恩賞
王女誘拐から一日過ぎた。
タケルは今回の功績を認められて国王から恩賞を受ける事になった。
「この度の働き見事であったぞ。娘を救ってくれた事心より礼をいう」
謁見の間に重臣達の集まる中で国王が感謝を述べる。
タケルはひざまづいて頭を下げている。
「いえ、当然の事をしたまでです」
「そなたに褒美をとらせたい。望むものはあるか?」
レバスが助言する。
「領地を与えてはどうですか?王女とのお付き合いの件もあります。恥じない程度にはあった方が宜しいかと思います」
だが、レバスの真意には別のところにある。
今の天の子タケルは客分である。しかし、土地を与えられてその領主になる事はつまり国王の臣下になるという事。天の子の支持を得られるという事は国王の威厳をより高められる。それは国家の安泰に繋がる。
「それならカスライ山一体を頂きたいと思います」
国王は驚きに目を丸くする。
「カスライ領は王家の直轄領だから問題はないが何もない土地だぞ?」
「構いません。それと・・」
「なんだ?遠慮なく申してみよ」
「誘拐にたずさわった者達を私の家来にくれませんか?」
さすがにこの申し出には難色をしめす。
「取り調べは済んでいるが、王家の暗殺を企てた者は死罪と決まっておる」
「無理を承知でお願い申し上げます」
「うむむ~」
国王は唸り声をあげて周りの重臣の顔を見る。重臣達の顔色は芳しくない。特にレバスはセラスの育ての親のような存在だ。強く反発した。
「タケル様、王女暗殺を企んだ者を無罪放免になさるつもりですか!それでは王家の威信に関わります」
タケルは国王に頭を下げたまま助言する。
「無罪放免ではありません。陛下の温情により死罪から王都追放、辺境の地カスライ領にて強制労働という事で如何です?」
「わかった。それなら依存ない。あとは好きにするがよい」
国王の決定にレバス達は仕方なく引き下がった。
★★★
謁見の後、タケルは自室に戻り、お茶をすすっていた。
「メル、お前もカスライ領について来るか?」
メルには選択肢などはない。タケルが行くなら地獄の底だろうと行くしかない。
「はい、ご一緒します」
タケルは小さくため息をつく。
「これは命令ではない。お願いだ。嫌なら無理にとは言わない。カスライ領の統治をメルに手伝って欲しいんだ」
手伝って欲しいならただ命令すればいい。こちらの意志を尊重してくれるような主人は初めてだった。
メルはどう応えていいかわからず少し困惑したが心のどこかで暖かさを感じた。
「どこまでもご主人様について行きます」
メルは精一杯の笑顔で応える事にした。
大袈裟な事だとタケルは心の中で苦笑した。
「もう少し肩の力を抜いていけ」
「はい、気遣いありがとうございます」
メルは意気込んで返事をする。本当にわかっているのか疑問に感じたがメルの笑顔を見ているとどうでも良く思える。
コンコン
誰かがドアをノックする音が聞こえた。
「あっ、私が出ます」
タケルはメルに接客を任せた。
「タケル様はいらっしゃっいますか?」
この声は――
「ご主人様、セラス様とレバス様がお見えになりました」
レバスはやってくるなり険しい表情でタケルに詰め寄った。普段は温厚なレバスがここまで怒ってるのは珍しい。
「タケル様、姫様を救って頂いた事は感謝しています。しかし姫様の命を狙ったゴロツキへの対処は納得出来ません。闇夜の銀狼は城下街を荒らす悪名高いならずもの集団ですよ」
「レバス殿、彼らは性根の腐ったゴロツキじゃありません」
それを聞いてレバスは真っ向から反論する。
「王女暗殺を企む者に真っ当な者はございません。まさか、この一件はタケル様が・・」
レバスがそこまでいうとセラスが止めに入った。
「やめなさい!」
「しかし、姫様、罪人を庇い立てする者は共犯と疑われても・・」
止めても言い続けようとするレバスを睨み付ける。
「レバス!もう出て行きなさい」
「・・タケル様、失礼しました」
レバスは命令されて仕方なく部屋から去った。
「タケル様、申し訳ありません。レバスはきっと本心から言ったのではありません。忙しくてイライラしているのでしょう。本当なら昨日、ユトニアに使者として向かう予定でした。それが王女暗殺で・・」
セラスはレバスの非礼を丁重に謝り、レバスを庇った。
「それは気にしてない。それより何か用件があって来たのでしょう?」
「あの・・私もカスライ山へ連れて行ってくれませんか?」
セラスの申し出にタケルは驚いた。
「王女暗殺を誰が企んだかもわかってないのに危険過ぎます。それにレバス殿も強く反対するだろう」
「私の命を狙ったのは開戦派の者でしょう」
「もしかしてシリウス卿?」
タケルの頭の中に先日レバスとの会話内容が思い出される。
「わかりません。ですが、開戦派は私とタケル様とのお付き合いをよろしく思っていません。あのならずもの達に支払われた金も何かの強力な後ろ盾があるの間違いないでしょう」
「それなら尚更だ。俺とセラスが行動を伴にすれば開戦派を刺激する事になる」
同行を頑なに拒否するタケルにセラスは少しガックリと気を落としている様子だ。
「わかりました。それでご出立はいつ頃になりますか?」
「明日にでも・・」
「早いですね。でも必ず見送りに行きます」
そう言ってセラスは部屋からトボトボと出て行った。
「あの・・セラス様の事お嫌いなんですか?」
メルがタケルの態度を見て口にした。
「王女は優しいから国の為に平気で自分を犠牲にするんだ。あの好意は王女から天の子に向けられている」
「はぁ・・本当にそうでしょうか?」
「それより今からちょっと出掛けてくる。明日の支度を頼む」
★★★
タケルは今、城下街ローラスにを歩いている。
門番が護衛も付けようと言ってきたが大丈夫だと丁重に断ったのでタケル一人だ。
しばらく歩いて中心部から離れると貧相な建物が建ち並んでいる。そこにある大きな木の下に少年が立っている。
「ちゃんと来てくれたんだ」
こちらに気付くと嬉しそうに走ってくる。その少年は昨日一緒に行動したカインだ。
「ああ、約束は守る」
そして謁見の間の出来事を簡単に話した。
「・・で領主になった。カインもついて来るか?」
カインは顔をしかめて黙っていた。
「不服か?」
「嫌じゃないけど・・カスライ領は辺境ですよ?」
カインは天の子ならもっと発達した街をもってしかるべきだと思った。カスライ領にはへんぴな村しかない。
「いやならカインをここの城で働けるように陛下に助言しても――」
カインは慌てて首を振る。
「あっ、いえ・・天の子にお供します」
「知っての通りカスライ領は何もない場所だ。報える事は少ないがよろしく頼む」
「はい!」