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トガリ  作者: 吉四六
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聖剣とかオリハルコンとかファンタジーっぽい呼称が出て来たけど(挿絵あり)

 何か、俺が一言も発しない内にとんでもないことになってしまった。

 なんせ、俺以外の二人が鶏冠(とさか)に来ちまったんだから仕方がない。

 普通なら、怒る役目は俺で、オルラとヘルザースが止め役になる筈だったのに、その二人が怒っちゃったんだから、止める人間がいない。

 俺は、今までずっとそうだけど、成り行き任せだからね。

 もう、どうでも良いやって感じになってる。

 で、二人が会談の途中だってのに、決闘することになったので、表に出ろってことになりました。

 場所は中庭。

 双方、装備に制限は無し。て、ことで、筆頭騎士は肩と膝を護った鎧に聖剣を佩いて登場。

 オルラがスピード重視の戦い方をすると踏んでのことだろう。

 聖剣は、マイクロマシン製の剣だ。俺の小太刀と同じだな。あれ、くれないかな?

「見よ!これが代々ハルディレン王家に伝わるオリハルコンを鍛えし業物!霞斬(かすみぎり)の剣だ!!」

 そうか。マイクロマシン製ってオリハルコン製に分類されるのか。

「なあ、なあ、あのオリハルコン製の剣って、負けたら、くれない?」

 俺の隣に立っている行政大臣に聞いてみる。

「何を仰っておられるのやら。」

 笑いながら軽くスルーされた。そりゃそうだ。王家の剣だもんな。

 中庭に面した窓からも、興味津々で皆が見ている。

 行政大臣も笑いながら受け答えしてたぐらいだ。見物人は、筆頭騎士が負けるなんてこと微塵も思ってないだろう。

 オルラと筆頭騎士の距離はおよそ二十メートル。俺達は中庭の端の方で、中央の二人を眺めてる。

 俺は壁際に下がって、しゃがむ。

 結果の見えている勝負なんて、面白くも何ともない。

「絶対勝てないんだけどなぁ…」

 しゃがんでいる俺の言葉を聞いていた行政大臣が俺の方を見下ろす。

「ほう、その根拠は?」

 俺はオルラの方を見たまま、質問に答える。

「装備がね、根本的に違うでしょ?」

 オルラは普通の服装だ。帯剣もしていない。得意の暗器も持っていない。

 行政大臣が、俺の発言の意図を読み切れないままに、開始の合図が下され、行政大臣は立合う二人に向き直った。

「貴殿の得意は無手による格闘戦か!?片腹痛いわ!」

 オルラが右手を挙げる。

「オルラの名で命じる。我が身、連理の鎧、出でませ。」

 パスワードとアクセスコードを呟く。

 轟音を伴い、オルラ専用の機体が上空から飛来し、地響きを立てて、オルラの背後に着地する。

 筆頭騎士呆然。

 行政大臣唖然。

 外政大臣腰抜かしてます。

「竜騎士、バハムート。搭乗。」

 そもそも、龍討伐用に建造した機体だ。だから、機体は竜騎士と呼ばれている。ローデルが命名したんだっけ?たしか。

 で、オルラ専用の機体名はバハムート。

 ちなみにトンナのはダイダロス。アヌヤのはヨルムンガルド。ヒャクヤのだけが何故かルビーちゃんだ。やっぱり、ヒャクヤはよくわからん。

『お前の命名もよくわからんがな。』

 そっか?なんかカッコいい響きだろ?

『バハムートとヨルムンガルドは、怪物の名前だが、ダイダロスはギリシャ神話に出てくる大工の名前だ。』

 あ、そうなんだ。カッコいい響きだったから同系統の怪物の名前だと思ってた。

『まったく…』

 ま、イイじゃん。こっちの世界じゃ関係ねぇし。

 とにかく、バハムートが跪く。オルラは差し出された掌を踏み台にして、コクピットに搭乗。

 バハムートが威容を放ちながら立ち上がる。バハムートのカメラアイが光を反射して、光っているように見える。

 漆黒を主体に、所々に真紅のカラーリングが施された機体。装甲の縁取りには銀のエングレービングが施されている。

 後方へと張り出したヘルメットからは長髪を思わせるチューブが垂れ下がり、その先端には爪が装着されている。オルラの得意なツブリだ。

 髑髏を思わせる顔貌に、ハガガリと同様のシープホーンが取り付けられた頭部は、まさしく、死神だ。

 細い体躯に反して、肩と腰の関節が大きく張り出している。蹄のように見える爪先とハイヒールの組み合わせは、自然と女性的なフォルムを作り出す。

挿絵(By みてみん)

「ひ、卑怯な!金剛を使うなど!卑怯だぞ!!」

 外政大臣が吠える。

「金剛じゃありませんよ。あれは、鎧です。」

 外政大臣に向かって、欠伸をしながら訂正してやる。

「よ、鎧?」

「そう、オルラ本人が乗り込んで行ったでしょ?あれは、龍討伐用の巨大な鎧なんです。だから、装備品なんですよ。」

 そんな俺の屁理屈に、何も言い返せない外政大臣を無視して、筆頭騎士が笑いだす。

「フハハハハハハ!そんな金剛ごときで、この王家伝来の聖剣を防げると思っておるのか!たたっ斬ってくれるわ!!」

 防げるんだけどなあ。

 筆頭騎士が走り出す。無謀にも。

 いや、確かに人対人であったのなら、全然、凄い踏込みなんだが、相手が巨大ロボだとギャグにしか見えない。

「ドン・キホーテだな。」

「ドン・キホーテ?ですか?」

 俺の呟きにヘルザースが耳聡く問い掛ける。

「ああ。巨大な風車を魔物と思い込んだ耄碌騎士が、風車に突っ込んで行って、酷い目に合う物語だよ。」

「成程、今のボードレス卿が、正にそれだということですな。」

 ヘルザースの言葉に俺は頷き、溜息を吐く。

 とにかく、この交渉は決裂だ。友好交渉に来た使者と、その日の内どころか、交渉も始まっていない段階で決闘するなんて、前代未聞だ。しかも、ハルディレン王国側は誰も、それを止めようとはしていない。

 穢れた言語で構成された国名、神州トガナキノ国。

 この国名を話すだけで、話した者も、聞いた者も、穢れると考えているのだろう。

 そんな国名を自国の王に口にさせる訳にはいかない。聞かせる訳にもいかない。

 ヤートはどこまでも、差別の対象なのだ。

 ヘルザースを始めとする、貴族達が、あっさりとヤートを受け入れたことで、楽観的に考え過ぎていた。

 筆頭騎士が、気合の籠った掛け声と共に聖剣を横薙ぎに払う。

 甲高い金属音を発して、竜騎士の爪先と聖剣が交錯する。

 余裕のあった筆頭騎士の顔が歪む。

 竜騎士の爪先には、傷一つ付いていないからだ。

 姿勢、体重の移動、太刀筋も良い。流石は筆頭騎士だ。人間のレベルで言えば、最高と言える、達人の域だ。

 しかし人間のレベルを超えていても、物理法則を捻じ曲げることは出来ない。

 マイクロマシン製の剣は、触れれば、あらゆる物を分解する。分子であろうが原子であろうがその結合を破壊する。

 唯一破壊しないのは、その剣その物だ。どんな物でも、その結合を破壊されれば、その形状を保つことは出来ない。それは、マイクロマシン製の剣も同じだ。

 霞斬の剣。恐らくは霧でさえも斬り裂くことが出来るという意味なのだろうが、実際には、使い方とその使用者の霊子量によっては、物質を霞のように破壊してしまうから霞斬の剣と呼ばれていたのだろう。

 人の肉を斬ろうとすれば、霊子がその意志に従い、体の中を流れる。刀を持っていれば、その霊子は刀に伝播し、人の肉を斬ろうとする。

 マイクロマシン製の剣はその意志を具現化する。

 鎧を着ていようが関係ない。鎧を透過して、人の肉だけが斬れる。

 斬ろうとする意思が強ければ、どんな物でも斬ることが出来るのだ。

 では、人の肉を斬ろうとした時、何故、自分の手は分解されないのか?鎬部分から柄部分にかけて、違う材質だからだ。

 それでは、鎬、柄部分と同じ材質を斬ろうとすればどうなるのか?

 素直に考えれば、鎬と柄部分も分解され、剣としての形状を保っていられなくなる。

 しかし俺の小太刀で言えば、鎬と柄部分は分解されない。

 随分と悩まされた。

 イデアと会ってから、その種明かしをしてもらった。簡単だった。鎬部分から峰部分までが全く別のマイクロマシンで構成されていたからだ。

 どんな物でも分解するマイクロマシンが使われているのは刃の部分のみ。

 他の部分は使用者からの霊子を送り込むだけのマイクロマシンだった。ただ、特徴的だったのは、マイクロマシンの中でも最小の大きさだ。極小と言える大きさだった。

 分解用として、刃に使用されていたマイクロマシンは、この極小マイクロマシンに対してのみ分解を実行することが出来ない。

 太い指で糸を切ることが出来ない理屈だ。千切ることは出来るだろう。擦り潰したり、縒ったりすることも出来るだろう。でも、爪ではなく、指先で切ることは出来ない。

 竜騎士の装甲はドラゴニウムだ。

 でも、ドラゴニウムだけじゃない。その表面を極小のマイクロマシンが皮膜のように覆い、俺の知り得る、どんなマイクロマシンでも破壊できないように仕上げている。

 だから、筆頭騎士であろうが、トンナであろうが、イデアであろうが、あの装甲を破ることは不可能なのだ。

 筆頭騎士が、聖剣を使った連撃を繰り出しているが、無駄だ。

 オルラのバハムートは微動だにしていない。

「つまらんな…」

「まったくですな。」

 俺の独り言をヘルザースが拾う。

「ヘルザース…」

 俺の呼びかけに、ヘルザースが俺の顔を見る。

「さっきの、お前の言葉、感動したよ。」

 俺の言葉に、ヘルザースが俯く。

「お恥ずかしい。」

「いや、お前という人間を見直したよ。貴族なのにヤートに対して、いや、我ら(・・)()()に対して、あれほどの想いを持っていてくれるなんてな。」

 ハルディレン王国で、俺が王だとは宣言していない。周りのハルディレン王国の人間に俺が王だとバレるのはヨロシクないので、他人を装う。

「私の結んだ誓いに偽りはございません。それに…」

 ヘルザースの言葉を待つ。

「彼奴らを前にして、怒りを抑えることができませんでした。」

 反乱を考えていたんだ。ヘルザースなりに思うところがあったんだろう。

「気は晴れたか?」

 普段は、自分の感情を表に出さないヘルザースが、あんな風に噛みついたのが清々しくって、俺は笑いながら問い質した。

「はい、それはもう。なにせ、長年に渡って、我が領の窮状を無視し続けてきた連中でございますからな。飢餓にて死んでいった領民の分まで吼えてやりました。」

 ヘルザースの言葉に、俺はただ頷くことしか出来なかった。

「それにしても、世界はつまらん…」

「世界が…で、ございますか?」

 俺の視線の先には、バハムートに挑み続ける筆頭騎士がいた。

「奴を見ろ。」

 俺の言葉に、ヘルザースが俺と同じように筆頭騎士へと視線を転ずる。

「奴は、己が手の届かない敵に挑んでいるつもりだろうが、その実、何もしていない。ただ、聖剣と呼ばれる剣を耽溺(たんでき)して、その剣を振るっているだけだ。」

 ヘルザースの眉が顰められ、目が眇められる。

「馬鹿だ。その馬鹿が、この国では筆頭騎士だ。」

「惨めですな…」

「そうだ。その馬鹿共に穢れていると言われ、その馬鹿共が国の政を取り仕切っている。そんな奴らなのに、俺達は一太刀も浴びせることが出来ない。奴らは惨めだ。そして、そんな奴らから逃げなきゃならない俺達はもっと惨めだ。」

「逃げ…でございますか?」

 ヘルザースの言葉に俺は頷いて応える。

「人を殺したくない。見ず知らずの人間の死の原因になりたくない。だから、空に逃げるのさ。」

「悲しいですな…」

 逃げることが悲しいわけじゃない。

 逃げることしか許さない世界が悲しい。

「悲しい、だから、つまらん。」

「左様ですな…しかし…それでも誇るべきでしょうな。」

 俺はヘルザースを見上げる。

「窮鼠猫を噛む。逃げることにも力は必要、並みの者ならば、某と同じように噛むことしか選択できなかったでございましょう。ただ、我が君には、尋常ならざるお力があった。それが、人としての選択肢を生んだのです。」

 ヘルザースが俺へと視線を向ける。

「彼奴らに言ったことは、正に真実。逃げることであろうとも、我が君は、人として、正しき道を照らすお方でございます。」

 ヘルザースがそう答えた時だった。イデアから連絡が入る。

「どうした?」

『緊急事態です。』

 イデアと繋がる、連なる星々の印を俺の耳元に寄せる。

「何が?」

『私の管理者権限が剥奪されました。』

「なに?」

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