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1 いつもの日常

 宇宙、あるいは並行世界に存在するほとんどの世界には「管理者」が居た。

 管理者たちは世界を観察し、情報を収集している。

 世界によってはその存在を公にしている所もあった。


 そして存在を公にしている、とある管理者がいる世界。

 世界から捨てられた存在、または世界を捨てた存在が転移して来る場所……。


『ダストワールド』


 いつから存在するか分からないほど古く、他とは少し違う世界。


 世界の中央に様々な種族が住むエクユアス中央大陸があり、周辺を八つの大陸が囲んでいる。

 さらにダストワールドは転移して来た存在の記憶を読み取り、新たな資源や生物に土地を作り、ゆっくりとだがさらに拡大を続けていた。


 エクユアス中央大陸の各国には『世界転移物対策組織』通称テンタイの支部があり、物語はリセイユ国の首都ルミサスにある者が転移した事で始まる。

 リセイユ国は高層ビルに車に飛行機があれば、洋風和風の建物にドラゴンが空を飛び、馬が走る。

 あらゆる種族が住んでおり、ごった煮のダストワールドを象徴する国家だった。


 その首都ルミサスにある転移物対策組織の支部長室には二人の男性が居た。


「……最近のアイドルはほんと可愛い子多いよな。歌って踊ってクイズに出て、写真撮ってお笑い番組に出て。アイドルってここまでいろいろしたっけ?」


 支部長席に座りながらパソコンで動画を見ている黒髪短髪の男性が呟いた。

 20代後半に見え、革ジャンにジーパン姿のカジュアルな服を着ている。

 腕には対策組織の職員を示す腕章が魔法で着けられていた。

 職員は魔法で着ける腕章と身分証を所持している。


「それが時代の流れですよ、レウル様。コーヒーです」


 異世界からの転移者であるレウルがコーヒーを受け取ると、口に入れる。


「お、サンキュー。ケイの淹れるコーヒーはインスタントで美味しく感じるな」

「ありがとうございます」


 茶色の短髪に長身。

 整った顔立ちで黒のカジュアルスーツ姿の男性、ケイが微笑みながら答えた。

 レウルとケイは異世界からの転移者であり、ケイに至っては人ではなく、かなり特殊な生体アンドロイドになる。


 転移してからレウルと一緒に住む事になり、それからは忙しいレウルの身の回りの世話をしている。

 レウルの補佐であり、献身的に仕える執事、そして家族。

 そうなった理由は、レウルに対する尊敬と愛情からだった。


「しかし、お仕事をせずアイドル動画を見ても良いんですか?」

「ん? これは市場調査って言うんだよ。ほんと支部長は忙しいわぁ」


 悪びれた様子もなく、わざとらしくレウルが答える。

 その時、部屋のドアが開き、小柄で和服姿の男性が一人入って来た。


「そのお忙しい支部長に仕事を持って来たぞ」


 手に持たれたカゴには大量の書類があり、それをレウルの机にドンっとわざと音を立てて置いた。


「ジ、ジンじゃないか。俺は今ちょっと調べ物をだな……」

「アイドルのか? そういう事は家でやれ家で。ケイもこいつを無駄に甘やかせるな。補佐ならこいつにもっと仕事をさせろ」


 小柄で童顔、かろうじて20代に見える男性がぶっきらぼうに言う。

 黒髪短髪に額からは白い二本の角が生えているジン (迅)・カグラ (神楽)。

 鬼族の男性で、副支部長の役職に就いていた。

 鬼族の角は個体差によって色が違い、遺伝ではなく理由は分かっていない。


 幸瑞の国 (さきみずのくに)の出身者だった。。

 和服や米にあんこ、三味線に太鼓と言われる、独特な文化を持っている国の出身で、鬼族がもっとも多く住んで居る。

 腰の武器も剣ではなく、国特有の一本の刀を携えていた。


「ほらちょっとこれを見てみろよ。お前と同じ鬼族で可愛い子だぞ」


 レウルがパソコンのモニターをジンの方に向け、綺麗な着物姿で器用に踊りながら歌っているアイドル女性を見せる。


「……鬼族ならこれくらいできて当たり前だ。だが、この服装でここまでの動きをするには相当な訓練をしただろうな」

「だろ? お前みたいで小柄なのにすげぇよな?」


 と、レウルの言葉にジンがピクっと反応し、刀に手をかける。


「それは俺をチビだと言いたいのか?」

「え? いや、そうじゃなくてだな……」


 ジンは一見その幼く見える風貌から、子供扱いされる事がたまにあった。

 本人にとっては不本意であり、昔から舐められないようにした結果、目つきが鋭く乱暴な口調になる。


「まぁまぁ、ジンさん。要件はその書類ですか?」


 今にも刀を抜きそうなジンをなだめながら、ケイが書類を手に取った。

 溜め息を吐いたジンが頷く。


「支部長のサインやハンコがいる書類だ」

「それ、お前でも問題ないやつだろ?」


 書類を見たレウルが不満を言った。


「そうだ。どっかの誰かが現場にばかり行くから、俺が普段一人でやっている。たまのデスクワークもいいと思うぞ?」


 刀の柄を左手の指でコツコツと叩きながら言う。

 それはジンが怒っている時や不快な時を表す癖だった。


「やります……」


 その癖を知っているレウルは大人しくジンの言葉に従い、ケイも手伝う。

 レウルとジンが書類にサインやハンコを押し、ケイが細かく分類していた。

 無言でテキパキと仕事を進めていき、半分くらいになるとレウルが口を開く。


「ん~、ようやく半分か。どうしてこう書類って多いのかね」

「この世界はいろいろありますからね。デジタルと紙媒体の両方で記録していた方が安全ですから」


 ケイがサインの間違いなどがないか確認をしながら答えた。


「転移物による被害にグラークの襲撃。時にローテクが必要な時があるのは知っているだろうが」

「まぁなぁ」


 グラークは普通の転移者や転移物とは違い、明確な「敵」だった。

 管理者のニフスの説明では、あらゆる世界に現れては世界の破壊を行う存在で、戦うしかない存在だと。

 転移物対策組織は基本的に異世界からの転移対象の対処を専門しているため、グラークの襲撃にも真っ先に出動する。

 そのため、職員には戦闘能力が高い者が多い。


「ですが、最近はグラークの襲撃も、問題ある転移もなくて平和ですね」


 ケイがしみじと言った。

 レウルが反応する。


「バカ、そういう事を言うな。それはフラグって言うんだよ」

「あんたの発言こそフラグじゃないのか」


 と、ジンが皮肉交じりに言った時、本部内に緊急放送が流れた。


『ミーメ様からの転移情報がありました。首都にある第一転移場に30分後、転移してくる存在あり。識別は緑。当直のチームは至急現場へと急行して下さい』


 転移物は色である程度の識別がされていた。

 緑は生命体。青は命を持たない道具や建物など。赤がグラークを差す。

 何度か放送が繰り返され、レウルたち三人はお互いの顔を見ながら苦笑した。

 そして急にレウルがそわそわすると、立ち上がる。


「支部長、どこへ行くんだ?」

「え? いやぁ、ほらここは俺も行ってみようかと」

「書類は?」

「後でやるって。多分、きっと」


 頼りないレウルの言葉にジンが大きく溜め息を吐く。


「私が残って手伝いましょう。やる気のないレウル様にミスをされては、手間が増えますしね」

「……ケイがそう言うならいいか。ほら、邪魔だからさっさと行ってこい」


 ジンがレウルを手でしっしと払う。


「悪いな。じゃあちょっくら行ってくるわ」


 そう言ってドアに手を掛けた時、書類を見て顔を伏せているジンが口を開いた。


「レウル支部長」

「な、なんだよ。まだ何かあんのか?」

「お気をつけて」

「……おう。マジで終わったら手伝いに来るから」


 そしてレウルは部屋を出て行く。


「手伝いではなく、本来はあんたの仕事なんだがな」

「わざと残しますか?」

「それはそれで面倒だ。さっさと終わらせるとしよう。後で嫌味でも言うさ」


 そんなジンの言葉にケイは小さく笑い、二人は黙々と書類仕事を始めた。


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