イセカイテンセイシャの弟とお茶を飲んだ日
コメディっぽいはじまりですが、ちゃんとシリアスになります。
これは私とあまり仲の良くなかった弟が、我が家を訪れた日の出来事である。
「そう言えば俺イセカイテンセイシャなんだよね」
あまり仲の良くない婚約秒読み間近の弟に、妙に砕けた口調で急にそう言われた私の気持ち分かるひとが、この世界に何人いるかしら。
そもそも『イセカイテンセイシャ』ってなに?
それに私は弟に打ち明け話をされるほど、仲が良かった覚えはないのだ。
目の前でクッキーを摘む弟を見ながら私、は実家で暮らしていた頃のことを思い出した。
私イリア・オライリーは、ラセンブルク伯爵家の次女として生まれた。
三才上には姉のコレット、三才下には弟のアーノルド、真ん中の私で三人姉弟。
私の住む国では男女関係なく爵位を継げる。
だから両親は一番適正のある子どもを、ラセンブルク伯爵にしようと、三人の子どもを分け隔てなく育てようとした……と言っても、父は男子の弟に爵位を継がせたいっぽかったし、母は長子である姉に爵位を継がせたい雰囲気を醸し出してた。
なので自然と跡継ぎにならない(選ばれてない)中間子の私に対しての全てが、姉と弟に比べてちょっとランクが下がった。
姉や弟が最新流行のオーダーメイドで仕立てた服を与えられるのに、私は最新流行の既製服とか。
姉や弟が、誕生日に両親から貰うプレゼントが五個はあるのに私は三個とか。
二人が通う学校は王都の共学貴族学院(学費が高額)だけど、私が通う学校は王都の貴族女学院(学費がお手頃)だとか。
病気をした時二人は風邪でもお医者様を呼んで貰えるのに、私は部屋に寝かされ薬師から買った薬を飲まされるだけとか。
もっとあからさまに、差別しているのなら祖父母や親戚も注意をしやすいのだけど、与える物のランクが二人に比べて、少し低いくらいでは言いづらいと零されたわ。
それもそうよね。
食事はメインの肉や魚がちょっと小さいけど、スープとパンやサラダは三人共量は同じ物だし。
姉と弟の欲しいと強請るものは、二回に一回買って貰えてたけど、私の欲しいものも四回に一回は買って貰えたし。
家族揃っての旅行や観劇は、姉の隣には母が座り弟の隣には父が座り、私は端の席で隣には侍女が座ったけど、ちゃんと楽しく過ごせた。
これって姉弟差別?と思わなくもなかったけど、二人は伯爵家を継ぐ為の色々な勉強をしなくちゃいけなくて、そのせいで友人とも殆ど遊べてなかったし。
なによりどちらが伯爵家を継ぐか決まるまで、婚約も結べなかったから、私としては面倒なことを引き受けて貰った分、私にかけるお金を二人に少し回して、相殺されてるんだなあ、と思ってた。
だって私は女学院を卒業してすぐに、祖父母が選んでくれた婚約者と、さっさと結婚して家を出られたから。
だからかしら。
もう二十四歳(結婚適齢期から外れた年齢)になったと言うのに、まだ後継者を決めようとしない両親にバチギレした姉が、親に無断で貴族籍から抜け家出をし、隣国の有名な商会の補佐として馬車馬のように働いてるわよ!と手紙を貰った時は、お姉ちゃん自分の人生を謳歌してね!と心から思えたのよ。
そして姉が家を出たから自動的に伯爵家の後継者は弟に決まり、そこで慌てて婚約相手を探したのだけど、当たり前だけれどめぼしいご令嬢は大体お相手が決まっていた。
残っていたのは家より家格が低い家の三女四女か、家より家格が高い家の訳ありご令嬢。
貴族学院卒業間近での婚約者探しなんて、よっぽどな事情がなければ(うちもある意味よっぽどな事情なのだけど)、敬遠されるもの。
親類友人知人のツテを辿りまくって両親がやっとのことで、アーノルドに見つけて来た婚約者ちゃんがちょっと問題あるこだった。
顔は可愛いしスタイルも良いけど、貞操観念がとっても緩い子爵令嬢(因みに成婚した場合は持参金はたっぷりと頂けるとか)。
遊んでる高位貴族令息達からは、連れて歩くのとちょっとした性欲解消に使えると、ちやほやちやほやされていたけれど、学院卒業間近にぽいっと捨てられたんだと、義妹から聞いた。
本人は自分を愛でる令息達の誰かと結婚出来ると夢見ていたみたいだけど、そんなことは勿論ない。
婚姻前に婚約者以外と淫らなことをしていた令嬢なんて、貴族家にとって不良債権以外の何物でもないのに、あのこほんとにバカなのねって義妹は呆れていた。
……そんなのをやっと決まった大事な跡継ぎの婚約者にするなんて、両親の考えは私には理解出来ない。
「でさ、姉ちゃん」
「姉ちゃんて、貴方……。イセカイテンセイシャと貴方の婚約がどう繋がるのよ」
「姉ちゃんイントネーションちげぇよ、マジウケる」
イセカイテン(↑)セイシャって変だぜ〜と、腹を抱えて笑うアーノルドの前から、私はクッキーの皿を取り上げる。
「あっなにすんだよ!」
「お姉様をバカにする弟にあげるクッキーはありません」
「ごめんて姉ちゃん」
謝るアーノルドに一枚だけクッキーを渡すと、彼はサクサクとクッキーを齧りながら話だした。
「オレの婚約者ちゃんさビッチじゃん?」
「ビッ……ええまあ貞操観念がだいぶアレね」
「でもさ、オレが転生前に生きてた世界じゃ婚姻前の性交渉ってのは、結構一般的だったんだよね」
ブッ!と私は思わず、飲みかけの紅茶を吹き出した。吹き出した紅茶はアーノルドの上着の袖に、僅かにかかり嫌そうな顔をされた。
「きったねーな姉ちゃん」
「悪かったわよ……でも貴方なんてこと言うの!はしたない!」
「そう言われてもさあ、オレのいた国じゃ性交渉なしで結婚するほうが少数派なんだって。
恋人になればヤるのも当たり前だし」
「や、ヤるって」
「そりゃモチロン性こ」
「最後まで言わなくていい!」
「ん、わかった。
つかさ、ほんとに話したいことは別にあるんだ」
私たちがお茶をしていたガゼボに、風が吹き込み強い風に思わず目を瞑った。
「大丈夫だった?アーノルド……」
アーノルドは微笑みを浮かべて私を見ている。
「なに?」
「姉ちゃんてさ、親父たちのこと好きじゃないよな」
私も微笑みを浮かべてアーノルドに答える。
「ええ。だからなに?」
確かに私は両親のことが好きではない。
私は跡継ぎ教育を受けていた二人とは、程度は低いと言え確実に差別されていたから。
二人のたわいない話は聞いても、私のたわいない話は聞いてくれない。
姉のデビュタントのドレスは、糸から染めて織った布で仕立てたのに、私のドレスは既製品に侍女がレースを縫い付けてくれた物で。
弟が成績優秀者だと表彰された時は誇らしげに吹聴して回ったのに、私が三年連続首席をとった時は
『賢しい女は好かれない』と言われた。
そんなことがいくつもいくつも振り積もるうちに、私から両親への愛情は目減りして行った。
私が貴族としても一人の人間としても栄誉であるはずの卒業式典答辞を任されたと伝えたのに、当日の朝執事から二人は出掛けらたと伝えられた時、多分私のなかで両親は『私の人生に必要ないひと』に分類されたのだ。
卒業式典には婚約者と婚約者両親、姉コレットが参列してくれた。
─その日彼等はアーノルドと競馬観戦に行っていたのだと、後から知ったわ。
「ねえ、アーノルド」
「うん」
「貴方、イセカイテンセイシャなのよね」
「うん」
「貴方がイセカイテンセイシャになったのは、いつ?」
「いつだと思う?」
アーノルドはにこりと屈託なく笑う。
この子は、こんな風に私に笑いかけたことは、ごく幼い頃以外なかった。
両親の愛情みたいなものを、自分のほうが沢山与えられているんだと私に自慢するような子だった。
姉が両親に私に対する態度について意見すると、
『ラセンブルクの外に出る人間に相応しい扱いじゃないか』と、両親の肩を持つような子だった。
「貴方の婚約者が決まったくらい」
「あたり」
ぱちぱちとアーノルドは、私に拍手をする。
「なんでオレがそこらへんで、変わったってわかったの?」
「貴方の手紙を読んでからよ」
「やっぱり?」
「……不思議なこと聞くんだもの」
「あ、イリア姉ちゃんもその考えなんだ」
アーノルドの声のトーンが一つ下がる。
「アーノルドが日記に書いてたんだよ」
「え?」
今アーノルドは『アーノルド』が、と言った。
─まるで自分はアーノルドではないみたいに。
「『まいにち遅くまで勉強させられる。課題が出来てないと翌日鞭で打たれる。泣いたら怒られる。跡継ぎなんかなりたくないのに。』ってさ。
字が下手だったから、ガキの頃書いたヤツだと思うんだ」
「跡継ぎ教育は、……厳しいものだから」
「それなんだよ、姉ちゃん!」
アーノルドはテーブルに手を付いて立ち上がる。
「オレがいた時代じゃ、跡継ぎになるからって鞭で打たれりなんかしないんだ」
「時代って……なに?」
「それも説明しなきゃなのか……転生チートもねえし、魔法とかもねえしダメなほうの異世界転生かよ」
少しイライラしながらアーノルドは早口で捲し立てた。
「テンセイ……チート?」
「そこは気にせんでいいよ。
オレがいた国でも昔は、跡継ぎ教育で鞭でぶたれたり、課題が終わるまで寝かせてもらえないとかあったんだ、もっと厳しいヤツも」
「跡継ぎになるのだもの、厳しく教育されるのは当たり前でしょう?」
私の応えにアーノルドは深く溜息を吐いた。
「うん、コレット姉ちゃんも手紙でそう返事くれた……でも、でもさあ」
「アーノルド?」
「これ虐待なんだよ!?なんでおかしいって思わねえの!」
アーノルドは突然そう叫んだ。
「オレやコレット姉ちゃんがされてたことも!イリア姉ちゃんがネグレクトされてたのも!虐待なんだよ!なんで当たり前みてえな顔してんだよ!」
涙を浮かべてアーノルドは、私にそう訴えてくる。
でも。
「アーノルド、それはどこの家でも」
「なあ、それマジで今でもそう思ってる?」
冷たい汗が背中に流れた。
「オレやコレット姉ちゃんの鞭のあと、服から見えねえとこにあるんだよ。バレないように」
「バレないって」
「じいちゃんやばあちゃん、親戚のおっちゃんおばちゃん、学校の先生とかに見つかんねぇように。
みんなが注意しにくいイリア姉ちゃんへの虐待は、周りの目があるとこでもやってたけど」
私は、カップの紅茶を一口含む。
生温くて不味い紅茶を。
「なあ、姉ちゃん。
学校通うようになってさ、仲良い友達出来て家の話した?」
「してない」
私は膝の上で拳を握る。
「オレもしてない、コレット姉ちゃんもしてないって」
「……アーノルド」
言わないで。
突き付けないで。
そう思いながら、私はアーノルドの顔を見る。
彼は私が見たこともない、ひどく疲れた大人のような表情をしていて。
「跡継ぎ教育だっつって寝かせなかったり殴ったりなんてしてる家、この国でもう殆どないんだ」
ねえ、本当にそれ以上言わないで。
「イリア姉ちゃんもさ、自分の待遇がオレ達より低いの跡継ぎにならない子どもは、どこの家でもこうされてるって思ってたろ?」
「言わなくていい!!」
私はアーノルドを睨みつける。
「言うよ、言わないとだめだ」
「やめてよ!」
「どこの家もうちと同じだと思ってないと自分を保てないから、そう思い込むことで自分を護ってたんだよな?」
そうよ。
でもそんな風に自分が扱われてるなんて、誰にも知られたくなかった。
もし知られて『可哀想』だなんて言われたら恥ずかしいし惨めだ。
だから自分にもお祖父様お祖母様にも、友人たちにも、夫や義理家族にも、自分は跡継ぎじゃないから気楽だって笑って。
笑ってそう思ってないと、私は、本当に。
「家がおかしいって、知られたくなかったよな?」
「─っ!!」
「大事な人達に『可哀想な子』『親がおかしい』なんて知られたくねぇよ、誰だってさ」
アーノルド……いえ『彼』は、少し照れたように呟いた。
「オレさ子どもいたんだ」
「……え」
「あ、アーノルドになる前な。まだ二十でガキだったけど。
すっげー可愛かった。まいんち風呂に入れてさ。
残業した時は帰ったらもう寝ちまってたから、寝顔ずっと見てた。
歩くようになったり、歯が生えてきたり、話すようになったり、ちょっとずつ成長していくたび感動して、泣いて奥さんに笑われて。
子どもが大きくなるのずっと側で見てられると思ってたんだ。
そんな保証どこにもなかったのに」
凄く辛そうに唇を引き結んだ。
ああ、多分『彼』は子どもが小さいうちに─。
「だからさあ、オレ許せないんだよ。クソ親が。
可愛い子どもが三人もいて、誰一人幸せにしてないあの馬鹿どもが」
浮かんでいた涙を『彼』は拳で拭う。
「許せないって?それでどうするのよ」
私の声は今にも泣き出しそうに震えてる。
泣きたくない。
泣いたら本当に私は、いらない子だったのだと実感してしまうから。
「姉ちゃんたちってかっこいいよな」
「……は?」
「かっこいいよ、家出したコレット姉ちゃんも、結婚してそこで幸せになってるイリア姉ちゃんも、すっげーかっこいい」
確かに、私は今幸せだ。
夫も義両親も義妹も私を尊重してくれる。
話したいことがあれば、ちゃんと聞いてくれる。
出される料理が皆より劣ることもない。
服や所持品もこの家の品格に相応しく、私の好みの物を購入出来る。
ラセンブルクにいた時は、こんなに心が穏やかでいられなかったし。
姉も、多分今幸せだと思う。
自分の力で掴みとった場所で、自分のやりたいことをやって生活しているから。
─じゃあ、アーノルドはどうなのだろう。
姉が家出し、なしくずしに跡継ぎに決まったと思えば、同世代の優秀な令嬢たちはすでに婚約者がいるからと、貞操観念の緩い令嬢との婚約を結ぶように言われたアーノルドは。
私は『彼』を見る。
「オレがアーノルドになったのは、婚約者を決めたってバカ親から伝えられた夜だよ。
アーノルドも、もうこれ以上耐えられなかったんだと思う。……やっと報われると思ってただろうから」
私は自分に置き換えて考えてみた。
産まれた時から跡継ぎ候補になり、物心ついたころには六歳上の姉と競わされ。
同じ家の中には、跡継ぎ候補ではないからと厳しい教育を受けてないもう一人の姉がいて。
その姉は跡継ぎ候補でないと両親にあまり構われてないからと、祖父母に可愛がられているのをみせつけられていたら。
私なら、きっと歪む。
「だからアーノルドは私に、『ラセンブルクの外に出る人間に相応しい扱いじゃないか』と言ったのね?
そうでも言わないと、じぶ」
「ストップ、イリア姉ちゃん。
それ以上言語化されるとアーノルドにキツい」
停止を求めて頭を下げた『彼』に、私は
「あら私には痛いことを言ったくせに、アーノルドには甘いのね?」
ちょっとだけ意趣返しする。
「ごめん。こいつ娘に少し似ててつい肩入れしちまった」
「まあお子様娘さんだったの」
「うん、めっちゃ可愛い。ちょっとだけ意固地なとことか」
そう言って笑う顔は、娘に対する愛情に溢れていて。
「貴方、本当にお父さんなのね」
「だった、だよ。オレはもういなくなったから」
「そんなことない。貴方は貴方の娘さんのお父さんだわ、今も」
だって私こんなにも、貴方の娘さんが羨ましくて堪らない。
『ちょっと』似ていると言うだけの、他人のアーノルドにこんなに肩入れするほど貴方に愛されてるのだもの。
彼は照れくさそうに笑うと、居住まいを正し真面目な声で私の正式な名を呼んだ。
「イリア・オライリー子爵夫人」
「……はい」
「オレは、いや私は貴方たち姉弟を虐げた現ラセンブルク当主夫妻を許すことが出来ない」
まっすぐな瞳で彼は言う。
「だから私がラセンブルク当主夫妻を隠居させても、貴女方姉妹が困ることはないですね?」
私は息を吸って吐き出す。
「困ることなんてない、ひとつも。
だって私はイリア・オライリーだもの。
親に構ってもらえなくて泣いてたイリア・ラセンブルクではないわ」
私はそう言い切る。
なぜだか、ずっと張っていた気をやっと緩められたような気がした。
「コレットさんもそう手紙で伝えてくれました。
……多分アーノルドも許してくれる」
「多分じゃないわ。
あのこだって絶対賛成するはずよ。
跡取り息子の婚約者に、持参金が多いからって貞操観念の緩いビッチ?を選ぶような親、いらないでしょ」
私の言葉に彼は吹き出した。
「イリアさん最高」
「ふふ」
顔を見合わせて笑う。
ああ私アーノルドとこんなふうに、笑い合えたのいつぶりだろう。
ずっと幼い頃は、姉も交えてこうして笑いあえていたのに。
「ねえ、貴方」
「はい」
「あのひと達はどんなふうな隠居生活を送るのかしら?」
私が問うと彼は少しいたずらっぽく笑って言った。
「オレの国だと定年……隠居後田舎でスローライフってのが一時期流行ってて」
「スローライフ?」
「田舎で畑借りて、野菜作ったり自給自足したり」
「自給自足って自分で作って自分で食べるってやつね?」
「はい」
「それなら、身の回りのことも自分でやって頂いたらどうかしら。素敵じゃない?そう言うの」
「それ採用させて貰います」
親指を立てて『彼』が笑う。
「あ。ねえ」
「はい?」
「貴方アーノルドとは別人なのよね、だったら貴方の名前は何と言うの」
「え?」
「ずっと貴方をアーノルドと呼ぶのは、貴方に失礼かと思ったのだけど」
私が聞くと、『彼』は頭を掻きながら決まり悪そうに言った。
「名前はあるんだけど、アーノルドって呼んでて欲しい、です」
「どうして?」
「もしアーノルドが戻ってきた時、自分が違う名前で姉ちゃんに呼ばれてたら傷つくと思うから」
ああ貴方はほんとうに、どこまで─。
「話が出来て良かったです」
「私もよ、貴方のおかげで背負ってた荷を降ろせたような清々しい気分」
それは良かったと笑う『彼』に私は手を差し出した。
「?」
不思議そうな顔をして私の手を見る『彼』に私は返す。
「なあに?そんな顔して。
私は姉として弟が幸せになるのを見る義務があるんだから、これが最後だなんて許さないわよ」
「いやオレは」
「貴方『たち』も幸せになるのよ、ならなきゃダメ」
「……イリアさん」
「イリア姉ちゃんでしょ。
差し当たっては貴方たちの婚約者を、きちんと選び直さなくちゃ。
大丈夫よ、私の夫は顔が広いの。
他国の貴族や有能な平民にまで範囲を広げれば、素敵なお相手はいるはずよ」
顔をあげて、差し出したままの私の手を握り返し『彼』は戯けたように笑う。
「宜しくお願いします」
「ええ、腕によりをかけて素敵なお相手を探すわ。貴方はあのひとたちをさっさと隠居させちゃって」
「素晴らしいスローライフに?」
「ええ。素晴らしいスローライフに」
シリアスでした?




