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逢魔刻  作者: 陰陽堂
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「なるほど、さしずめ私たちは異界の住人ということですか。」

 加藤はそう言って、頭をかいた。

 話は分かってもらえたであろう。

 なんせ話をしたのが、口が達者な坂口と木戸であったからだ。

 俺が話をしたならば、それこそ加藤は悪戦苦闘してしまっていたであろう。

 だが、加藤は理解できたのであろうか。

 実際にこの目で見た俺ですら、何が起こったのか把握できてはいない。それは俺の能力が不足しているからかもしれない。

 しかしながら、見ていない事柄に対して、話を聞いただけでは理解をするのは困難であろう。それがいかに理路整然とし、わかりやすい話であったにせよ。

 百聞は一見にしかず、という言葉がある。

 些細なことですら、聞いただけでは理解が十分とは言えない。見ることによって初めて、完全なる理解が得られるのであろう。

 そうであるならば、荒唐無稽な話は、聞いただけでは完全に理解することは不可能であろう。

 加藤もそれは分かっている。

 わかっているからこそ、加藤は不足した理解を、想像力で補っているのであろう。

 いや、補う努力をしているのだ。

 俺には到底できないことである。

「まぁ私たちの立場なんてどうでもいいですが、その失踪した人たちのことですけど、おそらく来ていないと思いますよ。村人以外の人を見るのは、久しぶりですしね。」

「おそらくとはどういうことですか?」

 坂口が訊いた。

「私の家は村のはずれでしてね、だからよその人たちが来ても気づかないかもしれないと思いまして。でも、些細な噂を耳にすることもしょっちゅうですけど、誰かが来たなんて話は聞きませんでしたし、来ていないと思いますよ。」

 来ていない。

 その言葉は俺にとって、最も聞きたくなかった言葉である。

 どうやら俺の心の中では、失踪者、特に御坂茜が見つかりさえすれば、依頼も完了するし、元の世界にも帰ることができると思っていた。

 しかし、その希望は打ち砕かれたのである。

 これからどうしたらいいのかわからなかった。

 木戸の顔を見たが、彼女も同じ気持ちであるらしかった。

「そうですか。弱ったな。とりあえずほかの方にもあったてみます。ありがとうございました。」

 坂口がそう言うと、加藤はいえいえ、また何かあればお尋ねくださいと言って、俺たちを見送ってくれた。

 陽は傾きかけていた。

 加藤は泊まっていってくれて構わない、と言っていたが、さすがに迷惑だと思い遠慮した。

 それに加藤の話では、空き家が何軒かあるので、それを使っても構わないということだったので、今日はそこで寝ることにしよう、という話になった。

 最近は空き家が増えてきたという話であった。

 なぜかは加藤にもわからないのだそうだ。

 俺はてっきりお年寄りたちが、相次いで亡くなっているのだろう、と何の根拠もなく思ってい

 加藤にもらった野菜を使った料理を食べ終えると、すでに外は暗くなっていた。

 これから話を聞きに行くのは失礼だろう。そういう判断で、聞き込みは翌日行うことにした。

「寝るにはまだ時間があることですし、少し加藤さんのお話をまとめてみるのはどうでしょうか。」

 木戸の提案により、加藤の話をまとめ、明日からの聞き込みに備えることとなった。

「坂口君、まずは加藤さんの話をざっと説明してくれ。」

 俺は加藤の話の詳細をほとんど忘れていたので、思い出すため、坂口が上手いこと要点をまとめて話してくれるだろうと期待して、そう頼んだ。

「ええっとですね、まず僕たちがいるこの村は須佐村というそうです。人口はちょっとわかんないですけど、そうたくさんはいないようです。加藤さんの話では、須佐村の位置は、僕たちが扉を見た場所とそう違いないと思います。」

「つまり、須佐村は私たちの世界、もしくは次元と言ったほうがいいかもしれませんが、それとは違っているということですよね。」

 それは間違いないようであった。

 加藤ら須佐村の住人たちの認識では、ここは日本の長野県で間違いないようだ。

 ただ、ここに来る前で下調べをしたが、須佐村という村は、俺たちの世界には無かった。

「そういうことになりますね。次に失踪者たちのことについてですが、彼らは知らないようです。でもこれについては、僕個人の意見としましては、ちょっと腑に落ちないという感じです。

「というと?」

「はい、加藤さんは意図的でないにせよ、何か隠し事をしているよな気がするんですね。だから、これは憶測でしかないんですが、加藤さんたちは失踪者たちに会っていて、そのことを隠していると思うんです。なぜだかはわからないですが。」

 坂口の話を聞いて、俺も加藤の話を聞いたときに、なにか違和感を感じたのを思い出した。

 しかし、彼が失踪者たちに会ったことを隠すことに、何の意味があるのだろうか。

 それに俺たちはまだ、須佐村の全貌を暴ききれていない気がした。

 それも仕方ないことだろう。

 いくら須佐村が広くないとはいえ、俺たちはまだ村の一部しか見ることができていなかった。

 完全な理解を得るためには、聞くだけではなく見るしかないのだ。

 見ることによって、はじめて違和感がなくなるかもしれないと思った。

「あとはですね、彼らは知らないようですね、あの扉については。そのくらいですね、今のところは。」

「では、やはり明日からの聞き込みにかけるしかないですね。」

 木戸の言葉のとおりだった。

 明日にかけるしかない。

 今日は一日が長かったような気がした。相当な疲労感があった。

 床につくと、すぐに眠ってしまった。

 


 

 

 

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