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異世界  作者: トモ吉
22/28

護送任務

ユミルはタケルと別れた後、仲間達と山を下り始めた。

「みんな、気を引き締めて行くわよ」

「へい」

闇夜の銀狼のメンバーは不満もなく返事をした。

「山賊と遭遇した場合は深追いはせずに荷馬車を守る事を優先するわよ」

統率には全く問題はなく、ユミルの指示をよく聞いている。

行きは下り坂だし、荷物もないので比較的早く下山する事が出来た。


★★★


城塞交易都市ラグーン

アリシア王国の北部に位置し、防衛の要であり、ユトニア王国との交易の要所。ウィン公爵が治める領地。

ラグーンのメイン通りは商人と買い求めて来たお客でごった返していた。

「なかなか活気のある街だね」

ユミル達も王都で長く、闇夜の銀狼として暮らして来たが、ここでの賑わいは王都の賑わいとはまた違う活気がある。

「ここには色んな商人が集まる場所だからね」

「いい酒も沢山ありそうだね」

「でも、それを安く仕入れるのは難しいのよ」

女将さんの商売の腕はなかなかのものだった。

考えてみれば、寂れきったマリネ村でどうにか暮らせていけるだけの稼ぎを出す事は凡人では到底無理な話だろう。

「例えば、今、傭兵風の男が露天商と話をしているだろう?」

女将は指差さず、素振りだけで話す。

「ええ」

少し前で武具を並べている露天で買い物をしようとしている男に気付く。

「鎧を買おうとしているみたいだけど、アレは損だよ」

「どうして?」

「値段が書いてあるけどあの額なら安くて丈夫なアッシュ産の鎧が買えるよ」

「へぇ~」

ユミルは少し感心したように頷く。

「教えてあげないの?」

「いいかい?商売人にとってそういう情報はお金と同じくらい価値があるのよ。知らない方がマヌケって事だよ。それに余所様の商売の邪魔はしないってのが長く商売を続けるコツなのさ」

「なるほど」

ユミルは興味深々で女将の話に耳を傾けている。

その後も女将さんとユミルは商売について色々と話しながら歩いた。


★★★


さほど時間を掛けず荷馬車いっぱいの食料や酒を買い込んで城塞交易都市ラグーンを後にした。

「いい品を沢山買い込めたわね。ありがとうね」

女将さんは満足そうにカスライ領への帰路を急ぐ。

時間的には夕刻にはマリネ村に到着するだろう。

「お礼を言うのはまだ早いわ」

「どうして?無事にここまで来れたんだし、帰りも大丈夫よ」

「・・・だといいわね」

帰り道は上り坂になり、荷馬車にもたんまり荷物が乗っているので移動速度は遅くなる。移動速度が遅くなればその分襲われる可能性が上がる。それにマリネ村に帰る道は一本道だ。その気になれば待ち伏せはどこでも出来る。

ユミルは嫌な予感を感じ警戒を強める。

ユミルがカスライ領に入った時だった。

まだ夕刻前だというのにカスライ領の森は深く、うっすらとしていた。

ギリギリ・・

ヒュンヒュン

ユミル達に弓矢が襲ってきた。

「敵襲!」

部下の1人が大声で叫ぶ。

「ひっ・・」

女将さんが短い悲鳴をあげて小さくなる。

「円陣防御!」

ユミルはすぐさま部下に指示を飛ばす。部下達も荷馬車を中心に円を組む。

「女将さんは荷馬車から絶対に出ないで」

そう言い残すとユミルは部下の元に急いで駆け寄った。

「被害と敵の規模は?」

「被害はありません。敵の規模は不明ですが、飛んで来た弓矢の数を見ると少数でしょう」

「・・・」

山賊は野蛮さから馬鹿だと思われがちだが勝てない相手には挑まない。

なんらかの勝算がないと行動を起こさない。

こちらより少ない人数で私達5人に挑むだろうか?

「飛び出さずに防御に徹するわよ」

ユミル達が防御を固めると弓矢があっちこっちが飛んでくる。

やはり、予想以上にいる。

山賊は薄暗い森に隠れている為、姿が見えない。

その上、細かく移動しているらしく、どこにいるか正確な位置が掴めない。

「チッ、舐めやがって」

「動かないで」

飛び出そうとした部下をユミルが制止する。

「出ていったら相手の思う壺よ」

「しかし姐さん、このままじゃいい的ですぜ・・クソ」

部下は弓矢が飛んで来た方向に弓矢を撃ち返すが、当たる訳もない。

「なら、助けを呼びに行きましょうぜ」

「助けを呼びに行って救援が来るまで4人でここを死守するのは恐らく無理。いや・・待って」


伝令が無事に出れば山賊は短期決戦を挑まなければならなくなる。

そこを潰す事が出来れば・・・

「よし、伝令を出すわよ。ただし・・」

部下達はユミルの説明を聞いて頷く。

「援護するわよ」

ユミル達が敵がいるらしき森の茂みに弓矢を放つ。

「今よ、行きなさい」

それを合図に部下が走り出した。走る部下の足元に弓矢がささる。

ユミル達は弓矢が飛んで来た位置を予測して弓矢で攻撃する。

どうやら伝令は無事に山賊の包囲を突破したみたいだ。

「これで山賊達は救援がたどり着く前に私達を殲滅して、荷物を奪い安全圏まで脱出しなくちゃならない。すぐにでも仕掛けて来るわよ」

後は敵の数が少ない事を祈るのみ。

ユミルの期待通り山賊達は茂みから姿を現したがその数は期待を裏切り10人を超えていた。

「クソ!突撃!」

ユミルは部下に命令を出し、山賊目掛けて飛び出した。

死中に活だ。

生き残るにはそれしかない。

「おお!」

ユミル達が飛び出し、山賊達はそれを迎え撃とうと構える。

山賊達の意識がユミル達に向いた。

「今だ!」

先ほど伝令に出た部下が茂みから山賊に襲いかかり、山賊のクビを切り落とす。

「馬鹿な!もう救援が来たのか?」

山賊達は不意をうたれ混乱した。

だが、1人だという事がわかるとすぐに冷静さを取り戻した。

「畜生!嵌められた。あいつら伝令を出したふりをして俺達を森から引きずり出したんだ。だが、数ではまだこちらが上」

ユミル達も善戦したが、数の差は覆い隠せず、窮地に立たされた。

「このままでは・・」

そう思った時、山賊達を何本もの弓矢に襲われ倒れた。

「なに?」

弓矢が飛んで来た方向を見ると武装した正規の兵士が隊列を組み、弓を構えていた。

「第二射撃て!」

立派な甲冑を着たリーダーらしき男が指揮をとっている。

「ヤバい退くぞ」

山賊達は正規の兵士を見ると蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

辺りが静かになり、女将さんがそ~っと荷馬車から顔を出す。

「はぁ~」

山賊を撃退した事に安堵の溜め息を漏らす。

「あたしゃ、生きた心地がしなかったよ」

ユミルに話し掛けたがユミルは話を聞かずに上の空だ。

不審に思いユミルの視線の先を見ると兵士達が並んでいる。

その中のリーダーらしき男がこちらにやって来る。

「いや~危ないところだったね~怪我はなかったか?」

「何人か傷を負ったけど大丈夫です」

ユミルは警戒を緩めないまま答える。

もともと闇夜の銀狼は盗賊紛いの集まりなので助けてくれたとはいえ、兵士に良い印象はもってない。

「この辺りは山賊がよく出没するからねぇ~気をつけないと」

「ええ、おかげで助かりました」

「そうだ。良ければ一緒に行かない?僕らはマリネ村に用があって行く途中なんだ」

ユミルは少し考える。

このリーダーらしき男は気さくな性格で貴族独特の高飛車な態度がない。

「いいわよ。私達もちょうどマリネ村に帰る途中なのよ」

「僕の名はウィン。よろしくね」

「ウィン?まさか公爵様?」

「よく知ってるね。今日はカスライ領を治める事になった天の子にご挨拶に行こうと思ってね。まったくウチのじいやは心配性でね。カスライは山賊が出て危ないからってなかなか行かしてくれなくてさ」

ウィンはユミルの隣に行くと笑顔を浮かべる。

「しかし、君のような美しい女傭兵にあえてよかった。それだけでカスライ領に来た甲斐があるってモンだ」

ユミルは照れる様子もなくウィンを一瞥する。

「噂通りの人ね」

「噂?一体どんな噂だい?僕の容姿を美女達が褒め称えていたのかな」

「ウィン公爵と話をすれば子供が出来る」

「ぶっ!!」

ウィンは思わずずっこけそうになる。

「ちょっと待て、僕に子供は1人もいないよ」

「どうかしら?」

ウィンが慌てて否定するがユミルはまともに聞いちゃいない。

「本当だってば、きっと僕に嫉妬した者が流したデマに違いない。僕は美しい女性とお喋りするのが好きなだけなんだ」

ウィンの必死の釈明がなんだが子供じみた言い訳っぽく聞こえてユミルは少し笑った。

「あなた、ホントに公爵?似合わないわね」

こうしてウィンとユミルはマリネ村へと向かった。

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