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その週の金曜日、美術室にいたあたしは、部活を終えた宮澤君と何故か川野君とまどちゃんにも絵を見せることになった。完成した絵は木が一本中心に描かれた、白と青の二色だけの絵。時折水も混ぜながら彩色したけれど、それだけの絵だ。
「椿の絵って澄んでる気がするけど、これは柔らかい感じもするね」
まどちゃんが頷きながらいう。
「祖父ちゃんがどんな絵だと納得するのか分からないけれど、俺は間違いなく喜ぶと思う」
宮澤君が笑って請け負ってくれたことに、安心して思わず大きく息を吐いた。そんな中、川野君は腕を組んで絵をじっと見ていた。二人の感想を聞いている間も、何故か彼の感想がとても気になって、あたしの視線はいつの間にか彼に向かっていた。ふと目があった。見ていた事に気付かれたくなくて、慌てて目をそらした。
「いいな、この絵。描きたいものがはっきり伝わってくるから、すごい惹き付けられる」
そうだ、この絵に惹き付けられていたんだと鰆は思った。完成した絵を見て、理由も分かったし、見る事が出来て良かったなと思いながら小田さんに笑いかけると、顔を赤くした彼女は「もう仕舞うね」と言って絵を丁寧に包み始めた。
「あ…宮澤君、これ、お礼にならないかもだけど良かったら貰って。あたしがこの話を受けたのは、確かにこの絵が描きたかったから。だから、この話を持ってきてくれたお礼に…あまり似ていないし、色鉛筆彩色だから、いらなかったら捨ててね」
あたしは思い出して、鞄から一枚の絵を取り出し、宮澤君に渡した。
「何々…椿、何処が似ていないのよっ。本人そのもの…いや、本人より良い男?」
「本当だな」
「やー、上手いねー、うんうん」
まどちゃんと川野君が宮澤君の両隣から覗き込む。二人を追い払おうとしたが背後霊のようにくっつかれ逃げられず、顔が赤くなっている。
「ありがとう…嬉しいよ」
あたしもその言葉が嬉しくて照れ臭くなり、顔が赤くなっていくのが分かった。その時、あたしと三人の間に手が下りてきてー。
バリッ
「あ…」
まどちゃんは口に手を当てたが、少し声が漏れた。あたしが宮澤君に渡した絵が、手によって二つに裂かれた。呆然としながらゆっくりと顔を上げていって、その手が誰なのか目にした時、あたしはどうしたらいいのか困ったままその人の名前を呟いた。
「渓ちゃん…」