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図書館の扉を開け、カウンターにいるのが見えた友哉に声をかける。友哉が声をかけ、こちらを振り向き声をあげた子は、確か小田椿って子だ。俺も声にはならなかったが会うなんて思っていなかったため驚いた。
数秒経ち、彼女が話しかけてきた。
「貴方でも、その様な本借りるんですか」
「どれどれ、『天使の卵』?鰆ってこういうの読むのか」
友哉が俺の手から本を抜き取って驚いた顔をこちらに向けてくる。
「全く読まない。一斉読書あっただろ、図書館で偶然目に入ったから借りただけ。それより小田さん、だっけ、聞きたいことあるんだけれど、あの絵、何?何も言わず片付けたんだ」
半ば睨む様にしながら尋ねると、友哉が不思議そうに聞いてくる。
「あの絵って?」
彼女は俺の視線がきつかったからか、友哉を見て話し出した。
「…宮澤君のお祖父ちゃんに頼まれたあの絵だよ」
「ああっ、あれか」
友哉は納得したみたいだが、俺には全く分からない。俺の表情に気付いて、友哉が話し出した。
「文化祭でさ、美術部は絵を展示していただろ。祖父ちゃんが見に来て飾られた小田さんの絵を気に入って、個人的に書いてくれって頼んだんだよ。あれ、でも小田さんって、描きかけの絵を見られるのすごく嫌がってたよね」
友哉から聞かされた内容に、どういう絵で何であの対応だったかのか、ようやく納得した。と、同時に後悔が襲う。俺だって見られたくない時はある。サッカーの個人練習や、勉強中の姿は特に見られたくない。一人で集中してやりたい時に人に見られたり他人が近くにいたりすると、やりづらいし気が散る。だからあの時、もう見て欲しくなくての行動だったんだと分かるから。
「俺が勝手に見たんだよ。…小田さん、ごめん」
椿は驚いた。鰆が本当に申し訳なさそうな顔をしていたから。頭の良い人は結局“自分は悪くない”と考えている人達が多いと感じてきた椿は、今頭まで下げた鰆の態度にとても驚嘆した。慌てて顔の前で両手を振る。
「あの、もう良いから…。それにあの絵、今週で出来るから、宮澤君金曜日に持ち帰ってもらえる?」
「分かった、良いよ。でも持ち帰る前に一目見ても良いかな?」
友哉の言葉に照れたように頷く椿が可愛く見えて鰆は内心驚いた。また、苛ついていた感情が収まり、いつの間にか穏やかな気持ちで椿達といられるのも不思議だった。一緒にいると気持ちが和む、そんな気持ちを友哉も感じていることには、鰆はまだ気付いていなかった。