4 ドリームリコレクターのルキナ
ルキナの夢の中へ入ったレウルとエニは奇妙な空間にいた。
「どうやら、侵入するまでもなくお誘いを受けたようですわ」
「楽で結構。しかしこれまた妙な場所だな。受け付けカウンターか?」
レウルが目覚めると、そこは会社のロビーのような場所だった。
奥に一つの扉があり、休憩する椅子とテーブル。
テーブルの上にはお菓子があり、飲み放題のドリンクの機械もあった。
そこそこの広さはあるが、二人以外に誰もいない。
「とりあえず、相手が来るまで待つかね」
近くの椅子にレウルが座ると、その隣にエニが座る。
「そう言えば、寝る前に何か俺に言った? 意識が朦朧としてたから、覚えてなくてさ」
「……いえ、気のせいかと。あるいはケイさんの恨み節かもしれませんね」
「やめてくれ。起きた後が怖い……」
エニが小さく楽しそうに笑った時、奥のドアが開き一つの足音が聞こえて来た。
レウルたちが立ち上がって振り返ると、黄色と白のメッシュの長髪に、同じ色のワンピースを来た女性が二人に近づく。
「お待ちしておりました、お客様。私はドリームリコレクター。夢や思い出の案内人のルキナと申します」
ルキナが丁寧に深くレウルたちにお辞儀をした。
連れられて二人も頭を下げる。
「お客様にとって大切な思い出は何でしょうか? 思い出したい事を言って下さい。どのような記憶でも再現いたします」
「で、結局何をする場所なんだ?」
レウルが周囲を眺めながらいう。
少なくとも今いる場所は夢や思い出というよりも、会社のロビーにしか見えなかった。
「将来の夢などに頑張っても結果が出ない。その時に初心を思い出し、もう一度頑張ろうと自身を見つめ、励ます場です」
「それだけなのですか?」
エニに聞かれ、ルキナは首を横振る。
「あとは純粋に忘れた事を思い出すためです。どこかに置いた物が見つからない、暗証番号分からない。昔に約束した場所が分からないなど多岐に渡ります」
「……俺が昔ベッドの下に隠した本があるんだが、見つからなくてさ。分かる?」
「それは……」
と、なぜかルキナは口どもり、視線をレウルから外して続けた。
「て……天国極楽ドキドキムチムチパラダイス。という本でしょうか?」
「それそれ! それだよ。ある日見たら無くなっててさ。激レア本なんだぜ」
「記憶では、お客様は一切触っていませんね。他の誰かが何かしたのかも」
「あっ! ケイだな! あいつ勝手に俺の本捨てやがったのか! 高かったのに……」
ガックリと肩を落としたレウルにエニは近づき、
「ケイさんの嫉妬では? 案外、リトさんかもしれませんよ? それに良ければ私がお相手をしますので、そんな本は必要ありませんわ」
グイグイと身体を密着させた。
「え? いやぁ、ほらそういうのは俺たちまだ早いっていうか……ねぇ?」
レウルが話をルキナへ振る。
「へ? いえいえ、それは当人同士で話し合って下さい。こ、ここはそういう場所ではありませんので」
顔を赤くしたルキナが慌てた。
「適当に嘘で場所を言うと思ったが、そうでもなかったな。で、本題に入るが、俺たちは客じゃ無くてね」
「……この国の転移物対策組織の支部長のレウル様に、総合風俗企業モニアクロノ代表取締役社長エニ様。お間違えはありませんか?」
「ああ、合ってる。なら、なぜ俺たちが来たのかも分かるよな?」
すでに記憶を読まれている事をレウルたちは察する。
「職員の方からも起きるようにお願いをされましたが、お断りしております」
「理由は?」
レルウに問われたルキナは暫く目を瞑ってから口を開いた。
「私に現実は必要が無いのです。良い事など……何も無い。この世界が私の全てなんです」
「そう言わずにさ。ここが別世界ってのはもう知ってるんだし。あんたが居た世界とは全然違うと思うぞ」
「だからですよ。だからこそ私は……私は」
そこでルキナは顔を伏せて何も言わなくなった。
「ルキナさん、貴女に危険は無いのですか? ずっとここに居て」
暗い表情のルキナを見て、エニができるだけ優しく声を掛ける。
「問題はありません。活動するためのエネルギーは、お客様から頂いております。もちろん、お客様に不都合が起こらない範囲で」
「ですが、貴方を襲う方が現れるかもしれませんよ?」
「その時は強制的に目覚めて頂きます。私にできることはそれだけですので」
「それだけ?」
「そもそも私にはほぼ自衛の手段はありません。ここでも、現実でも」
「貴女にとって圧倒的不利な状況ですね」
「私はただの物ですから。それに、もし私が現実的に何かご迷惑をおかけしているのであれば……」
と、ルキナは微笑んで続けた。
「私を現実世界で殺して下さい。現実よりも夢の中での死を、私は選びます」
『……』
遠い目で言うルキナを、レウルとエニは見つめる。
「レウル、これはちょっと考えないといけませんわよ」
「だな……これ以上は今は無理か」
二人はルキナで聞こえないように小さな声で話した。
「お二人は何か思い出されていかれますか? それとも、お帰りになられますか?」
ルキナが指を鳴らすと、レウルたちの背後に大きな扉が現れて開く。
中から薄い光が漏れていた。
そしてレウルたちが帰るべく扉の中に入ろうとした時、ルキナが声を掛ける。
「しかし残念です。お二人は共有の思い出をお持ちなのに」
「共有の思い出?」
レウルが怪訝な表情を浮かべる。
「レウル様はお忘れに、エニ様にとっては忘れらない大切な思い出が」
「客のプライバシーを話すのは、プロとしては良くないのでは?」
エニは口調は穏やかだが、その視線は鋭かった。
「確かにそうですね。申し訳ありませんでした。もし、再びその時の事を体験したいのであれ、いつでもお越し下さい」
最後にルキナは深く頭を下げてお辞儀をする。
そしてレウルはエニに促されるように、扉の中に入って現実へと戻って行った。
「おっはよーさん! どう? 何か良いもん見れた?」
『……』
レウルとエニの意識が戻った瞬間、どこか能天気な声が耳に入って来る。
目を開けるとそこには一人の女性の姿があった。
金髪のポニーテールに金色の瞳。管理者ニフスだった。
「……え!? あんたが何でここに!」
「ニ、ニフス様!?」
レウルとエニが飛び起きる。
ニフスは自分の事を様付けや呼び捨て、話し方も敬語やタメ口など自由にしていいと世界に告げていた。
明るく気楽に、そして接しやすい事から人気があり、普通に街などで買い食いや観光もしている。
「最近来た子だからね。様子を見に来たんだよ。で、どうだった?」
「ジンが言っていたが、精神世界の引き篭もりだな」
「まぁ、あの子もいろいろあったからね。どうするの?」
「一応、出す策は考えてある。時間はちょっといるだろうが」
「そかそか。好きにしていいから、頑張ってね」
笑顔でニフスが言うと、眠っているルキナ近づいた。
「ホント美人だよねぇ。眠り姫って名前がしっくりくるわ」
そしてその頬を軽くつつく。
「それで、これからどうされるのですか?」
ケイがレウルとエニに尋ねた。
「ん、時間は……もう夕方か。エニ、良かったら家で晩飯でもどうだ? お礼と今後の話をしたい」
「え? 良いんですか?」
「ああ、エニにはこれからも世話になるし。ケイの作る飯は旨いぞ。ケイ、いいかな?」
「もちろん、問題ありません。腕によりをかけてお作り致します」
エニの頭にある小さな翼が嬉しそうに揺れて動く。
「それは楽しみですわ。では、帰りに食材を買いに店に寄りましょう。お金はこちらで出しますので、お好きな物を買って下さい」
「いいのか? こっちが誘ったから悪い気がするんだが」
「それくらいはさせて下さい。さぁニフス様の邪魔をしては悪いですし、早く行きましょう」
嬉しそうに言いながらエニはレウルの腕を掴み病室を出て行く。
その姿にケイは呆気にとられながらもニフスに頭を下げると、慌てて後を追いかけて行った。




