つかまえた
ありがとうございます。初レビュー、総合ポイント初三桁。お読み頂いただけでなく、レビューや感想に面白いと書いて頂き、誠にありがとうございます。作者、泣いております。
数日後、コルナ達は上手く話をまとめて来た。
ディラン・フォン・コーデル伯爵領の次期当主の座を巡って、長男と次男が一触即発の状態だったが、トネリ級駆逐艦二隻の登場で一気に変わった。
当初の予定通り、次男のデリノース・コーデルの後ろ盾になることで、長男は廃嫡、デリノース・コーデルが家を継ぎ、ディラン・フォン・コーデル伯爵領のコーデル都をハルディレン都と改め、遷都することとなった。近い将来、トレイザース・プリンコ・デク・オク・ハルディレン王子が王位を継承し、デリノース・コーデルはデリノース・フォン・コーデルとして正式に伯爵を世襲することとなる。
俺達は現デリノース・フォン・コーデル伯爵領の中から、ズヌーク・デロ・セヌーク男爵領から東を割譲させ、俺達の国土とした。
街道男爵達は爵位を投げ捨てて俺達の国に属するか、ハルディレン王国に忠誠を誓い続けて、街道男爵としての爵位を失うかの岐路に立たされ、結局、俺達の国に属することを選んだ。
つまり、街道からの税収を選んだのだ。
しかし、トガナキノ国は国体母艦が主要な国土であることから、街道男爵達はその税収を失うことになる。
俺が地上の街道を廃止するからだ。
地上のトガナキノ国については、全て耕作地と牧草地へと用途を変更する。街、街道、そういった物は一切認めない。
トガナキノ国の国民は、全て、国体母艦で生活し、地上へと通勤するのだ。
トガナキノ国の地上で認められた建物は、農地、狩猟等の生産地監督用建物のみ、その建物には作業用の道具としてのマイクロマシンコントロールルーム、あとは、作業者の休憩室、トイレ、シャワールームぐらいの部屋しかない。
作業と言っても、その全てをマイクロマシンが行う。作業員は監督用建物からマイクロマシンに指示を出しているぐらいになるだろう。
これは海上も同じだ。
ズヌークの領地から以東は全て、俺達の領地だ。その領地には海も含まれる。
俺は、海上に養殖用の生簀を作り、漁業にも力を入れるつもりだ。
国民は、働かなくても食べていけるが、勤労の義務が法律で明文化されているので、皆、こぞって働きだした。
就労しなくても罰則規定はないのだが、禊による効果が良い感じで出てるようだ。問題は国民全員がブラック企業が当たり前にならないように気を付けなくてはいけない。
一つ一つの作業量はマイクロマシンのお陰で、かなり軽いが、それでも継続的に長時間作業していれば、疲弊する。
厚生労働担当には現場上がりの者を就けた方が良いかもしれない。
孤児院の教育も順調だ。
必要最低限の知識は、直接、脳に植え付けているので、スムーズに勉強が捗っているようだ。基礎的なことは、全て植え付けているので、落伍者が出ないのも利点だ。
十二歳までは、学校教育を受けてもらい、十二歳からは、トガナキノ国社会で必要な知識と教養を身につけるため、公務に勤しむ、十六歳で一旦退職し、その後は自分の好きな職業に就いてもらう。そのまま、公務についてもらっても良いし、学生に戻って研究に没頭してもらっても良い。公務に戻った場合は新任の教育係になってもらうつもりだ。
少年少女の内に、公務員になってもらうのは、社会の決まり、遵法精神を養うには、一度、公務員を経験するのが最も適切だと考えたからだ。
ただ、法律に詳しくなって、その法律を悪用しようとする者が出てくる可能性はあるが、それも、禊効果で、いないだろうと思う。
そうあって欲しい。
国のシステムが動き出し、人々が働きだした。
人々が働き出すと、やっぱり何かと問題が浮上する。
一つはギルドだ。
ハルディレン王国では、各業種ごとにギルドを認めていた。これは、各業種の利益配分を確保するために民間から王国に嘆願された結果だ。
各業種は、持ち株を配分し、その株を所有している者にしか、起業を認めない。そうすることで、同業者の乱立を防止し、自分たちの利益を確保するのだ。
このシステムは、トガナキノの経済活動と真っ向から対立する。
しかも、後々は、選挙制度を導入したいと考えている俺としては、真っ先に叩き潰しておきたい制度だ。
と、言うのも、選挙制度の弊害として、数をまとめることの出来る個人の力が、肥大化するというのがあるからだ。
ギルド長ともなれば、株の所有権を取り上げたり、談合することで利益配分を操作したりと、ギルド員を思うがままに操ることが出来てしまう。
そんな奴の存在を認めてしまっては、当選した奴はギルド長の言いなりだ。
だから、俺は、二つの防止策を講じた。
一つは、移民してきた国民のコミュニティの解体だ。
移住してきた者たちは、多種多様だ。
ヤートに獣人、魔法使いに、貴族に犯罪者、商人もいれば、農民に職人だっている。
ただ、それぞれが地上では、それぞれの地域でコミュニティを形成していたという共通点を持っている。
移住開始の頃に、俺は、そのコミュニティは解体させるよう、ヘルザースたちに命令した。
「陛下、そのご命令を考え直して下さいませんか?」
ズヌークが安寧城の廊下で泣きついてくる。
「我らにも、過去の柵と云うものがございます。そのようなご決定を下されれば、今後の政に支障をきたします。」
これは、ローデル。
ヘルザースは黙って俺の後ろを付いてきている。
「貴様の言う柵ってのは、元貴族のことか?」
俺の怒り気味の声に、ローデルの動きが僅かに固くなる。
「はい、ただでさえ、元街道男爵であった者たちは不平を募らせております。その上、各貴族の領民たちをバラバラに住まわせたのでは、自治が不可能な状態となってしまい、執政官の負担が増大致します。」
俺は立ち止まり、振り返る。
「それでイイんだよ。自治なんて、最低限のもので構わねぇんだ。大体、今後は国民全員が一度は執政官になるんだ。そうなりゃ、嫌でも勝手に自分たちでなんとでもするようになる。」
ヘルザースが前に出てくる。
「では、国民の居住区の配置は、既にお考えになられて?」
ヘルザースの言葉に俺は頷き、数十枚の紙を再構築して、ヘルザースに差し出す。
ヘルザースは頭を下げて、恭しく、その紙束を受け取った。
「元々まとまっていた奴らが、完全にバラバラになるように家を割り当てた。各地域には、各業種の者、ヤート、獣人、犯罪者、奴隷、執政官、貴族、魔法使いが配置してある。」
ヘルザースが紙束をめくり、それをローデルとズヌークが覗き込む。
「これは、じ、獣人は、種族もバラバラにしてしまわれるのですか?」
「セディナラとエダケエの者たちが、入り雑じっておりますぞ?そ、それに、貴族の者と執政官が、城から離れすぎておるのではございませんか?」
ヘルザースは黙って紙束を見ているが、ローデルとズヌークは侃々諤々だ。
「だからぁ、バラバラにするって言ったろ?それで、一、二ヶ月様子を見ろ。どうせ、新たなコミュニティを勝手に形成するから、そうなったら、各業種が均等に配置できるように、再度、移住命令を出す。言っとくけど、俺が度々移住命令を出すのは黙っとけよ?何なら箝口令を出すからな。」
ローデルとズヌークは、俺の言葉にポカーンだ。多分、俺が本当に意図している事が理解出来ないのだ。
ただ一人、ヘルザースだけが、その口角を上げて、口を開いた。
「成程、犯罪者は犯罪者でも、今はトガナキノのために働いておるセディナラとエダケエの者と、そして、未だ犯罪者から抜けきれておらぬ、元は野盗であった者どもが混在しておりますが…ふむ、セディナラとエダケエの者たちは、今は、治安維持の衛士にもなっております故、これならば、みな、安心致しますでしょうな。」
ローデルとズヌークがヘルザースの方へと顔を向ける。
「それと、ヤート族と奴隷は優先的にS・C・Cを作成させておりますし、獣人たちは、元から霊子回路を備えております故、マテリアル生成器とM・M・Cの扱いには長けておりましょうな。成程、この者たちに、マテリアル生成器の扱いが不得手な者たちの面倒を見させるのでございますな?」
俺は、ヘルザースの言葉にニヤリと笑い、ローデルとズヌークは驚きの表情を浮かべる。
「成程、なるほど。ゆえに、貴族と執政官、それにギルド長のS・C・Cの作成を後回しにしておると。」
S・C・Cが発達しなければ、マテリアル生成器の扱いに、かなりの労力を必要とする。
それを助けてくれるのは、獣人であり、魔法使いであり、ヤートであり、元犯罪者であったセディナラとエダケエの奴らだ。
「陛下も意地が悪うございますな。コミュニティを解体すると仰りながら、その実、新たなコミュニティが形成できるように配置しておられる。しかも、その配置は、身分の低い、ヤート、獣人、犯罪者の地位向上を狙ってのことですな。」
「な、なんと…」
「そのようなことを…」
驚くローデルとズヌークを置き去りにして、ヘルザースが言葉を続ける。
「しかし元は身分の低い者ども、人々の上に立つようになれば、無下な態度をとる者も出てくるでしょうが、それをとどめるのが魔法使いということでございますな。」
ヘルザースが大きく笑う。
「そして、この新たなコミュニティ内で、力関係が形成される寸前で、再度、移住命令を出し、その力関係を無かったものにしてしまうと、まあ、確かに、ギルドを解体しておけば、極端に力を持つ者は生まれ難くなりましょうが、それでも…」
「そうだ、力を持った奴、数を束ねる奴は生まれてくる。」
俺の言葉に、ヘルザースが頷く。
「しかしその頃には、倫理教育が行き届き、国民全員が、一度は、執政官を経験しておると。さすれば国のことを考え、周りに配慮し、無体なことは行わず、人々のために力を使うということですな。」
俺は頷く。
「お前らの後任、準備しといた方がイイだろ?」
俺の言葉に、笑いながら頷いたのは、ヘルザースだけで、あとの二人はポカーンだ。
「しかしそうなりますとルブブシュの仕事が重要ですな?」
このヘルザースの言葉が、俺の考えている防止方策の二つ目だ。
ルブブシュは孤児の面倒を見ているため、そのまま教育関係を取り仕切っている。
「そうだ。だから学校の人材は充実させなきゃならない。」
俺は振り返って歩き始め、三人が、それに追随する。
「その事にも、何かお考えがあるご様子ですな。」
ヘルザースが楽し気に聞いてくる。
「教師には施療術に長けた魔法使いを重点的に採用しろ。」
「差し支えございませんでしたら、その目的といたしておるところをお教えいただいてもよろしいですかな?」
ヘルザースの調子が上がっている。
「まず、この国では、施術士は廃業だ。」
全て、国の施療院が治療してしまう上、その治療行為に、不確かな魔法は必要ないからだ。
「そして、大人も、一旦は、学校で勉強させなきゃならない。元から、ある程度の社会的地位のあった魔法使いが適任だ。」
「成程、納得でございます。」
三人はこれで納得したが、俺は、その先も考えていた。
将来、子供だけが、学校に通うようになれば、人を治療してきた施術士の力がものをいう。
能力の低い子供は、必ずと言っていいほどに障害を持っている。
その障害が軽ければ軽いほど、発見することが難しい。
ただの教員では、成績をつけるだけで、子供の異常を発見しない。
障害を確定させるのは、医者であって、教師ではないので、そのような視点で子供たちを見ないからだ。
だから、今後は、施療院で働いていた者には、積極的に教師へ転職する制度をつくらなきゃならない。
と、まあ、そのような事があったから、店舗部分の割り当てに一苦労したが、それでも、物と活気が溢れてきた。
ヘルザース、ローデル、ズヌークは忙しそうに書類と睨めっこが続いている。
セディナラ、カナデ、カノン、クノイダは走り回っている。
ルブブシュは子供達に追い立てられている。
エダケエとセディナラの構成員は、全員、乗船した。今はヘルザース達の私兵達と兵役に就いている者がほとんどだ。後は警察官となってくれるだろう。
ヘルザース、ズヌーク各領の領民達の移住も順調だ。
フェーン現象が収まり、作物の育成が例年とは違うことに気付いた農民は、ヘルザースからトガナキノ国の活躍を聞いて、こぞって乗船を申し出ている。理に敏い商人は、人口の減少と魔獣災害の影響で、やはり、国体母艦への乗船を希望している。
ハルディレン王国の獣人とヤートも全て、この国体母艦に乗船した。トガナキノ国では、獣人に対する偏見もヤートに対する差別もない。
獣人達には、トンナ達と同じように、人化する方法を公開してある。いまや、トガナキノ国では獣人も人と同じ姿で過ごすのが当たり前になりつつある。
他国には漏らしていないが、トガナキノ国では秘密ではない。
領民の乗船が終われば、避難民の再受け入れだ。ヘルザースの提言で、王都では、五十人の文官が仮の行政執務を行っている。
俺はトンナの肩の上で、そんな街を眺めながら、店を冷かしていた。
「マテリアル生成器が家にあるから、皆、引きこもって出てこないかと思ったけど、結構人がいるね?」
「ああ、同じ買うにしても、一度、実物を見るように推奨してるからな。」
通信販売の罠に陥ったことがある経験から、俺は実物を見ないで購入することに否定的だ。
実際に商品の良さ、問題点を店員に教えてもらうのも重要だ。特に商品をデータから物質化することは出来ても、新商品を知る術はない。
この国では広告を禁止しているからだ。
店に行って、直接、実物を見て、使用方法を店員から教えてもらう。使い心地が良ければ、口コミでその商品は売れる。無理に売る必要はない。
皆、働かなくても食べていけるのだから。
「でも凄いね。」
トンナが周りを見ながら呟く。
「そうだな。」
「ううん。そうじゃないの。」
何のことかわからずに、俺はトンナの方を見る。
「街が凄いんじゃなくて、そこにいる人が凄いの。」
やっぱりよくわからん。
「出来立ての街だから綺麗なんだけど、避難民だけがいた時は、直ぐに汚れたじゃない?」
ああ、そういうことか。
「そうだな。皆、綺麗にしてくれてる。」
「うん。桜の花弁が舞ってるけど、明日の朝には、きっと綺麗に掃除されてる。」
確かに、踏みつけられて、石畳にこびり付いたような花弁は少ない。きっと、頻繁に掃除されてるせいだ。
俺は街路樹に桜と楓を選んだ。
夏は木陰を作り、冬は陽の光を遮らない。しかし、その管理、特に落葉の掃除が大変だ。
桜に至っては、花弁と花の軸が落ちる。
それでも、敢えて、俺は桜と楓を選んだ。
隣近所の人間が、自分の建物の前だけでも良い、掃除する。声を掛け合う。皆が協力して街を維持する。そんな街にしたかったからだ。
便利なのは良い。
でも、不便な部分も残した方が良い。俺はそう思っている。
俺のそんな意図を汲み取ってかどうかはわからないが、アヌヤが呟く。
「人で国は変わるんよ。それが、この国のお陰でわかったんよ。」
「そうだね。良い国にしたいね。」
トンナが答える。
「いい国になるの。だって、ト、トンマ能天気国王の国なの。」
ヒャクヤが俺の名前を呼ぼうとして、言い直したのがおかしくて、俺は笑いながら「そうだな。能天気なガキが王様だからな。」と応える。
「まったく、おとぎの国だな。」
コルナが悪態をつくが、その顔は笑っている。
「色々あって、延び延びになってたけど、明日にはカルザン帝国に行って、ヒラギ族の里に行こう。」
そんなコルナに水を向ける。
「ああ。感謝する。ヒラギ族も、こんな、おとぎの国に住めるかと思うと、胸が熱くなる。」
思わぬところで、コルナの素直な感想が聞けたので、俺は思わずコルナの方を見る。
「なんだ?主よ、私だって感謝の気持ちぐらい素直に言うぞ?」
「いや、コルナっぽくないんで、驚いたんだよ。」
「まあ、その点については、否定はしない。私も主には、女として可愛がってもらわねばならぬ立場だからな。時にはおべっかも言う。」
「ふん。今更、そんな点数稼ぎしたって遅いと思うけどね。」
「そうなんよ。コルナは、自分が、ちょっと経験してるからって、すぐに助平なことを言うんよ。」
「そうなの。色欲変態クィーンなの。」
「何を言ってる。今の私の発言のどこにスケベな要素があったのだ?」
「意識してないってのが癖もんなんよ。」
「そうなの。自然と助平なことが言えるなんて、やっぱり色情狂クィーンなの。」
「あのなあ。お前達に一度、言っておこうと思ってたんだが、そっちの方のテクニックを教わりたくないのか?」
コルナの言葉に全員が言葉を呑み込む。
「主は、最低でも、我ら四人を相手にするのだぞ?そうなれば、自然と気に入った女を相手にする回数が増えるのだぞ?ならば、お前達は、そっちの方で、私に勝つ自信があるのか?」
全員がコルナの方を見詰めてる。
「まあ、お前達にその気があるのなら、私がとっておきのテクニックを伝授してやらんでもないが、スケベなことは嫌いみたいだから、私と主だけの秘密にするか。」
コルナが俺の方を捕食者の目で見詰める。いや、ゾッとしたよ?わりかしマジで。
「そ、そんなの、私は必要ないわ。だって、あたしは、トガリのことしか考えてないもの。自然と、その、トガリが気持ち良くなるようにしてあげるもの。」
「あたしは、今晩、コルナに教えてもらいに行くんよ。お願いなんよ。」
「ウチも!ウチも教えてもらうの!お願いなの!」
「えええ!あんた達!そ、そうなの?!」
焦るトンナにアヌヤとヒャクヤが素直に頷く。
昼間っから、何の話をしてるんだか。まあ、平和な証拠だな。
『そうだよ。彼女らが頑張らなくても、俺が一から教えてあげるのにさ。』
うん。クシナハラは黙ってようか?
一〇歳のガキとしては、夜の生活のことを考えると気が重いよ。
その夜になって、無縫庵にて食事をしていると、ヘルザースとズヌークが来訪した。
「どうした?」
俺が聞くと、ズヌークは苦笑いで、ヘルザースはムスッとしている。
「ヘルザース、何かあったのか?」
もう一度聞くと、ヘルザースが目を見開き、俺を睨む。
「陛下。本日はどちらにおいでになっていたのですか?」
う~ん。怒ってる声だな。顔も怒ってる。
「街をちょっとブラブラと。」
「街をおおおお~?ブラブラですとおおおお~?」
おお、ヘルザースって迫力あるなぁ。
「うん。」
「うん。では、ございません!!」
おお、怒鳴られた。
「陛下に目を通して頂かなければならぬ書類が山積みになっておるのですぞ!!陛下の決裁が降りねば、仕事が進みませぬ!国民のためにもシッカリとお働き頂かねば、国政が揺るぎます!それを、街をブラブラとフラついていたのでは、話にもなりませぬ!!」
ああ、そういうことか。
「うん。ゴメン。」
「ゴ、ゴメン、で、ございますか…」
「うん。だって、俺、働くのが嫌なんだもん。」
ヘルザースが項垂れる。
「働くのが嫌って、陛下アアアアアアぁぁ~。」
「いや、そう、嘆くな。な。ヘルザース。」
俺はヘルザースの肩を軽く二、三度叩いて慰める。ロデムスが正座しているヘルザースの膝を前足で叩いている。
「しかしですね。陛下の決裁を頂戴しなくては、どうにもなりませぬので…」
ヘルザースが泣き落としにかかってくる。
「いや、そんなことはないぞ。俺が働きたくないから、お前達をトップに据えたんだからな。俺は、もう、この国の象徴ってことで、な?実質的に権力無しってことで、な?そういうことで頼む。」
だって、絶対に俺がやらなきゃならない仕事って、もうないもん。
「しかし、この国はその全てが陛下の物でございます。地上の土地は違うにしても、実際に住んでいる場所はこの国体母艦でございますし、道路に電力供給、上下水道に建物まで、全て陛下がお一人でお造りになられた物でございます。その上、国民全員の体の健康まで、陛下のお薬、施療院で維持しております。その陛下の権力を認めない訳には、流石に無理がありまする。」
薬だって、その施療院で創ってるしなぁ。
「うん。そうか。じゃあ、権力を行使して、発布する。俺は働かなくても良いこととする。以上。」
ズヌークが笑い。ヘルザースが天を仰ぐ。
「陛下、それでは、こうなさっては如何でしょう?」
ズヌークが笑いながら、俺に提案するので、俺は手を差し出して「どうぞ。」と促す。
「陛下の権力はそのままにして、我々に各権力を委任する形を取らせて頂きます。陛下が大家で我々は管理人ですね。これでよろしいですか?」
俺は大きく頷いて「じゃあ、それで。」とズヌークの意見に賛成する。
「それでは、早速、その草案を作成いたします。ヘルザース殿には適切な権力委任先を出して頂けますか?それを枠組みにして、作成いたします故。」
「うむ。承知した。」
頷いて、ヘルザースが俺の方に視線を向ける。
「陛下、その法律が施行されるまでは、陛下にもお仕事をしていただきますので、そのおつもりで。」
俺はヘルザースの視線から顔を背けて「善処します。」とだけ応えておいた。
「陛下アアアアぁぁぁぁ。」
「嘆くなヘルザース。国の運営とはそういうものだ。」
俺は遠くを眺めながらそう応える。いや、壁しか見えないけどね。
「何をいい加減なことを仰っておられるのですか!そんな訳のわからないことを言って、誤魔化せるとでも思っておられるのですかっ!」
全然、思ってません。
「まあまあ、ヘルザース殿、そのように怒ってばかりでは気持ちが荒れて、お疲れになりましょう。此処は無縫庵、癒しの場でございます。もう、政の話はその辺にして、お休み前に一献、如何ですか?」
オルラが助け舟を出してくれた。
「いやいやいや、オルラ様、そ、そのようなこと、いや、オルラ様に注いで頂くなどとは、おお、左様でございまするか?それでは、喜んで頂戴いたします。」
やっぱりこの男の頭の中はお花畑だ。
オルラに渡された杯を両手で捧げてオルラに酒を注いでもらって、おお、おお、デレッデレですな。ヘルザース。
「ヘルザースって、奥さんと側室、何人ぐらいいるの?」
「ぶほっ!ゲフンッ!!ゲフンッ!!ごふっ!オウッフッ!」
俺の突然の質問に無様に咽返ってるな。
「奥様は三人、側室は五人でございますな?」
ズヌークが追い打ちをかける。
「ぶほっ!ゲフンッ!!ゲフンッ!!ごふっ!オウッフッ!」
ヘルザースは咽返るばかりだ。
「一夫多妻制かぁ。一夫一婦制にしたら、ヘルザースの家庭に問題が起こるな。」
「ダメだよ。トガリ、お前だって最低四人の嫁さんを貰うんだ。トガナキノ国は一夫多妻制だよ。」
オルラが間髪入れずに突っ込む。
「義母さん四人じゃないよ。五人だよ。」
トネリが追随する。
「そうよねぇ。トガリの場合は百人単位で奥さんがいても変じゃないよね?」
トンナが訳のわからんことをオルラに言ってる。
「トンナ姉さん、駄目なんよ。百人もいたら、あたしらの順番が中々回ってこないんよ。」
アヌヤ、心配するな。百人もいらねえし、百人も欲しくないから。
「でも、変態助平大王なら、いっぺんに百人ぐらい相手しそうなの。」
スゲエよ、ヒャクヤの認識って。俺を一体何だと思ってるんだ?触手のバケモンか?
「うむ。主は、六十四万人の魔道兵士を生み出せるからな。百人ぐらいを相手にするのは造作もあるまい。」
馬鹿かお前ら?いや馬鹿だろ?なんで、夜の生活のために、そんなことをするんだよ。
「なに?その六十四万人って、え?トガリって、この国の女性を全部、自分のものにするつもりなの?」
アラネ、俺は、お前の中で、どんだけスケベに設定されてるんだ?おい。
「しかし、百人の主に蹂躙されるというのも、これはこれで、中々にそそるものが…」
…コルナ、お前、筋金入りだな。何を想像してハアハアしてる?
獣人三人娘がコルナの言葉を聞いて、上を向いてボンヤリと考え、三人ともニヘラと笑う。
おいおいおいおい。コルナ化してるじゃねえか、ちょっと待てよ。
「そうかぁ。そうだよね。トガリなら分体を作り出せるんだから、一晩で皆を相手に出来るんだぁ。なら、いいかもぉ。」
トンナ、俺はそんなことしないよ?
「そうなんよ。チビジャリなら、あたしを無理矢理抑えつけながらでも襲えるんよ。」
は?アヌヤ、お前は襲われたいのか?
「ウチは変態ロリータに無茶苦茶にされるの。」
ヒャクヤ、お前、脳味噌、大丈夫か?
「ダメよ。トガリ。そ、そんなに大勢で…」
アラネ?
おい。誰かこの無間地獄を止めてくれ。
「しかし、こうなると、誰が陛下の第一夫人にお成りになるかが問題ですな。」
こら、ヘルザース、矛先が俺に変わったからって、シレッと何を抜かしてやがる。
一気に、この場が殺気立つじゃねえか。
「いや、ヘルザース殿、第一夫人というのは如何かと。ここは、敢えて言うならば第一期夫人として、五人同時に婚礼なさるのがよろしいのではありませぬか?」
ハア?
「成程、第二期、第三期と回を重ねれば、合理的に百人と婚礼出来ますな。」
馬鹿?馬鹿ばっかり?
俺はいっぺんに五人も六人も嫁さんを貰うのか?そんなに何回も何回も?
「左様、陛下は年若いですからな。女性の好みもお変わりになるでしょうから、期間を限定して、回を重ねればよろしいかと。」
『こいつら、最高だね?』
うん。クシナハラは黙ってようか?
「お前らは馬鹿か?」
全員がこちらを見る。
「一〇歳の子供をつかまえて、何を取らぬ狸の皮算用をしてんだ。俺がそんなに沢山の嫁さんを欲しがるわけがないだろう?」
「なに言ってるんだい。」
トネリだ。思わぬところから突っ込みが入ったので、驚いた。
「仕事でやることが多いからってんで、あんたがアラネの話を中断させたんじゃないか?」
そうでした。
「でも、あんたはもう、仕事をしないんだろう?だったら、子作りのことを考えるのが当たり前じゃないか?」
何で、当たり前になるんだよ?
「左様。お仕事を全て我らにお任せいただけるのであれば、陛下にしか出来ないお仕事は、お世継ぎをお作りになることでございます。」
俺は、如何にも、ハタと気付いたような振りをして立ち上がる。
「そうか!仕事か!子作りは俺の仕事ということなら、俺は仕事をしなくて良いと発布したから、子作りもしなくて良いということになる!よし!それじゃ!そういうことで!俺は風呂に入って寝る!!」
俺は右手を挙げて、ポカンと口を開けた皆をそこに残して、風呂に向かう。
もう、付き合いきれねえよ。ホントに勘弁してくれ。
で、俺が風呂に入ると、当然トンナも入って来るわな。
で、トンナが入ると、当然、アヌヤとヒャクヤが、それに負けじと入って来る。
で、コルナが獣人三人娘が入っているのに、同じ獣人の私が入ってはいけないという道理はないと言うことで、入って来る。
で、アラネが、許婚の権利を主張して、当然のように入って来る。
広めに造った風呂だが、一杯です。
女風呂です。
しかも、最初はトンナ、アヌヤ、ヒャクヤの三人はキッチリと獣化して入って来たのに、コルナの「何故、獣化するのか?」という質問が切っ掛けで、全員、人化してる。
人化した理由その一、獣毛が濡れると乾かすのが大変だから。
うん。それは、俺がいるから、全然問題ないんですけど?
人化した理由その二、俺に変なことを教えるなと言っていたオルラが、契りを結べと言っているから。
うん。オルラが保護者としての権力を放棄したからね。こいつらにとっちゃ、やりたい放題、したい放題な訳ですよ。
トンナが、俺をいつも通りに膝の上に載せる。アヌヤとヒャクヤが両サイド、コルナが俺の前で、俺をキッチリ取り囲み、アラネが俺の膝の上に座って来る。
女湯?
柚子湯って、柚子を入れたお風呂だよね?柚子の成分が体に良いんだよね?
俺、今、女湯に入ってる状態。
うん、女性専用の風呂って意味じゃなくって、女湯。お湯に接してる部分よりも女体と接してる部分の方が多い状態です。
女に浸かって、お湯の成分が気持ち良いって逆の状態。わかる?
これが、ホントの女湯なんだ。
イヤイヤ。のぼせるわ!!
「ちょ、ちょっと、もうちょっと皆、離れようよ。」
全員が俺の言葉をスルーする。
おい。こんなに静かなのに聞こえない振りって無理がありすぎるだろ。
「いや。皆、くっつき過ぎで寛げないヨ?だから、もうちょっと離れよう?」
「無理だな。浴槽が狭くて、私は身動きがとれん。」
いや、コルナ、右か左にズレろよ。
「ヒャクヤが離れれば、あたしも離れるんよ。」
こら。ヒャクヤをダシに使うな。
「トンナ姉さんが変態ロリ好き国王を下ろしたら離れるの。」
お前はトンナをダシに使うのか…
「無理よ。アラネちゃんだって乗ってるのよ?アラネちゃんが下りてくれないと。」
トンナ…
「じゃあ、駄目ね。あたしは皆に囲まれて身動きできないもの。」
…
「わかった。じゃあ、俺が皆から離れるよ。」
俺は瞬間移動で、風呂から飛び出し、そのまま、脱衣所にあった服を分解して、着用した状態で再構築、再び瞬間移動で、屋外へと脱出した。
「ふう…」
俺は思いもかけず、大きな溜息が出たことに驚いた。
安寧城の天守塔、その天辺で、俺は椅子になる段差を構築する。その段差に腰掛け、月を望む。
満月に届かない、歪んだ丸。
その月に、棚引いた紫色の雲がかかっている。
「全く、皆、どうかしてるよ。」
俺は月を見ながら独り言ちる。
騒がしい女どもから離れて、遠くに城塞都市の喧騒を聞く。
騒がしいが、好ましい。
そんな女どもから離れて、孤独を感じる。寂しさはない。街の喧騒が俺を一人にしない。
一人じゃないと感じて、寂しさを感じる。一人の少年のことを思い出したからだ。
広めに作った段差の上に、俺は酒徳利と杯を再構築する。
杯に酒を注ぐ。
一口。口に含み、顔を顰める。
この体は、酒を受け付けないらしい。まあ、一〇歳の体だ、仕方がない。
最近、一人になる時、寝る前などに、必ず思い浮かぶ映像がある。
キミマロの振り返った姿だ。
顔が真っ白の光に包まれて見えない姿。
その姿が目の前でチラつく。だから、無性に酒が欲しくなった。
月を見る。
白い光が夜に穴を穿っている。
星が多い。
星座も判別出来ないほどの星。
簡単な星座さえも判別出来ない。
さんざめく星々を望みながら、一人の時間を楽しむ。一人の時間を楽しめるということは多くの人に囲まれて、幸せな時間を過ごしているということの証だと思う。
贅沢なことだと思う。
人は本来、孤独だ。
人と人は理解し合うことなど出来るはずがない。
立場が変われば、物の見え方は変わる。同じ物を食べたところで、その味覚が同一であることはない。食感を美味しいと感じる者、香りを美味しいと感じる者、含まれる甘味、苦味、辛味、様々な感じ方があって、人々は美味しいと口にする。同一の感じ方をする者など存在することがない。
他人のことを理解出来なくても良い。でも、理解しようとする努力、理解してもらおうとする努力が絆をつくり、縁を結ぶ。
城の屋根を跳ねる人影が一つ。ネグリジェのようなドレスの裾が、月光を透かして舞っている
俺の横に、その人影が立つ。
仮に、俺が、この女との絆を断とうとしても、この女は、絶対に、それを許さないだろう。
悲しそうな顔をした美しい顔立ち。
スラリと伸びた手足が月光を反射して、白く輝いている。
深い藍色の空を背負い、瞬く星を従えて、金色の髪が緑の風に揺れる。
澄んだ蒼い瞳が俺を見詰める。
金色の睫に縁取られた大きな瞳。
桜色の唇からは荒い吐息が漏れ、小さな小鼻から、大きな溜息が漏れている。
この女は俺のことを理解しようとしている。
必死に。
懸命に。
だから、俺の後を追って来た。
だから、俺を見つけることが出来た。
桜色の唇が僅かに震えながら開く。
不安げな顔。
きっと「ごめんなさい。」と言うつもりなんだろう。
「トンナ、座らせてくれ。」
俺の言葉に、安心した表情に変わる。
「うん。」
トンナの細く柔らかい指が、俺の脇に差し込まれ、美術品を扱うように俺を持ち上げる。
俺が今まで座っていた場所にトンナが座り、その膝の上に俺が座る。
トンナの体に俺の体を預ける。
空を見る。
トンナも俺の視線を追って、空を見る。
俺もトンナも空を見るが、俺は月を見て、トンナは俺を見ている。
俺と同じように空を見ているのに、トンナは常に俺を見ている。
「トンナはお酒が飲めるんだっけ?」
「飲めるけど、飲まないよ?」
「どうして?」
「トガリを襲っちゃうから。」
やっぱり優しい。
「そうか。じゃあ、今度、酒を飲めよ。」
「え?」
俺は左手の上に指輪を構築する。
俺のオリジナルのデザインだ。
何の機能性も実用性もない指輪。
ストレートタイプのシンプルな指輪だ。
センターストーンのないリングだけの指輪で、リングその物の素材はダイヤモンドだ。そのリング中央には蒼碧のラインが走る。
霊子結晶で作ったラインだ。
その指輪を摘まんで、トンナの顔の方に持ち上げる。
「綺麗…」
「そうかな?」
「うん、綺麗だよ。凄く綺麗。」
俺はトンナの左手を手に取り、その中指に指輪をはめる。
「こうすれば、本当に綺麗だよ。」
その左手を俺の胸の上に置く。
その左手を護るように、俺の両手を重ねる。
俺の手よりも大きなトンナの左手を護るように。
トンナの体が震えだす。
「明日はヒラギ族の里だ。」
「…う、う、うん、うん…」
トンナの涙が俺の頬に落ちる。
俯くトンナが嗚咽を漏らす。
心の内から押し上げるものに、抗うことなくトンナが天を見上げる。
真っ白に伸びる首筋が、藍色の空から垂れたミルクの雫のように見える。
トンナが首を反らして、泣く。
大きな声で。
誰に恥じることもなく。
藍色の空に。
白い星に。
黄金色の月に。
届けと言わんばかりに、トンナが泣く。
かなりの加筆をおこなったため、二話分位の長さになっております。




