トリオ・ザ・バカがカルテットになりました
急遽、三隻の航空母艦を呼び寄せ、ヒラギ族の救護活動を始める。
トリアージした結果、生存者は五百二十三人、最初に俺が確認した人数と同じだ。
その内、危機的状態にある百六十五人を対象に、優先的にマイクロマシン薬を投入する。
航空母艦には、戦時病院としての役割もあるので、事前にマイクロマシン薬が保管してあり、治療用のカプセルも二百五十基設置してある。
国体母艦では、俺の指示を受けたローデルが急ピッチでマイクロマシン薬を製造しているはずだ。
子供、高齢者、女性の順に航空母艦の治療用カプセルの中に入れていく。
全員にマイクロマシン薬を経口投入し、航空母艦に収容。
俺達は国王政務専用艦にて国体母艦に戻ることとした。
ヒラギ族の里を見下ろすと、村の住人を全員、攫ったような光景だ。
家畜もマイクロマシン薬を経口投入してから、マイクロマシンで殺菌洗浄し、航空母艦に搬入してある。
家畜用の飼料に、備蓄されていた食料は、ウイルス混入を避けるため、粒子に分解して保存した。
それでも、食料、飼料、家畜については、じっくりと検疫する必要があるので、家畜は隔離状態だ。
「なんか、強制移住みたいで、後ろめたいな。」
俺の言葉に、コルナが即座に反応する。
「主よ、その認識は間違いだ。主は私の里、ヒラギ族を救ったのだ。ヒラギ族の誰かが、ヒラギ族以外の者でも、この行為に異議を申し立てたのなら、私がこの手で殺してくれる。」
中央のメイン操船席に座るコルナが、怖い顔で俺の方を見てるんだよなぁ。俺に怒ったって仕方がないのに。
「そうよ。コルナ、トガリは神様なんだから、トガリに逆らう奴らは、皆、罰が当たれば良いのよ。」
消耗し切った俺を抱くトンナが、カルト宗教嵌まり思考を口にする。
「まったくだ。トンナの言うとおり。主に逆らう者には神罰を持って罪科を払ってもらわねばな。」
オイ、オイ。コルナまでカルト宗教入りかよ?もう勘弁してくれよ。禊の効果はどうしたんだ?
思わず頭を抱えた俺の耳に、ズヌークからの通信が入る。
『陛下、帝国側から、神州トガナキノ国側が、一週間後に正式な使者を立て、会談内容を申し立てよ。との返答がございました。』
「正規の手順ならそうなるな。」
コルナの方へと視線を向ける。
「主よ、意に添わぬなら、私が殺してくるが?如何する?」
あかん。トンナと同じ発想だ。誰がそんなこと言ったよ。お前を見たのは別の意味だよ。
「ダメよ。トガリは人が死ぬことを凄く嫌うの。だから、生きたまま動けないようにしなくっちゃ。」
トンナ、こんなことで先輩風を吹かすなよ。
「そうか。主は人死にが嫌いか。わかった。では、薬を使って、洗脳魔法を仕掛けるか。」
「いや、そんな必要はないから。」
俺の言葉にコルナが俺の方を見る。
「コルナ、お前は帝国の密偵頭のままだろ?」
コルナが目を見開く。やっぱり忘れてたのかよ。もうすっかりトガナキノ国の国民になりきってるな。
「あ、主よ。わ、私は、主の下僕としての己を優先しているのであって、決して、己が帝国の密偵頭であることを忘れていた訳ではないぞ?」
うわ~、コルナも三馬鹿獣人娘の仲間入りしそうな雰囲気だよ。
「なんか、俺と付き合ってると、皆が皆、馬鹿になってくような気がする…」
「な!」
「ええええ?」
「うにゃ?」
「にゃにゅ?」
コルナが立ち上がり、手を振り回す。
「な、何を言ってる!私をコイツらと一緒にするな!」
トンナが俺の顔を覗き込む。
「何で?トガリ、なんで、そんな落ち込んだ顔でそんなこと言うの?」
アヌヤが振り返る。
「チビジャリ、どういうことなんよ?あたしは馬鹿じゃないから、チビジャリと付き合ってないってことなんかよ?」
ヒャクヤが俯き、ブツブツと呟く。
「え?馬鹿にならないと変態ロリ好き魔王と付き合えないってことなの?どうすれば馬鹿になれるの?」
「ちょっと!アヌヤとヒャクヤは黙ってなさいよっ!あんた達がそんな馬鹿なことばっかり言うから、あたしまで、トガリに馬鹿だと誤解されるじゃない!」
「なに言ってるんよ?トンナ姉さんなんか筋金入りなんよ。」
「主よ、私はこれでも、ローデル閣下の元では優秀な秘書として働いてきたのだ。せめて、コイツらと同類視するのは止めてくれ!」
「ハア~あ。これだからバカンチョは手に負えないの。自分のことを賢いと思ってるバカンチョが、一番困るの。」
ああああ~あ。もう、ズヌークとの通信中だってのに、何でこうも姦しいのかねぇ。
トンナは俺を膝の上に抱えてるから、立ち上がってないけど、こいつら、全員シートから立ち上がって、やいのやいのと煩いったらないよ。もう、俺とズヌークとの通信はそっちのけで、馬鹿一位決定戦状態になってるよ。
コルナ、操縦はどうした?
同レベルで遣り合ってる時点で、やっぱり、コルナも馬鹿認定だ。
『陛下!!!!』
うん。怒鳴らなくても、俺は聞こえてたよ。
ズヌークの怒鳴り声で、やっと全員が静かになる。
さっきから、何度もズヌークが呼び掛けてたんだけど、煩くって、返事出来なかったんだよ。
「おお、ズヌーク、すまん。こっちの方で煩くってな。返事が出来なかった。」
コルナ達が何事もなかったかのように自分のシートに座り直す。
「ズヌーク、とにかく、正式な使者は俺の方が選定して出すから、了承の旨を帝国に伝えてくれ。コルナには、帝国の密偵頭として、俺達の情報を少し流させる。お前達はそのまま帝都上空で待機してくれ。」
『わかりました。』
「それと、わかってると思うが、ヒラギ族で蔓延してた伝染病、帝国全土に広がってる恐れがある。対処出来るように国体母艦で薬の製造を休ませるな。」
『御意。』
ズヌークとの通信が終了して、コルナが俺の方を振り返る。
「どうすれば良いのだ?普段の帝国とのやり取りは、伝書鳩が主な通信手段なのだが?」
俺はコルナの言葉に頷き「うん。」と応える。
「そうだな。瞬間移動で、コルナを先に送り込む。で、頃合いを見計らって、俺が直接行くよ。」
「ええ!?トガリ、また、単独行動するの?もう、止めてよ。あたしも連れて行ってよ。」
トンナが眉を顰めて、泣きそうな顔で訴え掛けてくる。
「単独行動じゃないよ?コルナがいるから。」
トンナの顔が泣きそうな顔から、嫌そうな顔に変わる。やっぱ、コルナ、スゲエ嫌われてるな。
「トンナ、お前は主から指輪を貰ったのだろう?ならば、もう少し、主の言うことを聞いたらどうだ?」
いや、コルナ、嫌われてるお前が、それを言うのはどうかと思うぞ?
トンナが、口を尖らせながら「わかったわよ。」と小さな声で応えた。
なんだ。
案外トンナとコルナって相性が良いのかもしれないな。
「主よ、主の手を煩わせて済まないが、私をアンダルかっ、ゴホンッ。アンダルの元まで送ってもらえるか?」
アンダル閣下と言いそうになって訂正したな?そういうところは律儀だな。
「わかった。でも、アンダルのことをアンダル閣下って言っても良いんだぞ?」
「いや。その点はケジメだ。節度を持った言動が、私を周囲に信用させるのでな。」
成程、密偵としての心得ってことか。
「じゃあ、先に送り込むが、くれぐれも注意しろ?イズモリとの連絡を中断させるなよ?」
コルナがあからさまに嫌そうな顔をする。
「その、できれば通信機での連絡は駄目なのか?」
「口が動くし、お前が見ているものはイズモリにも見えているからな。イズモリとの同期連絡の方が、がぜん効率的だ。」
コルナの顔が歪む。よっぽどイズモリのことが嫌いなようだ。おかしいな?イズモリも俺の一人なんだけど。
「そんなに嫌そうな顔をするなよ。イズモリだって俺の一人なんだから。」
「いや、主と違って、あの主は可愛げがないのだ。いつも、私の行動に横槍を入れてくるので、結構神経を使うのだ。」
「まあ、そう言うな。奴もお前のことが心配なんだよ。それに、お前の娘を助けるのだって、イズモリがいなけりゃ出来なかったんだからな?」
コルナが眉を顰める。
「奴も主だから、嫌いとかではないのだ。ただ、苦手というか、対応し辛いというか…」
ああ、成程、そっちね。
「そりゃイズモリのことが好きだから対応しにくいってことだろ?」
コルナが頬を真っ赤に染める。
「いや、そんなことはないぞ。うん。そんなことは…」
自信なさげに答えているが、間違いない。
「わかった、わかった。じゃあ、送り込むぞ?」
「う、うむ。」
俺は、コルナを帝城のアンダルの元へと送り込む。帝城内には既に俺のマイクロマシンをばら撒いてある。
そのマイクロマシンが送って来た情報では、帝城内にも伝染病が蔓延している。
アンダルは無事だが、カルザン皇帝はその伝染病に罹患している状態だ。
このまま放置しておけば、一週間後の会談は反故にされる。まあ、ちょっと行って、ちょちょいと治すだけだ。へたった俺でも、なんとか出来るだろう。
カルザンの元へと俺を如何にして案内させるか。それが、今回のポイントだな。
瞬間移動で、直接カルザンの目の前に移動しても良いのだが、そうすると、カルザンとお友達になるという、最大の目的から遠ざかることになる。
汚いと思われるかもしれないが、この状況を最大限に生かせるようにコルナには頑張ってもらおう。
『アンダルと接触した。』
イズモリからの報告が届く。
アンダルに対するコルナの報告内容は、ハルディレン王国で起こった魔獣災害に始まり、ハルディレン王国の貴族が壊滅状態であること、トガナキノ国の建国、国体母艦についてと、ハルディレン王国で起こった一連の内容がなされた。
『魔獣災害を治めたのは、この国体母艦の装備で行ったことにしてるな。』
まあ、目の前に、巨大な国体母艦が浮かんでるんだ。その方が説得力があるだろう。
問題はどうやって、俺をカルザンに引き合わせるかだ。
『心配はなさそうだ。』
上手く誘導できたのか?
『いや。全部、ぶっちゃけてる。』
え?
『二回、カルザンを来訪してるだろう?』
ああ、挨拶がてらに一回と、借金に一回な。
『その時の俺達が、トガナキノ国の国王だとぶっちゃけてる。』
ええ?
『あの時の黒い衣装を纏った俺達は、実は、悪魔の振りをした神の使徒で、カルザン帝国を試したんだそうだ。』
はあ?
『で、今回の疫病の蔓延も、その神の試練だそうだ。』
なんじゃそりゃ。
『あの国体母艦は現実世界に顕現した神の国で、最後の審判から救われた、選ばれた民が乗ってるんだと。』
コルナってカルト宗教の勧誘に行ったんじゃないよな?
『今も、人の振りをした神の使徒が、カルザン帝国を試すために使者を送って来たろうと、アンダルに詰め寄ってるな。』
オイ、オイ。ズヌークが神の使徒かよ。
『三度目の試練、この疫病の蔓延が最後の試練で、今回、神の使徒に許しを請わなければ、カルザン帝国は滅亡するとか言ってるな。』
オイ。神の使徒を呼んで来いよ。
『行くぞ。コルナが祈った振りで、俺達を呼んでる。』
俺は思わず、肩を落として大きな溜息を吐いた。
悪魔の次は天使かよ…
『ズヌークが、カルザン帝国に神州トガナキノ国って宣言してたみたいだしな。』
ズ、ズヌーク…貴様もか…
俺は心の中で、絶対、仕事しねぇ!と、誓った。




