱いよ?」
俺に触れているトンナだけが俺の発熱に気付く。
「そうなんよ。凄く苦しそうなんよ。」
アヌヤが屈んで、俺の額に手を置こうとするが、その手を掴む。
「変なの。エロガキ国王が、真剣な表情で、切羽詰まってる感じがするの。」
ヒャクヤの言葉に俺は視線を上げる。
俺の前にいたアヌヤの顔が驚きに歪む。
「チ、チビジャリ…どうしたんよ?目が真赤なんよ…」
毛細血管が破れて、強膜である白目の部分が真っ赤に染まっているのだろう。
アヌヤの言葉をきっかけにしたように、俺の鼻から、耳から出血が始まる。
「ヒッ!」
「ちょ、ちょっと!トガリ!どうしたの!?」
「チビジャリ!!」
「主よ!!」
「やっ!」
俺は正面を向いたまま話し出す。
「喋るな。」
全員が押し黙る。
「今から言うことをよく聞け。」
全員が眉を顰めて俺を凝視する。
「俺は帝国の人間を救うために死ぬかもしれん。」
全員が口を半開きにして、悲しげな表情を露にする。
「俺が死ねば、アラネを除く全員が死ぬ。コルナの娘には申し訳ないが、テルナドも同じだ。」
俺とトンナ達は契約によって、魂が結ばれている。
俺が死ねばトンナ達も死ぬ。
「お前たちが契約の解除を望めば別だが、そうじゃないなら、覚悟を決めてくれ。」
トンナが俺の頭を撫でる。
「ね。前にも言ったでしょ?お願いするんじゃなくて命令して。その方が、あたしは頑張れるの。」
アヌヤが仁王立ちになって、腕を組む。
「ふん。覚悟なんていらないんよ。チビジャリが死んじゃったら、こんな世の中、生きてても仕方ないんよ。」
ヒャクヤがアヌヤに代わって、俺の前に屈む。
「フ~ンだ。エロガキ魔王が頼むから、仕方ないの。」
コルナがヒャクヤの後ろに立つ。
「主よ。私は主のための存在だ。娘も同じ。ならば、我ら親子に気兼ねなど無用。存分にやりたいようにやるがよい。」
「なに言ってんのよ、あんた達…頭おかしいんじゃないの?」
アラネだけが、混乱してる。
「トガリ!一体何をしようっていうのよ?何なの?一体どうして、帝都の人間を救おうとするとトガリが死ぬかもしれないのよ!?」
「アラネちゃん。何もわからなくっても良いのよ。トガリが何かをするために死ぬかもしれない。でも、その場にあたし達を呼んでくれたってことが大事なのよ。」
トンナが優しく諭すように話す。
「トガリ、あたし達を嘗めないで、あたし達は、生半可な気持ちで契約した訳じゃない。」
俺の脳は既に限界に近い。
それでも、自然と笑えてくる。
微笑みながら、一瞬のタイミングを逃すまいと、必死に演算を繰り返す。
鼻と耳から流れる血が、ひどくゆっくりに感じる。
五十三万四千五百六十二匹の魔虫。
マーキングするだけならば問題はない。
俺はトガナキノ国に散布していたカメラ用の魔虫を帝都内にばら撒いた。
俺のカメラ機能を備えた魔虫が、伝染病を媒介する魔虫を追尾し、モニターしているのだ。そして、その情報の全てが、俺の脳へと送られて来る。
驚異的な情報量の負荷に俺の脳はパンク寸前だ。
涙が流れる。
きっと、血の涙だ。
五十三万四千五百六十二匹の魔虫を同時に殺す。
そのためにモニターしているのだ。
一瞬のタイムラグもなく、同時に全て殺す。
魔虫を殺すためにマイクロマシンを高速運動させて、炎で殺すことも考えたが、現状のマイクロマシンの数では絶対数が足りない。
シンプルに叩き殺すしか手がない。
俺には六十四万八千二百五十二人の量子情報体がある。その内の五十三万四千五百六十二人を実体化させて、魔虫を叩き殺す。
盛大な駆除だ。
そして命懸けの蚊取りだ。
「マスター。これ以上の負荷は危険です。マスターの特殊なS.C.C十基はマスターの脳と直列起動しております。S.C.C十基と同等の演算速度は生体の脳では出せません。」
「俺の脳味噌が焼き切れるかもしれないってことだな?」
「そうです。中止することを推奨します。」
六十四万人分の脳を使えば可能なのだろうが、今はそれが出来ない。五十三万人分の俺を作り出さなければならないからだ。
五十三万四千五百六十二人の俺を一瞬でも操れることが出来れば俺の勝ちだ。
いいか?お前ら一人当たり、約九万人の分担だ。
『用意は出来てる。』
『良いよ。』
『やってやるよ。』
『いつでも来いってんだ!!』
『しょうがない。死なないことを祈ってるよ。』
以前、俺はヘルザース達の前で六十四万八千二百五十二人の俺を実体化させたことがある。霊子体と肉体を分割することは出来ても精神体を分割することは出来ない。
だから、あの時は単純で、斉一な動作しかさせなかった。
剣を振り上げ、雄叫びを上げさせただけだ。
でも、今回は違う。
五十三万四千五百六十二匹の動く蚊を叩き潰すのだ。
動き回る蚊を認識し、狙い、叩き潰す。
この単純な作業を五十三万四千五百六十二人の俺に、同時にさせなければならない。
魔虫の増殖スピードは最速で〇.三秒。
一匹の打ち漏らしも許されない。
チャンスは一回。
フッ、どんなムリゲーだよ。
成り行き任せで、ここまで来た。
何も考えないで、ここまで来た。
そのツケがここに来て、まとめてやって来た。
俺はトンナの手を握る。
その上からヒャクヤが手を置き、握る。
アヌヤが、俺のもう一方の手を握る。
コルナがその上から手を置き、握る。
トンナと出会って、魔狩りになることを決めた。
アヌヤとヒャクヤと出会って、村出の嫁を廃止することを決めた。
コルナと出会って帝国を救うと決めた。
やりたいようにやって来た。
そして、今も、俺はやりたいようにやって、この女達を道連れにするかもしれない。
逃げても良いが、女達はそんな俺を許さないだろう。
この女達は、俺が、こうするからこそ、命を懸けるのだ。俺がこうするとわかっているからこそ、俺の傍にいるのだ。
俺が死ななければ問題はない。
俺は死なない。
行くぞ!
『おう。』
『うん!』
『オーケィ!』
『おお!』
『いいよ!』
帝都中の至る所で黒尽くめの俺が現れる。
路地、街道、屋上、個人の部屋、病院、王宮内、トイレ、浴室、周りに人がいようがいまいが関係ない。
一斉に俺が現れ、一斉に蚊を狙って動く。
常人では捉えることの出来ない動きで俺達の両手が柏手を打つ。
帝都内で強烈な破裂音が響き渡る。
たった一回の破裂音。
巨大な破裂音を残して、五十三万四千五百六十二人の俺が消える。
刹那の時だ。瞬きをした瞬間に、黒尽くめの俺が現れ、消えるほどの時間。
人によっては、錯覚か幻を見たような気になるだろう。
しかしその耳にはしっかりと残った筈だ。
五十三万四千五百六十二人の俺が打ち鳴らした柏手の音を。
「マスター。Iナンバーズが殲滅されました。」
イデアのその言葉を聞いて、俺は意識を消失した。
お読みいただき、ありがとうございます。
次話から、最終章、神への反逆使徒編を開始します。もう、しばらく、お付き合いいただければと思います。
本日の投稿はここまでとさせていただきます。ありがとうございます。




