終わりの光
「トライモード限界時間に到達、シングルモードに移行します。モード選択をお願いいたします。」
俺は目を瞑りながら「アマテラスモードを維持。」とだけ答える。
Gナンバーズの魔獣は海面に顔を沈めたまま、何とか起き上がろうと踠き苦しんでいる。
「高空より接近する物体を感知。高空座標にてスサノヲの位置座標を送っていたGナンバーズの分体と思われます。」
まだ、終わらないのか。
トンナ達が心配だ。
焦り、逸る心を無理矢理抑え込み、俺は顔を上げる。
「接近中の魔獣は何頭だ?」
「四頭を確認。モニターに出します。」
スサノヲを転回させ、四頭の魔獣に向かおうとした時、イデアが異変を伝える。
「Gナンバーズの霊子エンジンが暴走を開始しました。」
「何だ?何が起こる?」
「霊子励起状態から暴走、自壊爆発現象が発生します。」
恐怖というのを久しぶりに感じる。
「爆発規模とその影響を教えろ!」
「TNT換算で、三ギガトンに相当します。噴出物の量は約一千キロ立方メートルが予測されますので、急激な寒冷化現象が、約六千年間、惑星全土に及ぶものと推測されます。」
巨大な魔獣の首元に空いた穴、その穴から光が見える。
青白い、輝度の高い光だ。
四頭の漆黒の龍が俺を目掛けて飛来する。
翼を畳んだ状態で、ミサイルの様に落下して来ている。
輝度が高まり、巨大な魔獣の体を青白い光が包んでいく。
ホノルダ群中央統括府で、イチイハラが東の空を見詰める。
「…終わりの陽が…昇る…」
コーデル都で、キバナリに止めを刺していたクシナハラが東の空を振り仰ぎ、青白い光を見詰める。
「童貞のままで死ぬのかよ…」
デリノス都で、アギラを打ちのめしたタナハラが、青白い光に自分の身を曝しながら吠える。
「負けてないっ!!俺は負けてないぞっ!!」
空中にて、龍を血祭りにあげるカナデラが東の海上に浮かぶ、青白い光を見詰めながら呟く。
「あ~あ。マイクロマシンを使い過ぎたんだよなぁ…」
黒煙が幾筋も上がる王都で、イズモリが東の空を振り仰ぐ。
「…終わった…」
イズモリがトガリの姿のまま、そう呟いた。
終わった…
そう誰もが実感した。
俺の副幹人格全員が、そう実感した。
そして、熱い塊が俺の奥から込み上げる。
熱い塊は、俺に告げる。
『まだだっ!』
もう無理だ。俺の心が折れる。
『まだだっ!!』
どうしろって言うんだ?もう打つ手がない…
『まだだ!オルラもトンナもアヌヤもヒャクヤもロデムスでさえ戦ってるのに、俺が折れることは許されない!!俺が許さない!!!!』
オルラ、トンナ、アヌヤ、ヒャクヤ、ロデムスの顔が脳裏をよぎる。
爆発的な思考と感情が綯交ぜになって、俺を押し上げる。
「イデアアアアアッ!!スサノヲで龍を!!」
飛来する龍をイデアに任せ、俺は瞬間移動で魔獣の発する光の中へと生身を投じる。
「全員っ!!俺に力を貸せえええええっ!!」
六人の副幹人格が操る、トガリの動きが止まる。
五等分していた霊子体と肉体はそのままに、時間と空間を超越して、全員の精神体が俺の下へと集結する。
六十四万人分の霊子体を六等分していたため、本体である俺の中には十二万人分の霊子体しかない。
暴発寸前の霊子を俺の体に吸収する。
五十二万人分の霊子体の空きが俺にはある。
膨張していた青白い光が、その膨張を止める。
五十二万人分の霊子体の空きが一瞬で埋まる。
体中に埋め込まれた霊子回路が全力で直列演算を繰り返す。
俺の背中から、霊子から幽子へと変換された量子が放出されていく。
「ぐあああああああっ!!」
脳が沸騰する。
血の温度が上がり続け、毛細血管が破れる。
目が充血し、青白い光が赤く染まる。
瞳孔が散大し、色も何もわからなくなる。
内耳が狂い、方向がわからない。
鼻と口から蛇口を捻ったように血が溢れ出す。
関節が軋みを上げ、筋肉があり得ない方向へと引き攣れる。
それでも止めない。
意志を貫き通す。
ブチブチと靭帯の千切れる音が頭蓋内に響く。
意地を張り続ける。
皮膚が焼ける。
逃げた先には、何がある?俺は、まだ、その先を見ていない。
励起した霊子エネルギーが体の細胞一つ一つを焼く。
量子情報体を焼けた細胞と入れ換える。
心臓の鼓動が、不規則に血管を叩き、血が脳髄を暴走する。
血管を強化、脳を守る。
精神体は肉体とは別物だ。
論理的思考で、意識を繋ぎ止める。
霊子を体に通して、余剰な霊子を幽子へと変換する。
それだけのことだ。
魂の入れ替え。
何百万人にも相当する霊子を、俺というフィルターを通して、幽子へと解放する。
ただ、それだけのことだ。
消耗しながらも霊子レールガンを撃つアヌヤが見える。
「テメエら!!ふざけるんじゃないんよ!ここは!あたしが!チビジャリに任されたんよ!!」
過剰な演算に頭痛を感じながら、ヒャクヤが戦っている。
「変態スカトロマスターの名に懸けて!ここは絶対に通さないの!!」
ロデムスが、同じキバナリの魔獣を地面に叩き伏せている。
「主人を持たぬ貴様らには、わかるまいて、この充実感。死を覚悟するのが、こんなにも心地好いとは、このロデムス、主人の使役魔獣であること!誇りに思うぞ!」
オルラが龍に纏わり付かれながらも、一頭の龍を締め上げる。
「ウチのトガリが世界を変える!その邪魔をする奴らを許す道理はないんだよ!!」
トンナが次々と龍を叩き斬る。
「ウラアアアアアッ!!」
龍の荷電粒子ブレスを華麗に避けながら、龍の首を次々と落としていく。
「トガリのために!!トガリのために!!あたしが世界を変えてやるうううううっ!!」
許せるか?
この愛すべき仲間が死んでしまうことなど、許せるのか?
許せない。
許してはいけない。
許せるはずがない。
決して。
絶対に。
徹底的に。
何があろうとも。
アイツらを死なせるわけにはいかない。
もう、何も見えない。
何も聞こえない。
何も感じない。
あるのは、あの連中を死なせたくないという願望。
死なせない。
願望が誓いへと変わる。
真っ暗闇の中でたった一粒の光。
死を否定する。
現実。
創り上げる、俺の現実。
理想?いいや、現実だ。
全員が生き残るという現実。
何十、何百万人分という霊子が俺の中を通り抜けて行く。
精神体は膨大な量の霊子に耐えられないかもしれない。
真っ暗闇の中で、たった一粒の光が、巨大に膨張を始める。
俺の体を包み込もうとした瞬間、一人の少年がその光を遮る。
誰だ?
少しばかり、体に痛みが戻って来る。
感覚がまだ残っているのか?
俺の前で、光に立ち塞がる少年が、首だけで、こちらを振り返る。
キミマロ…?
少年と俺は光に呑み込まれた。
大勢の人間がその光を目撃した。
トガリという少年が、その光に、最初に気付き、その光を見詰めたまま動かなくなったためだ。
複数の戦場で同時に存在することの出来る、トガリという少年が、その光を見詰め続けることに、人々は意味があるのだと理解した。
そして、人々はその光を見る。
戦いながら、他人を救いながら。
そして、気付く。
終わりの光だと。
終末の光だと。
東の空を白く染め上げる光は、紅く染まる雲を禍々しく、紫へと変貌させた。
誰もが終わりを予感した。
大陸を横断して届く、白い光。
ハルディレン王都においても、カルザン帝国においても、その光は終わりを予感させた。
禍々しい波動を持った光。
しかし終わりは来なかった。白い光は急速に衰え、やがて、元通りの風景が世界を覆った。
そして、奇跡の光が大陸を奔る。
青白いオーロラが、蛇のようにうねりながら、高速で駆け抜けていく。
幾筋もの光が、戦いの終結を知らせる幕引きの様に空を奔る。
大空を覆う奇跡の光が治まった時、人々は再び、魔獣との戦いへとその身を転じた。
光を見詰め続けていたトガリの姿は消えていた。
複数の戦場に同時に存在し、人々を鼓舞し、人々の先頭に立っていたトガリという少年。
その少年が、全ての戦場から消えていた。
そして、その少年が消えたことに、誰も、気付かなかった…。
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