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トガリ  作者: 吉四六
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できるかな?

 草原に立つ。

 西からの風が、草波を立てる。

 風の軌跡を草原が描いている。

 頭の中で、地図を確認して、国を興す地勢に想いを馳せる。

 孤児院、病院、製薬会社、全部が全部、法規制によって起業が難しい。

 孤児院は奴隷制度の弊害になるため、製薬会社と病院は既得権益を守り、魔法使いの流出を防止するため、国の都合、貴族の都合で俺の思ったとおりのことができない。

 ハルディレン王国を見限る時がきた。

 セディナラたちの前でも宣言したとおり、国が必要だ。

 俺の思い描く、俺が生きていくための国。

『どっぷり、雰囲気にハマってるとこ、悪いんだけどね。この辺に国を創るの?』

 カナデラ?

『うん。悪いんだけど、俺の考えてる国創りと違うんだよねぇ。』

 珍しいな。意見が根本から違うなんて。

『違わないよ?俺も、俺達の国は創らなきゃいけないとは思ってるから。ただ、折角の機会だからさぁ、ちょっと、やりたいことがあるんだよねぇ。』

『ああ、王国と帝国の度肝を抜くってやつか?』

『そうそう。』

 一体、どうしたいんだ?

『そもそもさぁ、マサトの世界では、震災とかってなかった?』

 あったよ?阪神淡路に、東日本に、熊本もだ。あったどころか、俺にとっては、凄く身近だったような気がする。

『水災害はどう?』

 あった。インフラが整備されても、それを上回る災害が起こってたよ。

『だよねぇ。インフラ整備をちゃんとしても、それを上回る災害が起こっちゃ、対処できないよねぇ。でさ、避難者とかを見てて、何かアイデアはなかった?』

 ああ、思ったのは、でかいタンカーを仮設住宅というか、ホテルみたいに改装して、移動式の避難所に出来ないかと思ったことはあるな。まあ、荒唐無稽な話だけど。

『だよねぇ。荒唐無稽だよねぇ。海岸線まで避難してもらわなきゃならないし、津波の問題もあるからね。』

 そうなんだよ。津波がなぁ。

『この世界は飢饉の問題も抱えてるから、その辺も何とかしないといけないでしょ?』

 うん。そうなんだよなぁ。

『で、その回答が上にあると思うんだよねぇ。』

 上?

 俺は、空を見上げる。

 白い雲が、地上を渡る風と同じ方向に走っている。

『アニメやサイエンスフィクション、ファンタジーにも、よく登場するじゃん。』

 まさか…

『そうそう、そのまさか。』

 マジか?

『マジ、マジ。』

 無理だろう?

『なんで?質量を限りなくゼロにする方法だって見つかったじゃない?そのために、龍を狩って貰ったんだよ?』

 スタジオジブリに訴えられるぞ?

『この世界には存在しないから問題なし。ってか、元ネタは著作権の期限が切れてるでしょ?』

 できるのか?

『できるよ。多分。』

 多分?

『うむ、その点については俺も懐疑的だ。』

 イズモリ?

『ええ!どうしてだよ?イズモリならノリノリだと思ってたのに!』

『まず、高空での、生活維持が可能かどうかが検証できない。マイクロマシンで、人間の質量をゼロに近付ければ、必ず、身体機能に支障が出る。つまり、人間には正常な重力下での生活が必要だ。あと、食料生産方法の確立が出来ていない。高空での栽培が出来るのかどうか、実証できていない。それと、製造過程に問題がある。』

 どんな問題?

『空中の城を造るにしろ、都市を創るにしろ、そんな巨大な物を創ろうとすれば、その部品も巨大になる。製作途中でも自重に耐えられるとは思えん。』

 却下だな。

『イヤ、イヤイヤイヤ、待ってよ。大丈夫だって。』

『何を根拠に?』

『イデアがいるじゃない?あのセクションの構造、マイクロマシンの侵入を許さない、あのセクションの構造は、俺達の知らない技術だよ?獣人の培養カプセルだってそうじゃない?龍に使われてた質量をゼロに近付けるマイクロマシンだって、イズモリは知らなかったんだしさぁ。きっと、イデアと相談したら、解決策が見つかるって。』

 …成程、さっき行って来たばかりなのに、また、セクションに行くのか…

『そんなに嫌そうにしなくっても良いじゃない。』

『ふむ、たしかに、イデアの意見を聞くのは良いかもしれんな。』

 やっぱり、お前らは他人事だよな。

 で、再び、セクションに行くことになるのか。


 セクションへの瞬間移動は面倒臭い。

 セクションの構造体は通り抜けることができないため、最初に辿った侵入ルートを粒子状態で辿らなければならないからだ。

 記憶の中の地図にマッピングして、マイクロマシンを各所に配置、頭の中の地図とマイクロマシンが伝えて来るセクションのルートを整合させる。

 ルートを決定してから、俺自身を分解して亜光速移動、到着と同時に自動的に俺を再構築させる。

 広い空間にイデアの姿は見えない。俺は周りを見回しながら、イデアを呼ぶ。

「イデア!」

 俺の前に銀色の粒子が収束して、イデアが現れる。顔を伏せたまま、跪いたイデアが、ジッと、俺の命令を待っている。

 まあ、用があるから呼んだんで別に良いんだけど、ご用ですか?ぐらい、聞けよと言いたい。

「イデア、お前に幾つか教えてもらいたいことがあるんだ。」

「はい。」

 返事もあっさりしてやがんな。

「まず、このセクションの構造体、これがどうなってるのか知りたい。俺のマイクロマシンじゃ、この構造体を通り抜けることが出来なかったんだ。どうなってる?」

 イデアが顔を上げる。まさか、管理者権限では、教えられません、とか、ぬかすんじゃないだろうな。

「セクションの構造体はマイクロマシンで出来ております。」

 答えてくれたけど、俺の期待どおりの答えじゃない。

「それは、わかってる。俺が疑問に思ってるのは、マイクロマシンで出来てる構造体でも、俺のマイクロマシンなら通り抜けられる筈なのに、何故、通り抜けられないのかを聞いてるんだ。」

 マイクロマシンの結合を分解することは、俺のマイクロマシンでは出来ない。マイクロマシン同士の結合を切り離すことができるのは、俺の持つ小太刀だけだ。しかし、マイクロマシンの間をすり抜けることは出来る。

「セクションを構成するマイクロマシンはP型マイクロマシンです。」

『なに?マイクロマシンにも種類があるのか?』

「P型だと?マイクロマシンにも種類があるのか?どんな種類がある?」

 イデアが右手を掲げ、何もない空間に銀色の粒子を収束させる。

 輝く粒子は、薄い板状に形成され、空間に浮かぶパネルへと変貌する。

「ご説明いたします。マイクロマシンは、その大きさによって、作業内容と種類が分類されております。」

 パネルに三種類の球体が映し出され、向かって右側の球体が点滅する。

「まず、この最も大きなマイクロマシンが、通常使用される、最も汎用性の高いマイクロマシンで、呼称もマイクロマシンとされておりますが、実際の大きさはナノ単位です。」

 球体の点滅が消えて、右上に10のマイナス9乗と明示される。

 今度は三つ並ぶ球体の中央の球体が点滅する。

「このマイクロマシンはP型マイクロマシンと呼称されており、マイクロマシン構成体の分解を目的とし、ピコ単位の大きさです。」

 同じように球体の点滅が消えて、その右上に10のマイナス12乗と明示される。

 向かって左側の球体が点滅する。

「最後に、このマイクロマシンはF型マイクロマシンと呼称されており、P型マイクロマシンを保管するために製造されました。大きさは…」

「フェムト単位か…」

 イズモリの呟きを、俺は口にする。

 その言葉を聞いたイデアが、俺の方に向き直る。

「その通りです。」

 最後の球体の右上に明示された数字は10のマイナス15乗だ。

『水素の原子核の大きさだ…』

 俺は小太刀を抜き放ち、イデアの眼前に、その刀身を晒す。

「イデア、この小太刀を見て、どのマイクロマシンで出来てるかわかるか?」

 イズモリの見立てでは、刀身の刃部分は二番目に小さなP型マイクロマシン、マイクロマシン構成体を分解するP型マイクロマシンの筈だ。

「P型マイクロマシンとF型マイクロマシンです。」

『やはり、そうか!いや、しかし待て、F型マイクロマシン?何故だ?何故、俺達には判別出来ん?トーヤのデータにもないマイクロマシンなら、トガリの右目には、黒く表示される筈だ。何故、鋼の元素として判別される?』

 俺は刀身の刃部分に触れ、イデアの目を見詰める。

「確認するぞ。この刃部分がP型マイクロマシンなのか?」

「そうです。刃部分はP型マイクロマシンで構成されております。」

 俺は刃に触れていた指を鎬へと移動させる。

「ではこの部分はどうなんだ?この部分がF型マイクロマシンなのか?」

 イデアが頷きながら「そうです。」と答える。

「イデア、どうやって、判別している?俺の右目にはP型マイクロマシンはマイクロマシンとして映っているが、F型マイクロマシンは鋼の元素として見えてるぞ。お前の目にはマイクロマシンとして見えてるのか?」

 イデアが首を横に振りながら答える。

「私の目にも鋼の構成元素としてしか映っておりません、F型マイクロマシンは原子その物を構成することで物質化しており、この小太刀の場合は、鋼の元素その物がF型マイクロマシンで構成されていると推測できます。P型及びF型マイクロマシンは、その大きさから二作業しか出来ません。刃部分のP型マイクロマシンは、その使用目的から、刃としての形状を維持する作業と物質の分解作業しか出来ないと推測いたします。この場合、P型マイクロマシンを使用するには、鎬部分にF型マイクロマシンを使用する以外に方法がありませんので、私は鋼をF型マイクロマシンと判断いたしました。」

『成程、判別している訳じゃないのか。P型マイクロマシンを使用しているから鎬部分はF型マイクロマシンでなければ、不可能だという理屈か。」

 ダメだ。俺の頭じゃ追い付かん。そもそもF型マイクロマシンで造られた鋼は、どうして、P型マイクロマシンで分解できない?それが、わからん。

『料理のサシスセソと同じ理屈だ。』

 何それ?

 全然意味不明なんですけど。

『サシスセソのサは砂糖だ。シは塩だ。』

 知ってるよ。スはお酢で、セは醤油、ソは味噌だろ?知ってますけど?

『誰がそんな話をしてる。』

 お前だろ?

『違う。砂糖の前に塩を入れると、甘味がつかないってことを言ってるんだ。』

 何それ?

 やっぱり、意味不明だよ。

『塩の粒子は、砂糖よりも小さい。だから、塩を先に入れると、食材に塩の粒子が入り込み、塩の粒子よりも大きな砂糖の粒子は入り込めなくなる。だから、素材には甘味がつかなくなるんだ。』

 へえ、料理の豆知識をありがとう。

『いいから、聞け。』

 わかったよ。

『単分子ブレードでもそうだが、薄くなればなるほど、切味が増すだろう?これは、分子結合の間隙に入り込みやすいからだ。金属が切れないのは、分子よりも小さな原子同士が結合している原子結合、俺達が、普段、使っているナノサイズのマイクロマシンで、同じマイクロマシンの結合を切り離すことができない理屈と同じだ。つまり、さっき言った、砂糖と塩の理屈と同じで、分子が小さければ小さいほど、大きな分子は、その隙間には入り込めなくなる。小太刀の鋼を見ろ。』

 俺は小太刀の刀身を翳す。

『たしかに、鎬部分は鋼の元素だが、俺達には認識できないだけで、鋼に見せ掛けた原子と原子の間にもF型マイクロマシンがギッシリ詰まってるんだ。だから、F型マイクロマシンよりも大きなP型マイクロマシンは、その隙間に入り込むことが出来ないんだ。』

 なるほどね。よくは、わからんけど、マイクロマシンで分解できないマイクロマシンで出来た鋼ってことだ。

『…お前は本当に俺の説明を台無しにするよ。』

 違うの?

『もう、その理解で良い。』

『そんなことより、その通常よりも小さなマイクロマシンの製造システムについて聞いてよ。』

 おお、カナデラが焦れてる。

「その、小さなマイクロマシンってのは、ここで作れるのか?」

「はい。製造可能です。」

 おおー作れるのか。で、そのマイクロマシンで、どうするの?

『強度が格段に上がる。金属の原子結合よりも強度が高いはずだから、空中城塞都市を創れるかもしれん。』

 おお、マジか?

『マジだ。』

『お、イズモリも乗り気になってきたねぇ。』

「使用目的を教えてください。」

「ああ。空中城塞都市を創りたいんだ。」

 俺の言葉を聞いたイデアが、一つ頷き、俺の目を見る。

「マスターの思惑に叶うかどうか判断できませんが、参考資料として、使用できるものがございます。」

「え?マジで?」

「はい。こちらへ、ご案内いたします。」

 壁に新たな出入口が開かれ、俺とイデアは、その出入り口を(くぐ)る。

 長い廊下の先、その奥に、その空間はあった。

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