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トガリ  作者: 吉四六
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最後に肉食獣がやって来た

 トネリが入国した翌日、ヘルザースとズヌークの航空母艦が帰国した。

 これで、一応、航空母艦については、全艦が戻って来たことになる。

 カナデ、カノン、クノイダについては、いまだ、エダケエの構成員を入国させるために駆逐艦で各地を奔走中だ。

 ルブブシュは国体母艦に残って、孤児院運営を頑張っている。

 俺は、皆が王国中を、文字通り飛び回っている間に、インフラの細かな整備を進めていた。

 併せて進めていたのが、貨幣制度だ。

 通信機でヘルザースとも相談していたのだが、この国では貨幣制度、通貨経済そのものを廃止しようと考えている。

 入国者全員が霊子回路によく似た、S.C.Cを脳底に備え付けているのだ。それを使わない手はないと俺は考えている。と、いうか、イズモリの考えなのだが。

 S.C.Cと霊子回路との相違点は自身の考え方をコントロールする機能が、あるか、ないかだ。

 演算能力そのものに、目に見える差はあるが、霊子のコントロールとマイクロマシンの操作に関して言えば、イズモリの作る霊子回路と同じだ。

 マイクロマシンを自由自在に操作出来るようになると、治安面で問題が発生するので、本人の自覚がないままにマイクロマシンを操作出来るようにしたい。

 自分の必要とする物を、何でも、自分で作り出せるようになるには、次の二点の物が必要だ。

 まず、マイクロマシンを操作出来るようになること。

 次に、作り出そうとする物を構成する分子配列などの知識だ。

 あとは、当然、作り出そうとする物の元素が必要になるが、大抵の物は、そんなに特別な元素を必要としない。

 俺は、まず手首に装着するマイクロマシン操作用の機械、M.M.Cを作成する。

 このM.M.Cは、本来、体内を巡っている霊子を体外に放出するための装置だ。

 S.C.Cは体内を巡る霊子に命令を書き込み、M.M.Cは、その霊子を体外に放出し、大気中に漂うマイクロマシンに命令を走らせ、自分の欲しい物を作り出す。

 ただ、その欲しい物を作り出すには、俺の中にいるトーヤのような能力が必要になってくる。

 原子の配列や、分子配列、物質の組成等をデータとして持っていなければ、自分の思い通りに物を作り出すことは出来ない。

 そこで、俺はそのデータを安寧城の中央サーバーに保存するようにした。

 各M.M.Cは、中央サーバーに接続されており、自分の欲しい物をデータとして引き出せるようにしたのだ。合わせて、各M.M.C同士も接続し、各M.M.Cで作成したデータもやり取り出来るようにした。

 中央サーバーから引き出せる物質情報は原材料の物のみとし、それを加工、精錬するのは、各個人に任せたのだ。

 例えば、料理だ。

 オムレツを食べたいとする。

 卵と植物油のデータは中央サーバーから引き出し、調理するためのフライパンは、フライパンのデータを持っているM.M.Cから引き出す。そして、初めてオムレツを作ることが出来る仕組みだ。

 オムレツを作るのが面倒なら、オムレツその物のデータを持っているM.M.Cから、引き出せばいい。

 ここで、重要なのは、各データは、元データを持っている中央サーバとM.M.Cに所有権があることだ。そのデータを自分の物にするには所有権の移譲を求めなければならない。

 移譲とは言っても、元はデータなのだから、複製データの権利取得ということになる。そのデータの取得に、俺は、ポイント制を採用した。

 電子マネーでも良かったのだが、通貨を匂わせる名称は使いたくなかったのだ。

 そのポイントは、国からの一月ごとの配給制で受け取ることが出来る。

 何もしなくても、一月は必要最低限の生活が出来るポイント数だ。

 現代日本で言うところの生活保護だな。しかしそのポイントは全ての人間に配給される。

 最低限の生活だけでは物足りないと思う者は、働けばいい。

 いくら、大抵の元素は特別の物じゃないとは言っても、元素は必要だ。

 だから、働く者は地上に降りて、採掘、採取、養殖等の生産業を営んでもらう。それらの収穫物は国に治めてもらい、その収穫物に見合ったポイントを国が支払うことで、ポイント数を増やすことが出来るのだ。

 あとは、データ作成での労働だ。

 先程のオムレツを例に挙げると、オムレツを作り、それをデータ化し、そのデータを各個人同士でポイントと交換する。

 一般的な労働はこの二種類に絞られる。

 あと、問題は、膨大な物質データの保存だ。

 複製データを保存するにはM.M.Cの記憶容量では到底足りない。また、足りない元素をどうやって補うのか?という問題も出て来る。

 そこで、各建物、一世帯に一台、物質を具現化する機械を備え付けた。

 名称はマテリアル生成器だ。各個人の持つM.M.Cと同期し、大きなデータと元素の保存をマテリアル生成器で行い、M.M.Cで必要な物をデータと元素として呼び出し、再構築する。

 M.M.Cで自分が欲しいと思った物のデータを個人もしくは国からポイントと交換して、移譲してもらい、同じく必要な元素を国からポイントと交換してもらう。

 手に入れたデータと元素はマテリアル生成器に保存し、必要な時にM.M.Cで作り出す。また、マテリアル生成器は物質のデータ化も行う。

 つまり、オムレツを作った。

 そのオムレツのデータを公開し、他人のポイントと交換したい。

 オムレツをデータ化する機械が、必要になる。

 データを物質化し、物質をデータ化する。それがマテリアル生成器なのだ。

 実際は、脳底のS.C.Cで、全て可能なのだが、そんなことは、魔法使い以外には出来ないだろう。

 魔法使いなら、ポイントに関係なく自分の欲しい物を作り出すことが出来るが、一個人が、そんなに多くの元素配列などを覚えていることなんて出来る訳がない。したがって魔法使いもM.M.Cとマテリアル生成器を使用するだろう。そうなれば、魔法使いの能力は自然と普通の人並みになっていくと、俺は考えている。

 殊更に便利な道具を渡されれば、人はそれに依存し、自分の能力を下げるものだ。

 M.M.Cとマテリアル生成器の使い方、働き方などは、入国時の禊で脳に直接、教育済みなので、問題なく使えるはずだ。

 S.C.Cのお陰で、倫理観の矯正が出来るようになったことは大きいが、もう一つの利点が、このような知識の保存だ。

 S.C.Cを通して、直接、知識を脳に植え付けることが出来るようになったのだ。

 ただ、全ての知識を、直接、脳に植え付けたのでは、学習能力という人類最大の能力が失われる可能性があると、イズモリが提言してきたので、最低限の法律とこの国での生活様式を植え付けるだけに留めた。

 学校での勉強や、自らが体験して、得ることの出来る知識の重要性を優先させたのだ。

 最低限の法律には、勤労と教育の義務と権利を明記した。納税の必要はない。

 国体母艦その物が、独自に元素を収集し、膨大なデータを俺から移植させてあるのだ。

 納税してもらわなくても、国民からの収入で十分に稼げる。だから、国体母艦運用の公務員には国が直接稼いだポイントを支払うことが出来る。

 その公務員には、全員になってもらうつもりだ。

 三年間の公務就労義務を法律に明文化させた。ただ、後々は、十二歳から十六歳までの子供に、その就労義務を課す予定だ。

 十六歳以降は自分の好きな職業に就いても良いが、それまでは、公務を執行してもらう。

 国の仕組みを知り、奉仕者として、国全体の行く末を全員がよく考えてもらえるように、俺がそう決めた。

 希望するなら、十六歳以降も公務員として働いてもらっても良い。

 話が逸れたが、皆が王国中を飛び回っている間、俺は各建物にマテリアル生成器の設置に奔走していたのだ。

 同時に道路には街路樹の植栽などもやっていた。

 自転車道の中央を走る各種配管の上に十メートル間隔で楓を植栽し、歩道側には桜を植栽した。

 歩道に至っては、建物との境界に用水路を形成し、水草を植えて、魚を放流した。

 当然、生態系を作り上げなければ、水が汚れるので、他の生物も放流する。バクテリアが活性化するまでは、メンテナンスが必要となってくるので、ゴミや魚の糞を分解するマイクロマシンとアンモニアと余剰な硝酸を分解、消去させるマイクロマシンを用水路に放り込む。

 用水路の先は巨大な水槽タンクだ。地上の田畑に雨として降らせるための貯水槽となっている。余剰分はポンプで引揚げ、用水路源流部分に回している。

 建物からは、歩道の半分を覆う形で軒を張り出し、街路樹と共に日陰を作り出すようにした。と、言うのも、都市部を歩いていて、非常に眩しく、暑かったからだ。

 空中城塞都市だけあって、この都市には、ずっと陽射しが降り注いでいる。雲の下に入れば良いのだが、日陰を求めて、高度を上げ下げするのも馬鹿らしいので、歩道には、なるべく日陰が出来るようにしたのだ。

 都市を囲む森林公園には特に水場を多く設置した。

 湧き出る泉に、渓流を模した川。公園内の石畳の隙間にも水を流し、様々な植物を植栽した。

 日本の原生林を思わせる一画を作り、なるべく緑の多い公園に仕立て上げた。当然、植栽した木々は地上からの移植だ。

 その時に捕らえた生物も一緒にこの公園に解き放つ。動物の体内には、マイクロマシンを侵入させ、人を襲わないように、安寧城にて一括制御する。

 俺が、自分の家を建てたのは、そんな、原生林の中に、俺の魔狩りとしての家を建てたかったからだ。

 大きな岩が複雑に重なり合ったその上に、高床式のように土台の柱が組み上げられて、俺の和風建築物が、隠れ家のようにヒッソリと建っている。

 無縫庵。

 俺はこの和風建築物にそう名前を付けた。

「ふん。領民、家臣団の説得にと、こちらが忙しくしている時に庭いじりとは優雅なものだ。流石は我が(あるじ)だよ。」

 ねえ?風流な詫び寂を感じさせる建物に、一番似つかわしくない人が、ヘルザースとローデルと共に来たよ?

 眼鏡のブリッジを指先で押し上げて、怖い視線を俺に向ける。

「それにしても、驚かせてくれる。こんな化け物だったとは、とことん主の味方になっておいて良かったと思うよ。」

「ふ~んっ、最初は嫌がってたくせに、よくそんなことが言えるの。」

「ホントなんよ。帝国に帰れば良いんよ。」

「お前達もいい加減にしな。あんまり本音で話すんじゃないよ。」

 獣人三人娘達はホントに遠慮がないな。

「なんだ?主はいまだに、ションベン臭い小娘共の躾が出来ないのか?まったく。」

 はい三対一で火花を放ってます。

 コルナです。

 ヘルザースとローデルは、コルナの雰囲気に呑まれて、彫像のように大人しく座ってます。

「まあ、この三人じゃ、国の運営なんて、出来っこないからな。そういう意味じゃ、あたしを呼び寄せるなんて良い人選だよ。」

 ですよねぇ?

「トガリ、このコルナって人とも契りを結ぶの?」

 アラネ…物事には順番というものがあってだね、いきなり、何の脈絡もなく何を言ってるんですか?

「主よ。なんだ、この子は?」

「ああ、俺の従姉でアラネってんだ。」

「ふん。道理で生意気な口のききようをする。そんなんじゃ、まともな嫁の貰い手がないな。」

 アラネが立ち上がってコルナに詰め寄る。

「ちゃんといるわよ!トガリがあたしの許婚よ!!」

「ほう、主が許婚か?では言ってやろう。お前如き薄っぺらい娘では、主の嫁は務まらん。主はこれだけの船を独力で築き、帝国のカルザン陛下と対等以上に交渉できる人間だ。お前のような、何の力もない口だけの人間が亭主にできる男ではない。」

「そんなことないわよ!あたしが、ちゃんとトガリと結婚するんだから!」

「では具体的に言ってやろう。今後、主はそちらにおられる、ヘルザース閣下やローデル閣下のような貴族、王族と一緒に食事をしたりするのだぞ?お前はそんな人間と一緒に食事が出来るだけのテーブルマナーを知っているのか?踊りのステップはどれだけ知っている?観劇場でのマナーは知っているのか?テーブルゲームはどれだけ知ってる?」

 アラネが口で言い負かされてる。コルナ、スゲエ。

 いや、いや、大人気ないだろコルナ。

「そんなの…そんなの知らなくたってトガリのお嫁さんになるんだもん!!」

「まったく、困った娘だ。最後は会話も成立しなくなるのか。そんなことよりも…」

 アラネのことは、もうどうでも良いとばかりに、コルナが俺の方に視線を転ずる。

「この子が言った、契りを結ぶとはどういうことだ?」

「ああ、それは…」

 契りを結ぶようオルラに言われた経緯をコルナに説明する。

「成程な。主が望むのであれば、私に拒否権はない。主の思った通りにすればよかろう。」

「え?いや、そうじゃなくて、コルナの気持ち。コルナの気持ちはどうなの?」

「私の気持ちは関係ない。主の思うがままにすればいい。」

「いや、だからね?俺は、あのう、コルナの気持ちによっては契りを結ばないってことで、あれ?」

 コルナが大きく溜息を吐く。

「だから、私が決定権を持つことがおかしいのだ。私は主の下僕であり、拒否権も決定権も持たない立場なのだから、主の思った通りに私を蹂躙すればいいのだ。」

 え?なに?蹂躙?いや、俺そんなことしないよ?

『馬鹿だなぁ。彼女、やる気満々じゃないか。そんなこともわからないのかい?』

 ええ?そうなのか?クシナハラの視点で見ると、そうなってるの?

『ご覧よ。眼鏡の奥の瞳は潤み、唇がうっすらと開いてるだろ?頬も若干赤味を帯びてるし、何と言ってもトンナ達の様子を見てご覧よ。』

 うわ~。トンナ達、なんか凄い怖い顔でコルナを睨んでますけど?

『だろう?女同士の直感で、敵として認識してるんだよ。やる気満々のコルナを敵認定してるんだ。』

 そういうことなのか?

『そういうことだよ。』

「でもコルナ、お前って娘がいたよな?旦那とかは良いのか?」

 藁にも縋る思いで聞いてみる。

「娘はいるが、関係ないだろう?主の希望であれば。それに亭主はもういない。」

 背筋をピンと伸ばしながら綺麗な姿勢でコルナが答える。

「ああ、そうなんだ。なんか悪いこと聞いちゃったかな?」

「いいや。前の亭主は、あまりに頼りなかったんでな。私の方から三下り半を叩きつけて、家から追い出したんだ。」

『いや、違うぞ。コルナの夜の営みが凄すぎて、腎虚になって逃げだしたんだ。』

 マジか?イズモリ、その情報はマジか?

『以前、コルナに言ったのをお前も聞いてた筈だ。夜のストレス解消はほどほどにしとけって。』

 ヤバイ。獣人を腎虚にするって、マジで何とかしないとヤバい。

「でも娘がいるんでしょ?その娘って一体幾つなのよ?」

「八歳だ。それがどうした?」

 トンナの質問にも冷たく答える。トンナのことを神と崇めていたのも遠い昔のようですね。

「じゃあ。お前は幾つなんよ?」

「三十八だが?」

「オバサンなの!!」

 トンナとアヌヤのお陰でわかったが、コルナって結構いってたのね。セディナラの時もそうだったけど、獣人の年齢ってわかりにくいわぁ。

「え、でも待って、じゃあ、コルナって三十の時に子供を産んだの?」

「そうだ。三人目だがな。」

「そ、そんなオバサンがトガリと契りを結ぶなんて許せないの。」

 コルナが冷めた目で、ヒャクヤを射殺しそうな雰囲気で見詰める。

「ションベン臭い小娘では知りえぬ世界があるのだ。特に女を知らぬ男の処し方は経験豊富な女が導いてやらねば、その後の性生活に多大な問題を抱えることになる。その辺のことはわかっているのか?」

 なんか、俺、本当にヤバいんじゃないだろうか?コルナが別の意味で怖いんですけど…

「そんなこと関係ない。お前みたいなオバサンがしゃしゃり出てくる方がおかしいのよ!」

 トンナが立ち上がる。

「ふふん。男を知らない小娘如きが、しゃらくさいことを。」

 何か、食べられるって、こういうことなんだと、今、わかったよ。コルナが俺を見る目が尋常じゃない。もう完全に捕食者の目だ。どうやって、どんな風に俺を食べてやろうかと考えてる目だよ。

「いや、コルナ。今日はそんな話がしたくてお前をここに呼んだんじゃないんだ。」

「ああ良いよ?早速やるのか?」

 何を抜かしとるんじゃコイツは?

「何をトチ狂ってるんだい?この年増が。」

 うわっ。

 吃驚した。

 俺の後ろにトネリが立っていた。

「ほう、今日は初顔が多いな。この女は誰だ?」

 コルナが俺に聞いてくるが、俺が答えるよりも早くトネリが答える。

「トガリの姉で、トネリってんだ覚えなくていいから、ここから出て行きな。」

 はい、ファイト!!

 さあ、始まりました。世紀の怪獣同士の最強決定戦!

 かたや、巨大化を続ける怪獣ゴ〇ラ!かたや、神格化された怪獣ガ〇ラ!どちらが本当の怪獣王となるのか!今日、決定いたします!

『自棄になってるな。』

 なってるよ。

 トネリの言葉を受けて、コルナが立ち上がる。

「そいつは無理だ。私の姉になるかもしれないお人だ。名前も顔もキッチリ覚えさせてもらってから、あんたじゃなく、主に断って、ここを出て行くよ。」

 トネリが一歩進む。

 危ねえ。蹴られるかと思ったよ。

「はんっ。コブツキの大年増が妹だって?世迷い事も大概にしな。ウチのトガリを食い物にしようなんざ、考え違いも(はなは)だしい。」

 コルナが一歩踏み出す。

 いや、だから、俺が挟まれてるって二人とも知ってる?

「ふん。小便臭い娘が、ちょっとお飯事(ままごと)を齧ったからって、世間一般のことを知った風に語るんじゃない。」

 トネリの顔がコルナに近付く。

「はっ!その小便臭い娘にもわかる理屈をお前に教えてやるよ。いいかい?世間一般じゃ、お前のような奴を児童偏愛趣味の色狂い変態って言うのさ。」

 コルナがトネリの顔に近付く。

「ふん。自分で小便臭い娘と認めるなんて殊勝じゃないか。お前の知ってる世間なんて、どうせ、片田舎の世間だろう?狭い世間を知って、世の中全部を知った風に粋がる小娘特有の病気持ちだね。」

 トネリの顔が魔獣モードだ。

「やっぱり年じゃないのかい?あんた、口が臭いよ?」

 コルナの顔が暗殺者モードだ。

「小娘のくせに皺が深いよ?私みたいに若く見られたいなら、その方法を教えてやろうか?」

 すっげえ怖い。

 他の女性陣はさっきから、部屋の隅に固まって、ガクブル状態だ。二人に挟まれてる俺は何だか知らないけど正座してるよ。

「クソ婆が。」

「老け顔が。」

 なんか、色欲塗れの学級委員長VSおぼこいヤンキー的な構図なんですけど、何とかならないっすかね?

「まったくお前達は、目を離すと必ず喧嘩してるね?」

 オルラ参戦!ヒーローキタ――――ッ!!

 トネリとコルナがオルラの方を見る。

 オルラが二人に距離を取らせるために、その間を通る。俺は狭い空間で器用にオルラを避ける。

 どうも、オルラとトネリは風呂に入ってたみたいだ。二人ともホカホカだ。

「お前達の様子を(うかが)ってると、どうも、考え違いをしてるようだから言っとくよ。」

 オルラが首にかけたタオルで、髪を拭きながら、座る。

「いいかい?お前達の喧嘩の中心は常にトガリの扱いようだ。全員がトガリのことを大事に思ってる。それは良い。結構なことさ。でも、お前達は肝心のトガリのことを無視してる。あたしはトガリに、トンナ達、四人と契りを結ぶように言った。トネリはアラネをトガリの嫁にすると言った。でも肝心のトガリはそれを嫌がってるみたいじゃないか?そのことを考えてる子はこの中にいるのかい?」

 場が静まる。

 トンナとヒャクヤは泣きそうな顔だ。

「何でトガリが嫌がるか、それは、お前達が争うからだよ。お前達が、トガリのことを好きなら、喧嘩しないで納得することさ。トガリって子は、普通では推し量れない子なんだ。そんな子を独り占めしようってのが、そもそもの間違いなのさ。」

 ちいいいいがあああああうううううっ。

 オルラ、そっちの方に持って行かなくていいから。ハーレム認定しなくていいから!

「お前達に言っとくよ。あたしは四人と契りを結ぶようにトガリに言ったが、それが、五人でも六人でも良いのさ。何だったら十人でも二十人でも良い。トガリに相応しい、たった一人の女なんて、この世にいる訳ないんだ。だから、数でトガリを満足させるしかないんだよ。」

 怪獣でした。

 ヒーローじゃなくて宇宙大怪獣でした。

「それでも、お前達が納得できないって言うのなら、トガリに相応しいたった一人の女になるんだね。この国体母艦を造り、六十四万人の魔道兵士を生み出し、三十万人以上の人を救う。そんな男に相応しい、たった一人の女にね。それは決して、相手を蹴落とすような女じゃないと、あたしは思うよ?」

 治めたよ。オルラが見事に治めました。はい。俺をダシにして治めました。

 もういいよ。

「承知した。オルラ殿の仰ること、(もっと)もだ。以後はオルラ殿の言葉を胸に留め、主に接することとする。」

 コルナが元の位置に座る。

「ふん、アラネ。」

 トネリがアラネを見下ろす。

「負けるんじゃないよ。」

「うん。」

 トネリの言葉を受けて、アラネが大きく頷く。

 何の話だ。

 ヘルザースとローデルが、完全に黄昏れてるぞ。

「ヘルザース、ローデル。」

 俺は二人の元貴族を、傍に来るように手招きする。

「すまん。さっきの話とは関係なく、コルナを暫く借りたい。」

「はい、勿論でございます。やはり、初めては、こなれた女性の方がよろしいですからな。」

「ヘルザース、違うよ?」

「左様ですぞ。思春期の陛下にそのようなことを仰られては、益々、奥手になられますぞ。」

「ローデル、違うよ?」

 初めてローデルから陛下って呼ばれたけど、感慨も何もあったもんじゃないよ?ローデル、色々台無しだよ?

「コルナ、お前を借り受けるのはヒラギ族を説得するためだ。」

 二人のオッサンの脳味噌はピンクすぎるので、コルナに直接、話し掛ける。

「ヒラギ族を?」

 トンナのツキナリ族とアヌヤ、ヒャクヤのテルナ族は、既に入国手続きに入っていると、セディナラから連絡を受けている。できれば、コルナのヒラギ族も国民にして、後顧の憂いを断っておきたい。

「説得するのは(やぶさ)かどころか、願ったりだが、帝国の獣人族だぞ?」

「それでは、帝国側に潜入する部隊を整えまする。」

 いや、ローデル待て。話がトントン拍子に進み過ぎるし、俺が行くから。

「俺が、行くから。」

「それは、(いささ)か、如何なものかと思いますが。」

 そうだよね。ヘルザースもそう言うよね。

「いや、俺が行くのにお前らの許可は必要ないから。ね?だから、俺が行くから。」

 ヘルザースとローデルが難しい顔をして俯く。

「まあ、お二人が、お困りになるのは、至極真っ当なことではございますが、トガリが行くと言っているのです。それを止める術は、我らにはありますまい。」

 相変わらず、オルラの対応力は半端ねぇ。

「致し方ありますまい。オルラ殿の仰る通り、我らには陛下をお止めすることは出来ませぬからな。」

 ヘルザースとローデルが諦めたように笑う。

「しかし、潜入という形ではなく、正式にカルザン帝国と調停を結ぶという形式になさっては如何ですかな?」

 成程、堂々と乗り込んで、コッソリ、ヒラギ族と接触するってことか。そうだな。そうしよう。

「そうだな。その方が良いな。じゃあ、ヘルザースとローデルも一緒に来いよ。表立ってはお前らに動いてもらって、俺達はコッソリ動くから。」

「承知いたしました。」

 ヘルザースとローデルが、口調こそ軽いが、恭しく頭を垂れる。

「よし。二人の許可も出た。コルナ、帝国のヒラギ族の元へ行くぞ。」

 コルナの目が優し気に緩み、少し首を傾げて、微笑む。

「うむ。主よ、よろしくお願いいたす。」

 俺は初めて、コルナを可愛いと思った。

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