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異世界  作者: トモ吉
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財政赤字

タケルは宿場を後にして執務室で考え事をしていた。

「ん~、この調子でいくとすぐにお金が底を尽きるな」

農作業の対価として銅貨を支払ったが収入がない現状では文無しになる日は遠くない。

「お呼びでしょうか?」

ドアをノックしてドルネが入ってきた。

「ああ、これからのカスライ領の統治について相談があって」

「はい、わたくしでよければなんなりと・・」

「これまでのカスライ領の税収や支出について聞きたい」

「少しお待ち下さい」

そういうとドルネは棚から帳面を出してきた。

タケルはその帳面を受け取り、中身を読み始める。

わからない物はドルネに尋ね、詳しく説明を受けた。

「・・・ふ~、これは思った以上に厳しいな」

ある程度把握したタケルはため息を漏らす。

「今までは王家からの支援でどうにかやって来れましたが・・」

カスライ領は税収はかなり少ない。しかしやらなきゃならない事は山積みになっている。どれも大金がかかる事ばかりだ。

「わかった、夜遅くまで突き合わせてすまなかった。ゆっくりと休んでくれ」

「いえ、それでは失礼します」

ドルネが退室したあと天井を眺めながらつぶやく。

「こりゃ、参ったな」


★★★


次の朝、護衛についての打ち合わせをする為に宿場に赴いた。

「カスライ山を下り、昼過ぎに城塞都市アリマに到着。物質を購入後、カスライに夕刻に到着」

女将さんからの護送予定を確認する。

「それでお願いしますね」

女将さんは少し緊張した様子で頷いた。

「私達がついてるから安心して」

ユミルがさりげなく女将さんを気遣う。

「そうね」

女将さんは無理やり笑顔を作って返すがまだ緊張しているようだ。

打ち合わせが一通り終わるとタケルはユミルに声を掛けた。

「絶対に無理だけはするなよ。危ないと思ったら逃げろよ」

「女だからって馬鹿にしないでよ。私が田舎山賊程度に遅れを取る訳ないでしょ」

「そうじゃない。万が一の事があれば皆が悲しむ。俺も大切な人材をこんなとこで失いたくない」

タケルが大切な人材だなんて言ってくれるとは思わなかった。そこいらの貴族なら私達を消耗品としてしか見ないだろうが、タケルは違っている。

「あんた変わってるわね。わかったわよ」

ユミルは真面目に心配するタケルの顔を照れくさくて見れなくて武装したメンバーの元に歩き出した。

「今夜も皆で酒を飲もうな」

タケルはユミルの背中に向かって声を掛けるとユミルは振り向かずに右手を軽く上げた。

タケルはユミルを見送った後、ロキとデュークと仕事の打ち合わせをやりに行った。

「今日は2班に分ける。デューク達は昨日に引き続き、荒れ地を耕してくれ。ロキ達は・・・」

「おっ、変わった事をさせてくれるのか?」

ロキは少し目を輝かせる。

「荒れ地を耕すだけでは駄目なんだ。水を引けるようにしなければ意味がない」

「で、何をすればいい?」

「こっちに来てくれ」

タケルが歩き出すとロキ達もついて歩き出す。

すると小川が見えてきた。

「ここからデュークのいる場所まで水路を作って欲しい」

「はぁ?」

ロキ達はデューク達がいる場所を見ようとするが結構な距離があるのと木々が邪魔をしてデューク達の姿はここから見えない。

「出来るなら今年の作付けに間に合うように」

「またとんでもなく無茶な事を・・」

「無理か?」

タケルがロキに尋ねた。

「いいや、やってやろうじゃないか」

ロキは破れかぶれで引き受ける事にした。

「やるぞ野郎共!」

掛け声と共に仕事に取りかかった。

ロキとタケルは肩を並べて水路作りに汗を流した。

「タケル様」

泥だらけになって水路作りをしているとドルネが声を掛けてきた。

「どうした?」

「お客様がお見えになりました。いかがなさいます」

「客?誰だ?」

「レバス様でございます」

「すぐに会おう」


★★★


応接室でレバスはお茶を飲みながら待っていた。少し顔色がよくない。山登りが身体にこたえたのだろうか?

「お待たせしました」

タケルは服を着替えて応接室に姿を表した。

「このような遠方にようこそおいで下さいました」

レバスは椅子から立ち上がり頭を下げる。

「いえ、ユトニア王国からの帰りに立ち寄っただけですので・・」

そういえば、レバスはユトニア王国にセラス王女の婚約について伝えに行ってたはずだ。

「無事に話し合いは出来ましたか?」

「ええまぁ・・戦争の回避は出来そうですが・・」

レバスは浮かぬ顔で返事をした。

「何かありましたか?」

「婚姻の話を水に流す代わりにアッシュ王国への食料品の輸出を全面禁止にしろと・・」

「アッシュ王国?」

「アリシアの西方に面する王国です。あの国の食料事情は他国に頼りっきりです。おそらくユトニアはアッシュを兵糧攻めにする気でしょう」

「・・・それでどうするつもりです?」

「暫定的にでも受ける形になるでしょう」

「ユトニアにとってはアッシュかアリシアのどちらかを潰そうとしてるだけのように見えますね。アッシュが潰されたら次はアリシアが狙われ・・」

タケルが言わんとしてる事がわかってとばかりに最後まで言い終わる前にレバスが喋り出す。

「しかしこれを断り、今戦争となればアリシアも滅びます。運良く滅びなくても市民に大きな爪後が残る事には違いありません」

「・・・」

両者の間に重い空気が流れた。

「ユトニアとは粘り強く交渉を続けてみます。おっと忘れるところでした」

レバスは神妙な面もちをから一転して穏やかな顔になった。

「おめでとうございます。カスライ領の正式な領主としてタケル様には男爵の地位が与えられました」

「男爵・・ですか?」

「簡単に言うなれば身分を表す位です。男爵となれば周囲が見る目も変わってくるでしょう」

「ありがとうございます。それでカスライ領運営にあたって当面資金をお貸し願いたい」

「陛下も天の子の為なら支援は惜しまないと仰っていました」

「それでは金貨で1000枚ほど」

「金貨1000枚ですと!!さすがにその金額は少し・・金貨500枚程度ならご都合できるとは思いますが」

「カスライ領の帳簿を見せて頂きました。国境警備の騎士団派遣でかなりの出費がありますね」

「ええ、危険な任務で殉職者も出ていますからね」

「その国境警備をカスライ領に任せて欲しいのです。騎士の平均賃金が月に金貨3枚、現在20人いるので月金貨60枚、年間を通して金貨720枚ほど掛かる計算になります」

「なるほど、そこまで考えていたとは・・・わかりました。陛下と相談してみましょう。ただし、国境警備を手抜きして万が一の事があればタケル様の責任となる事は覚悟しておいてください」

「肝に命じておきましょう」

こうして二人の会談は終わりを告げた。

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