アヌヤ+(大き目のお盆+下船)=大惨事
「なるほど~。あの二人にしちゃぁ、考えたよね。」
なに真面目な顔して言ってるんすか、この姉さん。
馬鹿なの?
「獣人は、ちょっと頭が足らんのじゃ。」「足らんのじゃ。」「足らんのじゃ」「足らんのじゃ…」
前にロデムスが口にした獣人に対する批評が、頭の中でリフレインされる。
馬鹿なんだ…
俺は思わず、その場に跪いて、項垂れる。
「どうしたの?良い考えじゃない。ちょっと、見物にでも行く?」
トンナの言葉に、俺は勢いよく顔を上げる。
止めることは出来ないにしても、フォローに行かなくては!
「トンナ!二人を追って!」
すぐさま俺は霊子バイクに跳び乗り、トンナに発車するように呼び掛ける。
「どうしたの?そんなに慌てて。」
「いや、あの二人のやることだ。悲惨な結末しか予感しない。」
「大げさね。大丈夫よ。だって、あの巨大なお盆に、人を…載せて……」
トンナが途中で口を噤む。
どうしたのかと思って、トンナの方を振り仰ぐ。
顔が真っ青だ。
「どうした?」
トンナが唇を震えさせながら開く。
「そ、そう言えば、アヌヤって…お、お盆の上の物を、まともに運んでるの…見たことない…」
駄目だあああああああっ!
大惨事だ!!
大惨事しかない!!
そうだ!アヌヤなんだよ!アイツは、お盆の上に物を載せて、まともに運べないんだよ!いっつも零してるんだよ!しかも大量に!!
獣人テルナ族の里で、俺達にお茶を持って来た時も…
ホノルダの本屋で、オルラ達にお茶を入れた時も…
一切、まったく、全然、まともに運べてなかったっ!!
どうして、巨大お盆で人間を搬送しようなんて発想が出て来るんだよ!自分で無理だって思わないのか?!
カナデラ!!
『いや~それがさぁ。ダイジョブ、ダイジョブって、何か下手な外国人訛の日本語で返されちゃってさぁ。俺の話を聞いてくれないんだよ。』
お前は!!肝心な時に頼りにならんやっちゃなあああ!!
『そんな下手な関西弁で言われてもなぁ。』
「急げ!トンナ!二人を止めるぞ!」
「わ、わかった!」
霊子バイクが、二人の竜騎士が向かった右舷に回り込む。
「アヌヤ、航空母艦の何番艦に向かったんだ?」
アヌヤの通信機に向かって呼び掛ける。あくまでも冷静に。
『んにゃ?何番艦?』
駄目だ。おんなじ外観だから、何番艦かわかってないんだ。もう、ホントに行き当たりばったりだな!
『お前もな。』
イズモリ、お前ってホント他人事な!
「船首から何番目の航空母艦にいるんだ?」
『せ、センシュ?なんの選手なんよ?』
うわ~!馬鹿だ、馬鹿だと思ってたけど、どんだけ馬鹿なんだよ?お前はワープロソフトの誤変換か!
「だから、国体母艦の先の方から、何番目の航空母艦なんだよ?!」
『え?え~と、二番目?か、三番目だと思うんよ。』
なんだ、そのあやふやな答えは!
俺は、トンナを振り仰ぎ、二番艦へ向かうように指示するが、案の定と言うか、何と言うか、やっぱり、二番艦にはいなかった。すぐに三番艦へと向かうが、そこにもいない。一番艦は、ヘルザースが自領の領民を迎えに行ってるからここにはない。
そうこうしている内に、左舷から航空母艦が離岸していくのが、国体母艦の船底越しに確認できた。
まさか、と思い、離岸していく航空母艦へと向かう。飛行甲板上に二機の竜騎士を確認する。
あいつら、右舷に向かっていたのに、何で左舷側の航空母艦に載ってんだ?訳わからん!
「イデア、俺のスサノヲとダイダロスを航空母艦五番艦に送ってくれ。」
『了解しました。』
霊子バイクが二人の竜騎士の傍に着艦する。
『どうしたんよ?二人とも手伝いに来たんかよ?』
器用に避難民を摘まみながら、アヌヤが俺に聞いてくる。避難民は、やっぱり誰でもそうするように飛行甲板上を逃げまどってる。
酒呑童子が避難民を拘束しているが、酒呑童子の人数が圧倒的に少ない。
俺が造った巨大お盆の中には、避難民がほぼ一杯に詰め込まれてる。
「アヌヤ!やめろ!危ないから!危険が一杯だから!お盆作戦は止めろ!!」
アヌヤが摘まんだ避難民を巨大お盆の中に詰め込む。
『何言ってるんよ?こうした方が、早くて、簡単なんよ。チビジャリも手伝うんよ。』
二人の竜騎士が、巨大お盆の取手を掴み、立ち上がる。避難民の叫び声が大空に響く。駄目だ。スサノヲが間に合わない。
ヒャクヤのルビーちゃんは他の機体よりも小型化してあるため、当然、お盆は傾いている。既に大惨事の臭いがプンプンする。
「アヌヤ!駄目だ!低く!低くして!!ルビーちゃんの身長に合わせないと!お盆の中の人が将棋倒しになる!!」
俺の声を聞いたヨルムンガルドが中腰になって、お盆を水平にする。
『にゃはは。失敗失敗。』
笑い事じゃないからっ!
うん、これが終わったら、トンナに説教させよう。
『それじゃあ、先に下に向かうの。』
何?もう、行くのか?まだ、地上まで三十メートルぐらいあるぞ?
二人の竜騎士が発艦する。
「イデア!スサノヲはまだか?!」
『申し訳ありません。避難民の下船作業のため、ハンガーが混雑しており、時間がかかっております。』
「トンナああああっ!霊子バイクで、追い駆けろおおおおおっ!!」
もう、必死です。
アヌヤの竜騎士の動きがやっぱりおかしい。
上下左右にフラフラと落ち着きがない。
ルビーちゃんは安定してるのに、どうしてヨルムンガルドは安定しない?
ヨルムンガルドのイデアと通信回線を開く。
『アヌヤ様、操作を私に移譲してください。このままだと、携行している大型避難民搬送用コンテナから避難民が落下します。』
『うるさいんよっ!邪魔するんじゃないんよっ!集中できないんよっ!』
『アヌヤ様、高度、出力共に私が調整しております。アヌヤ様は、出力操作スイッチから、指を放してください。』
『うるさいんよっ!喋りかけるんじゃないんよっ!!』
あ、あかん。大惨事一歩手前や。
「アヌヤッ!!お盆を見るんじゃない!高度計とルビーちゃんの方を見るんだ!」
トンナが通信回線に割り込んで叫ぶ。
『そ、そんなことしたら、避難民を落としちゃうんよ!』
「心配ないよ!その辺のことはイデアがしっかりやってくれる!だから安心して…機体をフラつかせるんじゃないっ!!」
駄目だ。トンナのアドバイスも寝耳に水だ。
『フラつかせたくて、フラつかせてるんじゃないんよ!勝手にこうなるんよっ!』
「そんな訳あるかああああああっ!お前がフラつかせてるんだよ!ちゃんとおしっ!!」
トンナが俺の頭の上で、魔獣モードだ。
『そんな怒鳴んなくてもいいじゃんよぉ!こっちは集中しようと頑張ってんのにっ!トンナ姉さんに怒鳴られたら、落としちゃうんよっ!!』
「くっ!」
トンナも黙るしかないわな。
「トンナ、ヨルムンガルドのコックピットに接岸させてくれ。」
「わかった。」
霊子バイクが、巨大お盆の下に回り込み、ヨルムンガルドの股間に接近する。
フラつくヨルムンガルドに近付こうとすると、霊子バイクが接触し、ヨルムンガルドに弾かれる。
「ちっ」
俺は霊子バイクから飛び下り、魔神モードで、肺に霊子エンジンを構築、同時に背中には羽を構築する。
「トガリッ!!」
「いいから離れてろ!ヨルムンガルドに落とされるぞ!!」
心配するトンナに、機体から離れるように指示して、俺はヨルムンガルドの股間、コックピットに取り付く。
『マスター、どうされるのですか?』
ヨルムンガルドのイデアが、俺に次の行動を聞いてくる。
「コックピットハッチを開ける!」
『安全装置を解除いたしますか?』
「ダメだ!安全装置はそのままだ!外部からコックピットハッチを強制開放する!」
『了解いたしました。それでは、私はこのまま機体安定操作に備えます。』
イデアの言葉を聞いて、イデアは、俺が何をしようとしているのか理解したと察する。
「イデア!ヒャクヤのルビーちゃんに、出力を合わせるように指示しろ!」
『了解しております。ルビーちゃんの出力、高度調整は私がしております。』
「よし!」
コックピットハッチの横には、コックピットハッチを開くための暗証番号を入力するテンキーが取付けられている。当然、そのテンキーは装甲パネルの中に仕込まれているため、まずはその装甲パネルを開けなければならない。
まずは鍵と専用工具を再構築する。
鍵を咥え、右手に専用工具を握る。
小さな装甲パネルを左手で押すと、押されたパネルが三センチメートルほど機体に押し込まれる。
「ちっ!」
ヨルムンガルドが、俺から離れ、思わず舌打ちが漏れる。
小さな装甲パネルが、再び元通りになる。
再度、ヨルムンガルドに接触し、パネルを押し込む。
押し込まれることで、装甲パネルに段差が出来る。その段差部分に菱形の穴と丸い穴があり、菱形の方に専用工具の先を差し込むと、金属同士が噛み合う音がして、その段差が固定される。
咥えている鍵を、もう一方の丸い穴に差し込み、捻る。
圧縮空気が抜ける音と共に、別の装甲パネルが開き、取手と音声入力マイクが仕込まれたテンキー、そして、コックピットハッチ開放レバーが現れる。
俺はホウバタイのD環に、カラビナを取り付けた命綱を通し、出て来た取手にカラビナを取り付け、ヨルムンガルドから離れないようにする。
「所有者トガリ、権限使用、使用者トガリ・ヤート。」
音声入力マイクにテンキーを使用するための必要事項を吹き込む。
『声紋確認しました。所有者権限使用を記録します。暗証番号を入力してください。』
イデアと同じ声で応えるが、イデアとは切り離された別のプログラムだ。
テンキーで暗証番号を入力し、開放レバーを捻りながら引く。
圧縮空気の抜ける音を確認して、俺は、開放されるコックピットハッチを避ける。金属音が鳴って、コックピットハッチが、複雑な機構を経て開く。
アヌヤが泣きそうな顔でコックピットに収まっている。
俺はコックピットに乗り込み、耳元に口を近づける。風切り音が大きすぎて、それでも大声で叫ぶ必要があった。
「アヌヤ!マウスピースを放せ!あとは!安全装置が働いて!勝手に!ゆっくりと!降りてくれる!」
俺の声にアヌヤが何度も頷く。
ヨルムンガルドのフラつきが治まり、ルビーちゃんがヨルムンガルドの出力に同調させる。
竜騎士を運用中、特に、空中でコックピットハッチが開くというのは、緊急事態である。
AIプログラムは、自動的に危機管理プログラムを起動させて、安全な場所を選定し、その安全な場所に機体を運搬する。
この場合は地上だ。
安全装置を切れば、イデアが自分でコックピットハッチを開けることが出来るが、そうすると、危機管理プログラムが起動せず、アヌヤが、自分で着陸させなければならない。だから、俺は安全装置を切らせずに、強制的にコックピットハッチを開放した。
俺は、溜息を一つ吐いて、アヌヤの方を見る。
アヌヤは、気まずそうに俯いて、目尻に涙を溜めていた。
俺は、ちょっと強めにアヌヤの頭に拳骨を落とす。
アヌヤが途端に目を閉じたまま大声で泣き出した。
俺はアヌヤの頭を抱えて、優しく撫でてやった。それでもアヌヤは泣き止まない。
結局、着陸するまで、俺はアヌヤの頭を撫でていた。




