感謝
『おい、起きろ。』
真暗だ。
死んだか?
『馬鹿なことを言うな。そんな訳がないだろうが。』
なんで、真暗なんだ?
『スサノヲの中だ。』
イデアは?
『声に出して、呼び掛けてやれ。起動はしている筈だ。』
「イデア?」
「はい。」
うん。ちゃんと返事した。
「スサノヲの中なのか?」
「はい。そうです。」
イデアは返事するが、真っ暗闇のままだ。
「なんで真暗なんだ?」
「現在の霊子量が、物質維持限界値に達しており、他の動力関係を駆動させることが出来ません。」
イズモリ、解説ヨロ。
『そもそもトライモードで霊子を消費して、機体の駆動限界に達していた。それにも関わらず、四頭の龍を、イデアに狩らせただろう?それで、霊子量をギリギリにまで消費したんだ。』
物質維持限界ってなんだ?
『覚えていないのか?幽子、霊子は、分子、原子結合の力場を展開してるって、前に言ったろう?このスサノヲは幽子除去マイクロマシンを外装に纏っているから、スサノヲの内部構造材に、常に霊子を通していないと、自壊消滅するんだ。だから、セーフティーとして、物質維持限界点にまで霊子が減少すると、強制的にスリープモードに移行するんだよ。』
おお、そんな機能が備わっていたのか。
『まあ、実質、造ったのはカナデラと俺だからな。お前が知らないのも無理はない。』
ところで、なんで、スサノヲの中なんだ?たしか、飛び出したよな?
『知らん。イデアに聞け。』
「イデア、俺はどうやって、スサノヲの中に入ったんだ?」
「Gナンバーの四分体を活動不能状態にした後、落下中のマスターを回収、保護いたしました。」
「おお、そうか、ありがとう。で、今は、スサノヲごと動けないんだ。」
ちょっと、皮肉を込めてみる。
「はい、マスターを回収保護しなければ、Gナンバーの背部筋肉層によって、圧死しておりましたので、回収保護が最も適切と判断いたしました。」
「そ、そうか、それは、スマン。」
皮肉なんて込めるんじゃなかった。
「まだ、霊子の補充には、時間がかかりそうか?」
「Gナンバーの幽子除去マイクロマシン及びGナンバーの体内マイクロマシンが稼働しております。したがって、Gナンバーの肉体に接している現状では、幽子枯渇状態を脱する手段がございません。」
それなら、俺から霊子をちょっと分ければ良いんじゃねえの?
『やめとけ。今は、無理をするな。霊子回路に負荷をかけ過ぎだ。最後のダメ押しに、俺が各分体を回収したから、これ以上負荷をかけるとオーバーヒートして、霊子回路を新たに作り直さなきゃならなくなる。』
分体、回収したのか?
『ああ、放っておいたら、殺戮を始めるからな。』
精神体が抜けた状態だからか…
『そうだ。事前行動が、あの光を見詰めてる状態だったから、まだ良かった。戦闘中にお前が俺達を抜き取ったら、戦闘を継続して、狂戦士になるとこだったよ。』
狂戦士って、あれか?動く物を殺戮しまくる的な?
『そうだ。』
そうか、危なかったんだな。
『ああ、色々な意味でな。』
「マスター。オルラ様が、マスターと話がしたいとの申請を受理いたしました。外部と通話いたしますか?」
「え?オルラが居るのか?」
「はい。他、三名のシングルナンバーも確認しております。オルラ様と会話なさりますか?」
「ああ、頼む。」
俺は、キミマロのことを、イズモリに聞かなかった。
イズモリもキミマロのことを話さなかった。
俺は、オルラと、二、三、言葉を交わし、このまま、スサノヲのコックピットで待つこととなった。
俺は暗闇の中で、エコロケーションを止める。
暗闇に反応して、自然と発生する超音波を止めるだけだ。
両眼を閉じて、完全な暗闇の中に没する。
キミマロ…
呼び掛けるが返事はない。
あの時見た少年の姿はキミマロだった。
キミマロ…
もう一度呼び掛けるが、やはり返答はない。
イズモリも
イチイハラも
カナデラも
タナハラも
クシナハラも
トーヤも
誰も声を発しない。
暗闇に見合った静寂だけがそこにある。
たった一人。
六十四万人の中で、たった一人でいることを余儀なくされたキミマロ。
シリアルキラーという特殊な人格であったために、同じ存在である誰とも交わることのなかったキミマロ。
青白い閃光の中でキミマロだけが俺と行動を別にした。
たった一人であるが故に、俺とは違う行動をすることが出来たキミマロ。
キミマロ。
俺と交わした言葉は極端に少ない。
俺と会った回数は極端に少ない。
あの時、何故、俺の前に立ち塞がったのか。
あの時、何故、俺を庇ってくれたのか。
答えを聞くことは出来ない。
キミマロ、お前はどこに行ってしまったのか。
神と言われ、魔神と自称し、それに見合った力をもってしても、もう、キミマロは応えてくれない。
キミマロを探す術も、キミマロと話す力もない。
最後に見たキミマロはどのような顔をしていたのか。
思い出せない。
しっかりと見た筈なのに、思い出すことが出来ない。
イズモリ…
『ああ。キミマロはいない…』
カナデラ…
『再構築なんて…』
そうだ。
物質じゃない。
肉体じゃない。
肉体は人間じゃない。
肉体は肉だ。
もっと話せたはずだった。
もっと知ることが出来るはずだった。
もっと語り合うことが出来るはずだった。
キミマロを理解など出来るはずがない。
キミマロに理解されるはずはない。
だから、語り合うことが出来る。
同じ存在であって、違う存在。
肉体も霊子も共有しているのに、心だけが違う存在。
キミマロ、お前は人を殺したことがあるんだろう?
血に塗れた両手を携え、何処に向かったのか。
キミマロ、お前は人を殺すことだけを考えて来たのか。そんなことはないだろう。
俺はそう思っている。
そして、お前は何処に向かうのか。
もう聞けない。
聞くことが出来ない。
知ることも出来ない。
金属の噛み合う音が聞こえて、瞼を開ける。
眩しい光を背景にシルエットが見える。
見慣れたシルエット。
女達のシルエット。
俺を無条件に受け入れてくれる女達のシルエットだ。
キミマロを引き摺りながら、俺は両手を差し出す。
キミマロに引き止められながら、コックピットから引き上げられる。
四人の女達に、体中を抱き締められながら、生きていることの喜びを噛み締める。
キミマロ。
ありがとう。
俺は、心の中で、呟いた。




