表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/14

4 ドリームリコレクターのルキナ

 ルキナの夢の中へ入ったレウルとエニは奇妙な空間にいた。


「どうやら、侵入するまでもなくお誘いを受けたようですわ」

「楽で結構。しかしこれまた妙な場所だな。受け付けカウンターか?」


 レウルが目覚めると、そこは会社のロビーのような場所だった。

 奥に一つの扉があり、休憩する椅子とテーブル。

 テーブルの上にはお菓子があり、飲み放題のドリンクの機械もあった。

 そこそこの広さはあるが、二人以外に誰もいない。


「とりあえず、相手が来るまで待つかね」


 近くの椅子にレウルが座ると、その隣にエニが座る。


「そう言えば、寝る前に何か俺に言った? 意識が朦朧としてたから、覚えてなくてさ」

「……いえ、気のせいかと。あるいはケイさんの恨み節かもしれませんね」

「やめてくれ。起きた後が怖い……」


 エニが小さく楽しそうに笑った時、奥のドアが開き一つの足音が聞こえて来た。

 レウルたちが立ち上がって振り返ると、黄色と白のメッシュの長髪に、同じ色のワンピースを来た女性が二人に近づく。


「お待ちしておりました、お客様。私はドリームリコレクター。夢や思い出の案内人のルキナと申します」


 ルキナが丁寧に深くレウルたちにお辞儀をした。

 連れられて二人も頭を下げる。


「お客様にとって大切な思い出は何でしょうか? 思い出したい事を言って下さい。どのような記憶でも再現いたします」

「で、結局何をする場所なんだ?」


 レウルが周囲を眺めながらいう。

 少なくとも今いる場所は夢や思い出というよりも、会社のロビーにしか見えなかった。


「将来の夢などに頑張っても結果が出ない。その時に初心を思い出し、もう一度頑張ろうと自身を見つめ、励ます場です」

「それだけなのですか?」


 エニに聞かれ、ルキナは首を横振る。


「あとは純粋に忘れた事を思い出すためです。どこかに置いた物が見つからない、暗証番号分からない。昔に約束した場所が分からないなど多岐に渡ります」

「……俺が昔ベッドの下に隠した本があるんだが、見つからなくてさ。分かる?」

「それは……」


 と、なぜかルキナは口どもり、視線をレウルから外して続けた。


「て……天国極楽ドキドキムチムチパラダイス。という本でしょうか?」

「それそれ! それだよ。ある日見たら無くなっててさ。激レア本なんだぜ」

「記憶では、お客様は一切触っていませんね。他の誰かが何かしたのかも」

「あっ! ケイだな! あいつ勝手に俺の本捨てやがったのか! 高かったのに……」


 ガックリと肩を落としたレウルにエニは近づき、


「ケイさんの嫉妬では? 案外、リトさんかもしれませんよ? それに良ければ私がお相手をしますので、そんな本は必要ありませんわ」


 グイグイと身体を密着させた。


「え? いやぁ、ほらそういうのは俺たちまだ早いっていうか……ねぇ?」


 レウルが話をルキナへ振る。


「へ? いえいえ、それは当人同士で話し合って下さい。こ、ここはそういう場所ではありませんので」


 顔を赤くしたルキナが慌てた。


「適当に嘘で場所を言うと思ったが、そうでもなかったな。で、本題に入るが、俺たちは客じゃ無くてね」

「……この国の転移物対策組織の支部長のレウル様に、総合風俗企業モニアクロノ代表取締役社長エニ様。お間違えはありませんか?」

「ああ、合ってる。なら、なぜ俺たちが来たのかも分かるよな?」


 すでに記憶を読まれている事をレウルたちは察する。


「職員の方からも起きるようにお願いをされましたが、お断りしております」

「理由は?」


 レルウに問われたルキナは暫く目を瞑ってから口を開いた。


「私に現実は必要が無いのです。良い事など……何も無い。この世界が私の全てなんです」

「そう言わずにさ。ここが別世界ってのはもう知ってるんだし。あんたが居た世界とは全然違うと思うぞ」

「だからですよ。だからこそ私は……私は」


 そこでルキナは顔を伏せて何も言わなくなった。


「ルキナさん、貴女に危険は無いのですか? ずっとここに居て」


 暗い表情のルキナを見て、エニができるだけ優しく声を掛ける。


「問題はありません。活動するためのエネルギーは、お客様から頂いております。もちろん、お客様に不都合が起こらない範囲で」

「ですが、貴方を襲う方が現れるかもしれませんよ?」

「その時は強制的に目覚めて頂きます。私にできることはそれだけですので」

「それだけ?」

「そもそも私にはほぼ自衛の手段はありません。ここでも、現実でも」

「貴女にとって圧倒的不利な状況ですね」

「私はただの物ですから。それに、もし私が現実的に何かご迷惑をおかけしているのであれば……」


 と、ルキナは微笑んで続けた。


「私を現実世界で殺して下さい。現実よりも夢の中での死を、私は選びます」

『……』


 遠い目で言うルキナを、レウルとエニは見つめる。


「レウル、これはちょっと考えないといけませんわよ」

「だな……これ以上は今は無理か」


 二人はルキナで聞こえないように小さな声で話した。


「お二人は何か思い出されていかれますか? それとも、お帰りになられますか?」


 ルキナが指を鳴らすと、レウルたちの背後に大きな扉が現れて開く。

 中から薄い光が漏れていた。

 そしてレウルたちが帰るべく扉の中に入ろうとした時、ルキナが声を掛ける。


「しかし残念です。お二人は共有の思い出をお持ちなのに」

「共有の思い出?」


 レウルが怪訝な表情を浮かべる。


「レウル様はお忘れに、エニ様にとっては忘れらない大切な思い出が」

「客のプライバシーを話すのは、プロとしては良くないのでは?」


 エニは口調は穏やかだが、その視線は鋭かった。


「確かにそうですね。申し訳ありませんでした。もし、再びその時の事を体験したいのであれ、いつでもお越し下さい」


 最後にルキナは深く頭を下げてお辞儀をする。

 そしてレウルはエニに促されるように、扉の中に入って現実へと戻って行った。


「おっはよーさん! どう? 何か良いもん見れた?」

『……』


 レウルとエニの意識が戻った瞬間、どこか能天気な声が耳に入って来る。

 目を開けるとそこには一人の女性の姿があった。

 金髪のポニーテールに金色の瞳。管理者ニフスだった。


「……え!? あんたが何でここに!」

「ニ、ニフス様!?」


 レウルとエニが飛び起きる。

 ニフスは自分の事を様付けや呼び捨て、話し方も敬語やタメ口など自由にしていいと世界に告げていた。

 明るく気楽に、そして接しやすい事から人気があり、普通に街などで買い食いや観光もしている。


「最近来た子だからね。様子を見に来たんだよ。で、どうだった?」

「ジンが言っていたが、精神世界の引き篭もりだな」

「まぁ、あの子もいろいろあったからね。どうするの?」

「一応、出す策は考えてある。時間はちょっといるだろうが」

「そかそか。好きにしていいから、頑張ってね」


 笑顔でニフスが言うと、眠っているルキナ近づいた。


「ホント美人だよねぇ。眠り姫って名前がしっくりくるわ」


 そしてその頬を軽くつつく。


「それで、これからどうされるのですか?」


 ケイがレウルとエニに尋ねた。


「ん、時間は……もう夕方か。エニ、良かったら家で晩飯でもどうだ? お礼と今後の話をしたい」

「え? 良いんですか?」

「ああ、エニにはこれからも世話になるし。ケイの作る飯は旨いぞ。ケイ、いいかな?」

「もちろん、問題ありません。腕によりをかけてお作り致します」


 エニの頭にある小さな翼が嬉しそうに揺れて動く。


「それは楽しみですわ。では、帰りに食材を買いに店に寄りましょう。お金はこちらで出しますので、お好きな物を買って下さい」

「いいのか? こっちが誘ったから悪い気がするんだが」

「それくらいはさせて下さい。さぁニフス様の邪魔をしては悪いですし、早く行きましょう」


 嬉しそうに言いながらエニはレウルの腕を掴み病室を出て行く。

 その姿にケイは呆気にとられながらもニフスに頭を下げると、慌てて後を追いかけて行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ