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第八話「齟齬」

「どういうことだ。なぜそんなことを知っている、それも前史に書いてあったのか」

「違う。だが、ワシは知っているのだ。それにお主も思ったじゃろう。なぜこんなにもモンスターが弱いのかと。」

「確かにな。ダンジョンもそこまできつくなかった、いや、ヌルいほどだった。」

「開始数日でダンジョンすらぬるく感じたのは単にカード使いが強クラスなのかもしれん。そしてそこのエルフ耳の子。リーンと言ったか、彼女のクラスであるアーマードナイトもな。だが、明らかにフィールド上のモンスターは弱い。それには、理由がある。ゲームが開始したばかりだからだ。ゲーム開始後一週間は創造神ンデ・ギオガの力によって、モンスターの力が弱められているのだ。」

「それは・・・何のために」


 まあ、何となくわかるけど。


「モンスターではなく、人の世を作るためだ。人が集まり、様々な場所に集落を作る。そのための準備期間をンデ・ギオガは設けたのだ。」

「なるほどな。ようはゲームにありがちな初心者救済期間って奴か。だがそもそも、ンデ・ギオガとはなんだ。創造神?この世界には神がいるのか」

「ンデ・ギオガは、このゲームの開発主任だった男だ。そして奴は今、この世界で我らが父なる神として君臨している。」

「は?」


 どういうことだ。神として君臨する開発者だと。というか、そもそもなぜジードがそんなことを知ってるのか。


「なぜワシがそんなことを知っているのかと言いたげじゃな。いいか、ワシも開発側の人間だったのだ。何を隠そう、ワシは主にアークティア前史のメインライターを担当していたのだよ」


 何、ジードは開発の人間だったのか。しかし今は、一プレイヤーとして参加しているわけで。うーん、信じられん。しかし色々なことを知っているのは事実。てかあの本を書いたのお前かよ。よく知ってるわけだよな。


「信じられんな。それになぜ俺にそんなことを教える」

「代わりにリーンのことを聞きたいからじゃ」

「リーンだと?」

「そう、彼女はまるでエルフのように見える。しかしエルフの初期スタート地点はアークティアの西側に位置する巨大な森林地帯の中だ。そしてここはおそらくアークティアの中央部だ。5日でここに来るなど普通では考えられん。色々とおかしいのだ。」

「ああ、それなら答えは簡単さ。彼女はエルフじゃない。ゴブリン族だ」

「そうだよー」


 リーンが頷く。


「ゴブリン族だと!?どう見てもエルフであるのにか!いや、そもそもプレイヤーキャラにゴブリン族は選べないはずじゃ。彼女は、ブレイドを付けておるではないか。プレイヤーではないのか」


 どうやら彼の中ではブレイドを付けている者はプレイヤーという認識らしい。なぜだろうか。だがそこはまあいい。とりあえず彼女について俺は説明してやることにした。向こうも腹を割って話しにきているのだ。それには応えねばならない。


「リーンはダンジョンで見つけたユニークモンスターで、カードに封印し今は従えているんだ。ブレイドはその時から付けていた。俺も疑問に思ったんで彼女に尋ねたんだが、母親から貰ったんだと」

「そうだよ。ブレイドは母さんがくれたの。でもらんまる、わたしのことモンスターって言うのやめて欲しいな。そういう言い方ってすごくの傷つくの・・・。」

「すまん、気を付ける」

「わかればいいの」

「なんと、まあ・・・。お前はこんな短期間にダンジョンをクリアしユニークまでもを従えたのか。さすがじゃのう。しかし、ブレイドは本来プレイヤーにしか与えられるはずの無いデバイスだったはずだ。彼女の話が真実なら、おそらくはゲーム開始前からブレイドは存在し、プレイヤー以外の手にも渡るようになっていたということだ。これはどういうことなのか・・・。それに「ゴブリン族の呪い」、とな。それはワシらが描いた物語と、違う。」

「なにをいってる」

「どうやら前史にワシ達が描いた設定と、現実にこの世界で起きていることの間には齟齬があるようなのだ。ワシが前史を手掛けた時、ゴブリン族に呪いのような設定は無かった。ワシらの描いたゴブリン族とは元より愚かで、醜いだけの種族。自ずから築いた王国を神の怒りを買ったことにより破壊され、地下に逃げ込んでいた住人であったはずだ。」

「なんかよくわからないけど、ゴブリン族の扱いがひどいの・・・」


 リーンが落ち込んでいる。確かにそれだとひどいな。


「俺がリーンに聞いた話と違うな。神によって呪いをかけられたゴブリン族は、地下にしか居場所がなくなった。そんな中で生まれたリーンは俺の知る限り唯一呪いに打ち勝った存在だ。母親も呪いの影響が少なかったらしいから、血によるものなのかもしれん。とにかく彼女は生まれた頃より呪いに打ち勝ち、ゴブリン族でありながらこのような美しく賢そうな姿をしている。そしてリーンのような姿がゴブリン族の元々の姿なんじゃないか、と俺は考えている。」

「神の呪い・・・か。やはり全てはンデ・ギオガの仕業なのか」

「またンデ・ギオガか。よくわからんが奴はあんたの元同僚なんだろ?」

「そうだ。だが、奴については色々説明をせねば理解はしてもらえんだろうな。奴について説明したいのだが、ワシには日の昇っているうちにまだやっておくべき仕事がある。すまんがこの話の続きは夜になってしまうな。」

「構わないぞ。ってか、俺達はアンタの仕事の邪魔をしていたのだったな、すっかり夢中になって忘れてしまっていた。申し訳ない。」

「それはいいんじゃ。ワシも誰かに話をしたくてできなかったことがたくさんある。お前さんにはそれができそうだし色々聞いてもらいたい。」

「随分親切なんだな」

「なに、これはワシのためでもあるのだ。ワシはゲーム内部の事情をある程度知りながらも、生産職である農家を選択してしまったから、戦闘には不向きだ。一応サブクラスには魔術師を選択しているが、それも農業のために使えるスキルや魔法を優先的に取得していくつもりだしな。だから正直なところ、モンスターと戦えるお主とはパイプを築いておきたいのだよ。今後協力が必要になってくる場面も出てくるだろうしな。」

「なるほど。だが、俺もあんたみたいなうまい野菜を作ってくれる人間がいる分には助かるからな。お互いに悪くない繋がりだといえる。」

「そうか。そう言ってくれるか。今日の夜に宿屋で食事と酒を飲みつつもう一度話そう。あそこは夜は酒場も兼ねることになっているのだ。」

「なに、酒があるのか」

「酒屋のロッチが作っている。まだ試作段階みたいだが、色々あるぞ。ツマミもセラに作ってもらえるから楽しみにしておけ」

「おう」

「よくわかんないけど、ほどほどにね」


 実は俺は酒が大好きだ。飲兵衛だ。そして働かずに飲む酒が何よりも一番うまいと思うタイプのクズだ。まあ今は、金があるけどさ。とにかく楽しみにしておこう。

 

 農業系のスキルのない俺達は彼の手伝いをしても邪魔になるだけなので、挨拶すると農場を後にし、町へと戻った。

タダ酒最高!

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