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6 エニの初恋

 13年前のリセイユ国の首都ルミサス。

 レウルが転移して2年ほど経ち、すでに転移物対策組織の職員として働いてた。

 その日、ダストワールドは大規模な小型グラークの襲撃を受け、その戦闘は全世界にも及ぶ。

 市街戦を繰り広げていたレウルは、当時五人部隊の一人として戦っていた。


「おい、他からの援軍は来そうか!?」


 40代に見える人間の男性が、レウル含めた四人に叫ぶ。

 彼が隊長だった。


「駄目です、どこも手一杯。弱いけど、とにかく数が多い。幸い攻撃力は低いのか、建物は魔法結界で被害自体は無いそうです!」


 地上にはカマキリや狼、熊、ロボットなどが。

 空には鳥、虫、魚の形をしたグラークが住民に向けて攻撃を続けていた。

 グラークはなぜか、建物よりも人など生命体を優先して攻撃する習性がある。

 職員たちは戦えない住人を収容しているシェルターの護衛と、敵の討伐の二つに別れて行動していた。


『司令部より全職員へ通達。ある地点で逃げ遅れた住人がいます。他の住人を逃がした際に取り残されたもよう』

「人数は?」

『女性四人。細かい事は分かりませんが、魔法で結界を張り、敵の攻撃から身を守っているようです。しかし、いつまで持つ分かりません』


 全職員が送られて来た位置情報を確認する。

 レウルたちの隊が一番近い位置に居た。


「……なぁ、隊長」

「なんだ新人」

「ちょっくら行って来ていいか?」

「この状況でか?」


 レウルを含め、五人が周辺のグラークを倒しているが、数は一向に減らない。


「あの地点なら俺たちが一番近い。それに、助けたらモッテモテになるかも知れん。何より……やばいんだろ?」

「……」

「三つだ。三つの事を守れるなら許可する」

「多いなぁ。何だよ?」

「死ぬな。行くなら絶対に守れ。最後は、これが終わったら俺たち全員に奢れ」

「おいおい、これから死地に行くってのにたかるのかよ!」

「バカ野郎! お前の穴を埋めなきゃならんのだぞ! どうなんだ?」

「……了解。何でも奢ってやる」


 隊長がレウルの言葉を聞いて、ニヤリと笑う。


「聞いたかみんな! 何でもだってよ!! 俺は居酒屋の全メニュー制覇だ!」

「じゃあ、俺は10万の料理のフルコースを頼む」

「俺は焼肉だな。高いのだけ頼んでやるぜ!」

「私はホテルの食事と最高級ワインね。ついでにマッサージもつけようかしら」


 隊員たちが喜びながら声を上げた。


「クソがっ! ああ、分かったよ!」

「レウル、ルートは陸と空どっちだ?」

「空だ。そっちの方が早いし、見つけやすいだろう」

「司令部、うちの威勢の良いバカが救援に向かう。ルートはこれだ」

『一人で? 正気ですか?』

「普段実力出さずサボってる奴だ。いい機会だろう。問題はない」

『……分かりました。全職員に通達。可能な限り援護攻撃をお願いします。カウント開始、5・4・3……」


 レウルが緑色をした球、風の精霊アイレ出すと、風に包まれて宙に浮いた。


『2・1……攻撃開始!!』


 レウルたちが居る周辺の空に、各地から援護攻撃が飛び交い、空に居た無数のグラークに隙間ができる。

 その隙にレウルは飛び上がると、高速で一気に目的の場所へと向かった。


 援護攻撃の甲斐あって、道中ほとんど妨害を受ける事無くレウルは目的の場所へと辿り着く。

 公園の広場では周囲をグラークに囲まれている女性四人の姿があった。

 結界を張って身を守っているが、今にも壊れそうになっている。


「見つけた! ネロ、あいつら周辺に結界を。イニス、ルーメ、薙ぎ払え!」


 水色の球が女性たちの上空へ行くと、周囲に青色をした結界が張られる。

 同時に赤と白の球が現れ、次々と周辺のグラークを燃やし、白い光が貫いていった。

 そしてレウルが降り立ち、女性たちの前に行く。

 その時、周囲から狼型のグラークが一斉にレウルたち目掛けて突進して来た。


「スオ、潰せ」


 黄色の球が出た瞬間、宙に巨大な岩石が現れ、周辺のグラークを押しつぶした。


「ラピア、怪我人の治療を」


 周囲を確認したレウルがピンク色の球を出す。

 女性たちを柔らかな光が包み怪我を治していった。


「テンタイのもんだ。おまえら大丈夫か?」


 一瞬で周辺のグラークを殲滅した事に、何が起こったのか分からない顔をしていた女性たちは、やがてお礼を言いながら元気に返事をする。

 女性は妖精、オーガ、犬型の獣人、そして当時15歳の夢魔のエニが居た。

 露出の高い服を着ているが、髪は短くて背は低く、まだ幼さの残る顔立ちをしている。


「よし、とりあえずは大丈夫そうだな。他の援軍来るまで絶対に守るから、安心しろ」


 女性たちの不安を取り除くように、レウルが笑顔で告げる。

 その時、離れた物陰に隠れていた一匹の狼型グラークが、エニに目掛けて突進し、鋭い爪と牙で引き裂こうとした。


「っ!」


 エニが声にならない悲鳴を上げるが、その攻撃が届く事はなく、レウルが盾になって守っている。

 右肩には爪が、左肩には牙が食い込み血が流れていた。


「……まだ元気な奴がいたか」


 レウルは背後にいるエニを見る。


「守るって言ったろ?」


 今にも泣きそうなエニは、優しく言うレウルを真っ直ぐに見つめていた。

 その時レウルの足元から銀色で巨大な青い複眼の蛇が現れると、狼のグラークに噛みつき、そのまま噛み砕いた。

 グラークは赤い粒子となって消える。

 グラークは魂や思念体であり、物理攻撃も通るが倒されると消えて無くなる存在だった。

 そしてリトが人型になりレウルの傍に寄る。


「ラピア、お願い」


 リトの言葉に反応したラピアがレウルを癒す。傷は消え血も止まった。


「まったく、油断も隙もねぇな。リト、助かったよ」

「油断するからだよ。でも、身体を張って守ったのはカッコ良かった」

「だろ? しかし……お前が出て来たのはまずかったかもな」


 さっきまで居なかったグラークが、なぜかレウルたちの元へ集まり出した。

 その時、司令部から連絡が入る。


『き、緊急連絡。グラークの多くがレウル職員の元へ向かっています。至急救援に向かって下さい!!』


「やっぱり、私かな? アレ、私と似てるしね」

「かもな。だが、お陰で他の奴は動きやすくなっただろう。俺らが踏ん張ればいいだけだ」

「そうだね。それにグラークが同じなら、救済しないと」

「だな……それが俺たちだ」


 そこでレウルはエニたちの方を見る。

 エニたちは数多くのグラーク怯えていた。

 レウルは恐怖を払拭するように、できるだけ優しく口を開く。


「暫くそこでゆっくりしていてくれ。大丈夫だから……絶対にな」


 ネロがエニたちの結界を強化した。


「じゃあ、疲れるが頑張りますか。こんなカワイ子ちゃんたちに、カッコ悪いとこ見せられねぇし」

「レウルはいつもカッコいいよ。あ、やっぱりたまにかな?」


 リトがレウルを見て笑った瞬間、その身体が裂けて50メートルはある銀色の巨大な蛇になる。青い複眼が大量のグラークを見つめていた。


「共にゆく者たちよ、久しぶりに暴れるぞ」


 レウルから魔力が吹き上げると同時に、周辺にが精霊や剣、槍、弓などを持った複数の戦士たちが現れる、

 同時に地面とリトの身体から這い出るように亡者や亡霊たちも現れた。


『その恨みに救済を……』


 レウルとリトの声が重なる。

 精霊、英霊、亡者、亡霊、そしてリトが一斉に攻撃を始めた。

 レウルはその場から動かず、召喚した存在に魔力と指示を与えている。

 周辺に群がっていたグラークは、次々と撃破されていくが、それでもなかなか数は減らない。


『……』


 額から大粒の汗を掻きながら、息を荒くしているレウルの後ろ姿を、エニを始め他の三人の女性も静かに見つめる。

 周囲にはグラークだけではなく、見た目が醜悪な亡者たちも居る。

 だが身を切り裂かれ、砕かれ……元の場所へ還っては戻って来てエニたちを守っていた。

 そこには、言いようのない安心感があった。

 それから数十分ほど経った時、突然グラークたちの背後から攻撃が加えられ、その数を一気に減らしていく。


「……ようやく来たか」


 現れたのは周囲のグラークを掃討し終えた、他の職員たちだった。


「よぉレウル、まだ生きてたか? なんだか楽しい事になってるじゃねぇか」

「死ぬならせめて奢ってからでないと困るな」

「そうそう、もう店予約しちゃったし」

「私やっぱりホテルで一泊するからよろしくね」


 同じ隊の四人が颯爽とレウルの傍へ寄ると、肩を叩きながら声をかけてきた。


「へいへい、分かってるよ。他の場所は?」

「どういうわけか、ここへ一気に集まり出してな。お陰でこっちは横と背後から奇襲をかけれた。もう、ほとんどいない」


 隊長が周辺を攻撃しながら答える。

 その後、ものの数分で残っていたグラークたちは、他からも集まって来た職員に倒され、やがて静寂が訪れた。


 本部からグラークの殲滅が報告されるとレウルは召喚を解き、リトだけ残った。

 一匹の巨大な蛇が人型のリトの姿に戻り、その綺麗な姿に周辺の職員からは驚きの声が上がった。

 リトはゆっくりと周囲を見てから一礼し、レウルの身体の中へと還っていく。


「なんだよ、お前やっぱいろんなもん隠してやがったな」


 レウルの背中を隊長が激しく叩きながら言った。

 軽口を叩こうとしたレウルだが、疲れからかバランスを崩して倒れそうになり、咄嗟に近くに居たエニがそれを支える。


「……迷惑かけて悪いな」

「い、いえ。本当にありがとうございます! 貴方が居ないと、きっと私たちは死んでいました」


 他の女性たちも口々にレウルに礼を言う。

 そしてエニがどこか恥ずかしそうに口を開いた。


「あ、あの私は夢魔です。お金は無いけど、もう種族的には成人しているので、お礼をしたいと思います」

「ん? お礼って?」

「わた、私を抱いて下さい! きっと幸せな時間をお約束します!」


 盛大にレウルがむせた。周囲はレウルの反応を見て笑っている。

 暫くしてレウルは落ち着くと、エニを真っ直ぐ見て言った。


「……そんなのいらねぇよ。それでも何かしたいって言うんなら」


 と、レウルがエニの頭を撫でる。


「将来、メッチャ美人になって会う事があれば、そん時にサービスしてくれよ。だからそれまでは、俺以外の誰かを一人でも多く幸せにしてやってくれ」


 最後にエニの頭をぽんっと優しく叩き、レウルは他の職員と一緒に帰路につく。


「レウル……レウル……うん、絶対忘れない。絶対に」


 それが、レウルとエニの出会い。

 エニの初恋だった……。


******


 レウルがエニを見つめる。

 エニは大人になっていても、その時の少女の面影が残っていた。


「ああ、そうか思い出した。てか、流石に姿が変わり過ぎたって。マジで超美人になったんだな」

「努力しましたから。助けられた私たち四人は親友で、あの時の事を今でも話しますよ」

「それは何かちょっと恥ずかしいな」


 照れくさそうに言うレウルを見て、エニが微笑んだ。


「あの後、私たち四人は必死にお金を貯めて起業しました。多くの誰かを幸せにする仕事をして、胸を張って貴方と再び会うために」

「そうか……」

「私は社長として、他の三人も幹部になり、今も支え合って頑張っています」

「正直、たった一度助けただけで、そこまで覚えてくれるなんてな」

「私の初恋であり、あの時の貴方に下心は無かった」

「それは分かんねぇぞ?」


 レウルがわざとエニの胸辺りを見てニヤリと笑う。

 しかしエニは小さく笑い、首を横に振った。


「夢魔は感情に敏感なんです。特に異性の下心などには。どれだけ綺麗な言葉で飾っても。ああ、この人は私を抱きたいのだなと」


 エニは立ち上がるとレウルの前に立ち、自分の胸に手を当てる。


「あの時、言葉こそ軽いものでしたが、貴方は誠実だった。本当は見返りなど求めていなかった。本当に……貴方は素敵でした」


 そしてエニが目を潤ませてレウルを見つめた。


「私たちはあの時の恩を返せていますか? 貴方は支部長となり、今も多くの方を救っている。私は……貴方の伴侶として立派に、相応しくなったでしょうか?」


 期待と不安が入り混じった表情をエニが浮かべる。


「……もったいないくらい、十分立派だよ」


 エニがしている福祉的、社会的貢献に考えるまでもなかった。

 レウルが言いながらエニに手を伸ばし、その頭に触れて撫でる。


「あ……」

「ありがとう。あんな昔の辛い事を、ずっと覚えていてくれて」

「……っ!」


 感極まったエニがレウルに近づくと抱き着き、声を殺して泣いた。

 そして暫くすると、照れくさそうに身体を離す。


「今日はこの辺で帰ろうと思います。話したい事は話せたので」


 エニが背中の翼を大きく羽ばたかせる。

 その時、リトがエニに声を掛けた。


「エニ」

「?」

「レウルの事なら、好きにしていいよ。世界じゃ、複数人と付き合う事も重婚も認められているしね」

「良いんですか?」

「うん、この世界に来てレウルと決めたから。一人でも多く幸せにしようって」

「流石にいきなり結婚はあれなんで……まぁ、お付き合いからって事でいいか?」

「ケイさんが、やきもちを焼きそうですね」

「きちんと話せば納得するさ。俺への小言は増えるかもしれないが」


 苦笑しながらレウルが言う。


「ああ……今日は本当に良い日になりました。あの日の夢が、想いが叶った」

「エニ、レウルの事をよろしくね」

「はい。ではまた現実でお会いしましょう」


 エニは最後に深く二人に頭を下げると、翼を羽ばたかせて光の粒子となって消えた。


 そして現実に戻ったエニにはちょっとした出来事があった。

 目を覚ますと、そこにはエニをじっと無表情で見つめているケイがおり、ケイから説教を食らう。

 そしてあった出来事をエニが話すとケイは一瞬驚いたが、その後二人はレウルへの賛辞と愚痴で朝方まで盛り上がるのだった。


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