最終回っぽいですよ?
トンナはトガリがいなくなっていることに気付いていた。
きっと、他の戦場に向かったんだわ。
トンナはそう考えていた。
トンナのトガリへの信頼は揺るがない。
トンナの専用機体ダイダロスの斧槍が最後の龍を仕留める。
「終わった…」
機体コントロール用のマウスピースを外す。
斧槍は三本目だ。
途中、二本の斧槍が割れた。
刃毀れすることはないが、単分子ブレードは、刃筋が立たないと、すぐに割れる。
まだまだだわ。
トンナは自戒する。
斧槍で物を斬るのは難しい。
特に、トンナは力があるため、片手で斧槍を扱う。
両手で扱うよりも、刃筋を立てるのは簡単だとトンナは感じているが、疲れてくると、刃筋の立たないことがある。
肉を斬り、骨に達した時などがそうだ。骨を断ち、内臓に達した時もそうだ。
二本の斧槍を駄目にして、トガリに再構築して貰った。
「イデア、ヘルザースはどう?」
「ヘルザースは無事です。トネリ級駆逐艦一番艦、甲板上にて確認できます。」
「そう。」
トンナは大きな溜息を吐いて、マスタースレイブ基幹ユニットに背中を預ける。
「イデア、トガリはどこの戦場に向かったの?皆は無事?」
「マスターは東のヤンドーレン湾にて、Gナンバーズと交戦。現在、行方不明です。他の皆さんは無事です。」
トンナの顔から表情が消える。
トンナの顔色が死人のような、それに変わる。
唇が震え、目が見開かれる。
「な、なんですって…」
「マスターは東のヤンドー…」
「そんなことはどうだっていいんだよおっ!!トガリがあああああっ!行方不明だってええええええっ!!?」
ダイダロスの握る斧槍が、ミシリと、歪む音を立てる。
「はい。行方不明です。」
ダイダロスが空中にとどまったまま急速転回し、最高速で東へと向かう。
コックピット内でトンナは意識が飛んだ状態だった。
トガリのことを考え、トガリの下に向かうのだという意識以外は、全てをシャットアウトした状態。
一杯に開かれた目は血走り、噛んだマウスピースに血が滲んでいる。マウスピースその物にも皹が入っている。
何も考えてはいない。
考えられる状態ではなかった。
イデアと闘った時も感じなかった恐怖。
「ダメだ駄目だ駄目だ駄目だダメだ駄目だ駄目だダメだ駄目だダメだ駄目だ駄目だ駄目だダメだ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だダメダメダメダメダメ…」
呪詛のように繰り返される言葉。
ヘルザースからの呼びかけもトンナの耳には届いてはいない。
トンナ自身さえ気付いていない、体中を襲う寒気と震え。
知らぬうちに流れる涙。
口元が震えながら笑みを作る。
「大丈夫、トガリだもん。大丈夫、トガリがいなくなるわけない。大丈夫、トガリだもん。」
そう繰り返した後に、再び「ダメだ、駄目だ駄目だ駄目だダメだ駄目だ駄目だダメだ…」と繰り返す。
怒りに眉が顰められたかと思うと、情けなく垂れ下がる。
あらゆる感情がトンナの顔に浮かんでは消える。
海から白煙が立ち昇っているのが見える。
海上に巨獣が横たわっている。
その巨獣を中心に、太い白煙が立ち昇っている。
あそこだ。あそこにきっといる。あそこにいない訳がない。
トンナは機体を海へと飛び込ませた。
アヌヤとヒャクヤもトガリがいなくなっていることに気が付いていた。
二人も、トガリが別の戦場に向かったのだと思っていた。
アヌヤが通信機でヒャクヤに呼び掛ける。
「こっちは終わったんよ。そっちはどうなんよ?」
「こっちも終わったの。」
ヒャクヤは、限界近い演算を繰り返し、重くなった頭を、両手で擦りながら答える。
「皆はどうなの?終わったの?」
アヌヤも同じく、酒呑童子の装甲から自身の腕を抜き出し、自身の蟀谷をこねる。
「わかんないんよ。とにかく、このあたりの魔獣はいなくなったんよ。」
二人とも遠隔操作を中心とした戦い方だ。
アヌヤは砲弾の軌道を操り、ヒャクヤはチビヒャクヤを操る。
二人とも、複数の物質を操っているという自覚はない。しかし照準から着弾、軌道修正、攻撃方法の取捨選択と、全て無意識下で行っているのだ。
脳と霊子回路にかなりの負担がかかる作業だ。
「この頭痛もチビン子マスターなら何とかしてくれるの。」
「そうなんよ。なんだかんだ言って、あのチビジャリは何でもしてくれるんよ。」
「優しいけど、ウチだけ特別扱いしてくれるの。」
「何言ってるんよ?ヒャクヤの我儘に、仕方なく付き合ってるだけなんよ。」
「ふ~んっ!そんなことないのっ。いっつもウチだけ特別なこと言われるの。」
「ちびるなって言われてるだけじゃんよ。」
「それでも、ウチだけ特別に心配して貰ってるの。」
「ヒャクヤは脳味噌沸騰してるんよ。」
「アヌヤは目ん玉納豆豆腐なの。」
「そんなことより、チビジャリはどこに行ったんよ?」
「知らないの。その内、帰って来るの。」
「イデア、チビジャリはどこに行ったんよ?」
「チビジャリとはマスターのことですか?」
「当たり前なんよ。他に誰がチビジャリなんよ?」
「イデアって、案外、頭ポンポコヤローなの。」
「マスターでしたら、現在、行方不明です。」
「何言ってるんよ?シッカリ探せってのよ。このポンコツ。」
「そうなの。あのエロチビモンスターが行方不明になんてなる訳ないの。」
「現在捜索中ですが、依然、行方不明です。」
「…」
「…」
「おい、ポンコツ、冗談もほどほどにするんよ?」
「そ、そうなの。いい加減にしないと怒るの。」
「私はポンコツではありませんし、冗談でもありません。現在、マスターは行方不明です。」
「う、嘘言っても駄目なんよ…チビジャリが行方不明なんて、う、嘘なんよ。」
「そ、そうなの…アイツが、あ、アイツが、行方不明なんて嘘なの…」
「嘘ではありません。現在、マスターは行方ふ…」
「うるっせえええええええええっ!!」
「黙るのおおおおおっ!!」
アヌヤのヨルムンガルドが転回して、走り出す。
ヒャクヤのルビーちゃんが空に向かって上昇する。
ヒャクヤの機体を見咎めたアヌヤがヒャクヤに呼び掛ける。
「ヒャクヤ!!どっちに行くんよ!!」
「変態チビ助の所に決まってるの!!」
「チビジャリ!そっちに向かったんかよ!?」
「知らない!知らないけど!探すの!!」
「イデア!!どっちに行けばいいんよ?!!」
「最後の目撃地点は東のヤンドーレン湾です。」
「イデア!!そっちの方にルビーちゃんを向けるの!!」
ヒャクヤのルビーちゃんが、東へ転回し、そのまま加速する。
アヌヤの機体もそれに追随した。
「嘘だ。嘘だと言っておくれ…」
オルラはトガリが行方不明だと知らされた直後だった。
「嘘ではありません。マスターは現在、行方不明です。」
あの光は、トガリが戦っている光だと思っていた。
それは間違いではない。
禍々しくも、凶悪な波動を持った光が消滅し、終わりを告げるオーロラが見えた時、オルラはトガリの勝利を確信していた。
オルラのバハムートが、一歩、二歩と力なく歩き出す。
「あの子は死んじゃ駄目な子なんだ。」
バハムートが徐々に速度を上げていく。
「あの子の代わりは此処にいるんだよ。」
バハムートが走る。
「待っておくれ。あの子は、あの子だけは連れて行かないでおくれ…」
バハムートが飛ぶ。白煙を立ち昇らせる東の海に向かって。
水蒸気の立ち昇る海。
機体を東へ向けた瞬間に、巨大な白煙の柱を見つける。
海は、まだ見えない。
しかし、太い白煙だけは見えている。
尋常ではない光景に、トガリが行方不明となっている事実を突きつけられ、ヒャクヤは混乱した。
ヒャクヤの後を追う形で、上昇したアヌヤも同じだった。
一刻も早く海に行かねばと、心だけが逸る。
「イデア!全武装を捨てるんよ!!」
「了解。全兵装をパージします。」
両手から霊子レールガンを放り出し、頭部、肩そして腹部から白い煙を吐き出し、全ての銃が捨てられる。
「ヒャクヤ!!急ぐんよ!チビヒャクヤを集めるんよ!!」
「…」
ヒャクヤからの返事がない。
「ヒャクヤッ!!チビジャリの所に行くんだから!チビヒャクヤを呼び寄せるんよっ!!」
通信機に向かって叫ぶも、ヒャクヤからの返答がない。
前を飛ぶヒャクヤの機体、左右にフラフラと揺れている。
アヌヤは、ヒャクヤの機体に取り付き、ヒャクヤに呼びかけながら、機体を揺する。
「ヒャクヤッ!いい加減にシッカリするんよ!トガリが困ってるんよ!だからチビヒャクヤを呼び寄せるんよ!!」
「…トガリ…」
「そうよっ!トガリなんよ!!あいつがそう簡単に死ぬわけないんよっ!だから!きっと!困ってるんよっ!あの、チビが…きっと、凄く困ってるんよ…」
三十機の戦闘機が編隊を組んでヒャクヤの周りに集結する。
それを視認したアヌヤが、ヒャクヤの名を呟く。
「ヒャクヤ…」
「…行くの…」
チビヒャクヤの操る戦闘機は、通常時においては、ルビーちゃんの帽子とスカートとして装備されている。それらのジョイントを使って、十五機ずつが合体し、あたかもサーフボードのような形状となる。
ヒャクヤのルビーちゃんとアヌヤのヨルムンガルドが、そのサーフボードにパドリングをするようにして乗る。
「行くの…」
「そうなんよ。行くんよ!!」
二人の機体とチビヒャクヤのサーフボードから青白い光が吐き出され、二人は一気に加速した。
「イデアッ!トガリを!トガリを探して!!」
トガリとは魂で繋がっている。
イチイハラと繋がっている筈なのだ。
いつもなら、離れていてもトガリと会話さえも可能だった。マサトではなくイチイハラと会話していたのだ。
マサトはイチイハラであって、イチイハラはマサトだ。そしてマサトはトガリであったし、イチイハラもトガリであった。
そのトガリとの会話が出来ない。
「周囲五キロメートル圏内に生命体の反応はありません。」
「うるさい黙れっ!!トガリだよ!!トガリを探すんだ!!」
生命体などどうでも良い、トガリだけが欲しいのだ。
首を振り回し、三百六十度モニターを睨みつける。
海底にダイダロスの足が着く。
竜騎士にとっては深くはない。水深五十三.四六メートルと表示されている。
海底の砂が舞い上がり、モニターを暗くする。
「イデア!!なんとかおしよ!!砂が舞って見えないんだよっ!!」
「機体のコントロールをこちらに移譲してください。」
「好きにしろっ!!早く!!トガリを見つけるんだ!!」
トンナはマスタースレイブシステムの基幹ユニットを外し、モニターにへばりつくようにして、トガリを探した。
オルラにとつては絶望的な光景だった。
島のように巨大な肉塊が太く白い煙りを上げている。
こ、こんな巨大な魔獣に…た、たった、ひ、一人で…
オルラは徒歩で海の中に入った。
機体の足取りは夢遊病者のようにおぼつかない。
それでも、トガリを見つけたい一心で、太い白煙を目指して歩き続ける。
『オルラ殿。』
ロデムスからの通信が入る。
『オルラ殿!』
ロデムスの声に意識が現実に引き戻される。
「ロ、ロデムスかい?」
『そうじゃ。主人が行方不明になっておることはイデアから聞いた。主人のスサノヲは、そこにあるのかのう?』
ロデムスに言われて、オルラが周囲を見回す。
「み、見当たらないね…」
『やはりのう…』
「一体どうしたって言うんだい?スサノヲが見当たらないのと、トガリが行方不明だってことに、何か関係があるのかい?」
『うむ。こちらのイデアの話では、スサノヲの信号が途切れたのと、主人が行方不明になったのは、ほぼ同時じゃったということじゃ。』
「焦れったいね!だからどうだって言うんだい!トガリは何処に行ったんだい!!」
『オルラ殿、落ち着きなされ。イデアの信号を感知できない場所など限られておろう。そこを探すのじゃ。』
「そんな…そんなのわかる訳ないじゃないか!あたしは頭が良くないんだ!トガリじゃないんだ!そんなこと言われたってわかる筈ないじゃないか!!」
『だから、落ち着けと言うておる。オルラ殿にはトンナ殿やアヌヤ殿、ヒャクヤ殿もいるではないか?』
オルラがロデムスの言葉に従い、トンナ達に呼び掛ける。
「トンナ!!アヌヤ!ヒャクヤアアアアッ!お願いだ!あの子を!トガリを探しておくれ!イデアの信号が届かない所だ!何処なんだい!そこは!誰か教えておくれよおおおっ!!」
叫びだった。
普段は大声を出さないオルラが、心の底から発した叫びだった。
その声に、トンナが、アヌヤが、ヒャクヤが応える。
『魔獣だ!!』
『魔獣の中なんよ!!』
『魔獣の中なの!!』
全員が海に横たわる魔獣に目を向ける。
トンナは魔獣に視線を転ずると同時に、海中から飛び出し、斧槍を魔獣に叩きつけ、肉を裂いて、ダイダロスを潜り込ませる。
高速で飛来したヨルムンガルドとルビーちゃんが、チビヒャクヤのサーフボードから跳び下り、その勢いのまま、魔獣の首元、その首元に空いた穴目掛けて飛び込む。
バハムートが飛沫を上げながら魔獣に向かって走り出した。
魔獣を内部から切り刻み、肉片が海中へと吹き飛ばされている。
斧槍を振り回すだけの空間を確保できない。
斧槍を投げ出し、ダイダロスの両手で引き裂き、引き千切り、後方へと放り投げる。
アヌヤのヨルムンガルドも、肉を引き千切りながら、辺り構わず、その肉片を放り出している。
ヒャクヤは、両手に、チビヒャクヤの操作していた戦闘機を刀身三メートルの単分子ブレードとして、魔獣の肉片を斬り裂いている。
残ったチビヒャクヤは、魔獣の周りを飛び回り、所構わずに切断している。
オルラは刀身一メートルの小太刀型の単分子ブレードを魔獣に突き立て、引き裂き、魔獣の体内にトガリを求める。
全員が一心不乱に魔獣の肉を斬り裂いている。
斬り裂いた肉を押し広げ、引き千切る。
飢えたハイエナが魔獣の肉を貪り食うように、全員の竜騎士が血塗れになってトガリを探す。
肉に埋まったスサノヲの指先を発見したのは、魔獣の肉を斬り裂き始めてから、それほどの時間は経っていなかった。
「スサノヲだっ!!」
嬉々とした声をトンナが上げる。
トンナが、スサノヲを圧し潰そうとする魔獣の肉に手を掛ける。
「フンッ!!!」
スサノヲの上に覆い被さる肉を細かく裁断するなどという発想はトンナにはない。
如何に早くトガリと会えるか。
全てのベクトルはそこに集約されている。
「く、くっくっくおおおおおおおおっ!!」
コックピット内でトンナが顔を真赤に染める。
「じ、じゅう、獣人!モオオオオオオオードオオオオオオオー!!!」
トンナの体の組成構造が急激に変わる。
人型から獣人型へ。
体内のマイクロマシンが悲鳴を上げて駆け巡る。
トンナの霊子が獣人化の命令を受けて、服と酒呑童子に信号を送る。トンナの体型変化に合わせて、服と酒呑童子を構成するマイクロマシンが白く光ってその形状を変化させる。
同時にダイダロスの各アクチュエーターが凄まじい軋み音を発して煙を吹き出す。
トンナは思い出す。
トガリが教えてくれたことを。
「いいかい、トンナ。この機体、ダイダロスはトンナ専用にチューニングした。ダイダロスを動かす筋肉、一本、一本に霊子モーターが取り付けてある。だから、トンナが、霊子をダイダロスに通すことが出来れば、信じられないパワーを発揮できるよ。」
そうだ。
この機体は、あたしのためにトガリが造ってくれた機体だ。
あたしの霊子を、全て使ってでも、トガリと会うんだ。
トンナの体が青白く発光する。
トンナの発する光が、マスタースレイブ基幹ユニットを通して、ダイダロスへと流れ込む。
ダイダロスが青白く光る。
煙の噴出も軋み音も激しさを増す。
ダイダロスが、更に光度を増す。
竜騎士の全長を、遥かに超える肉厚、その分厚く重い、魔獣の肉が持ち上がる。
「…トガリ…トガリ、トガリ!トガリ!!トガリイイイイイッ!!!」
トンナがトガリの名を叫ぶ。
魔獣の肉に挟まれていたスサノヲが完全に露出する。
ヒャクヤのルビーちゃんが小さな機体を駆使して、肉の間に潜り込む。
オルラのバハムートがスサノヲの腕を握る。
アヌヤのヨルムンガルドがスサノヲの足を握る。
二人がスサノヲを曳き、ヒャクヤが、スサノヲを押し出す。
スサノヲが、魔獣の肉の下から完全に引き出され、ヒャクヤが後ろを振り向いて、スサノヲが倒れていた所に、トガリがいないかを確認する。
「トンナ姉さん!もういいの!」
ヒャクヤの合図を聞いたトンナが、力を抜く。
魔獣の肉が、トンナの足元に落ちる。その衝撃を受けた海面が、大きな波飛沫を上げる。
すぐにダイダロスは振り返り、スサノヲの下へと駆け寄り、コックピットを開く。
獣人化したままのトンナが、酒呑童子のヘルメットを弾き飛ばしながら飛び出し、オルラ、アヌヤ、ヒャクヤも飛び出して来る。
トンナがスサノヲのコックピットハッチに取り付き、抉じ開けようとする。
「お待ちっ!慌てるんじゃないよ!」
オルラの叱責が飛ぶ。
「だって!!」
トンナがオルラを振り返り、泣きながら抗議するが、オルラはそんなトンナを無視して、コックピットハッチに手を触れる。
「イデア、中にトガリはいるのかい?」
『はい。おられます。』
全員が大きな溜息を吐く。
「じゃあ、直ぐに…」
トンナがコックピットハッチを開けるように言おうとしたが、オルラに止められる。
「トガリは無事かい?どんな様子なんだい?」
『マスターは無事です。現在、意識を消失しておられますが、肉体的な損傷は軽微です。』
オルラ達は目を閉じて、再び安堵の溜息を吐く。
「オルラ姉さん、じゃあ、ねえ、もう良いんじゃない?ね?」
オルラがニッコリと笑う。
「そりゃ、あたしらは良いよ。でも、お前はそのままで良いのかい?」
「えっ?」
トンナは、一瞬、何を言われたのかわからず、キョトンとした顔をしている。
「トンナ姉さん、獣人化したまんまなんよ。チビジャリに会うのに、獣人化したまんまで良いんかよ?」
トンナが自分の両手を見下ろす。
「ホントだ。駄目だわ。トガリには、一番綺麗なあたしを見てもらわないと!オルラ姉さん、ちょっと待ってて!すぐに、すぐだから!」
トンナが獣人化モードを解除する。
「やだ!基幹ユニットがくっついてる!ヒャクヤ!アヌヤ!そっち持って!」
トンナは慌てるあまり、マスタースレイブシステムの基幹ユニットの一部を引き千切って、コックピットから飛び出していた。
その基幹ユニットをアヌヤとヒャクヤに引っ張らせ、力づくで取り外そうとする。
そんな光景をオルラは微笑ましく見る。
『マスターの意識が戻りました。』
そんな三人の獣人娘を余所に、イデアが、トガリの目覚めをオルラに伝える。
「イデア、このまま、トガリと話せるかい?」
『…はい、話せますが?』
「じゃあ、ちょっとトガリと繋いでおくれな。」
オルラがコックピットハッチに手を置きながら、イデアに頼む。
『オルラ義母さん?』
「良かった。心配したよ。体の方は何ともないかい?」
『ああ、大丈夫だよ。それよりどうしたの?今、出ちゃ拙いのかい?』
「そうなんだよ。皆でお前を迎えに来たんだけどさ。女の子ってのは、好きな男と会うのに準備が大変なのさ。だから、もうちょっとだけ待ってやっておくれ。」
オルラが大きな笑顔でトガリと話す。
『なんだ、皆で迎えに来てくれたのか?そりゃ、悪いことしたな。わかったよ。そっちの準備が出来たら教えてよ。こっちは、モニターも何もかもイカレて、自分で出ることも出来ないんだよ。』
「ああ、わかったよ。そのまま待っといで。」
オルラが笑う。
良かった。そう思える。
涙が自然と出る。
トガリには見えていない。安心して涙を流すことが出来る。
トンナ達、獣人三人娘に視線を転ずる。
騒がしいけれども、いい子達だとオルラは思う。
涙が止まらない。
止めようとも思わない。
生きてる。
それだけで良いと思えた。




