1 うきうきレウル
リセイユ国の首都ルミサス。
夕方、転移物対策組織の支部長室のドアがジンによって開けられる。
「おーい支部長。あんたが好きそうな仕事が司令部から来てるぞ」
持っていた資料をジンは部屋に居たレウルとケイに渡す。
途端にケイが怪訝な表情を浮かべた。
「これ……何ですか?」
「書いてある通りだ。司令部がぜひ、レウル支部長にお願いしたいってさ」
「ほぉ、俺をご指名とはな? モテる男は辛いぜ……なになに」
と、レウルも資料に目を通していく。
『エロトラップダンジョンの攻略について』
「……ん?」
目に入った概要名にレウルが疑問の声を上げた。
黙々とレウルが読んでいき、
「おいジン! 何だこれは!?」
「急に大きな声を出すな。なんか言いたい事でもあるのか?」
「こんな……こんな……」
長く言葉を溜めてから、レウルが叫ぶ。
「こんな面白そうな事はさっさと言えよ! 全人類の男の夢が詰まってんじゃねぇか!」
「勝手に主語を大きくするな。それで、受けるのか受けないのか?」
「受けるに決まってるだろ! あ、調査隊はかわい子ちゃんたちで頼む。何なら男は俺一人でもいいぞ」
「残念だがそうもいかない」
「え? なんでだよ!」
ジンの言葉にレウルが抗議した。
「レウル様、注意書きがありますよ」
「注意だぁ?」
「お前……ちゃんと読めよ」
ケイがレウルに近づき、資料の一角を指差す。
『施設内は、異性で活動する必要あり。一人、同性だけでは侵入不可』
『強硬侵入を試みたが、何らかの転移魔法で入り口へ強制的に戻される』
『内部では強力な媚薬が使用されており、夫婦や恋人同士のみ参加』
『また内部構造が毎回変わる事が確認されている』
と、他にも注意書きがいくつか書かれてあった。
「何でも子孫繁栄。要するに子作りを促す施設らしくてな。流石に赤の他人同士でチームを組ませるわけにいかなくなった」
ジンが呆れながら言う。
「媚薬ってどんくらい強いんだ?」
「即効性があり非常に強力。発散すればすぐに効果は無くなるらしいが、しないと数時間から数日は悶々と苦しむとよ」
「抵抗薬は作ってんの?」
「一応取り掛かっているが、流石にすぐにはできない」
「この施設を管理されている方への説明は?」
「施設内で会話はできた。一応説明はしたが、細かい事は最奥にある自分の部屋まで来て欲しいって事だ」
「会話くらい普通にして欲しいぜ。ま、とりあえず俺も行くわ」
レウルが軽く言いながら資料を机に置いた。
「で、面子はどうするんだ? 分かってると思うが、女性職員とは組めんぞ」
ジンが念を押して言う。
「もちろん、私がご一緒します」
答えたのは、いつの間にか女性になっていたケイだった。
ジンが女性のケイを見て頷く。
「あー、確かにケイなら問題ないか。てか、ケイって媚薬とか効くのか?」
「どうでしょうか? 生身ではありますが、普通とは違いますしね。それに、いざとなればボディを全て新しくすればいいだけですし」
「だとよ支部長。安全そうで良かったな」
「……エニも呼ぶ」
「は?」
不意にレウルが言い、ストフォンを取り出すとエニへ電話をかける。
そして話し終えると口を開いた。
「明日、調査隊に俺たちも加わるぞ。エニも連れてな」
「あんたなに部外者を巻き込んでんだ!」
「レウル様……私ではご不満ですか?」
ケイが露骨に悲し気な顔をする。
「そうじゃねぇよ! エニ、夢魔なら媚薬に抵抗できるからだよ。もし、俺に何かあっても何とかなるかなって。正直、この面子で一番ヤバイのは俺だ!」
自信満々にレウルが自らに親指を立てた。
その姿にジンは呆れ、ケイは素直に頷く。
「じゃ、そういう訳で明日な。俺たちは準備しに帰るから」
「お疲れ様でした」
レウルとケイが帰って行く背中を、ジンは溜め息を吐いて見送った。
******
翌日の昼。問題の転移して来た施設の入り口前に居るレウルとケイ。
呼ばれたエニもおり、それ以外には男女一人ずつ一組のチームが二つ。
救助隊と医療隊も後方で待機していた。
「これがエロトラップダンジョン。入口はただの派手な門なんですね。でも、なんて心が躍る響きなんでしょう」
エニがうっとりとした表情で言う。
「だよなだよな? まぁ、ケイは身体を入れ替えれば媚薬成分も無くなるし、エニは抵抗力あるしで、ちょっと残念だが。楽勝だ、勝ったな!」
と、レウルがガハハと笑う。
その時、女性姿のケイがエニに近づき、小声で話し出した。
「実際どうなんですか?」
「そうですわね。媚薬は物によりますが、多分大丈夫かと」
「それだと、レウル様が望むようなイベントは起きませんね」
「いえいえレウル様は違いますから……襲われるのも一興かと」
「なるほど、その手がありましたか。ではレウル様はほどほどに助けるという事で」
「ええ。折角なんですもの、楽しまないとですわ」
二人は含みを持った笑みを浮かべる。
「よし、じゃあみんな行くぞ」
そんな事はつゆ知らず、レウルはみんなを率いて中へと入って行った。
『ようこそ、エロトラップダンジョンへ。種族繁栄こそ、未来へ繋がる架け橋! さぁ、恐れずレッツ子作り!!』
軽快で明るい音楽と機械音声がレウルたちを迎え入れる。
「もしかしてこれ、入る度に言われるのか?」
一緒に来ていた職員にレウルが聞くと、職員たちは微妙な表情で頷いて答えた。
レウルが機械音声に尋ねる。
「あー、ここの責任者と話がしたいんだが? 俺が支部長で組織のトップだ。部下よりかは話が早いと思うぞ」
『お話は伺っておりますが、私は私の職務を全うしなくてはなりません。細かいお話は奥にあるスタッフルームまでお越しください』
「異世界で職務も何も無いと思わねぇ?」
『……それが私の存在意義ですので。それにここは閉鎖させれた世界だと認識しております。人口の増加は必要不可欠ではないでしょうか?』
遥か過去ではそういう事もあったが、現在はそこまででもなかった。
「ま、昔はそうだったが、今はそれほどでもない。話はやっぱり奥でか?」
『はい、その方がいろいろお教えできる事がありますので』
「なるほどな……分かった。で、あんたの事はなんて呼べばいい?」
『私の事は『ロスパー』とお呼び下さい。本日は何組に別れますか? それとも皆様ご一緒に行動されますか?」
レウルが三組に別れる事を告げると、カウンターの傍に三つの扉が現れる。
『お伝えしたい事がございます。ここは子孫繁栄を促す場所、それにそぐわない行動をされた場合は入り口へ強制送還され、やり直しとなります。ご注意下さい』
ロスパーの声が消えると、扉が三つとも開いた。
『どうぞ中へ。ご要望のプレイスタイルなどあれば、中でおっしゃって下さい。もちろん、秘密は厳守いたします』
「要望などが無かった場合は、どうなるのかしら?」
エニがロスパーに聞く。
『その場合は、こちらで一般的な物から試し、お客様の反応を見て趣向を随時変更いたします。あと、身体を傷付けるようなプレイはできません』
「なるほど、安心安全設計なのですね」
「その割には、最初に来た調査班は全裸で放置されていたと聞きますが?」
ケイが資料を思い出して言った。
『申し訳ありません。あの時は開店準備中で施設の機能が上手くいかなったのです。その節は大変ご迷惑をおかけしました』
「まぁ、こっちが勝手に入ったわけだしな。重傷者もいなかったし良しとしよう」
『お優しいお言葉、ありがとうございます。今後もし体調がすぐれない場合は、即外へ転送いたしますので、ご安心下さい』
一通りの説明を聞き終え、
「目標はロスパーが居るスタッフルーム。誰でも良いから着いたら連絡を。あと、映像と音声は一旦切っとけ、自分の恥ずかしい痴態を晒したくなけりゃな」
レウルが簡単に確認すると全員が頷く。
「あ、ケイ。ちょっと頼みがある」
「? 何でしょうか?」
レウルはケイに近づくと、耳打ちをした。
何度かケイが相槌を打つ。
「承知しました」
「頼んだ。じゃあ、いっちょ楽しんで来るか。ラッキースケベの時間だぜ!」
レウルが小躍りしそうなテンションで言い、それぞれの扉へと入っていた。




