転生
やんわりと、そう、ふんわり……の方が適切だろうか。
ともかく今、俺はなんとも言えない優しい浮遊感のなかで純白の空間をゆっくりと下降していった。
見回せど見回せど純白の空間。
普通だったら違和感や恐怖感を抱く場面なのかもしれないが、全くと言っていいほど怖くはなかった。
生まれてこのかた、自分の人生に手を抜いたつもりはない、ましては人の道を外れたつもりもない。
ただ、満たされなかった。
悪くはない成績で小・中・高と進んだ。
時には親も褒めたりしてくれたが、そのうち頑張りが足りないと言われるようになった。
そんなつもりはなかったが、親としては俺の態度というか打ち込み具合が気に食わなかったのだろう。もっと頑張れば……という思いがあったのかもしれない。
ただ、その思いを俺は共有できなかった。そして、それなりの大学を経て、それなりの会社に就職し、それなりの稼ぎで過ごした。
そのうち親が病気で倒れ、葬式が行われた。
そのとき、俺は気づいた。気づいてしまった。
周りも気づいてしまった。
俺はおかしかった。
親が死んだというのに涙がでない。いや、悲しくないわけではなかった。
ただ、異様に客観視していた。人はいつか死ぬんだからそんなものだろうと。
ただ、それは普通ではなかったらしい。最初はいたわりの言葉をかけていた親戚連中や列席の知人、果ては姉貴や弟までが、信じられないという目で俺を見ていた。
なんだよ。そんな目で見るなよ。
あぁ、そうか、俺が欠けているのか。俺が悪いのか。
そんなことを考えて静かに目を閉じた。今は何も考えたくない。そう思ったとき、気づいたら俺はこの純白の空間にいた。
欠けていたものが満たされるような安心感、いや、俺がおかしいからこの感覚も普通ではないのかもしれない。
まぁいいさ。いまは気だるくも心地よい感覚に身を委ねよう。
いくほどの時間がたったのだろうか。
気づいたら、俺は…………「俺」は……
「俺」は「私」になっていた。
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純白の空間から放り出された俺はまず自分の状況がすぐには飲み込めなかった。だってそうだろう?
気がついたら意識ははっきりしているのに体は動かないわ、すぐ横には金髪の美人さんの顔があるんだもの。
しかも至極うれしそうな顔で感涙のなみだを流しながらよくわからない言語で話している。
俺はというと首を自分で動かすこともできずに、なみだでぐしゃぐしゃになった女性のされるがままになっていた。やさしくなでられたり、ささやかれたり……
すると上の方から男の顔が出てきて優しげに女性の頭を撫で、何事かをつぶやく。
あぁ
そこで俺はようやく自分のおかれた状況が何となくわかった。
これはあれだ、いわゆる転生だ。と。
よくよくみれば、目の前の女性の耳が大きく突き出ているのが見える。言い方がこっちの世界と同じかはわからないが、元の世界でいうところの「エルフ」だろう。
ということは、やはり「異世界転生」。後から考えればずいぶんと短絡的かもしれないが、以前からゲームやマンガに親しんでいたせいか、俺の頭の中では「異世界転生」でほぼ確定していた。
そこで俺は久しぶりに「興奮」というものを覚えていた。もちろんいやらしい意味ではない。
惰性で暮らしていたような元の世界の生活からの脱却。しかもどうやら赤子として俺は生まれなおしたらしい。
ここでならやり直せる ……!!
しかも異世界でだ。
俺は密やかな期待を胸にそっと眠りへと落ちていった。
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