勇者軍
無気力で服がズタズタになったハイネをとりあえず服を与えて追放した
「りゅうのすけ、これで良かったの?」
「これで良かったんだよ」
そう言って俺達はぼんやり空を眺めながら歩いて行くハイネを城の外で見送った
しかし、俺は何か胸がざわついていた
何かを忘れている気がしていた
パチパチと拍手しながら誰かが近づいて来た
「敵を見逃すなんて優しいですね、それにあの二人を相手に退くなんてやはりルシハの見込んだ通りの男になりましたね」
そこには自分の事をルシハと呼ぶ俺と同じぐらいの歳の漆黒の様な黒く長い髪の少女が立っていた
その深い闇を感じさせるかの紫色の瞳がうっとりと俺を見つめていた
そうだった、何かを忘れていると思っていたがあのとき俺達を呼びに来た配下のドラゴンはハイネを含めて三人の襲撃と言っていたが俺達はまだ二人しか会っていなかった
ハイネの仲間だと気づいた俺はすぐさまこの少女を警戒した
「りゅーのすけくん、ルシハはあなたの敵じゃないわ、味方よ」
「ハイネの仲間じゃなかったのか?」
「あれはりゅーのすけくんに接触するためにただ同行してただけよ」
「どうして俺のために?」
「簡単に言うとルシハはりゅーのすけくんが好きなの」
「なにー!」
キュアが怒っていた
レキもあからさまに機嫌が悪そうだった
少女は続けて言った
「それにルシハの能力であなたの事をずっと見ていたの、あなたがバンパイアの力を得る時からずっとね」
「どうしてその事を?」
「だってあのときりゅーのすけくんに助言したのはルシハなのよ」
そう言えばクリスと戦っている時に聞こえた声と瓜二つであった
「だから、ルシハはりゅーのすけくんの命の恩人なのよ」
あのときの事を知っている点と声が似ていることから信じるしかなさそうだな
「で、俺にわざわざそれを言いに来たってことは何か要求があるのか?」
「だからルシハはりゅーのすけくんが好きだから会いに来たんだって、まぁ要求はあるけどね」
「なんだ?」
「それはルシハも仲間に入れて欲しいなー」
「どうして?」
「それはルシハはりゅーのすけくんと仲間以上の関係になりたいからかなー」
ストレートの告白に内心嬉しく思っていた俺だったが他の二人は違ったようだった
「マスターと私はもう既に主従を越えた関係なのであなたの入る余地はありませんよ」
レキが堂々と言っていた
いつからそうなったんだろう?
「りゅうのすけはずっと私と一緒だったのよ、他の誰よりもりゅうのすけの事をずっと知ってるしりゅうのすけも私がいいに決まってるわ!」
「ルシハはね、ずっと見ていたけどあなた達が言ってるのは嘘ね、りゅーのすけくんは誰が一番なのかを決めてないみたいだったよ」
それを言われた二人とも表情を曇らせた
お二人さんもう嘘がばれてますよー
「だからりゅーのすけくんが決めればいいのよ、ルシハを仲間に入れてくれるかどうかを」
どうしようか、ルシハが俺を助けてくれたのは本当みたいだが信じていいのか?元はハイネの仲間だった、もしかしたらアルメテウスと繋がりがあるのか?
「とりあえず、ルシハを仮採用ってことでいいかな?」
「分かったよーでもりゅーのすけくんの一番の人は本採用を勝ち取るぞー」
そう言ってルシハは俺にウインクをしてきた
こうして、ルシハを俺は仮採用で仲間にすることになった
「早速だけどルシハ、強いのか?」
「うーん、ルシハは多分そこそこ強いと思うよ」
「さっき言ってた能力って何の事なんだ?」
「ルシハはねー、堕天使の力を使えるのです」
「だ、堕天使?」
「そうです、ルシハはあの有名な堕天使の末裔だから色々能力があるのです」
「例えば?」
「例えばって言われてもねー、とりあえずは千里眼でどこでも見れる能力はあるかなー、りゅーのすけくんもそれで見ていたし」
何か知れば知るほどよくわからなくなる奴だな
その日の夜、寝付こうとしてた俺の部屋の新しくなった扉を叩く音がした
「どうぞ」
俺は招き入れた
「マスター、お話があります」
そこには黒いネグリジェのレキが立っていた
目のやり場に困る…
「どうしたのレキ?」
「私はマスターのバンパイアの力を一切知りませんでした」
「そうだっけ?別に隠してなかったんだけど話してなかったっけ?」
レキは首をぶんぶんと強く横に振った
「ルシハは知っていた、もちろんキュアも、二人は知っていて私だけは知らなかった」
「私はマスターの事を何も知りませんでした、私にとってマスターは一番大切な存在です、だから私はマスターの全てを知りたい」
そうして、レキは俺に寄り添ってきた
「そして私の全てを知って欲しい」
するとレキは薄いネグリジェを脱ぎ捨て柔らかい肌を寄せてきた
俺の心臓の鼓動は速くなっていた
レキは俺の胸に耳を当てた
「マスターの心臓速くなってる」
そう言うとレキは俺の手を握り、自分の胸に当てた
小柄だがとても柔らかな感触が手に伝わった
「私の鼓動もマスターのせいで速くなってる」
ピュアな俺はパッとレキとの距離を離れた
「どうしてマスター逃げるのですか?私の全てをマスターに捧げたい」
詰め寄るレキ
俺はそっとレキの頭を撫でた
「レキ、そんなにあせらなくていいんだよ、じっくり時間をかけてお互いを知っていけばいいと思うよ」
「マスター」
「それに今はやっぱり俺の頭には魔王しかいない、奴を倒さなくては未来はからね」
「そうですねマスター」
俺は着ていたシャツを一枚脱ぎレキに渡した
「寒いだろう、風邪をひくまえに着なよ」
「ありがとうございます、マスター」
シャツを着るとレキは
「マスターの匂いがします、優しい匂いです」
そう言ってレキは笑みを見せた
不意なレキの笑顔はとても可愛かった
そっか、レキももう色々な表情が出来る様になったんだな
人は成長していくんだなとしみじみ感じた
その後俺達やドラゴン王国はルシハを加えて魔王との全面戦争に備えていた
俺は力を得て、勢力も手に入れた
魔王の実力も分からないしアルメテウスの強さも分かっている
結局あのとき俺の中で聞こえた誰かの声も分からなかった
しかし分からないことだらけだけど立ち止まるわけにはいかない
だから力をつけるため俺は鍛えた
自分の能力、エメラルドのくれたドラゴンの力を完璧に使いこなせる様になるために
俺はみんなの思いを背負っている
それに俺は答えたい…
約3ヶ月の間、ドラゴン王国の勢力だけでなくドラゴン王国をオープンにして魔王を倒したいと言う民間の兵士達も集い俺の軍は巨大なものになっていった
これだけの軍なら魔王に対抗できるかもしれない
「ねぇりゅーのすけくん、この軍の名前何にするの?」
「名前何ているのか?」
「それは私も賛成だよ、りゅうのすけー、名前は大切だよ!」
「魔王を倒すための軍と言うことだから、勇者軍はどうですか?」
「そうだね!魔王といえば勇者!魔王を倒せるのも勇者だからねー!」
なんか恥ずかしい名前だな
でも何か盛り上がってるし
「うーん、じゃ勇者軍で決まり!」
「おー!」
「おー?」何か周りに流されるまま俺達の軍は勇者軍となった
そう魔王との決戦の日は刻一刻と近づいていた




