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トガリ  作者: 吉四六
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王子という名の傲慢

 コルナを迎え入れたその日の午後、突然の呼び出しを食らった。

 呼び出しと言っても、国体母艦の真下、地上から大声で、こちらに呼び掛けているだけなので、無視しても良かったのだが、呼び掛けて来る者の一団の中にギュスター、ハノダ、スパルチェンの姿があったものだから、無視するわけにはいかない。

 マイクロマシンで、その様子を窺うと、ギュスターが、こっそりと通信機で連絡して来た。

『申し訳ありません。一緒にいる方は、ハルディレン王国の第一王子なのです。』

 ああ、そういうことね。

 俺達は無縫庵から安寧城の国体母艦指揮ブリッジへと移動する。

 全員、霊子バイクでの移動だ。ものの十分もかからない。

 安寧城の天守塔、その最下層に総指揮本部ブリッジがある。

 かなりの広さがあって、そのブリッジの中央には、ブリーフィングテーブルがあり、そのテーブルを囲んで、俺達魔狩りのメンバー、イデア、ヘルザース、ローデル、セディナラ、コルナが座る。遅れてズヌークが到着し「遅れて申し訳ありません。」と頭を下げながら席に着く。

 俺は一つ頷いて「イデア、第一王子の映像をここに。」と命じる。

 テーブル上に立体映像として、ギュスターを含む八人の姿が現れる。

「イデア、音声も頼む。」

 イデアが俺の方をチラリと見る。

「どうした?」

「いえ。マスターがお気を悪くされる可能性がございますので。」

「大丈夫だよ。音声を入れてくれ。」

「わかりました。」

『返答せよ!!こちらはハルディレン王国!トレイザース・プリンコ・デク・オク・ハルディレン王子である!至急返答せよ!!』

 うん。いきなり、大上段な物言いだな。この場にいる全員からイラっとした空気が伝わって来た。

「イデア、音声出力を。」

「返答なさるのですか?」

「うん。ヘルザース、頼む。」

「御意。」

 ハルディレン王国の王族相手なら、ヘルザースが適任だろう。

「こちらは、神州トガナキノ国のヘルザース・フォン・ローエルと申す。そちらの話を承ろう。」

『まずは!ご返答いただき感謝いたす!(それがし)、ハルディレン王国近衛第二軍団軍団長補佐トール・セイク・コンラッドと申す!ハルディレン王国王都における大災害発生の報せを受け!近隣諸国との友好外交中のトレイザース・プリンコ・デク・オク・ハルディレン王子と共に、急ぎ帰国して参った!この惨状を説明しうる者がおれば!至急!ご説明して頂きたい!!』

 家名から察するに、ハルディレン王国の筆頭騎士の親族だな。まあ、そんなことより、ヘルザース、国名の前に神州って付けるの止めない?

「承った。しばし、待たれよ。」

 ヘルザースが振り返り、俺に向かって頷く。

 う~ん。どういう意図なのかは、わからんな。

 まあ、向こうの事情としては、カルザン帝国の進攻から逃れるために、一応、友好国に王族を逃がしておいたら、王都がいきなり酷いことになって、ちょっと、内乱の恐れがあるぞ。王様の安否も不明だよ。ってことで、とにかく、王位を継承して、国を立て直すぞ!って戻ってきたら、とんでもないのが、王都上空に浮かんでました。だもんで、王都の住人に聞いて回ったら、俺達に、一番近しいと思われるギュスターがいたので、人質を兼ねる水先案内人として確保、王国立て直しに俺達を利用しようと考えるわな。

『じゃあ、向こうの意図はわかってるじゃないか。』

 そう。大雑把にはね。問題は…

『そうなんだよねぇ。女の子って甘い顔を見せると、要求がドンドン大きく膨らんでいくんだよね。』

 女の子じゃないけどな。

『元素としての利用価値があれば、それに見合あった労力を支払っても良いと思うけど、利用価値がなければ、ただのタンスの肥しだからねぇ。』

 利用価値か。

『使えないと思える食材でもシェフの腕次第だよ?捨てる食材、使えない部位なんてないよ。骨だって出汁を取れるんだから。』

 王子を使い捨てか、それはそれで、忍びないが。

『そうも言ってられんだろう?集るハゲワシは払い落とさなければ、王都の臣民が大量に死ぬ。』

 そう、王国の存続はどうでも良いんだよ。統治者が変わってもさ、臣民の生活基盤が安定すれば。

「ヘルザース、王国の現状を鑑みて、第一王子の利用価値ってあるのか?」

 ヘルザースが目を閉じる。

「王国内の伯爵に対して、如何ほどかの効果はあるかと思われまする。ただ、臣民に対してはと申しますと…。」

 うん。今も避難民達は、王子の周りに集まっても来ていない。人気なしだね。

「恐れながら。」

「うん。ローデル、言ってくれ。」

 ローデルが頷きながら、俺の方に視線を向ける。

「王子を擁立すれば、ハルディレン王家を治めようと画策する貴族にとっては、大義名分を手に入れたことになりまする。自らが王に成ろうと、内乱を目論む者、反乱を目論む者にとっては、ただの敵でございます。いずれにしましても王国を治めるには時間がかかりすぎて、近隣諸国、特にカルザン帝国に、ハルディレン王国は呑み込まれますでしょうな。」

 俺はローデルの言葉に頷きながら、ズヌークの方を見る。

「私もローデル殿のご意見とほぼ同じですが、まず、各伯爵領で内乱が勃発すると考えまする。」

「うん。領主が不在だからな。」

「機に敏なる者が領主の後釜に収まれば、王子を擁立し、各伯爵領を統治しつつ、カルザン帝国に対抗すると、私は考えまする。」

 なるほど、カルザン帝国から距離のある伯爵領で王子を擁立すれば、時間は稼げるな。その間に周りの伯爵を取り込み、帝国に備えるか。

「その場合、重要なのは、地勢と次期領主の力量だな。ズヌーク、候補になる奴に心当たりがある口振りだな?」

 俺の言葉にズヌークが頷きながら「御意。」と応え、そのまま、その人物の名前を口にする。

「名前はデリノース・コーデル。ディラン・フォン・コーデル伯爵の次男でございます。」

 ヘルザース領の西隣だ。うん。王子の使い道が見えたな。

「よし。ヘルザース、王子との会談での落しどころは、ディラン・フォン・コーデル伯爵領への遷都だ。その上で、デリノース・コーデルに王子を擁立させ、お前とズヌークの領地をトガナキノ国に割譲、友好不可侵条約の締結だな。その条件を飲むなら、トガナキノ国の属国として扱ってやろう。」

 ヘルザースが頷きながら、確認してくる。

「属国とするにあたって、段階を踏みまするか?」

 いきなり、属国として扱うか。それとも、友好国として扱いながら、属国としていくか。その判断だな。

「段階を踏もう。友好国であり、属国であり、植民地国でもある。そんな、あやふやな扱いがベターだな。」

 ローデルが俯きながら笑い、ヘルザースが大きく笑う。代表してズヌークが答える。

「流石でございます。自覚を持たせぬままに属国、植民地化するのは最良でございましょう。ただ、ヘルザース殿が、いささか、気の毒ですが。」

 確かに、高難易度の交渉になる。

「ヘルザースなら上手くやってくれると信じられるさ。あれだけの城を王国に悟られずに築城したんだからな。期待してるぞ。トガナキノ国の行政院第一席。」

 ヘルザースが大きく頭を下げる。

「はは。ありがたき幸せ。必ずや陛下のお望みの形に仕立て上げましてございます。」

 ヘルザースが第一王子の一団に向かって話し掛ける。

「お待たせいたした。それでは、そちらに赴き、この惨状に至った経緯をご説明いたす。今しばらく待たれよ。」

 第一王子達が、顔を突き合わせ、相談するが、すぐに顔をこちらに向け『了解いたした!それでは、このまま、ここで、お待ちいたす!』と応える。

 ヘルザースが立ち上がり、総指揮本部ブリッジから出て行く。

「さて、ヘルザースが不在だが、この場で、各自の役割を任命しておこうと思う。」

 全員が俺の方に視線を向ける。アヌヤとヒャクヤ以外は全員、緊張の面持ちで背筋を伸ばしている。

「魔狩りのメンバーは今まで通り、俺の近衛隊だ。」

 トンナがニッコリと笑って、「じゃあ。」と言いながら、俺を抱えながら膝の上に座らせる。ああ、この役職任命まで、我慢してたんだ。トネリ達の手前、遠慮してたんだな。

「ズヌーク、お前には立法院を担当してもらう。ただ、新法立案には行政院のヘルザースの決裁は仰いでくれ。逆に行政院からの新法立案企画に関しては立法院との事前折衝と決裁を仰がせる。」

 ズヌークが頭を下げる。

「はい。承ります。」

「ローデル、お前には司法院だ。新法立案にはズヌークの決裁が必要だ。ただ、お前の下にはコルナとセディナラ、そして、ハノダを就ける。コルナは国外対応、セディナラは治安維持、ハノダは警察機構の監察役だ。」

 ローデルが、頭を下げながら応える。

「はっ、承りました。」

「ヘルザースの行政院には長年文官をやってる家臣、用人を供出してくれ。特に内政担当、金融資産預かり用人の供出を頼む。」

 ズヌーク、ローデルが頭を下げ「御意。」と応える。

「軍務担当は如何なさるのですか?司法院で預かる形になるのでしょうか?」

 ローデルが俺に問い掛ける。

「いや、軍務担当は獣人の中から選抜しようと思ってる。近衛の魔狩りメンバーもほとんどが獣人だからね。」

「では、軍務担当はトンナ様を?」

 俺は唖然となった。トンナを軍務防衛のトップに?ローデル、破滅の音を聞きたいのか?

「あなた、死ぬ?」

 トンナがお怒りモードだ。

「は?いえ、あの、おかしなことを申しましたでしょうか?」

「当たり前よ。あたしはトガリのために生きてるの。死ぬ時もトガリのために死ぬのよ?」

「は、はあ、それは、大変殊勝なお心構えかと思いますが、ならば、国の防衛もトンナ様が…」

「わからないの?国なんてどうでも良いの。国が滅びそうになったら、あたしは、トガリと一緒に逃げるわ。あたしはトガリだけが大事なのよ?国民全員がトガリを殺そうとしたら、国民全員を殺してやる。あたしは、そういう女よ?国の軍務防衛なんて出来る訳ないじゃないの。」

 うん。本人が一番よくわかってる。安心した。

「まあ、軍務担当の者は、おいおい決めるが、そいつには皆よりもキツメの禊を受けてもらうつもりだ。だから、後日だね。」

「承知いたしました。」

 ローデルが頭を下げた所で、王子の一団の傍に政務専用艦が着陸する。

 安寧城の後ろ、船尾方向には二百メートル級の半軍半客船が、上下に八隻、係留されている。この半軍半客船を俺は政務専用艦と分類した。

 イルカの形状を模した、白に金のエングレービングを施して、格調高く仕上げてある。

 その一隻が、仰け反る王子達を威圧する。

 着陸とは言っても、実際は五メートルほどの高さで浮かんでおり、船底からハッチを兼ねたタラップが降ろされ、その時点で本当の着陸となる。

 その階段から、ヘルザースが三人の文官と六人の武官に囲まれて、颯爽と降りて行く。

 ヘルザースは、今回、正装と定めた青い詰襟の燕尾服を着ている。因みに立法院は緑、司法院は白で、全て同じ形だ。

 青は、冷静な判断力を、緑は優しい掟を、白は穢れなき裁量を願って選定した。それに対して武官は全員、黒が基調だ。これは、何色にも染まらないことを意味している。

 ヘルザースを囲む三人の文官は、それぞれ、青、緑、白の詰襟の燕尾服、各院の文官を連れて行ったと一目でわかる。

 武官六人は護衛が主目的だ。当然、その恰好は鎧姿となる筈だが、鎧として判別できるのはヘルメットのみだ。

 鎧ならば兜と表現するべきなのだろうが、その形状はヘルメットと呼ぶのが適切だろう。

 全身黒尽くめで、肌の露出は一切なし。酒呑童子を着装する際のインナー戦闘服だ。体にピッタリと密着したツナギのような服に黒のハーフコート。主たる素材はドラゴニウムとアギラの絶縁脂肪だ。

 手には槍としても使える霊子ライフル、ヘルメットには広域索敵機能も備えさせている。

 武官だけが降りて来たのなら、その不気味さに、王子の一団も身構えたことだろう。

 青い服の文官が左手のM.M.Cを使って、一脚の円卓と二脚の椅子を構築する。

 ヘルザースがその一脚に座り、文官がその後ろに並び、更に取り囲むように黒い武官が並ぶ。

 ヘルザースが王子に座るように促し、会談が開始された。

 俺達はその様子をジッと眺める。

『まずは、こちらからの呼びかけに応えて頂き感謝いたす。私がハルディレン王国、第一王子トレイザース・プリンコ・デク・オク・ハルディレンである。』

 ヘルザースが頷く。お辞儀ともとれる頭の下げ方だ。

 それにしても、王名を名乗っている割りに、一人称は私なのな。

『殿下自らのお名乗り、痛み入ります。私は神州トガナキノ国行政院第一席ヘルザース・フォン・ローエルと申します。』

 うん、ヘルザースも王子扱いしてる。

 王子は気品のある男前だ。そんなことで怒りゃしないだろ。

 一目で好感の持てる爽やかな青年だ。

 大きなシャツの襟が詰襟の上着の下から出ている。金の掛かった服装だと一目でわかる。

 人種は白人、金髪のサラサラストレートヘア。うん、王子らしい。

『フォン?そなた、まさかとは思うが、ハルディレン王国の伯爵ではないのか?』

 ハルディレン王国では爵位に基づき、そのミドルネームが決められている。

『はい。元、伯爵であり、元征東守護将軍であります。』

『何?そうか。それは都合が良い。』

 王子がにこやかに、ヘルザースに話し掛ける。

『では其方(そなた)に命令いたす。あの上に浮かんでおる巨大な物、アレを余に差し出せ。』

 お?私から余に切り替えやがったな。

「ハア?」

 トンナです。

「あはははははは、馬鹿なんよ!馬鹿がいるんよ!」

 アヌヤです。

「ププー。おバカストーリーキングなの。」

 ヒャクヤです。

「こいつは、参ったね。」

 オルラです。

 もう全員が王子の発言に、呆れるか笑うかのどちらかだ。ヘルザースも大口を開けて笑ってる。

『無礼者!殿下の御前であるぞ!』

 王子のお付き、筆頭騎士の親戚がヘルザース達に向かって怒鳴っている。に、しても、折角、王子が、王として命令してんのに、筆頭騎士が殿下って、思いっきり否定しちゃダメでしょ?

 ヘルザースの後ろに並んでいる文官も必死に堪えているが、笑ってるのがバレバレだ。

 武官にあっては、直立不動で肩を震わせている。

 いや~。馬鹿は良いわ。周りを明るくしてくれるし、扱いやすいかもしれないしな。まあ権力のある馬鹿の周りには、ちょっと利口な馬鹿がいるもんだが、王子の周りも馬鹿が多そうだ。

『いや、失礼いたした。あまりに突飛な要求が飛び出てきたため、心ならずも、失礼な対応となってしまった。許されよ。』

『む?余の命令が突飛であると?』

『はい。この空中に浮かぶ物体、これは国体母艦と命名された、神州トガナキノ国、国そのものでございます。その国そのものを差し出せとは、突飛以外のものではございませぬか?それとも、殿下が心底、本心から申されているのであれば、それはハルディレン王国から、トガナキノ国に対する、宣戦布告となりますが、それでよろしいか?』

『ふむ。余は国とは人であり、その人が生活するに足る領土であると考えておる。しかしながら、この国体母艦であるか?これは人が生活するに足る領土であると、そなたは考えておるのか?』

 お?案外、ただの馬鹿じゃないのかもしれないぞ?王子と王を使い分けてるのも、中々だが、そのままじゃヘルザースに王とは認めてもらえないぞ?

「ヘルザース、耕作地用、牧場用、養殖地用の国体母艦も建造中だと言ってやれ。」

 俺は通信機でヘルザースに指示を出す。

『確かに殿下の仰られる通りですな。この国体母艦の最上甲板には、人が住まうべき城塞都市がすでに出来上がっております。また、耕作地用、牧場用、養殖地用の国体母艦も建造中ゆえ、人が生活するに足る領土であると明言致します。』

 ヘルザースの言葉に王子が感心した表情を浮かべる。

『しかし、耕作地用の国体母艦を建造中ということは、現在の食料はどうなっておる?それはどこから調達いたしたのじゃ?』

 ヘルザースがニッコリと笑う。

『このテーブルをご覧になってお分かりいただけると思いますが、我が君は無から有を生み出す、魔法の才をお持ちのお方、その力をもってして、現在の食料は賄っております。』

 王子が子供のように首を傾げる。

『はて、成程、このテーブルは、確かに、何もない所から作り出された。それは、余も見ておるので、疑いようのない事実。しかし、それならば耕作地用の国体母艦とやらも必要あるまい?』

「ふん。この王子、馬鹿を装った切れ者かもしれないな。」

「そうなの?」

 トンナが俺の方を見ながら、疑問をそのまま口に出す。

「ああ、ここで、トガナキノ国の現時点での食料がハルディレン王国産出の物だとバレたら、俺達は盗人扱いにされる。まあ、そこまでの扱いはなくとも、税金、食料の供出、避難民の受け入れ、この国体母艦そのものも供出の対象になるな。」

「ふ~ん。ズルい奴なのね。」

 トンナの怒りモードが復活だ。

 だから、国体母艦を要求してきた時は、王として命令してきたのか。

 王であればハルディレン王国の所有物だと言い張れる。

 だが、ヘルザースは手強いぞ。

『その通りでございます。我が君の力をもってすれば、耕作地用の国体母艦など必要ではありませぬ。しかしながら、それでは、国民のためにならぬと我が君はお考えなのです。』

 王子が頷く。

『ふむ。臣民は飢えることなく、働くこともなくなるということか。』

 うん、理解力が高い。

『左様でございます。国の礎たる肝心の人が駄目になってしまいまする。』

 王子が何度も頷く。

『其方の申す通り、それでは人が駄目になるの。成程、国体母艦とやらが国そのものであるということは、わかった。余の申したことが突飛であること、よくわかった。それでは、ヘルザースとやら、其方はハルディレン王国の伯爵であり、東征守護将軍であったと申したな?』

『左様です。』

『しかしながら、兵員召集の勅命を受けて、その役職を辞任したとは聞いておらぬし、其方の辞任を認めたとも考えにくいが、その点はどうなっておる?』

 ほう、今度は人事面での揺さぶりか。でもそいつも無駄だな。

『はい。私が辞任した後に神州トガナキノ国の行政院第一席に任じられましたので、問題はないかと。』

『ふむ。』

 王子は周囲の瓦礫を見回す。ヘルザースの言ったことを裏付ける物証、証言、あったとしても、いずれも瓦礫の下だ。確認する術がないのだ。

『では、国体母艦なる巨大な船、この船の総員はどうなっておる?』

『国家機密ですので、敵対国家になりうる可能性のあるお方には申し上げられませぬ。』

 そりゃ答えられる訳がない。

 だって、国体母艦に乗り組んでるのは、全員、ハルディレン王国の元臣民だもんな。

 王子が何度も頷く。

『そうか。その通りだのう。しかし、困った。』

『何が困るのでしょうか?』

 王子が俯き加減に目を伏せる。

『其方らの国と敵対するつもりがないというのに、こちらからは友好の印となるべき物が見つからぬ。このありようではな。』

 ヘルザースが笑う。

『貴様!無礼にもほどがあろう!先程から殿下を馬鹿にしたような振る舞い!許さぬぞ!!』

 筆頭騎士の親戚が柄に手を掛ける。

 やっぱり、トンでもねぇ馬鹿がいた。

『喧しい!!下郎が!下がっておれ!!』

 おおヘルザースが怒鳴った。うん。いいタイミングだ。そうだわな。友好の印は同格の国同士で交わす物だ。同格ではないことを叩き込んでやれ。

『王子、王子と煽てておれば、つけ上がりおって!この惨状を見てハルディレン王国などどこにあろうか!各地の領主はここ!元王都に集結しており、全員亡き者と成り果てたわ!各領地は無法地帯も同然!内乱、反乱の気配がそこかしこに漂っておるっ!そのような現状を鑑みても、なお国と言い張る貴様らの態度が滑稽ゆえに笑ったのだ!申し立てることがあれば、申してみよ!!』

『貴様!!』

 筆頭騎士の親戚が剣を抜こうとするが、それを王子が止める。

『ヘルザースの、いや、ヘルザース殿の申す通り、今、ハルディレン王国は既に瓦解しておる。』

『しかし、殿下…』

 王子が顔を上げる。

『それでも、余はハルディレンの王子。第一継承権を有したる王子なのじゃ。臣民をこのままにしておくことは出来ぬ。国は臣民あっての国、国としての機能は失っても、国の基となる臣民は生きておる。シンシュウトガナキノ国行政院第一席のヘルザース殿にお頼み申す。何卒、ハルディレン王国の臣民を救ってたもう。その為ならば、我が身がどのように処されることも厭わぬ。な?お頼み申す。』

 王子が頭を下げる。俺は、それを冷ややかに見ていた。

 ふ~ん。王子の立場に戻って、臣民を盾に取るか、本心からの願いか。まあ、どちらにしても俺達にとっては取るに足らないことだ。

 つまりは、王子たる自分を使ってくれと。そういうことだな。中々のタヌキだ。

「臣民を救ってくれ。ついでに俺もワンセットで救ってくれれば、どのようにでも働くよ。ってことか?」

 俺はヘルザースの通信機に話し掛ける。その言葉を聞いたヘルザースが目顔でその通りだと返してくる。

 なら、使ってやろう。

「使い倒してやろうじゃないか。」

 俺の言葉にヘルザースが頷く。

『殿下、殿下がお望みならば、我ら神州トガナキノ国が後ろ盾になっても良いと思いますが、如何ですかな?』

 ヘルザースの言葉に王子が顔を上げる。

『殿下には、ディラン・フォン・コーデル伯爵領へ移っていただき、ハルディレン王国の王都を遷都して頂きます。』

『ディラン・フォン・コーデル伯爵領か、少しばかり遠いのう。』

『何かご不満でも?』

 ヘルザースも意地悪なことを言う。聞こえてるくせに。

『いや、何でもない。余の独り言じゃ。気に致すな。』

『結構。ディラン・フォン・コーデル伯爵領の領主は嫡子争いとなっていると予想されますので、我らがその争いを治めます。その後、その地を王都になさるが宜しいでしょう。』

『あいわかった。で、その間、余はどうしておればよい?』

『殿下には此処でお待ちいただき、臣民を慰撫していただければと考えております。そこなギュスターに命じておきますので、多少のご不便はあろうかと思いますが、しばしのご辛抱をお願いいたします。』

 王子の顔が曇る。

『ここでか…その、其方らの国体母艦とやらには乗せてもらえぬのか?』

 ヘルザースがニッコリと笑いながら『無理でございます。』とバッサリだ。

『殿下には臣民を慰撫するという大事なお仕事がございます。その殿下が、我らが国体母艦に乗船していてはお仕事に支障をきたしますので、ご辛抱ください。』

 王子が項垂れながら首を縦に振る。

『あいわかった。臣民のためにも、辛抱いたす。』

『結構でございます。』

 ヘルザースが頷いたところで、会談は終了だ。あとは、本来の目的であった、王都の現状についての説明だった。

 王国を襲った魔獣災害、王都を襲った恐竜型魔獣について、そして、王国避難民に対するトガナキノ国の救済処置についても話が及んだ。

 俺はその間に、イデアに命じて政務専用艦の一隻をハルディレン王子に貸すように段取りを組む。流石にこのまま王子をほったらかしという訳にはいかない。

 イデアの複製AIプログラムとギュスターが、王子の世話はしてくれるが、仮の城が必要だ。その仮設城として、俺の政務専用艦を貸すことにしたのだ。

 ローデルに、コルナと外政文官をディラン・フォン・コーデル伯爵領に送るように命じる。

 コルナには、道中、駆逐艦の主砲をホルルト山脈にブチ込んで、山脈に大穴を開けて来いと言っておく。

 地図で穴を開ける箇所にマーキングしておく。恐竜型魔獣の質量弾で、ある程度の峡谷は出来ているので、それに追加するような形だ。

 これは、ホルルト山脈を越えてくる風を減らすためだ。ヘルザース達の領地はこの風に悩まされていた。作物を枯らす熱風だ。

 フェーン現象が起こっていると考えられるので、山脈に巨大な穴、というか峡谷を開けて、風の通りをよくするのが狙いだ。併せてゴーラッシュ山脈にも峡谷を開けるように命じておく。

 その火力を目に焼き付けさせておけば、トガナキノ国に逆らおうって輩はいなくなる筈だ。俺はコルナに「なるべく派手にやって、早く片付けて来い。ただし、」

「人は殺すな。だろう?わかっている。」

 俺はコルナの言葉に笑いながら頷く。

「そうだ。その仕事が終わったら、ヒラギ族の所に行くからな。」

 あとはヘルザース達に任せておけばいいだろう。俺はトンナ達を引き連れて、無縫庵へと引き揚げた。

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