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異世界  作者: トモ吉
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ほの暗い地下

私が売られたのはほんの六つになったばかりの事だ。税を納められない両親が泣く泣く奴隷商人に売り渡したのだ。

それから私に人権というものは存在しない。奴隷商人は各国を転々と商売をしながら渡り歩いた。その道中で両親が恋しいあまりに泣いたりもしたが、親元に返してくれる訳もなく、返ってきたのは殴る蹴るの暴行だけだった。それが数ヶ月続いた。

ある日、ユーク大陸南のアリシア王国という小さな国に辿りついた。

「調子はどうだ?」

「ここ最近はどの国も生活が苦しくて直ぐに子供を売り払う。だから売りさばくのに苦労してますよ」

「そうか、繁盛してるようだな。今回は十人ほど売ってくれ」

「毎度ありがとうございます」

そうして私はアリシア王国の領主マドルフという人に買われた。

買い手がついた時、私は喜んだ。それまで奴隷商人の待遇は酷いものだったのだ。家畜以下のように蔑まれ、暴力を振るわれ、物のように扱われ続けたのだ。それから解放されるのが嬉しかった。だが、それは直ぐに後悔へと変わった。

私達は領主に買われると山奥の施設に連れられた。

そこには私達と同じくらいの年頃の子供達が何十人も暮らしていた。

私達は先にいる子供達に話し掛けるが、みんな子供特有の無邪気さや覇気はなく、相槌程度しかしない。

私は胸騒ぎと不安を感じたが、その胸騒ぎは直ぐに現実のものとなった。ルドルフが私達を買った理由は暗殺集団に育てあげる為だった。

領主は年端もいかない子供達を集めては暗殺術、諜報活動などを徹底的に叩き込んだ。その訓練は想像を絶する程に過酷なものだった。寝る間もなく、ありとあらゆる教育を徹底された。私達より先にいた子達は不満などは一切言わず黙々と訓練に打ち込んでいる。

何故、そこまで従順になれるのか分からなかったがその理由は直ぐに気付いた。

失敗をした子は『特別教育』というものを地下室で受ける事になる。それは口では現せない程の地獄だった。

私はメイドの教育で皿を割るという些細な失敗をして初めて『特別教育』を受けるハメになった。

施設のじめじめとしたほの暗い地下室に連れて来られるといきなり男に両手を縛られた。

「何を・・」

何が何だか分からず怯えきっている私をロープで天井に吊し上げる。

全体重が手首にかかり、締め付けられる。

「痛いッ」

身じろぎをするが逃れられる訳もなく益々手首に負担がかかる。

木の棒を持った男が目の前に進み出た。よく見るとその棒は血で黒ずんでいる。

「まさか、やめて」

私の顔から一気に血の気が失せ、脅えきった表情に顔をひきつらせる。

「始めろ」

離れた場所にいるマドルフが合図すると男がニタリと笑い木の棒を勢いよく振り下ろす。

「ひぃぃぃッ」

背中に激痛が走り身体をのけ反らす。

「お、お許し下さい。領主様」私が涙ぐんだ目で必死に哀願する。

「お前は失敗を犯した」

「だからと言ってこんな仕打ちはあんまりです」

「些細な失敗が任務失敗に繋がる場合もある。これはどんな失敗も許さない戒めであると同時に失敗時に口を割らない忍耐強さを鍛える訓練でもある」

「嫌よ、お願いッやめて!嫌!イヤー!」

私を絶望と恐怖が支配し無我夢中で首を左右に振り拒絶する。

領主が躊躇なく合図すると男が木の棒をを振り下ろす。

少しだけ身体をくねらしてみるが効果は殆どなく、容赦ない一撃が私の身体を打ち据える。ミシっと骨が軋む。

「ぎゃぁぁ」

木の棒で打たれ度に私は痛さのあまり身体をのけ反らせ悲鳴をあげる。だが、それも回数を重ねる事に小さく弱々しくなっていく。

それは男が手加減をしているのでも、私が痛みに慣れてきたのでもなく、単純に私に悲鳴をあげたり、抵抗する気力がなくなってきたからだ。

マドルフがぐったりとうなだれている私の前に出ると乱暴に髪を掴んで顔をあげさせる。

「うっうぅ・・もう、堪えられ・ません。許し・て下・さい」

私は蚊の鳴くような小さな声で許しをこった。

「駄目だな。弱音を吐くと言う事は私を敵に売るという事だ」

「もう止めて・・死んじゃう・・」

私の哀願も虚しく拷問は更に続けられ、ついに私は白目を剥いて気絶した。

少女の服は所々破れボロボロになっている。真っ白だった腕や足もどす黒く腫れ上がって一回りも二回りも太くなっている。

だが、顔には傷がない。

おそらく怪我が残ると任務に支障をきたすという理由だろう。

「今日は終わりだ。そいつを起こせ」

マドルフの指示に従い男がロープを緩めると少女は崩れるように地面に落ちた。そして男が水の入った桶を少女の顔の上でひっくり返す。

「ゲホッゲホ・・痛っ」

水が気管に入りむせ返り、咳き込む。身体を起こそうとしたが全身を激痛が襲う。

「苦しかったか?もし、任務中に敵に捕まる事があったなら迷わず自決しろ。わかったな?明日からは通常の訓練だ」

私は拷問がやっと終わった事を知り、立ち上がろうとしたが痛みで足に力が入らない。痛みを我慢する気力も残ってなく、その場に動かずにいる。

すると男が私の両手を掴んで引きずられるようにして階段を上り、部屋に放り込まれた。こうした地獄に堪えられない者もいる。私達と一緒に買われたセネはちょっとドジで明るくていい子だった。失敗が続き何度も地下室で拷問を受けてついには発狂して死んでしまった。姐御肌のラケルはセネの失敗を庇い地下室に連れて行かれたままずっと帰ってこない。気の弱いローザは訓練中に失敗をして地下室に連れていかれる途中に舌を噛み切った。数ヶ月の間で買われた十人の内半数がいなくなった。そしてなくなったのは命だけではなくまだ生きている者からも自我を奪った。ただ、命令されるだけの人形のように毎日の訓練を受けるようになった。

訓練に馴れてくると任務を受けることがある。

最初は情報収集。他の勢力の軍事力や動向を探るというもの。それを上手くこなせるようになると要人の暗殺などの任務を受ける。

「アリシア王家が天の子を召喚した。今回はその天の子の情報を探れ。接触方法はこちらで用意する。我等の邪魔になるようなら暗殺もある」

私は領主様に呼び出されてそう命じられた。

「はい、わかりました」

私は何一つ疑問に思わず、ただ任務を遂行する。

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