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異世界  作者: トモ吉
10/28

暗躍

王宮での宴が終わり、自分の領土に帰ったばかりのマドルフに間者からの一報が届いた。マドルフは情報は速さが命だという事をよく知っている。だから重要な情報は早馬で知らせにくるのだ。

「間者から連絡が入りました。明日、王女と天の子が城下街に出掛けるようです」

「そうか」

先日、まいた種が早々実をつけるとは思ってもいなかった。マドルフの口元が少し緩む。

「二人とも暗殺しますか?」

「まぁ待て、天の子の方はまだどう出るかわからん。それに護衛も付くだろう。間者だけでは失敗するかもしれん」

「それではどう致しましょうか?」

「ゴロツキに金を握らせ王女を始末させろ。邪魔するようなら天の子も殺して構わん」

「はっ、そのように手配します」

そう言って報告に来た男は立ち去った。

マドルフは窓から月を眺めながら酒の入ったグラスを傾ける。

「フフフッ・・開戦反対派の王女が暗殺されればこの国は地獄の扉を自ら開ける事になるだろう」


★★★★★

昨日、【闇夜の銀狼】のアジトに奇妙な手紙が届いた。

闇夜の銀狼とはロキが率いる城下街を生業にしているゴロツキ集団だ。

その手紙にはうまい儲け話があると書かれていたが依頼主は不明で依頼内容も指定した場所で打ち明けるというものだ。

「あれがそうか?」

ロキが目の前に建っている古い建物を指差して隣にいる女性に尋ねる。ユミルが手紙に書かれている地図と見比べて頷く。周りには腕っ節の強そうな猛者が数人並んでいる。

「俺が様子を見てくる」

ロキが迷わず仲間達にそう告げる。

「何もロキが行かなくても・・」

心配そうに声をあげる副団長のデューク。

「お前達はここで待ってろ。今回は何かきな臭い感じがする」

「だったら尚更お前が行くのはまずいんじゃないか?」

「なに、危なくなれば尻尾を巻いて逃げるさ」

そう言って仲間達を後にして古びた建物に向かった。周囲を警戒しながら足を進める。

依頼の建物に向かう途中、背後から足跡が聞こえた。振り返るとユミルと目が合った。

「待っていろと言ったじゃないか!」

「ロキ一人じゃ心配だからついて行ってあげるわ」

「フン、勝手にしろ」

「ええ、そうするわよ」

二人は慎重に建物に近付き、中に入った。

カビ臭い臭いが鼻をつく。使われなくなってからだいぶ経つのだろう。床には埃が積もっていて人が住んでいる気配はない。

辺りをぐるりと見回して声をかける。

「依頼の話にきた」

すると奥からフードを深く被った怪しい人が現れた。

「あんたが依頼人か?顔を見せろ」

ロキは警戒しながら話しかける。ユミルも緊張した様子で相手の出方を窺っている。

「それは出来ない。私は人より少し内気なんですよ」

「チッ、随分と信用されてないんだな」

「そんな事はない。この依頼は君達以外には不可能だ。特に闇夜の銀狼の団長ロキはかなりの腕利きだという噂だ」

「世辞を聞きに来たんじゃねぇ。依頼はなんだ?お友達でも紹介して欲しいのか?それならフードを取ってもっと社交的にするこったな」

ロキは顔を見せない依頼人に気を良くしてないらしく、茶化したような口ぶりで挑発する。

「口の悪さも噂通りだな」

依頼人はずっしりと重たい袋を投げてよこした。

地面に落ちた音から察して――

ユミルがその袋を拾い上げて中身を見て驚く。

「金貨!それもこんなに!」

金貨をすくい取ってロキに見せる。

「前金だ。成功報酬はこの倍だそう」

ロキは軽口をやめて神妙な顔つきで黙り込んだ。

相手の慎重さ、ずっしりと入った金貨。それらが意味するものは相当危険な依頼。

「で?大金使ってなにを依頼するつもりだ?」

「王女暗殺を依頼する」

「なんですって!王女暗殺だなんて失敗すれば死刑、成功しても国内には居られなくなわよ!」

ユミルは驚きのあまり、金貨の袋を落とす。

一方ロキは眉一つ動かさずに平静に判断する。

「不可能だ。厳重な城内の警備をくぐり抜け、王女を暗殺する事はいくら大金を積まれても無理だ」

「今日、王女が城下街に視察にくる。城内で襲うより警備は手薄だ。どうだ?受けないか?」

その時、背筋に悪寒を感じた。

これは――

殺気!

目の前のこいつじゃない。最初から仲間を潜めていたか!

「・・・受けよう」

「ロキ!」

ユミルはロキの名を問い詰めるように叫ぶ。

「そちらのお嬢さんは納得していないみたいだが?」

「問題ない。ただし成功報酬は前金の三倍だ」

「いいだろう。依頼終了後にここで支払おう」

依頼を引き受けて古びた建物から出るとユミルが早速、目の色を変えてロキに食ってかかる。

「どうしてあんな危険な依頼を引き受けるのよ」

ロキが金に目がくらんだのかと思っていたが返ってきた答えは信じられなかった。

「断れば二人とも生きては帰れない」

「えっ?」

「本当に気付かなかったのか?俺達は囲まれていたんだ。ユミルが気付けないとはやはり相当の手練だな」

「詳しく話して!」

一人納得しているロキに苛立ちをぶつけるように剣に手をかけた。

「オイオイ、落ち着けよ。そりゃ、王女暗殺計画を知ったんだから『断ります、はい、さようなら』ってな訳にはいかないんだろ。成功報酬を吹っ掛けたのに即答で支払おうだってさ。このぶんだと成功しても口封じだな」

ユミルは歯ぎしりをして悔しそうにする。ロキの護衛についてきたはずが、囲まれている事にすら気付けなかった。もし、襲われていたらロキの命はおろか自分の命も守れていたかどうか。

「あん畜生~それでどうする?この金で高跳びするか?」

「王女暗殺って事は開戦派の連中の仕業だ。開戦派はアリシア王国の半数近くいるって話だからな。そいつら相手に逃げ切る自信はないな」

「じゃあ、どうすんのよ!」

思わずロキを怒鳴りつけた。怒りをぶつける相手が違うのは重々わかっているがそれでも気が済まない。

「どうにかするしかないだろ」

ロキはデューク達と合流すると闇夜の銀狼全員を集めるように指示した。

ロキが集合をかけ、アジトに集まった人数は総勢二十人。よほどの事がない限りメンバーが勢揃いするような仕事はない。ましてや緊急の召集だ。それゆえそれぞれの顔に緊張が窺える。

「皆に大切な話がある。今日引き受けた依頼は今までにないほど危険な仕事だ。生きて帰れる保障なんてない」

ロキがそういうと袋に詰めた金貨を皆に配った。

「それは今回前金で受け取ったそのカネと闇夜の銀狼に残っているカネを均等に分配したものだ。それだけあればしばらく生活できるだろう。本日をもって闇夜の銀狼は解散とする。みんな自由にしてくれ。依頼は俺一人でどうにかする」

ザワザワ・・

「そんな・・」

思いもよらなかったロキの解散宣言にざわつき始める。ざわめく仲間達の中からユミルがツカツカと怒りを顔に浮かべて前に出てくると、金貨の入った袋をロキに向かって叩きつけた。

「あんた、ばかぁ?一人で格好つけて死ぬつもり!」

袋はロキの胸に当たって落ちて袋の口から金貨がこぼれる。その音がどこかせつない。

「ユミル、お前は商人になって自分の店を開くのが夢だったよな」

ロキは怒った様子もなく、床に落ちた金貨を袋に戻し、袋をユミルに差し出す。

「こんな金、要らない」

ユミルは泣き出しそうな顔を隠すように俯いて、拳を震わしている。差し出した金貨を受け取ろうとはしないのでロキは強引にユミルの手に握らせる。

「しばらく余所で身を隠せ。そうだ【黒い猟犬】の連中なら匿ってくれるだろう。落ち着いたらその金で店を出せばいい。お前なら上手くいくさ」

ユミルは首を横に振り、泣き叫ぶように強く拒否する。

「嫌よ!私も一緒に闘う」

ロキもユミルに怯まず、負けないくらいの大声で叱り付ける。

「馬鹿を言うな!」

「馬鹿はどっちよ!」

そんな口論を見て周りの張り詰めた空気が少し緩む。デュークが少し苦笑いしながら話し掛ける。

「ロキ、夫婦喧嘩の最中で悪いが俺も一緒に行くぜ。お前を見捨てて逃げれっかよ!」

「誰が夫婦喧嘩だ!」

ロキがツッコむが誰も聞いていない。

他の団員達も・・

「この仕事を始めて死にかけた事は一度や二度じゃねぇ。今更怖じる事もねぇよ。俺も大将と行く」

「あっしは闇夜の銀狼に入った時から大将と運命を供にするって決めてやす」

「仕事もせず前金だけ貰って逃げるのはプライドが許さねぇ」

結局は全員がロキについて行きたいと申し出た。

「わかった。でも、全員を連れて行く訳にはいかないからな!デューク、ちょっときてくれ」

「おう」

「私は?」

デュークの威勢のいい返事とは別にユミルが不満そうにロキに尋ねてくる。

「ユミルは団員の様子を見ていてくれ」

「なんでよ!作戦会議はいつも三人でやってるじゃない」

「まぁまぁ、すぐに終わるからさ」

デュークが団員達にユミルをなだめるように支持をして二人で歩き出した。

二人きりになるとロキは今までの経緯をデュークに打ち明けた。

それを聞いてデュークの第一声は

「お前は馬鹿の王様だな」

だった。

「仕方ねぇだろ!」

ロキは拗ねたように反論する。

「まさかそこまで危険な依頼とは思わなかったよ。んで、どうするんだよ」

怒ったような諦めたような口ぶりでロキに尋ねる。

「全員でゾロゾロと行くわけにもいかない。まずは団員の選定だ。身寄りのない者を優先的に十人程度選んでくれ。それとユミルは外すからな。あいつには死んで欲しくないからな」

「オイオイ、俺は死んでもいいのかよ?」

デュークが笑いながら冗談を飛ばす。

「嫌なら降りたっていいぞ」

普段なら軽口の一つや二つ変えってくるはずなのだが真面目な顔で答える。ロキの態度に内心、面を喰らながらも本当に危険なんだと再認識する。

「しゃーねな。付き合ってやるよ。それよりユミルが素直に言う事きくと思うか?あいつ、お前となら地獄の底にだって行くって言うぜ」

「そうかぁ?依頼人にふざけた真似されて怒ってるだけじゃないか?」

「お前は鈍感過ぎんだよ」

「どうしてもついて来るってんならふん縛ろう」

「まぁそれしかないよな。恨まれるぞ?」

「生きて帰ったら謝りにいくさ」

「生きて帰ったら・・か。ああ、闇夜の銀狼の名に恥じない派手な引退式にしようぜ」

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