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逢魔刻  作者: 陰陽堂
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 ここに来てから幾らの時がたったのだろう。

 閉じ込められているわけでもないし、監視されているわけでもない。だけれども、ここから出てはいけないと言う。

 抵抗することもできたはずである。

 でもそうしなかったのは、きっと抗う理由がなかったからだろう。

 今の自分の置かれている状況は、未だによくわかっていない。

 だから、流れに身を任せるのも悪くない。そう思ってしまったのだ。

 あの村人、確か加藤という名前であったと思うが、彼が何の理由で自分たちを閉じ込めているのかよくわからなかった。ただ彼は、なにかしら研究したいと言っていた。

 それはなんだろう。

 ここ数日、そのことばかり考えていたが、結局答えが出ることはなかった。

 ただ。

 一つだけ分かったことがあった。

 自分たちとの会話の中で彼が興味を持ったのが、死であったということである。

 どうやら彼には、いやこの須佐村に住む住人達には、死という概念がないようである。

 話を聞くところによると、彼らは不死であるようだ。

 それに、ある一定の年齢になると、それ以上老けることがないようである。どうりで村の中を歩いていても、老人を見なかったはずである。

 死の概念がないというのは、理解に苦しむ。

 というより、想像ができないのだ。

 逆に言えば、加藤たち村人にとっては死という概念が、想像できないのであろう。

 だからこの家から出ていこうとしなかったのも、彼らに死という概念について教えてほしいと乞われ、自分も親身になって教えてあげたいと思ったからであるのかもしれない。

 どちらにせよ、今はこの状況に甘んじていてもいいと思ってしまう。

 一方で、最近結婚したばかりの夫のことを思うと、早く元の世界に帰らなければならないとも思ってしまう。

 そもそも。

 そもそも、ここに来ることになったのは、自分とその友人の幼稚な好奇心のせいである。

 ある場所で人が忽然と消えてしまう、ということが頻繁に起きている。その場所がどこか分かったからちょっと見に行ってみよう。

 そんな話を聞いて、普通の人なら馬鹿げているだとか、くだらないと思うはずであろうが、その時の自分には、その話がひどく魅力的であった。

 しかし結局は、ミイラ取りがミイラになってしまったわけである。

 なんと無様なことだろうか。

 この家にいる自分を含めた8人の男女は、皆一様にそう思っているはずである。

 しかしながら、皆が皆、同じようにここを訪れたのである。

 中には明らかに憔悴しきった表情の者もいる。自分の友人もそれとはほとんど変わらない表情であった。

 無理もない。

 ここ数日ろくに外の空気を吸っていないのである。

 死の概念について教えるために、時々外出している自分でさえ、気が重くなることが少なくなかった。そうであれば、外出していない者たちが憔悴してしまうのも無理からぬことなのかもしれない。

 そろそろ約束の時間である。加藤の家に行かなくてはならない。

 そう思って扉を開けようとすると、外からある村人が、扉についた小窓から顔をのぞかせ、

「今日は外に出てはいかん。明日もだ。いいな、絶対にだぞ。」

 と言われた。

 なぜか分からなかったので、その男の問いただすと、新たにこの村に迷い込んだ者たちがいるからということだった。

 それは質問に対する答えになっていない。

 だが、追求することはしなかった。

 これもおそらく加藤の研究とやらの一環なのかもしれない。

 そうであるならば、外出する必要性は皆無であろう。そう思うと途端に、やる気がなくなった。

やる気はなくなったが、その代わりに自分の中に好奇心が芽生えてしまった。

 新たに来た者たちを見てみたい。

 ただその一心で、小窓から外の様子を窺った。

 すると加藤に案内されるように、4人の男女が横切ってきた。

 さらによく見ようとすると、そのうちの一人、スーツを着た背の男性と目が合ってしまった。

 いけない。

 すぐさま男から目をそらした。

 何か悪いことをしたわけでもないのに、ひどく動揺し、しまったと思った。

 呼吸が荒くなる。

 御坂茜は、汗がしたたり落ちてくるのを感じた。


 

 

 

 

 

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