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2 ようこそ、眠り姫

 第一転移場は本部と隣接している場所で、その形は周囲を壁で覆われているドーム状をしていた。

 転移物によっては危険物もあり、周囲は強固な魔法結界で守れている。

 レウルが到着すると、すでに男女五人で編成された当直の部隊がいた。


「よぉ、状況はどうだ?」


 レウルがドーム中央にある転移場所を見ながら声を掛ける。

 ドームの中央部分には魔法陣があり、魔法陣の中央には卵の様な光の玉ができていた。


「レウル支部長? わざわざ来てくださったのですか?」


 隊長の年配の男性がレウルを見て敬礼し、他の者もそれに続いた。


「どうせ副支部長辺りから、逃げて来たんじゃないですか?」


 若い男性がレウルを見て笑いながら言う。


「なんでそれ知ってんだよ?」

「だって『今日こそは溜まった書類を片付けさせる』って息巻いてましたからね」

「それでか……。まぁ、半分くらいはしたんだがな。こっちが優先って奴だ」


『転移反応増大。5分後に転移して来ます』


 ドーム内の監視カメラで、中を観察している解析部からアナウンスが入る。


「……全員構えろ」


 レウルが少し前とは打って変わり、低いトーンで全員に指示を飛ばした。

 それぞれが武器と、魔法を使う体勢になる。

 転移してい来るモノの中にはパニックを起こして暴れる事もあり、一旦気絶などさせて落ち着かせる必要もあった。

 ただし非常に危険だと判断された場合は、その場で命を絶つ事もある。


「スオ、ネロ。みんなを守れ」


 レウルが言うと、周辺に大人の頭ほどの黄色と青い球が出現する。

 レウルは異世界の召喚士であり転移者だった。

 生者との契約は自身の周囲に本人を召喚し、精霊や魂の場合は存在を喚び自由に力を使わせる。

 魔法も使えるが、召喚に特化しているため初歩的なモノしか使えず、時に剣や銃で戦う事もあった。


「了解した」

「いいよ……」


 二つの球からそれぞれ男性の声が響き、チームの頭上に行くと全員に二重の魔法結界が張られる。

 黄色が土の精霊のスオ。青が水の精霊のネロ。

 元の世界では魔王討伐隊の一人で勇者、英雄と呼ばれ、最後は自身が魔王と呼ばれた。

 最終的には世界の人々に捨てられダストワールドに転移する。

 それからすでに15年ほどの月日が流れ、その10年後に支部長になった。


「アイレ、ラピア。援護を頼む」


 風の精霊である緑色と、治癒の精霊であるピンク色の球が現れる。


「あいよ、いつでOKだぜ」

「どんな怪我も一瞬で治しちゃうよ。いっぱい怪我してね」


 アレイとラピアがラウルたち背後で待機する。


「イニス、ルーメ。いざという時はやるぞ」


 火の精霊である赤色と、光の精霊である白色の球が現れ、レウルたちの一歩前に出る。


「任せな。私が燃やしてやるぜ」

「この美しい、わたくしにお任せなさい。全て貫いて差し上げますわ」


 レウルたちの周囲を六つの色の違う球が配置された。


「いつ見ても、支部長の精霊たちは頼もしいですな」

「たまに口うるさいのが面倒だがな」


 レウルの言葉に抗議するように、それぞれの球がレウルに体当たりをしていた。

 精霊だけではなく、他にも無くなった戦士たちの魂もレウルは有している。

 ただ基本的には馴染みある精霊と、ある人物を召喚するのがメインだった。


『転移……来ます!』


 光の玉に亀裂が入り、周囲の緊張が一気に高まる。

 そして周囲に白い光が弾けると共に割れた。


『……』


 無言で構えたレウルたちが、その場を見つめる。

 やがてそこに現れたのは、横たわった人間の姿をした一人の女性だった。


「スキャンしろ」


 レウルが言うと、魔法陣から光の輪が現れて女性を包む。


『どうやらほぼ人間のようです』

「ほぼとは?」

『細かくは精密検査が必要ですが、普通の人間とは違う遺伝子構造が見られます。恐らく人造人間の部類かもしれません。能力は未知です』

「現在の状態は?」

『脈拍、呼吸ともに異常無し。寝ている状態かと思われます』

「この状況で寝るなんて、神経の図太い奴だな」


 暫く様子を伺うようにレウルたちが見ていると、年配の男性が口を開いた。


「とりえあず、近寄って確認してみますか?」

「そうだな。俺が行こう。パッとみ美人だし、お近づきになれるチャンスだ」


 女性の髪は白と黄色が混じっているメッシュの長髪で、服も同じような色のワンピースを着ていた。


「油断しないで下さいよ?」

「何かあれば精霊とおまえらに頼るよ」


 と、レウルが一歩前に出た時、


『私が行くよ。レウルはスケベだからね』


 突如レウルの胸から二本の細い腕が出現し、這い出るように一人の女性が現れる。

 銀色の長髪に青い瞳。服は司祭などが着る祭服をまとっていた。


「そこまで言われると、ちょっと俺ショックなんだけどな、リト」


 リトと呼ばれた女性はラウルに微笑むと、その鼻を小さく弾く。


「本当の事だよね? 寝てる女性に何かしたら、今のご時世一発アウトだよ」

「信用ないな」

「ううん、私は貴方だもの。何を考えているかは分かるわ。危険な事は私なら大丈夫だから」


 そう言うと、レウルの頬に軽くキスをした。

 リトは元の世界からレウルの恋人であり、魂を分け合った特殊な召喚契約をしている。

 精霊ではなく、聖女とまで呼ばれた元人間。

 しかし今は黒い魔力の「怨念」を司り、本体である魂は今も地獄に堕ちていた。


「何かあればすぐ言えよ」

「うん」


 寝ている女性に近づいたリトはしゃがむと、その頬をツンツンとつつく。

 特に反応は無いが息はしており、本当にただ寝ているだけに見えた。


「大丈夫みたい」


 リトの言葉にレウルは全員を見て頷き、戦闘態勢を解く。

 出していた精霊たちもリト以外は消し、全員が寝ている女性に近づいた。


「とりあえずは大丈夫そうですが、どうしますか?」


 年配男性の隊長がレウルに問う。


「まずは病院で異常がないか調べろ。24時間の監視体制も忘れるな。何かあれば俺に報告を」

「承知いたしました」


 年配男性がレウルに頭を下げると、すぐに指示を飛ばした。

 周囲が一気に慌ただしくなり、女性は用意された移動式ベッドで病院へと連れていかれる。


「じゃあ、私は帰るね。あまりジンを困らせちゃ駄目だよ」


 リトがレウルを見て微笑むと、レウルの身体と重なるようにその姿が消える。

 そしてレウルは頭をポリポリと掻き、


「しゃあない、デスクワークに戻るとするか」

 

 ジンとケイが待つ支部長室へと帰って行った。


******


 女性が転移してから数日が経ったある日。

 転移物対策組織ビルの一室では会議が開かれている。

 レウル、ケイ、ジンに他数人の職員が女性について話し合いしていた。


「では、今もなお転移してから眠り続けている『眠り姫・ルキナ』について報告します」


 若い男性職員が手に持った資料と、モニターに映し出されている女性を見る。

 転移して来た女性はずっと寝ているため、周囲から眠り姫と呼ばれるようになり、名前はある事で知る事になった。

 転移されて来たモノは世界に情報が公開され、知っている者がいないか確認し、同じ世界の者がいれば情報提供をする決まりがある。


「まず、今回の女性に関しての情報はありませんでした。新しい異世界からの転移者と見て問題ないでしょう」

「この世界は結構な転移者が居るが、まだまだ世界は広いねぇ。今回みたいな美人ちゃんな転移者をどんどん頼みたいぜ」


 レウルがモニターにある、眠り姫の画像を見ながら嬉しそう言った。


「また声を掛ける、揺さぶるなどで起こしてみましたが、反応は一切ありません。そして特徴的なのが、衰弱傾向がみられない事です」

「他から何かエネルギーを受けているのか?」


 ジンが不思議そうに問う。


「恐らくそうかと。それに関して気になる報告が上がっています。資料の夢に関する項目を見て下さい」

「夢……ですか?」


 ケイが資料をめくり、項目に目を通していく。


「病院で解析部が調べました。とりあえず危険性が無い事が分かり、病院の一室で監視付きで保護しているのですが……」


 と、そこで職員が一旦話しを止める。


「その翌日から、妙な夢を見ると入院患者及び当直などの職員から報告が上がりました。ルキナから『思い出したい記憶、追体験したい思い出はありませんか?』と聞かれるそうです。その時、彼女の名前も判明しています」

「なんだそれは?」


 ジンが怪訝な表情をする。


「言葉通りです。思い出したい記憶を見せてくれたり、当時の思い出を見るだけですが、明確に再現するそうです」

「こりゃ物忘れには便利だな。無くした物がどこいったかすぐ分かりそうだ」


 レウルが冗談っぽく言うが、職員が真面目に答える。


「実はその通りです。忘れ物、暗証番号、恋人の誕生日など正確に間違いなく言い当てる、あるいはその場を再現するとの事です」

「なるほどねぇ……今のところ危険性は?」

「特にありません。ルキナも用事が終わればすぐに帰してくれるそうです」


 レウルたちはとりあえず危険性が無い事に安堵の表情になるが、それでも奇妙な出来事ではあった。


「どれくらいの人が見ているんですか? 資料からは結構な人が彼女に会っているようですが?」


 ケイが資料を見つつ質問をする。


「解析部が調べた結果、微弱ですがルキナから魔力の様なモノが発せられている痕跡がありました。半径100メートルほどの範囲だそうです」

「結構広いですね。何か対応はしましたか?」

「今のところ害はありませんし、彼女の事を知るには接触する必要があるので、現状はそのままにしています。影響範囲に居る者は皆、任意でそこにいます」

「起きるように説得は?」

「職員が接触した際、この世界の事など一通り説明しましたが、拒否されたそうです。起きる必要は無い、と」

「こいつは夢……いや、精神世界に引き籠ってる訳か。新手の引き篭もりだな」


 呆れ顔でジンが言った。


「それで今後をどうするか、方針を決めて頂きたいかと」

「ふーむ、夢ねぇ……餅は餅屋。夢は夢を得意とする奴に頼むかね」


 何かを思いついたレウルの言葉に、全員がレウルを見る。

 そして職員にレウルが指示を出した。


「総合風俗企業のモニアクロノ (幸せの時間)に連絡を取って、夢魔に協力依頼を出せ。俺が夢の世界でこいつを説得してみる」

「確かに夢なら夢魔が得意ですね。早速連絡してみます」


 納得したように職員が頷くと、携帯端末「ストフォン」を取り出して、電話をかけ始める。


「こちら転移物対策組織第1支部です。少しお話したい事がありまして……」


 職員が声を落として話しをしていた時、


「……え!? それは本当ですか? え? あ、はい。分かりました。至急支部長に伝えます。ありがとうございました」


 急に声を上げると慌ただしく電話を切った。

 レウルを見た職員の表情は驚いたまま固まっている。


「なんだ? 断られでもしたか?」

「い、いえ、そうではありません。社長が……エニ代表取締役社長が直々に対応するとの事です。明日早速話を伺いに来ると」

「マジで! あの超絶美人、ナイスバディ、世界の女性が羨むと言われるのあのエニ社長がくんの!?」

「はい、何でも偶然近くにいたらしくて、支部長の名前を出したらぜひと」

「おぉ……直に会った事ないんだよなぁ。これは明日が楽しみだぜ。来たら支部長室に通してくれよ」


 一気に上機嫌になったレウルにケイたちが呆れた顔になったまま、会議は終わる事になった。


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