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トガリ  作者: 吉四六
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腹黒白猫は何処に行った?

 安寧城の食堂。しかも、極々プライベートな食堂で、俺達は遅めの昼食を摂った後、現在の、避難民の下船状況の報告を聞く。

 アヌヤのお盆下船事件の後は、順調に下船が進んでいるそうだ。

 周りから見ても、あのお盆は恐怖の対象に見えたようで、あれだけ下船を嫌がっていた避難民全員が、素直に酒呑童子に抱えられて降りているらしい。

 まあ、あのお盆に載せれられて、三十メートルもの高さから降ろされることを考えれば、十メートルの高さから、安定した酒呑童子に抱えてもらう方がマシだろう。

 高所恐怖症の人間からすれば、どっちも勘弁してくれというところだろうが。

 まあ、一応、間接的にだが、アヌヤとヒャクヤは下船の手伝いが出来たことになる。俺は、そのことをアヌヤに話してやるが、アヌヤは、元気がない。

 トンナもやっぱり元気がない。

 オルラは何度か溜息を吐いて、俺の顔を見ては「どうするのさ?」と聞いてくるばかりだ。ロデムスに至っては、呆れてものも言えないのか、香箱を作って、だんまりだ。

 俺にはどうにも出来ない。

 あれだけの啖呵を切ったのだ。今更、どうにか出来るものでもない。

 オルラに「どうするのさ?」と聞かれても「知らないよ。勝手にその内、帰って来るだろ?」としか、答えようがない。

 何度か、同じようなやり取りを繰り返して、アヌヤが立ち上がって、俺の所にやって来る。

「チビジャリィ、ヒャクヤを探しに行くんよ…」

 俺は、横目でアヌヤをチラリと見て「行けば?」と応える。

「違うんよ。チビジャリも一緒に行くんよ。」

「なんで俺が?俺が、ヒャクヤにどこでも好きな所に行けって言ったんだよ?なんで、その俺がヒャクヤを探しに行かなきゃいけない訳?」

「それは…」

 アヌヤが下を向いて、両手の指先を弄ぶ。

「トガリ、そんなに意地を張らないでも良いじゃないか。探しに行っておやりよ。」

 オルラが小さな子供を諭すように俺に言う。

 まあ、実際に小さい子なんだけどさ。

「やだよ。あいつは、俺のことが嫌いなら出て行けって言ったら、出て行ったんだ。そんな奴を俺が探しになんか行ける訳ないだろ?」

 オルラが何度目かの溜息を吐き、ロデムスの方に視線を向けて、肩を竦める。

「ふむ。主人は思春期の(おのこ)のようじゃ。ヒャクヤ殿のことが好きじゃが、男としての誇りが、それを邪魔しておるのじゃよ。ヒャクヤ殿もそうじゃが、お互い微妙な年頃じゃ。そっとしておくのが、利口な大人の処し方じゃのう。」

 おい、猫。知った風なことを言うな。

 何が、微妙なお年頃だ。

 俺は四十五歳のオッサンだぞ?

 ヒャクヤと俺の関係は、どっちかと言うと、悪いことした自分の娘を怒ったら、その娘が逆切れして家出したって感じだぞ?

『四十五歳のオッサンなんだから、もうちょっと、どっしりと構えたらどうなんだ?』

『そうだよ?オッサンなんだから、十四歳の女の子と同じ目線で争ってどうするのさ?』

『ちょっとカッコ悪いよねぇ。』

『男なら大きい心で許してやれよ。』

 いや、女だからって、甘やかすのはよくない。今後のことも考えれば、俺の方からは絶対に探さない。

『一番の大嘘つきのくせに、何を偉そうに言ってるんだか。』

 な、俺は嘘なんか吐いてないぞ。

『ええ~っ、本気で言ってる?それ。』

 そりゃそうだよ。本気で言ってるよ。

『凄い忘却力だな。俺も大概の脳筋だが、そこまでじゃないぞ!』

 なんだ?何のことを言ってる?

『ヘルザースとローデル、ズヌークに大嘘を吐いてるだろうが?』

 …

『テルナ族の里では、ヒャクヤとアヌヤに嘘吐かさせたじゃない?』

 …

『超嘘吐きのマッチポンプだったよねぇ。』

 …

『探しに行った方が良いんじゃないの?』

 …

『あ~あ、ヒャクヤちゃんの処女は他人の物か~。』

 ちょっと待て、クシナハラ。どういうことだ?

『だって、ルビーちゃんに乗って行ったけど、お金はないだろ?だったら、お腹を減らした家出娘のやることなんて決まってるじゃないか?』

 オイオイオイオイオイオイ。

 冗談だろ?

 ヒャクヤだぞ?

 あのバカ娘だぞ?

『馬鹿だなぁ。バカ娘だから、そうなるんじゃないか。』

 確かに、あいつなら、昼飯を奢ってもらうだけで、男の後をヒョイヒョイ付いて行きそうだ。

 トタンニフアンニナッテキタヨ?

『おい。カタカナで考えるな。わかりにくい。』

 どうしよう?

『探しに行けば?』

 どこを?

『国体母艦を造ってから、数日経ってる、半径二十キロ圏内ならマイクロマシンの網にかかるだろう。』

 二十キロメートルを超えてたら?

『その時はわからん。』

 汗が滝のように流れてくる。

 少しでもヒャクヤの居場所がわかるようにと、俺は立ち上がって、ベランダの方に向かう。

 あ、いた。

『いたな。』

『いたねぇ。』

『いたよ。』

『なんだ。案外近いじゃねえか。』

『なぁんだ。いるじゃん。』

 国体母艦から一番近い航空母艦。

 十二キロメートル南東のセディナラの航空母艦にルビーちゃんが着艦している。

 ちゃっかり飯まで食ってやがる。しかも、大盛りだ。

 …しばいたろか。

 セディナラは、今、獣人の里にいる。ウルフノイドの里だ。身近なところから説得に行ったんだな。それとも、一番、説得の難しい所から行ったのか?

「トガリ。」

 トンナが俺の隣に立つ。

「ん?」

 トンナの方に頭を振って、トンナの視線に合わせる。

「心配じゃないの?」

 俺の顔を見て、咄嗟にそんな言葉が出て来たんだろう。だって、もう、全然、安心してるから。

「ヒャクヤのことか?」

「うん。」

 トンナが頷く。

「さっきまではな。」

「今は?」

「あいつ、セディナラの航空母艦で、ホクホクしながら大飯食らってるぞ。」

 トンナが、固まる。

 小さい子供の家出と一緒だ。

 逆切れして、自分の屁理屈を盾にして、家出しても仕方がないと自分を正当化する。でも、遠くまで行くのは怖い。

 ちょっとでも俺が心配すれば、留飲を下げて、帰って来るつもりだ。

 馬鹿野郎。世の中、そんなに甘くないぞ?

 そのことをシッカリと教えてやるっ!

 トンナが呆れ顔で、アヌヤとオルラの所に戻って、俺から聞いた話を皆に話してる。

 アヌヤも開いた口が塞がらないようだ。オルラは「やれやれ」と言いながら肩を竦めてる。

 さて、どうしてやろうか?

 嘘吐きは、懲らしめてやる。うん。将来、俺みたいになっちゃだめだからね。

 俺は全員を集めて、ヒャクヤを懲らしめるための作戦を練る。

 セディナラに連絡を取り、ヒャクヤを懲らしめるための作戦を伝えるが、セディナラからは、協力を取り付けることが出来なかった。

『いや、兄弟。俺が嘘を吐いたら、ヒャクヤの御嬢に恨まれるじゃねえか。今後のことを考えてくれよ?』

 確かに、その通りだ。

「じゃあ、ヒャクヤに会わないようにしてくれ、忙しくて会えないとか、そういう方向で頼む。」

『ああ。それなら良いぜ。何とかするよ。』

「ところで、ウルフノイドの説得はどうだ?上手くいきそうか?」

『ああ。大丈夫だ。そっちの方なら、もう、話はついた。とにかく、今は引っ越し準備待ちだ。』

 そうか。心配して損した。流石はセディナラだ。

『まあ、国体母艦が、すぐ傍に見えてるしな。それに、この間の魔獣の攻撃がよっぽど身に沁みたんだろうよ。』

「そうか。それと、ウルフノイドの里が終わったら、悪いが、ヤートの集落の方を先に頼めないか?」

『ああ。それは構わんぜ。兄弟の里か?』

「そうだ。俺の姉と従兄弟がいるんだ。オルラ義母さんにとっちゃ娘と孫だな。」

『そうか、それなら、急ぎ行って来るよ』

「悪いな。それと、俺の姉なんだが。」

『うん?』

「かなり凶暴なんでな、扱いには注意してくれ。まあ、お前なら大丈夫だろうけど。」

『わかった。注意するよ。』

 俺の言葉を受けて、セディナラが、笑いながら返答してくる。

「ああ、頼む。じゃあ、悪いが、しばらくヒャクヤの面倒を頼むよ。仕事の邪魔をするようなら叱ってくれよ?」

『ああ。わかった。』

 セディナラとの通信が終了して、俺はトンナ達を振り返る。

「よし、じゃあ、俺達は避難民の下船作業の方を手伝いに行こうか。」

 竜騎士で、下船作業を手伝うことになった。

 巨大お盆の失敗を反省して、天井部分だけを開けた、一辺が五メートルのコンテナを作製し、コンテナ壁面にドアを造る。

 コンテナに避難民を収容、竜騎士一体がそのコンテナを運んで、避難民を下船させる。

 アヌヤのヨルムンガルドは、直立不動で突っ立ってるだけだ。それだけで、十分脅しになって、避難民が言うことを聞いた。

 国体母艦の船底から地上をサーチライトで照らし、夜通し、避難民の下船作業を行うが、避難民の数は一向に減らない。

 先の見えない作業は本当に疲れる。

 きっと、ヘルザースの兵やセディナラの構成員も疲れてるだろう。

 現在、国中を飛び回っている各航空母艦と駆逐艦にも、S・C・Cを作成するマイクロマシン薬は充分に積み込んであり、禊を行うためのカプセルも設置してある。

 各船に乗船した時点で入国ということになるので、それらの作業は迅速でなければならない。

 禊で、作りかけのS・C・Cに倫理観を高めるプログラムを焼き付けると同時に入国者たちの遺伝子情報を採取し、新たに作り直した戸籍と連動させる。

 禊に使っているカプセルは、治療用の物を転用しているので、検疫ついでに基礎疾患を治してやったり、傷痕を消してやったりと、国民になった場合の特典も無料体験させているから、カプセルから出て来た皆には、禊は好評だそうだ。

 中には、禊は治療のことだと勘違いしている者までいるとのことで「また、病気になったらよろしくお願いしますね。」と、婆さんに頭を下げられていると、セディナラの方から、報告が上がってきていた。

 元は筋者ばかりだが、そんな他人からの感謝が嬉しくて、みんな、頑張ってくれているとのことで、俺もちょっと嬉しくなる。

 ヘルザースの領民やエダケエの構成員が乗船すれば、国民として、避難民の下船作業を手伝って貰わないとな。

 各船の収容人員が一杯になれば、戻って来てくれるから、それに間に合うように、国体母艦の方では、新規入国者用に酒呑童子と汎用竜騎士の数を用意しなければならない。 

 入国して早々に避難民の下船作業って、どれだけブラックだよ?しかし、そうでもしないと、いつまでたっても避難民の下船作業が進まない。

 人が多ければ、それだけ食料が消費される。そうなると、新規国民が飢える。そんなことになったら最悪だ。

『着陸場所を整備したらどうだ?』

 着陸場所?

『ああ、俺達の負担は増えるが、侵入できない着陸場所を造るんだ。』

 濠かフェンスで入れないようにするのか?

『そうだ。そこに航空母艦を着陸させて、避難民を下ろし、離陸してから、濠を元通りに埋める。』

 八百メートル級の航空母艦の甲板なら、一万人は乗せられるか。

『現在の避難民は約八十四万人だから、単純計算で八十四回、それをやれば終了する。』

 よし。じゃあ、そうしよう。

 早速、俺は王都中心部、元は王城のあった地点に、オンザ級航空母艦の着陸場を建設する。

 全長八百メートルの航空母艦を着陸させるのだから、普通は地盤面の強化を考えなければならないのだが、この航空母艦の着陸は、本当の意味での着陸ではない。

 地上から三メートルほど浮かせた状態で、収納式のタラップを地上に接岸させるだけだ。

 だから、着陸地点を平らに整地するだけで事足りる。

 俺は王城の瓦礫の下から、金や銀などの換金できる物、素材として使える物を分解保存し、一旦、全ての瓦礫を分解、グランドラインが平坦になるように、分解した瓦礫を再構築して、舗装された大きな駐車場みたいに仕上げる。

 深さ五メートル、幅四メートルの濠を造って、着陸場を囲み、そこに避難民を一杯に収容した航空母艦を着陸させた。

 どうする?降りた避難民に王城で回収した金貨とかを渡すか?

『やめとけ。どうせ取り合い、争いの元になるだけだ。それよりも、数日とは言え、こっちの食料を供出してるんだ。その補充に当てろよ。』

 でも火事場泥棒みたいで気持ち悪いな。

『それなら、ギュスターに渡せ。復興作業に使わせればいい。』

 なるほど、そうだな。そうしよう。

 夜の間に九万人の避難民を下船させることが出来た。始めっから、こうしとけば良かった。クソ。

 それでも、結局、避難民全員の下船には四日間という日数を費やした。

 王都に避難民が住める仮設住宅と仮設の病院を並行作業で建設したので、これだけの時間を要した。

 治療のための薬は俺のマイクロマシンで作ることが出来るが、食料は無理だ。

 エダケエの構成員に命じて、駆逐艦で他領主の備蓄を吐き出すように脅しをかけさせているが、中々、備蓄を吐き出さない。

 領主の不在が響いている。

 内乱の気配が濃厚な中、備蓄を放出する奴はいないだろう。

 それだけに、避難民が受け入れられやすい傾向にあるとは言える。どこも兵力を増強するために、自領に取り込むつもりなのだ。こっちとしては、その方が、都合が良いので、避難民達には他領へ避難するよう呼び掛けている。

 こちらは、避難民を降ろしたことで、やっと、国民となるべき人間達を迎え入れることが出来る。その第一号として、セディナラの航空母艦が帰還する。東の空から日の出を背負って、オンザ級航空母艦が国体母艦へと向かって来る。

 オンザ級航空母艦が接岸し、続々と人が国体母艦へと乗り移って来る。その中に一人の人間を見つける。

 俺は即座に走り出し、トンナ達がその後を追う。

 その人物の前で、俺は立ち止まり、万感の思いを持って、叫ぶ。

「姉さんっ!!」

 俺の声を聞いたトネリが顔を向ける。

 両手でアラネとトドネの手を引き、大きな荷物を背負った体格のいい姉だ。

「トガリッ!!」

 トネリがアラネとトドネの手を引きながら、足早に近づいて来る。

 走っていた。俺は意識せずに走っていた。

 お互いが呼吸を合わせたように立ち止まる。トネリがアラネとトドネの手を離し、俺を抱き上げる。

「お前!よく生きてたねぇ!無事で良かったよ!」

「ああ、色々あったんだ!ホントに色々だ!」

 トネリの腕に力が入る。

 俺は思わず、トネリの胸を押し返す。

「姉さん…やっぱ臭いよ。」

「うるさい!!口で息しな!!」

 そう言いながら、トネリが、再び、俺を抱き締める。

 実は、トネリの後ろには、(くく)られたヒャクヤが引き摺られていたのだが、取敢えずそのことはスルーだ。

 聞くのも怖いわ。

お読みいただき、ありがとうございました。本日の投稿はここまでと褪せて頂きます。ありがとうございました。

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