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トガリ  作者: 吉四六
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着けねばなるまい!決着を!

キミマロに関して、かなり加筆したため長くなりました。

 夜になっても、依然、修羅場は続く。

 忙しさは野戦病院のような様相を呈していながら、目に映る光景は体育会系の食事風景だ。

 食うわ食うわ、どれだけ食うんだよってくらいによく食う。下は三歳から上は七歳まで、圧巻の食事風景だ。

 大口開けて、次から次へと食い物を放り込んでいく。マナーもくそもない。手掴みで、争うように食っている。

 んで、その中にアヌヤとヒャクヤも交じってる。

 手掴みで、本気で子供達と食い物の奪い合いをしてる。どういうことだ?

「それは、ウチの肉なの!」

 と、言っては、子供の掴んでいる鶏もも肉を奪い。

「これは、あたしの肉なんよ!」

 と、言っては、肉の乗った大皿を掲げて、子供の手が届かないようにして貪り食っている。

「あいつら、普段から、ちゃんと飯食ってるよな?」

 誰に向けた訳でもない俺の疑問に、オルラが溜息交じりに答える。

「食べてるんだけどねぇ。」

 まあ、子供達も、アヌヤとヒャクヤと食事するのが楽しそうだから、今夜は、放置の方向でいこう。

「そう言えば、こんな小さな子供の奴隷なんて、需要があるのかい?」

 俺は世間のことをよく知るオルラに問い掛ける。

「あるよ。魔法使いや、売春宿が買うんだよ。」

「魔法使いが?」

 眉を顰めながら、聞き返す。

「生きた臓器のストックさね。」

 胸糞の悪くなる話だった。聞かなきゃよかった。売春宿ってだけでも胸糞が悪くなる話なのに、臓器売買のために買うって、どうよ?

「生きたまま、臓器を抜き取るのかい?」

「さあ、詳しくは知らないが、事故死か病死にすれば問題ないんだろうよ。なんせ、奴隷は人間じゃなくって、物だからね。」

「ふ~ん。」

 以前立ち寄った魔法具店を思い出す。あそこにも人間の臓器が売られていた。魔法による治療に使うためだ。この世界の倫理観はズレている。

 この世界を基準にして考えれば、俺が、ズレているのかもしれないが、どうにもこうにも胸のムカムカが治まらない。

 そう考えれば、アヌヤとヒャクヤは良い仕事をしたのかもしれない。奴隷の扱いを知っていれば、俺がこの子達を買っていたろう。

「まあ、騒がしいのは、いつものことだしな。」

「そうだね。」

 俺は独り言のつもりで呟いたのだが、トンナが、その言葉に相槌を打つ。トンナも子供達に微笑みを向けていた。

 少しばかり、子供達の食事のペースが落ち着いてきたので、全員に声を掛ける。

「皆、注目!!」

 子供達が俺の方を見る。口は動かしているが、顔はこちらに向けている。

「いいか?今日は、皆、お腹が空いてるだろうから、何も言わなかったけど。明日からは、ちゃんとしたテーブルマナーを教えるから、そのマナーを覚えるように!ちゃんと、テーブルマナーを覚えた子には、今日、食べたケーキをまた食べさせてあげます!」

 わっ!と、歓声が上がる。

「ウチは、ちゃんとしたテーブルマナーを知ってるの。」

 ヒャクヤが子供相手に偉そうにしてる。羞恥心ってものを持ってないのか、あいつは。

 でも、ヒャクヤが、ナイフとフォークを持って、食べ始めたのを見て、周りの子供達がその真似を始める。うん。良い傾向だ。

 ヒャクヤは村出の嫁として、しっかりとしたテーブルマナーを身につけてるから、子供達の指導役にピッタリかもしれない。精神年齢も近いしな。

 ただ、澄ました顔して、テーブルマナーについて語っているが、口の周りぐらい拭いて欲しい。全てが台無し感満載だ。

 食事が終わって、食器をキッチンに運ぶのは各自の仕事だ。食器洗いや、散乱したテーブル周りの後片付けも、俺がやってしまえば簡単に終わるが、教育上、それはヨロシクない。

 と、いう訳で、子供達の班編成を行い、班ごとに食事の後片付けをさせる。

 テーブル周りの後片付けは、一班から三班までの十二人で、四班から六班までの十一人には食器洗いをしてもらう。アヌヤはテーブル周りのまとめ役で、食器洗いのまとめ役はヒャクヤだ。

 二人がブツクサ言いやがったら、シバイテやろうと思っていたが、敬礼しながら「了解なの!」とか、「サー!イエッサーなんよ!」と、言っていたので、喜んでいるんだろう。ちょっと不安は不安なんだが、まあ、オルラとトンナがいるから大丈夫だろうと、俺は一人で屋上に上がった。


 満天の星空の下、俺は深い所から息を吐き出す。

 天に向かって、空気と共に幽子を深い所まで吸い込む。

 首を回して、腕から力を抜いて、体中の力を抜きながら、結跏趺坐にして座る。

 目を閉じて、心を静めることに集中する。

 そして、静かに心の内へと落ち込んでいく。俺という存在が内へ内へと窪んでいく。ある一点を通過すると、落下するような浮遊感に包み込まれる。粒子で捉えていた周りの風景が高速で遠のき、暗い深海へと落ちていく。周囲が真っ暗になった時、俺が落ちて来た軌跡が白い線となって残る。

 見上げれば、穴の出口のような真白な点。

 意識下で、その点に向かって飛ぶ。

 凄まじいスピードで、その点が近付き、白い穴となって俺を呑み込む。

 白い空間。

 その白い空間に俺はいた。

「来たな。」

 イズモリを始めとした七人の副幹人格。

 七人全員が揃っている。

 俺は結跏趺坐を解き、ゆっくりと立ち上がる。全員の顔を見回す。

 イズモリとカナデラの間に挟まれて、子供が一人いる。俺の小さい頃によく似た子供だ。

 その子は、あらぬ方向を見ながら、独り言を呟いている。

 子供もいるんだな?

「ああ。この子は自閉症なんだ。精神体が育っていない。と、言うか、成長を止めた可能性もあるな。」

 イズモリが答える。

「それにサヴァン症候群だ。この第六副幹人格が元素組成や、分子構造、遺伝子情報などのデータを保存記憶してる。」

 この子が?凄いな。

「ああ、この子の膨大な知識量が無ければ、いくらマイクロマシンが使えると言っても、猫に小判、宝の持ち腐れだ。」

 俺はしゃがんで、その子の前に右手を差し出す。

 ヨロシクな。俺の名前は更科(さらしな)正人(まさと)だ。

「マサト、マサト、名前はマサト。」

 小さな手で俺の右手を握って来る。痛いほどに力一杯に握って来る。俺はその手に左手を添えて優しく包み込む。

 そうだ。マサトだ。それが俺の名前だ。君の名前は教えてもらえるかな?

「トーヤ。トーヤが名前。」

 そうか、トーヤか。ヨロシクな、トーヤ。

「ヨロシク、ヨロシク、マサトがヨロシク。」

「大したもんだ。トーヤってのか、初めて知ったよ。」

 何だって?どういうことだ?

「簡単だ。この子は誰とも話さなかった。と、言うか、誰とも会話が成立しなかったんだ。」

 イズモリが苦笑いを浮かべながら、トーヤの頭を撫でる。

 少し寂しいな。

「そうでもない。俺達は常に一緒にいるからな、気が向けば、こうして俺達の傍にいる。」

 トーヤの頭を撫でる。

 で、そっちの新顔の二人が第三副幹人格と第七副幹人格なんだな?

 イズモリ、イチイハラ、カナデラ、タナハラが二人に視線を向ける。

「ヨロシク。前にお前と話したことがあるよな?」

 話したって言うより、肉体を乗っ取られたってのが正しいな。

 第三副幹人格が俯きながら気障(きざ)に笑う。

「まあ、俺としても苦肉の策だったんだ。そう怒るなよ。」

 怒っちゃいない。お前が約束を守る限り、俺はお前と一緒にいることに忌避感はないよ。

「ふん。約束を守る限りか…まあトガリも徐々に成長してる。トガリが第二次性徴期を迎えれば、お前の考え方も変わるさ。」

 そりゃそうさ。

 俺はトガリとも、お前らとも混じってる。

 俺が生きてた頃の記憶なんざ、ほとんど思い出さなくなってるからな。今を生きてくだけで精一杯だよ。

「確かにな。アヌヤとヒャクヤが子供を大量に拾ってきたな。あれだけの子供の世話をするだけでも大変だ。」

 それで、お前の名前は?

櫛名(くしな)(はら)。櫛名原公也(きみや)だ。」

 よろしくな。クシナハラ。

「こちらこそだ。マサト。」

 俺はチラリと視線を動かし、一番奥の人物と目を合わせる。

 その人物がニコリと笑う。

 清々しい笑みを(たた)えた、その少年は、白い椅子に座って、足を組んでいた。

 お前らが暫く静かだったのは、こいつの所為だよな?

「そうだ。実際問題、まったく解決してない。」

 俺の疑問に答えたのはイズモリだ。

 イズモリが俺の横に並び、その反対側にカナデラが並ぶ。トーヤを除く全員が、その少年を囲むように並ぶ。

「まいったな。皆でそんなに僕を苛めないで欲しいんだけどな。」

 少年の顔をしたシリアルキラーが俯き加減に笑う。

「シリアルキラーだなんて酷いな。こっちの世界では、まだ一人も殺せてないんだから、シリアルキラーなんて呼ばないで欲しいよ。」

 少年が肩を竦めながら笑う。

 愛想の良い少年で、見た目にはシリアルキラーだとは思えない。

 名前は?

九頭寺(くずでら)、九頭寺(きみ)麿(まろ)。僕のことはキミマロって呼んでよ。九頭寺ってさ、クズの寄せ集めみたいで、そう呼ばれるのが嫌いなんだ。」

 わかった。キミマロだな。で、何か問題を起こしてるのか?

「ううん。僕にとっては、至極当然の要求で、君達は、問題かもしれないと恐れているだけ。」

 ふーん。まあ、取敢えず言ってみろよ。何が望みなんだ?

「月に一度、一日だけで良いんだ。僕達を解放してよ。」

 僕達?

「そう、僕達さ。僕だけじゃなくって、イズモリも、カナデラも、イチイハラも、タナハラにクシナハラも、皆に、平等に一日づつ、実体である肉体を解放してあげてよ。」

 なぜ?

「そりゃ、みんなやりたいことがあるからさ。」

 キミマロがイズモリへと視線を向ける。

「イズモリ、お前だって人間の体を使って実験したいだろう?どこを、どう弄れば、どんな風に強くなったりするのかとかさあ。」

 キミマロがタナハラへと視線を向ける。

「タナハラ、その強くなった奴と戦ってみたいだろ?そして、ソイツを完膚なきまでに叩き潰すんだ。どう?タナハラの好きそうなことだろ?」

 キミマロがクシナハラに視線を向ける。

「イズモリが快楽特化型に改造した人間、どうだい?そんな人間とドラマチックにセックスするんだ。どれだけの快楽を与えれば、耐えられなくなって死んじゃうのか興味がわかない?」

 キミマロがイチイハラへと視線を向ける。

「人間。どう?食材として使ったことある?どんな味がするんだろうね?狂牛病を引き起こす異常プリオンだっけ?そんな物、僕らにかかれば簡単に取り除けちゃうしさ。美味しいのかな?どう?調理してみたいでしょ?」

 キミマロがカナデラへと視線を向ける。

「この世界には霊子結晶っていう変わった物質があるじゃない?もしかしたら、その霊子結晶に人の怨みとか、呪いとかを込められるんじゃない?だったら、呪いの魔道具とか作れたりするんじゃないかなぁ?」

 キミマロがイイ笑顔を向けてくる。

 そして、お前は、それを眺めて楽しむのか?

 キミマロが笑顔のまま止まる。

 確かに、普通の世界じゃできないことばかりで、コイツらにとっても魅力的なことだろうな。だから、コイツらもお前に強く出られなくって、俺に頼ったってことか。

 見回せば、キミマロとトーヤ以外の全員が視線を下げる。

 笑ったままのキミマロ、表情が変化していない。ポーカーフェイスだな。

 お前は人の苦しんでいる姿を見るのが楽しいのか?

「そんな悪趣味じゃないよ。僕は、人が楽しんでいるのを見たいのさ。」

 お前は、人に人を殺させようとしてる。

「それも違うね。僕は、みんながしたことのない、やってみたら愉しそうなことを提案してるだけさ。」

 でも、誰もやらない。

 キミマロが笑顔のまま黙る。

 そうか。お前は、自分の言う通りに人を動かしたい、自分の要求を飲ませたいと思っているのか…

「は?」 

 却下だな。お前は解放しない。

「なんだ、なんだかんだ言って、結局、やっぱり君も皆と同じことを言うんだね。」

 そりゃそうだろ?人を殺すってわかってるのに、何故、解放できる?

「良いじゃないか?マサト、トガリに関係ない人が、月に一度、死ぬだけなんだ。イズモリに人体実験させれば、僕達はもっと強くなれるし、タナハラだって満足する。死ぬまで快楽を与えて、後は調理しちゃえば、死体だって残らない。怨みの残留思念だってカナデラが再利用しちゃうかもしれない。何が問題なんだ?全部プラスに働いてるじゃないか?ちゃんと、トロノアだっけ?前にローデルのところで別人になったろう?その人物の容姿でやるから、犯人だって割り出せっこない。」

 お前、話の前提が間違ってるよ。人殺しが駄目だって言ってるんだ。

「だから、どうして人殺しが駄目なのさ?この世界の倫理観は僕よりだよ?子供の奴隷だって、殺されるのが前提で販売されてるじゃないか?」

 この世界の倫理観は関係ない。俺が人殺しは駄目だって言ってるんだ。

「だから、何故、人殺しが駄目なのさ?マサトだって女の魔法使いを殺そうとしたじゃないか。」

 ああ、殺そうとしたが、結局は殺してない。殺意は在った。そのことは否定しないし、言い訳もしない。でも人殺しは駄目だ。

 人を殺そうとした俺が言うんだ。絶対に認めない。

「そうかい。」

 溜息を吐きながらキミマロが踏ん反り返る。

「僕の周波数はトガリに近いんだ。」

 低い位置から俺を見下ろす。

「つまり、トガリには、殺人に対する忌避感がない。トガリと周波数を同調させて、僕が表出人格になれる可能性もあるってことだ。」

 キミマロが、前のめりになって、俺に脅しをかける。

「僕はね、たった一人なんだよ。他の副幹人格と違って、色んな人格の集合体じゃない。たった一人で構成された人格なんだ。つまり、それだけ自我が強いってことなんだよ。」

 成程、イズモリが以前言ってたな。カナデラが集合人格のほとんどの割合を占めてるって、自我が強いから、他の人格を抑えつけて、イズモリが第一副幹人格として存在してるって。

「そうさ。だから、自我の強さで言えば、僕が最も強いんだ。その僕がトガリを伝って、君に混じっていくよ。そうすれば、僕は解放される。」

 そうかな?自我の強さで言えば、表出人格の俺が、最も強いんじゃないのか?俺に混じったところで、俺に支配されて、お前は自我を失うんじゃないか?

「試してみようじゃないか?」

 キミマロが立ち上がる。

 そうか。自棄になってるんだな?

「どういうこと?」

 お前、本当に誰とも周波数が合わなかったんだな?

「だから!!どういうことだって言ってんだよ!!!!」

 お前の話を聞いててわかったよ。お前には何にも出来ないってことが、おかしいと思ってたのさ。変態度助平のクシナハラでさえ、俺と話が通じたのに、お前とは全く話が通じない。俺にも悪意はあるし、人を憎む心もある。でもお前は全くの別次元だ。

「…」

 俺は生前の記憶をほとんど失いかけてるが、凡庸なただのオッサンだったはずだ。そのオッサンが、何故、トガリの表出人格となりえたのか?多分、凡庸だったからだ。

 イズモリは、知識の集合人格、イチイハラは、食欲の集合人格、カナデラは、創作活動意欲、つまり物欲の集合人格、タナハラは体を動かすこと、勝とうとする欲求、つまり支配欲の集合人格、クシナハラは性欲の集合人格だ。トーヤとキミマロ、第六と第七の副幹人格だけが特殊なんだ。

 トーヤは、俺とチャンネルが繋がったことで、俺と話が通じるようになった。周波数が近いんだ。俺との心の在りようが似ているからだ。でもキミマロとは違い過ぎる。心の在りようが全く違う。

 俺は凡庸なために、心の在りよう、そのものなんだ。

 各副幹人格は、それぞれの欲求に基づいて構成されて集合した人格なんだ。

「そうか。俺は、最初からお前と繋がっていたから気付かなかったが、そういうことか。」

 イズモリが頷く。

「どういうことだい?今一、俺にはわかんないんだけど?」

 カナデラがイズモリに問いただす。

「つまり、六十四万人の人間すべてに知識欲、食欲、性欲、支配欲、物欲ってものはあるだろう?」

 イズモリの言葉にカナデラが頷く。

「マサトの説によると、俺は知識欲の塊だそうだから、六十四万人分の知識欲が集合してるってことになる。」

「ほう!じゃあ、俺には六十四万人分の支配欲が集合してるってことか!」

「そうだ。だから、異常なまでに強い欲求が俺達にはある。キミマロの提案をはね除けられなかった原因だな。そういった欲望が抜けて、人に優しくしたいとか、人が憎いとか、そういう感情面の、マサトの言う、心の在りようって部分が集合したのが、マサトなんだ。だから、俺達は、自然とマサトを頼ったんだ。」

「成程ねぇ。マサトが表出人格になった理由がわかったよ。仮にイズモリが表出人格になったりしたら、トガリは知識欲の権化になって、人体実験も厭わないマッドサイエンティストになってたわけかぁ。」

「そうだな。極端に暴走する人物になってたろうな。」

「で、そんな各人格に受け入れられなかった人格が、トーヤとキミマロか…」

 トーヤの場合はトーヤの方が各人格を受け入れられなかったんだろう。

「そうだな。自閉症だからな。難しいだろう。」

「ふふふふ。そうだよ。僕だけが受け入れられなかったんだよ。」

 当然だな。人を殺したい欲求なんて、俺には理解出来ん。だから、お前がトガリを伝って、俺に混じっても、お前には何も出来ない。

「そんなのやってみなきゃわからないだろう?」

 そうだ。やってみなきゃわからない。だから、やってみれば良い。

「…な、何だって?」

 キミマロが目を剥く。

「お前のその自信はどこから湧いてくるんだ?何を根拠に言ってる?」

 イズモリが呆れた顔で俺を見る。

 俺は六十四万人分の心そのものだ。六十四万人の心が、たった一人のシリアルキラーに負けるはずがない。だから、やれば良い。俺は、俺だけは、お前を否定しない。シリアルキラーとしてのお前の思考は、理解できないし、理解できるとも思えないが、お前と言う存在は、俺という存在だ。だから俺はお前を否定しない。別次元の世界にいた、たった一人のシリアルキラーの俺だ。

 俺という多様性の中で、たった一人のシリアルキラーだ。お前の考え方や欲求は理解出来なくても、俺はお前を大事にしたいと思ってる。

「後悔するぞ。」

 後悔するのも、しないのも俺だ。俺が後悔すれば、お前も後悔するさ。

 俺と混じれば、お前は悩むだろう。俺がお前の影響を受けるように、お前も俺から影響されるんだ。お前が、人を殺したいと、思えば思うほど、お前は、俺からの影響で、悩むことになる。だから、お前はそのことを覚悟して、俺と混じれば良い。

「…」

 お前は、承認欲求が強すぎるんだ。

 キミマロが驚きの表情を見せる。

 気付いてなかったのか?人を自分の思った通りに動かしたい、人に自分の提案を受け入れてもらいたいってのはそういうことだぞ?

「そ、そんな安っぽい人間だと…」

 俺は首を振ってキミマロの言葉を否定する。

 お前の姿が物語ってる。

 キミマロが遠くを見るような表情になる。

 お前は子供のまま成長してない。

 お前は、自分が、他人からどれだけ愛されているのか、推し量ることのできない子供と一緒なんだ。

「な、何だって…?」

 子供は好きな子にちょっかいを出すだろう?あれは、相手に嫌がることをすることで、自分がどれだけ愛されているのかを図っているのさ。

「はあ?」

 嫌がることをして、許されることを期待する。許されれば、相手はそれだけ自分のことを愛していると確認できる。

 キミマロ、お前は、愛されているという確証を得ることができないから、どこまでも要求がエスカレートして、愛して欲しい相手を殺してしまうんじゃないのか?

 キミマロが顔を歪めたまま、止まる。

 まあ、好きなだけ考えろ。時間は幾らでもある。この空間ならな。

「これで良いのかなぁ。」

 イチイハラ、良いんだよ、これで。

 そんなことより、皆に頼みがあるんだ。

「ああ、随分とややこしいことになってるな。イデアの件もほったらかしだし。」

 しょうがないさ。イデアの件も含めて皆に相談したいんだ。

「イデアか~あまり関わり合いになりたくないんだけどなぁ。」

 そうも言ってられないんだ。病院を経営していく上で、臓器密売を何とかしたいからな。

「魔獣の培養についてか…」

 流石イズモリ、話が早い。

「魔獣の培養って?」

 イデアが魔獣の管理をしてるだろう?恐らく、以前は獣人もそうだと思うんだ。どうやって、魔獣や獣人を生み出してると思う?

「そうか。イデアが生み出してる可能性があるかぁ。」

「そうだな。イデアが生み出してる訳じゃないとしても、そのノウハウとなる機械、システムそのものがあるかもしれない。そのシステムを利用して、クローン臓器を作る気だな?」

 そう。そうすれば、臓器密売は根絶できる。子供奴隷が約四十万だから二十万ほどで供給出来れば、臓器密売はなくなる。

「じゃあ、イデアの方はその点を優先させて、一度、コンタクトしよう。」

 あと、子供に対する教育システムだ。どうすれば良い?

「漠然としてるな。どんなものか、イメージだけでもないのか?」

 現代日本。いや、もっとストレスの低い社会を作りたいな。

「難しいな。この世界そのものが現代日本からかけ離れてるからな。現代日本人がこの世界で生きていけるかと問われれば難しいだろう。」

 俺達は生きてる。

「チート能力があるからな。」

「そうだねぇ。チートだよねぇ。」

 力と倫理観、しっかりした道徳観念と社会に押し潰されない力が必要だ。

「まずは、倫理観をしっかりと教育することだ。俺達の庇護の下でな。その上で、マイクロマシンを体に侵入させて、霊子回路を作製するか、活性化させて、脳に知識を植え付けていく。ただ、あまり科学技術は発展させない方が良いかもしれんな。」

 どうして?

「一時の利便性を追求すれば、必ずしっぺ返しが起こる。この世界だって、マイクロマシン技術があった筈なのに、ここまで衰退してる。」

 微妙なバランスだな。

「だから、そこらへんも含めてイデアと会う必要があるな。」

 それと、一度、王国と帝国の度肝を抜いておきたいんだが、何か良い方法はないかな?

「それなら、あるよ。」

 カナデラ?

「まあ、そのためには龍がいるけどねぇ。」

「おいおい、もう、あれを造るのか?」

「そう。凄く造りたいんだけど、ちょっと、躊躇ってたんだよねぇ。」

 イズモリ、何を造るんだ?

「まあ、何にせよ、龍を狩らなきゃ話にならんな。」

 何頭ぐらいいる?

「十五頭ぐらいかな?それぐらいいれば、何とかなるっしょ。」

 わかった。とにかく、龍を十五頭ほど狩るよ。

「うん。よろしくう~。」

 チラリとキミマロに視線を走らせる。

「キミマロのことはほっとけ。また、お前と話すだろ。今は考える時間が必要だ。」

 ああ。

 俺は全員に声を掛けて、この空間から離れることとする。トーヤだけは頭を撫でてから「また来るよ。」と声を掛けた。

 夜の空が俺を覆っている。

 俺だけじゃない。世界を覆っている。

 大きく息を吐いて、結跏趺坐を解いて、立ち上がる。

「トガリ…」

 トンナが傍に座っていた。

「皆はもう寝た?」

 俺の質問にトンナが頷く。

「子供達はね。アヌヤとヒャクヤも寝たけど、オルラがお風呂に入ってる。」

「今日も忙しかったけど、明日はもっと忙しくなるぞ。」

 三角座で膝を抱えるトンナが微笑む。

「だけど、トガリ、嬉しそう。」

「そうかな?」

 トンナが笑う。

「うん。嬉しそうだよ。」

 夜が星を瞬かせて、空の空気はどこまでも澄んでいた。

本日の投稿ここまでとさせて頂きます。お読み頂き、誠にありがとうございます。

 ちなみに、子供奴隷の価格に首を傾げられた方も多いかと思いますので、卑怯ながら、補足をさせて頂きます。トガリが宿泊したホテル代金と購入した本の価格に対して、子供奴隷の価格は、その約半額として設定しております。

 トガリの世界設定として、死の危険と隣り合わせの生活環境ですので、性交渉が盛んになり、出生率は高めになっております。それに対して、生活環境の劣悪さから、貴族にも病気になる者が多く、生体臓器の需要は高いです。子供の販売は貧困層にとって、重要な収入源となっているのです。また、子供の生存率の低さから、どうせ死んでしまう子供だからという考えが一般的で、子供奴隷は普通の商品として取り扱われていることになっております。したがって、比較的、安価に設定されているとしております。

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