冒険の始まり
異世界に行きたい…
こう思ったのが全ての始まりだった。
俺の名前は、高橋幸太。由来は幸せになって欲しいからだそうだ。だがしかし、今は絶賛引き篭もり中の17歳。いわゆるニートである。だから親は悲しんでいるだろう。自分でも情けないとは思うのだが……
………あぁ人生やり直したい。
何回そう思っただろうか。でも何もする気がしない。今更学校へ行ったところで勉強はもちろん何も出来る訳がない。男子高校生にとっての最高のこの瞬間をネトゲに費やしているのだ。恋とかもしてみたかった。
だが、俺にだって夢はある。異世界に行くことだ。この今の青春をもう一度やり直したい。ただ現実では到底叶う気がしないので異世界に行きたいというわけだ。しかし、異世界に行くアニメの主人公達はほとんどの割合で死んでから転生される。正直死ぬのは怖い。どんなに自分が情けなく死にたくなっても多分俺は死ねないだろう。そんな事を呟きながら、ふとカレンダーを見る。
……今日は6月7日か……「しまった!今日は初回限定版の大人気ネットゲーム「モンスターハント2」の発売日ではないか!」俺は突然部屋で叫んでしまった。
「あんた起きてたのかい。そんなに元気があるなら学校にでも行ってらっしゃい。」
母親だ。いつも心配ばかりかけているが学校にだけはどうしても行けない…。
「ごめんよ。母さん、俺ちょっと出かけて来るから。」そう言って、俺は二週間ぶりに外の世界へ飛び出す。今は5時か…ちょうど下校時間くらいだな。俺はフードを深くかぶる。
「あ、こうちゃーん。」
…後ろを振り返る。
「…よう。香菜。」
こいつは俺の幼なじみで、唯一この現実世界で優しくしてくれる女の子だ。それに…ものすごく可愛い。
「今日はどうしたの?」
「まぁちょっとしたあれだよ。気分転換ってやつ?」
「ふぅーん。」
「まぁそういうことで、俺は行くよ。」
俺が手を振って歩きかけた時、
「あ、待ってこうちゃん。これから時間ある?」
「お…おう。空いてるぞ。ニートだからな。」
俺は香菜の可愛さに負け、ネトゲのことがどうでも良くなった。
「じゃあこれから、桜滝ってところについて来てくれない?もう夕方だし、一人じゃ怖くて。」
「お…おう。俺は別にいいぞ。し…しょうがねえなぁ。」
これってもしかしてデートなのでは!?人生初の体験に胸が張り裂けそうになる。
「実は今日宿題でスケッチが出されて…もう困っちゃうよね。」
あぁそういう事か。しかしなんで滝なんだ?もっと簡単な場所にすりゃいいのに。心の中でツッコミを入れる。
「まぁそうだな。暗くなる前に早く行こうか。」
俺達は、その桜滝と言う所へ向かった。
「なぁ、香菜どこにあるんだ。その…桜滝というのは。もう随分と歩いてるぞ。」
「もうすぐだよ。ていうかこうちゃん、まだ10分ちょっとしか歩いてないよ。」
やはりニートにとって運動というものは天敵だ。
「着いたよ。ここが桜滝っていうの。」
香菜が楽しそうな口調で話しかけて来る。
「おお。こんなに大きな滝が近所にあったなんて。」
俺は目の前の景色に圧倒された。
「ねぇ、こうちゃん。」
「なんだ?」
「えーとね、あ、忘れた…えへへ。」
やばい可愛い。もう一瞬で心臓を射抜く可愛さだ。
もし、この子と一緒に異世界に行けたらなぁ。
そんなくだらないことを考える。
……………落とせ。
「なんだ!?今の声は。」
誰もいないはずの滝つぼから声が聞こえた。
……………はい。了解しました。
と後ろから声が聞こえたと同時に、ドンッと強く滝つぼに落とされた。
……………行ってらっしゃいませ。お二人様。ご武運を…。