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第七話「ジード」

 俺とリーンは、一階にある食堂入り、窓の傍のテーブルに座る。エプロンを付けたセラが料理を運んでくる。どうやら彼女がコックらしい。なるほどな。宿屋関連のクラスはないし、おそらく彼女は料理系のクラスでそれが本職なのだろう。料理はチキンソテーとポテトフライだ。さすがにケチャップはないようだが、塩が振ってある。いいじゃないか。


「ほう、チキンにポテトか。鶏は平野で見かけたが、じゃがいもは見かけなかった。一体どこで見つけたんです。」


 思わず、尋ねる。


「森に生えていた種芋を、ジードさんが改良してじゃがいもにしてくれたんです。品質も3ですし、おいしいですよ。」


 品質。全てのアイテムには品質がある。レアリティとはまた別に。特に食事の品質は大事だ。初期に持っていた硬い黒パンは品質が1。りんごは2。二つとも別の食べ物だが、品質の差は嫌でもわかった。味が全然違ったからな。

 そしてじゃがいもは品質が3だという。おそらくは成長系のスキルを使ったのだろうが、そうした邪道な方法でそれだけの品質のものをこの短期間で作れるとは、ジードとかいう男、ただものじゃないな。おそらくはコモンクラスにあった「農家」か、似たような系統のクラスを取得している人物だろうが。

 ポテトを口に運ぶ。サクサクでほくほくだ。うまい。久々に食べた温かいポテトから伝わる熱が心地いい。ああ、俺、なんてマズイ飯を食ってたんだろう。まじで。あんなマズい飯を食うために俺はFOを始めたのか?いや、違う。俺は今日、このポテトを食うためにこのゲームを始めたんだ。そんな気がする。

 隣ではリーンが俺を眺めていた。目が潤んでいる。そんなにお前も腹がへっていたのか。そうだよな。減ってるよな。でもそれじゃまるでお預けされた犬のようじゃないか。

 可哀想に俺の許可を待ち、目の前のご飯を我慢をしているリーンに、好きに食べるよう伝えると、彼女は木製のナイフとフォークを巧に使いながらチキンソテーを食べ始めた。うーん、やはりこいつはまるで高貴な身分か何かみたいだな。食事のマナーを心得ている。むしろ俺の方が、食べ方が汚い感じだ。木製のナイフでは、うまく肉が切れなくて俺はフォークを指してそのまま肉に齧りついていた。

 チキンソテーもニンニクが効いててうまかった。にんにくもジードという奴が育てたのだろう。しかしこれくらいならユーティリティの料理スキルさえ俺も取得しておけば、作れるんじゃないかな。いや、鶏の解体もしなければならないだろうし、色々めんどくさいか。そういう手間のかかることは、正直好きじゃない。しばらく俺は食べる専でいいや。


「食事はどうでした?」

「おいしかったよ。ありがとう。」

「おいしかったの!」

「そう言っていただけると、励みになります」


 褒めると本当に嬉しそうに笑ってくれるので、こちらも褒めがいがあるな。


「ところで、やっぱりこの子の部屋も取りたいんだが、部屋はまだ予約できるか」

「ええ、空いてますよ。では先ほどの金貨をもう一枚ということでもよろしいですか」

「ああ、構わない。それと、先ほど話していたジードという男なんだが・・・」

 

 食事を終えると俺は一度部屋に戻り、支度をしてジードの元へ向かう。リーンも一緒だ。おそらく彼は、グロウアップというスキルを持っているはずだ。俺の目当てはそれだ。グロウアップは植物に使えば成長を手助けし、人に使えば攻防の能力を引き上げる効果があるスキル。できればカードにさせてもらいたいのだ。


 町はずれの畑に、ジードはいた。いや、畑と言うにはまだまだ小さいか。モンスター対策に柵もつくらないといけないので、数日ではこの程度が限界なのかもしれないな。

 ジードは農作業中のようだった。中年の男が、いかにもな農家スタイルで仕事をしている。麦わら帽子に作業着とはな。まさか初期装備ではあるまい。


「あんたがジードか。」

「そうじゃ。わしがジード、このソルディアで、農家をやっているものだ。あんたらは」

「俺はらんまる、カード使いだ。そして彼女はリーン。アーマードナイトだ。サラにここを聞いてきた。おそらくあんたがグロウアップを使えると踏んでここに来た。カードにさせてくれないか」

「よろしくなの!」

「うむ、よろしくな。なるほどな。カード使いとは珍しいクラスを選んだもんだ。しかしアーマードナイト・・・。そんな職業選べたかのう。まあいい。タダとは言わせんが、取引なら構わんぞ。何か持っているかの。」


 見た目は中年だが、喋り方はジジイだな。ギャップ萌えって奴か。全く萌えないけど。難易度が高すぎる。

 とりあえず俺は金貨を見せる。


「純金ではないだろうが金でできた金貨だ。それなりの価値はあるだろう」

「これは・・・!?」


 ジードがオドロキに目を丸くしている。なんだ、この金貨のことを知っているのか?

 そして俺のショッキングピンクのローブをじろじろと眺める。今更かよ。


「そのいかにもな装備・・・マジックアイテムじゃな。服を見てまず気付くべきだった。お主、既にダンジョンをクリアしたのか」

「なぜわかる。」

「・・・それはゴブリン族がこの大地に大国を築いていた時に使われていた通貨『リア』の小金貨なんじゃ。創造神ンデ・ギオガによってゴブリン族が地下に追いやられた後、地上からその金貨も消え失せた。だから今それを持っている者は地上を追い出されたゴブリンの巣窟を踏破し、宝物庫にたどり着いたものだけじゃ。」


 ふーん、ゴブリン族は以前は大国を築いていたのか。それじゃ呪いの影響の少なかったリーンの母親がリーンに色々な事を教えていても不思議じゃないのかもな。まあいつ頃の話か分かんないけど。てか創造神ンデ・ギオガってなんだよ。リーンに向き直り、


「リーン、今の話知ってた?」

「ううん、初めて聞いたの」

「そうか・・・。ジード、あんた随分詳しいんだな」

「何を言うか、5日と経たずにダンジョンを踏破するような人間なのに、そんなことも知らんお主の方がわしには意外だよ。アークティア前史を読んでいないのか。」

 アークティア前史・・・?ああ、あれか。

「あの糞長い前置きストーリーの書いてあった辞典のような本のことか。届いて3日で投げちまったよ」

 

 FOには、ゲームの目的が特に決まっておらず、固定のNPCもいないことは前に話したと思う。それはつまり、基本的にはメインストーリーも、サイドストーリーもないことを意味している。それは物語はプレイヤー達によってつくられるもの、というのが開発者たちの考えだったかららしい。

 しかし、その世界観と設定を描いた『アークティア前史』というものがゲームの予約先行特典としてプレイヤーたちの手元には届いていた。それはオムニバス形式で色々な短編を詰め込んだ大作小説であり、発売までの1カ月で読みきるのはほとんど不可能な分量だった。異常な予約数を記録したFOのプレイヤーでも最後読む者はほとんどいなかったのではないだろうか。俺もすぐ読むのを諦めたが、まさかこのジード、最後まで読んだのか。


「そんなに長くないわ!全く、貴様も読んでないとはな。数日でダンジョンをクリアするガチプレイヤーならようやく語り合えるかと思ったのにのう。」

「そんなに語り合いたかったのか。」

「そうじゃよ、せっかくワシが、いや、話が長くなったな。とにかくグロウアップをカードに封印するんじゃったか。構わんぞワシは」


 その後、五枚ほどグロウアップのカードを作った。


「助かったよ。今度食材も売ってくれ」

「構わんが、またダンジョンに挑むつもりなら、やめておけ」

「なぜだ」

「明後日の7日目以降、モンスターは凶暴化する。ダンジョンに行けば、おそらく命は無いぞ。」


 ・・・なんだって?



カード グロウアップ5枚ゲット

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