待ち人
夜空から雪がちらほらと降ってくる。
私はそれを見て、もう冬なんだなと感じる。
かじかんだ手をはぁーと温めながら私は近くのベンチに腰掛けていた。
私は今人を待っている。
それは私の世界で一番大切な人。
けど、あの人にとって私はどうなっているんだろう? 大切な人に成れているのだろうか。
そこに、否定するかのように冷たい風が吹いてくる。
その風に私の不安は大きくなる。
私の世界であの人はとても強い存在だ。それは間違っていない。
だけど、あの人の存在が強くなっていくたびにあの人の世界に私はいないと感じさせられる気がする。
なぜなら、あの人の世界にはもうたくさんの人がいるのだから。
私なんかその中の一人のモブに過ぎないのかもしれない。いや、もしかしたらあなたの世界に私は既にいないのかもしれない。
そんなことを考えていると私の目の前を多くのカップルが楽しそうに過ぎ去っていく。
あの人達はお互いの世界でお互いが大切な存在になっているのだろう。
そう思うとまるで、私だけ一人置いて行かれてる気分になった。
私は肩に積もった雪を払い、俯く。
もう、置いて行かれたくないからだ。
それからどれくらい経ったのだろうか。いつの間にか私の前に息を切らしている人が一人立っていた。
「ごめん! 待たせた!」
彼は目の前で手を合し謝った。
「ううん、いいよ」
よかった……まだ貴方の世界に私はいたんだね。
そして、私は彼の手を取りその場を後にした。