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異世界  作者: トモ吉
23/28

多忙

タケルとレバスの話し合いが一段落し、談笑をしている最中にドアがノックされた。

「失礼します」

姿を現したのはドルネだった。

「どうした?」

「お客様がお見えになりました」

「ん?誰だ?」

「ウィン公爵です。突然の訪問ゆえ今は待たせてありますが如何なさいますか?」

「ウィン公爵?」

聞き覚えのない名前にタケルは頭を傾げる。

「隣の領主ですよ」

レバスがフォローする。

「この部屋に通してくれ」

ウィンが部屋に入るとレバスがいる事に少し驚く。

「おっ?レバス殿がここにいるとは思いもしませんでしたよ」

「タケル様がこの度男爵の地位を授かる事を伝えに訪れたのですよ」

「それはめでたい。僕はカスライ領就任の挨拶をと思いまして」

「まぁ、とりあえず腰を掛けて下さいよ」

「この度はカスライ領就任おめでとうございます。僕はカスライ領の隣の領土を治めるウィンです。今後、良き付き合いをしていきたいと思っています」

ウィンがタケルに就任の挨拶をするとタケルも快く返答した。

「わざわざご足労くださりありがとうございます。至らない部分もありますがこちらこそよろしくお願いします」

「今、丁度タケル様とアリシアの今後について話し合っていたんですよ」

「もしかしてユトニアの動向ですか?」

ウィンは頭の回転が早いらしくすぐに本題を理解した。

「そうです。近年のユトニアの動向は不審な点が多い。アリシア国内でも反戦派と開戦派に意見が割れている」

「僕も頭を悩ませています」

「ウィン殿はどちらですか?」

「僕は断然反戦派ですよ。ユトニアとは交易もしていますし、開戦になると我が領土が真っ先に被害を受けます。ユトニアが無茶な事を言って来てるのはわかりますが話し合いで解決するならその方がいい」

レバスとウィンは同じ反戦派で意見が合っているみたいだ。

「そうですね。それはレバス殿に期待しましょう」

「いやはや、面倒な役職についたものだ」

3人は不安を掻き消すかのように笑いながら深夜まで話を続けた。


★★★


ウィンとレバスが帰った後、カスライ領はやらなければならない事が山積みになっていた。

タケルはめまぐるしく動き回っていた。

「例の資料をお持ちしました」

ドルネが執務室に入ってきた。

「そうか、どれ」

タケルは資料を受け取り眺める。

「このような資料で何をなさるつもりですか?」

資料の内容はカスライ領に派遣されている騎士団のプロフィールだ。

タケルは資料に目を落としながら答える。

「ん~、カスライ領から騎士団が撤退する話は聞いたよな」

タケルがレバスに出した要件だ。国境警備を騎士団ではなくカスライ領で行い、代わりに資金を融通してもらう。

おそらく近い内に要望は通り、騎士団は撤退するだろう。

「ええ、ですが居なくなる者の資料を集めても・・」

「これからは国境警備も我々でしなければならない。戦力を増強する為にも魔法を使える者が欲しいんだ」

「魔法使いですか・・」

「正しく言うなら魔法使いを育成出来る者だ。おっ?」

タケルの資料をめくる手が止まる。

「ふむふむ、これはいいかも・・」

ドルネもタケルの資料を覗き見る。

「見習い騎士ですか?」

見習い騎士の名簿が表示されている。

「雇うなら安くて済むだろう」


★★★


屋敷の外に出るとカインが木刀で素振りをしている。

「領主様、お早うございます」

カインは素振りを止めて挨拶をしてくる。

カインにはカスライ領に着いてから基礎体力を重点的に鍛えさせている。

「あの、そろそろ剣術を教えてくれませんか?」

基礎体力はそこそこ上がってきている。頃合いといえば頃合いといえるだろう。

「どれ、少し相手をしてやろう。待ってろ」

タケルが宿舎から練習用の木刀を持って来た。

「お願いします」

カインが真剣な表情で構える。

「いつでも掛かってこい」

タケルは木刀を右手でだらりと持っているだけだ。

隙だらけの構えがかえって不気味に見えるのか、カインは静かに出方を窺っている。

だが、意を決したようにカインの目が大きく見開き、力強く打ち込んでくる。

「せいっ」

カインが木刀を上段から斜めに振り下ろす。

(悪くはない太刀筋だ)

バンッ

カインの木刀がタケルの右肩を強打する。

激しい痛みを感じたが声一つ出さずにカインを見据える。

「どうして受けないんですか?」

カインが驚いたように言う。

「もう一度だ!」

タケルは異論を許さない強い口調で叫ぶ。

「でも・・」

「いいから早くしろ!」

「はっ、はい」

カインが木刀をもう一度振るう。

最初と同じようにタケルの右肩に当たる。

「最初より弱いな?」

タケルが鋭い眼光をカインに向けた。

「は、はいすみません」

カインは申し訳なさそうに謝る。

「最初に剣で学ぶべき事は剣とは人を傷付けるものだという事だ。カインは人を傷付けるのが怖くて二度目は手を抜いたのだろう?その気持ちは大切だ。だけど迷いが命取りになる事も覚えておきなさい」

「どういう意味ですか?迷いを捨てろという事ですか?」

カインが困ったように尋ねてくる。

「剣術とは心技体の三位一体だ。『体』は身体を現す。それは訓練で鍛えられる。今教えているのは『心』だ」

「『心』・・ですか」

「『心』はすなわち心構えや覚悟だ。人それぞれの答えがあり、それが剣に宿り、信念となる。どうして剣を握るのか?己に、自分の剣に尋ねてみよ」

「・・・わかりました。自分なりに考えてみます」

カインは自分の握る木刀を見て頷いた。


★★★


タケルは屋敷に戻り、闇夜の銀狼のメンバーの顔を見に行く。

「よう、調子はどうだ?」

「う~、最悪」

「まだ気持ちワリィ」

ロキはどうやら二日酔いみたいだ。

「また遅くまで飲んでたのか?」

ユミルが無事に護送任務を終えていい酒もたんまりと仕入れられている。

「ロキとデュークが飲み比べをしてね。ここまで連れてくるのは大変だったわよ」

ユミルは半ば呆れた顔で答えた。

タケルは苦笑いをする。

「農地拡大と水路建設の報告はまた今度聞かせてもらうとして・・」

「私に用?また護送任務?」

「いや、村の外を警戒していて欲しい。それとこの周辺の地図を作って欲しいんだ」

「地図?」

「そんなに難しく考えなくてもいい。目印になるものだけ書き留めてくれるだけでもいいからさ」

「やってみる」

「あと、山賊と遭遇しても戦闘行為はなるべく控える事」

「わかったわ」

本当ならあと少し増員しておけば山賊と出会っても安心なんだが、農地、水路も共に重大な仕事だから人をさく訳にもいかない。

金銭の都合はどうにかつきそうが人手不足解消は当面の課題になるだろう。

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