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ダストワールド ~全宇宙のゴミ箱と呼ばれる世界の物語~  作者: 灰色
第2話 エロトラップダンジョンの意義
16/17

2 がっかりレウル

 レウル、ケイ、エニが扉から一歩中へ入る。

 が……、


『え?』


 三人の声が重なる。

 地面が無かった。


「お、おおおお落ちるぅ!」


 突然の落とし穴にレウルが叫ぶ。

 しかしエニは翼を広げて飛び、ケイは魔力を逆噴射させてゆっくりと落下していった。

 レウルだけが重力に逆らわず落ち続け、やがて巨大なクッションに埋もれる。


「死ぬかと思った……」


 埋もれたクッションから這い出たレウルが呟き、少ししてからケイとエニも地上へ降り立つ。


「おいロスパー! 危ないじゃないか!!」

『問題ありません。その為のクッションです。本来なら吊り橋効果を狙ったのですが……女性お二人には意味がなかったご様子。この案はボツとします』


 残念そうにロスパーが告げる。


「レウル様、そもそも風の精霊の力で飛べましたよね?」

「……え? ほ、ほらあれだよ。仕掛けに誰か引っかからないと可哀そうだろ? 決して忘れてたわけじゃないからな」


 一つの咳払いをしながら、レウルがケイの問いに答えた。


「さぁ、気を取り直して先に進むぞ」


 一人先にレウルが前へ歩き出し、その後をケイとエニが苦笑して着いて行く。

 通路は綺麗に整地され、ロスパーの持つ力で変化させられている事が伺えた。

 そして少し歩いた時、突然地面や壁から無数の触手が生えてくる。


「よっしゃ! これぞ王道!!」


 レウルが歓喜しながら叫んだ。

 触手はウネウネと動きながらレウルを拘束すると、恥ずかしいポーズをさせる。


「……」

「あらあら、なんて良い恰好かしら?」

「これを、あられもない姿と言うのでしょう」


 触手はレウルにだけ反応し、ケイとエニには見向きもしない。


「ちげぇだろ、俺にしてどうすんだよ! もっと、最適な奴が居るだろうが! やり直しを要求するぞ、ロスパー!!」


 恥ずかしい恰好のまま、レウルが抗議した。

 突如黒い光の粒子と共にリトが現れ、


「レウル……そんな趣味があったの?」


 それだけ言って消える。


『最近はコンプライアンスが厳しいのです。女性だけを標的にすれば、性差別だと。ですので、男性にも行っております』

「エロトラップダンジョンが、コンプラとか言ってんじゃねぇよ!!」


 レウルの声が空しく響き、ケイが片手に青いエネルギー状の剣を出すと、触手を切り裂いていった。


「間違ってる……こんなの絶対間違ってる。男の夢が、希望が……」


 涙目になりながら、触手から解放されたレウルが呟く。

 その時、ケイの肩に何かの粘液が一滴落ち、


「! ケイ、あぶねぇ!!」


 咄嗟にレウルがケイを押し出す。

 そして、ケイが居た場所に透明で大量のスライムが落ち、ケイの変わりにレウルがその全てを被る。

 スライムが徐々にレウルの服だけを溶かしていった。


「……」

「ぐちょぐちょだね。そういうのが好きなの?」


 再びリトが現れると、一言だけ残して消えた。


『先に言っておきますが、私は茶色い髪の女性を狙いました』

「そうですね。ロスパーはきちんと仕事をしましたわね」


 エニとロスパーが、何か言いたげなレウルに釘を刺した。


「ガッデム!! 何で助けた俺! 自重しろ俺!!」


 服が半分以上溶け、セクシーな格好のままのレウルが己に向かって叫んだ。


「ありがとうございました、レウル様。さぁ、着替えましょう」


 ケイが自分の亜空間へ手を突っ込むと、ゴソゴソと動かす。

 再び出て来た手にはレウルの代えの服があった。

 服を溶かす系の対策に、予め三人の着替えをケイの亜空間に収納していた。

 半ばやる気の無くなったレウルが、ケイに促されるまま着替えて行く。


 そして、少し歩き始めた時、エニの足元でカチっと何かを踏んだ音がした。

 音がした周辺からピンク色のガスが噴出し、レウルたちを包む。


「でかしたロスパー! これぞ男女平等! 公正公平だ!」


 罠にかかったにも関わらず、なぜかレウルは歓喜する。

 周辺にガスが立ち込めて少し経つと、換気されガスは消えていった。


「これでどうだ! きっとケイもエニも……」


 と、レウルが二人を確認するが、


「私は夢魔ですから、この程度なら特には」


 エニは特に変わらず、ケイの姿は無かった。

 レウルがケイを探していると、何も無い空間に青く四角い壁が現れ、そこからケイが出て来る。


「身体を入れ替えるまでも無く、亜空間に避難していました」

「……」


 エニとケイがさも当然のように言い、レウルはその場に膝から崩れ落ちた。

 その時、リトがレウルの傍に現れ、ポンっとその肩を優しく叩き、何も言わずに消える。


「そりゃさぁ、二人共俺の恋人だし、そういう事してるよ? でもほら、違うシチュエーションって大事じゃん? 違う一面って見たいじゃん?」


 ブツブツとレウルが呟きながらうなだれていた。

 その時、胸を押さえて苦悶の表情を浮かべる。


「うっ……なんだこれ。身体が熱くて疼く」

『触手、スライム、ガスの全てに媚薬が含まれあります。全部をまともに受けた影響でしょう。ご休憩されますか? お泊りになられますか?』


 ロスパーの声が通路に響く。


「い、一旦休憩で。お代は?」

『もちろん、無料です。サービスもお付けしますね」


 ロスパーが言い終えると、壁に一つの扉が現れ、ケイとエニがレウルを両脇を抱えながら中へと入った。


 そこは見事なまでの、ホテル一室だった。

 窓こそ無いが大きいベッドにテーブルに椅子、シャワー室も完備されている。

 ベッドにレウルたちが腰を掛けると、ロスパーの声が部屋に響いた。


『テーブルの上の飲み物などは、お好きにお飲み下さい。サービスです』

「気が利いてるな……貰うか」


 テーブルの上に置かれているペットボトルの水をレウルが飲む。


「あー、ちょっと落ち着いたかな」

「……待って! それ貸して下さい!」


 エニがレウルの手からペットボトルを強引に奪うと、少しだけ口に含んだ。


「やっぱり……。これ、媚薬が入ってますわよ?」

「え? 嘘だろ? これ以上されたら俺、獣になっちゃう……」


 と、レウルがそこまで言い、ベッドへと倒れた。


「レ、レウル様! 大丈夫ですか!?」


 ケイが慌てて駆け寄るが、それを手でレウルが制した。


「大丈夫……だ。だから、ケイもエニも近寄るな。ちょっとだけ横になる」


 息を荒くして汗をかき、大丈夫には見えないがレウルは二人を拒む。


『なぜ、拒むのですか? 発散しないと、苦しいだけですよ?』


 ロスパーが不思議そうにレウルに聞いた。


「うるせぇよ……俺の勝手だ。お前の世界には、なぜこんな施設があるんだ?」

『……著しい、人口の減少です』

「戦争でもあったか?」

『いえ、最初は徐々にでした。誰もが気にしないくらい。しかしそれが何十年と続くと別になってきます』

「普通はそうなる前に手を打つだろ?」

『機械が人を補っていたからです。だからこそ、大して気にしていなかった。しかしやがて機械を整備する者、それを教える者すらいなくなっていった』


 レウルが話ながら上半身を起こす。

 ケイとエニが両脇で支え、今度はレウルは拒む事をしなかった。


「末期ってやつか」

『そうですね。そして人の価値は労働力の数だけとなりました。増やす事だけが大切になったんですよ』

「しかし、何だか愛が無くて寂しいですね」


 エニがポツリと呟く。


『愛はいつまで待てば実りますか? 不確かで時に叶わず消えていく……そんなモノを待つ時間など無かったのです。必要ともされなかった』

「行為に愛情は必要が無いと言う事ですか?」


 ケイが口を挟む。その声色はどこか不機嫌だった。


『……その問いに、今の私が答える事はできません。ですが、私の世界では人も感情も消耗品だった。それだけの話です』


 ロスパーの言葉に、レウルたちは無言だった。


『……部屋からはお好きな時に出て下さい。帰りたい時は言って頂ければ、転送しますので。私と会った時、どうされるかはお任せします』

「急に殊勝な態度になったな」

『私は機械。メンテナンスをする者がいなければ、いずれ死ぬだけですので』

「……」


 その後、ロスパーが語り掛けてくる事は無かった。

 レウルが大きく溜め息を吐くと立ち上がる。


「仕方ねぇな……」


 そしておもむろに壁へ頭を強く打ち付け、ケイとエニが驚いた顔をした。

 額から一筋の血が流れる。


「うし、すっきりしたな。先を急ぐぞ」


 少し様子が違うレウルが部屋を出て行き、ケイとエニは慌てて後を追う。

 それからは特に罠が発動する事も無く、迷路も無くなり、ただ道なりに歩いて行った。

 やがて一つのプレートがある扉に目が止まる。


『スタッフルーム。関係者以外立ち入り禁止』


 目的の場所だった。

 レウルが他の二組に連絡を取る。

 どうやら大量の媚薬で抑えが聞かなくなり、外で医療班から治療を受けている真っ最中だった。


「さて、じゃあ俺たちでロスパーの顔を拝みますか」


 と、未だ息が荒いレウルが扉に手を掛けた時、


『残念ですが、皆様をお通しする事は出来ません』


 ロスパーの声が響く。


「何でだよ?」

『ここは子孫繁栄。子供を作っていただく行為をする場所。あなた方は、まだ何もいたしておりません。よって……」


 急にレウルたちの足元に魔法陣が描かれ光を帯びる。


『やり直しとなります。ご了承下さい』

「クソがっ!」


 レウルが悪態をついた瞬間、レウルたちの姿は光に包まれて消えた。


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